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「ブロックチェーンのビッグデータ解析」CipherTrace マイク・コーワンス氏(全インタビュー記事)

アンチマネーロンダリング(AML)のため、仮想通貨アドレス、ブロックチェーンの分析情報を提供しているCipherTrace(サイファートレース)にインタビューをさせていただきました。犯罪に使用された仮想通貨がどのように追跡されるかについて、CipherTraceでリージョナルディレクターを務めるマイク・コーワンス氏にお話を伺いました。

マイク・コーワンス (サイファートレース:リージョナルディレクター)

インタビュー日 : 2020年1月10日

CipherTrace マイク・コーワンス氏(全インタビュー記事)

CipherTraceの設立

CipherTraceは5、6年前にDavid JevansとCOOのStephen Ryanによって設立されたスタートアップ企業です。この会社が設立されたきっかけは、2012年と2013年に仮想通貨の世界で起こった重要な事件にありました。当時起こった最も大きな事件の1つにマウントゴックス事件があります。CipherTraceの設立者は、失われたお金の一部を回収するために、そのトランザクションを追跡するソリューションの開発を開始しました。その他のプラットフォームの開発もその事件から始まりました。このような事が再び発生しないようにするため、政府と協力し、調査を開始しました。プラットフォームは今も成長を続けています。

2019年のマネーロンダリング

2019年はとても大きな年で、マネーロンダリングに関して言えば、様々な側面がありました。2019年の最初の9ヶ月だけを見ても、マネーロンダリングの動きが2018年と比較して150%も増加していることがわかっています。マネーロンダリングによる損失が17億ドルあった2018年と、2019年の最初の9か月だけを比べても、150%もの増加がありました。その増加量は2019年のデジタル通貨の犯罪で使用された44億ドルと同額でした。去年、それらの犯罪を引き起こした原因は、非常に大きな2つの事件でした。それは、2019年4月上旬に発生したPlusTokenによる29億ドルの詐欺事件とQuadrigaでの1億9,500万ドルの消失事件でした。

仮想通貨市場におけるマネーロンダリングの影響

個別で見れば、これらのマネーロンダリングの増加率は非常に大きな数字のように見えます。しかし、市場の通貨量を日別で見てみると、それは全体のごく一部分にすぎません。詐欺に対してある程度の懸念はあるものの、仮想通貨の成長は大きく、業界が発展を続けているため、そこまで大きな心配はないと私は考えています。それらの詐欺に対して、何も措置がとられないというのであれば、もっと心配になるかもしれません。現在、世界中の規制当局が協力してマーケットに規制を導入し、仮想通貨のエコシステムを様々な種類の詐欺から保護するためのルールづくりがなされています。

また、世界中の法執行機関が、仮想通貨に関わる犯罪の調査をより積極的にするようになっており、心配は少なくなっています。さらに、CipherTraceが取り組んでいる問題は、お金の流れを追跡するのに有用であり、そのような心配を取り払うことができると思います。ブロックチェーンは、実際にポジティブな性質を持っています。ブロックチェーンを使用することで、完了した取引を変えることはできず、その情報を変更することもできません。そのため、法定通貨の市場よりもお金の移動先を追跡することがより簡単になります。

盗まれた仮想通貨を追跡し、サイバー攻撃者を特定する

盗まれた仮想通貨を追跡し、サイバー攻撃者を特定することは難しいことですが、これを明らかにするための方法論がいくつかあります。全体像を正確に把握し、当社のテクノロジーでデータを処理できるようにするということが基本であり、それが可能です。トランザクションを追跡し、様々な組織の動向とリンクし、相関関係があるかを把握することは非常に難しいことです。我々がサイバー攻撃者を特定する方法としては、それらをコミュニティ情報と結びつけるだけではなく、サイバー攻撃者が残した痕跡である仮想通貨アドレスを知らせることでもあります。

ダークウェブの多くの違法な犯罪者達は、ビジネスを行うために彼らのビットコインアドレスやその他仮想通貨アドレスを投稿して共有することにより、ダークマーケットで広めようとします。そのような場合、それらを識別することは簡単です。それ以外の場合は識別が非常に困難になる可能性があるため、異なるトランザクションをトレースし、相関するパターンを見る必要があります。ある人が犯罪者であり、もう1人がその人物と取引していることがわかっている場合は、その取引者も別の犯罪者であることを意味し、それらを追跡するのに役立ちます。

ブロックチェーンのビッグデータ解析

私達が行っているのは、ビッグデータのプラットフォームを構築するだけではありません。正確かつ効率的な方法でデータを処理するためには、アルゴリズムを動かせるだけのエンジンも必要になります。さらに、数多くのソースから大量のデータが必要となります。大量のデータを取り込み、調整を加えた後に、そこから何らかの考察を得る事こそが課題となります。CipherTraceでは、毎週150万から200万のデータポイントを取得しており、これを過去5年半に渡って続けています。今、私達が話している間にも、データは蓄積され、積み上げられています。データを処理するためのコンパイルがずっと続けられ、その処理にどのくらい時間が必要なのかを実感することができます。それらを処理するために、AI(機械学習)を使い、異なるソースからの全てのデータを正確かつ効率的な方法で処理できるようなアルゴリズムを開発しています。データが正確であればあるほど、結果はより強力になります。機械学習アルゴリズムで処理されるビッグデータと、業界で最も優秀なデータサイエンティスト、これが我々のシステムです。

仮想通貨価値の増加

好きな仮想通貨の種類は人それぞれありますが、仮想通貨がどのように成長するかを決定するのは、その背景にどれだけの実用例があるかだと思っています。私が実用例に注目している理由は、それがメインストリームへの普及につながるためです。それはコインに対する多くの需要を確実に呼び起こします。Bitcoin、Ethereum、XRP、Litecoinなどは、既に多くの例があり、時間が経つと共に増えていきます。多くのトークンや仮想通貨は消滅していくと私達は考えており、活用事例や需要がないことが原因で消滅した通貨は過去にもいくつかあります。しかし、確かな実用性と需要があれば、そのコインの価値は間違いなく増加します。

発展と成長の年

2019年は持続的発展と成長という点において興味深い年でした。 2017年と2018年は「仮想通貨の冬」と多くの人から呼ばれていましたが、昨年は市場が大きく広がった年となりました。過去数年の間、市場には不確実性や規制の欠如があり、「セキュリティとは?」「規制は必要か?」などのテーマについて考え続けてきました。市場に不確実性がある場合は、ボラティリティが高くなりますが、規制当局は市場を安定化させることに積極的になっていきました。それまでは規制に積極的ではなかった世界中の規制機関が仮想通貨のレギュレーションに注目し始め、様々なタイプの仮想通貨ビジネスと新しい実用例が増えていくのを目にすることができました。ですので、2019年は「発展の年」だったと私は思っています。

規制の必要性

仮想通貨の規制に関してどこの国が一番進んでいるかと言うのは難しく、様々なアプローチがあると思います。しかし、米国と日本は、仮想通貨の規制に関して明らかに非常に進んだ国です。そこに合法性がなければ価値のある資産を手に入れることはできないため、もちろん規制は必要だと私は思います。規制がなければ混乱が生じ、グローバルな規模での正当性を持つことはできません。そのため、あるべきかという批判はありますが、あらゆる種類の価値ある資産には、何らかの規制が必要だと思います。

非中央集権と規制

非中央集権と規制というテーマは象徴的ですが、両立することは可能だと思います。分散化は、集中化されたシステムと単一組織で発生するマインドセットや問題の解決に役立ちます。単一組織のコントロールから逃れることによって、ある一つのグループで起こる機能不全を回避することが可能になります。仮想通貨の業界が大切にしているのはこの点です。しかし、この理由だけで規制から逃れる理由になるとは思いません。仮想通貨やその他の新しいシステムには、新しい視点が必要です。規制当局がこれらのことに気付き始め、この業界に適した規制方針を作り始めています。

マネーロンダリングと匿名性

仮想通貨やトークンは詐欺に使用される可能性があり、そのコインの利用率が高いほど、サイバー犯罪に使用されるリスクは高くなるという傾向があります。Ethereumでは、違法行為により約400万ドルが失われた事件があったことがわかっています。ほとんどのマネーロンダリング事件に関して言えば、そのコイン対する需要がなく、人々がそれに投資を行わなければ、それを交換して資金洗浄しても意味がありません。コインの市場規模が大きく需要があれば、犯罪者もマネーロンダリングに使用する可能性が高くなります。

「匿名性」とは個人を特定できる情報を本人しかもっていないことを言います。言い換えれば、目に見えず、識別できないトランザクションの詳細情報を持っているのは本人だけということを意味します。これが一般的な匿名性の定義になるかと思います。ブロックチェーンの情報を見ると、トランザクションが生成されたことを全員が確認できますが、誰が生成したかを知ることはできません。透明性と安全性が保ちながらも、トランザクションには個人間の詳細な情報が含まれていない。これが仮想通貨の非常に特殊な機能となります。中央集権的な組織が自分達のプライバシーを侵害することなく、個人情報を出す必要もないことが、仮想通貨の魅力です。そのネットワークに参加する資格は誰にでもあるのです。

トラベルルールの必要性

FATF(金融活動作業部会)に関しては、新たなメンバーをどの様に受け入れて結束していくかということよりも、それが提供する役割こそが重要だと思います。FATFの役割は非常に必要とされていて、これからも重要であり続けます。世界中の規制当局を率いて、そのルールが仮想通貨市場においてどのように働いているかを調査し、法律成立のためにそれぞれの当局に勧告を行うこと。これはFATFの役割の一部にすぎませんが、非常に重要な役割でもあります。FATFはここ数年で素晴らしい働きをしています。トラベルルールについては多くの議論がありますが、これは全く新しいものではなく、法定通貨のような伝統的な金融エコシステムでは何十年も存在し続けています。法定通貨の世界を見ると、トラベルルールなしでは取引やお金の流れを追跡することができません。送金の追跡を容易にし、法定通貨と仮想通貨の相互のエコシステムの流れを円滑にすることができます。そのため、トラベルルールが整っていないと、仮想通貨の法的地位は失われてしまいます。

非中央集権とのバランス

役割的な観点から見れば、非中央集権的な仕組みは常に残り続けると思います。規制がより進んでしまうと、匿名性が失われ分散性が保てなくなると主張する人がよくいます。私は個人的にそのような考えを持っていませんが、匿名性はこのままの状態で残り続ければ良いと思っています。分散化には欠点や問題が多いことは、皆が理解しています。しかし、分散化は悪いことではなく、集権化されたシステムにも確かに障害があります。ですので、非中央集権の良い側面は、規制とのバランスによって残り続けると思います。

最近は、仮想通貨に対するルール作りが進んでいて、かなり発展しています。規制のスピードも速くなっており、トラベルルールからもわかるように、規制に対する需要があることはかなり明確になっています。日本、米国、またはシンガポールにかかわらず、仮想通貨に対して規制を行うかに関しては、国ごとに異なる考えがありますし、問題を解決のための規制方法に正解はありません。ただ、規制が存在しなかったのは過去の話で、これらのルールは実施されていく中で、さらに発展していくと思います。

CipherTraceの取り組み

CipherTraceは、ホームページで定期的に約40〜50ページ程度のレポートを出しています。2019年第4四半期のレポートをリリースした時には、既に2020年第1四半期のレポートに着手しており、休む事なく作り続けています。市場は急速に変化と成長を続けているので、現在の仮想通貨エコシステムの状況をしっかりと認識する必要があります。取引所が行っていることだけでなく、規制当局、個人投資家、研究所、また犯罪者の活動データを正確に分析し、何が起こっているかを明確にしています。四半期ごとにレポートを作成するのは、かなり大変ですが、仮想通貨に対する規制が急速に動いているため、重要な仕事だと感じています。

CipherTraceという会社自体は設立から5年弱経ちますが、私が入社したのはほんの4か月前です。ここに入る前は、リップル社の営業とマーケティングの部署で働いていました。CipherTraceの技術力や市場の見方、また法律の問題を乗り越え、規制を機能させるためのソリューションに感銘を受けました。AMLやKYC、コンプライアンス、モニタリングなどは、規制をクリアするため全てが重要な要素となります。私は仮想通貨のエコシステムが成長し、広く受け入れられることを望んできました。

ブロックチェーン上で、トランザクションを追跡したり、様々な集団や取引所などを分類して確認ができるという点で、CipherTraceの強力なソリューションに強い興味を持ちました。それぞれの集団の情報を見て、彼らがブロックチェーン上で行っている活動に違法性がないか、高リスクのトランザクションであるかどうかを判断をすることができます。これらのテーマを研究することは非常に重要です。このような活動や分析が仮想通貨のエコシステムにもたらす影響を考えると、CipherTraceはこの業界においてソリューション対する大きな需要を生み出していることがわかります。私がCipherTraceに引かれたのはこれが理由です。

インタビュー・編集: Lina Kamada

     

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