2020年にBitcoinファンドを立ち上げたアメリカの投資会社「SkyBridge Capital」の創業者であるアンソニー・スカラムッチ氏(Anthony Scaramucci)にインタビューさせていただきました。スカラムッチ氏はウォール街で30年以上のキャリアを持ち、かつてはアメリカホワイトハウスの広報部長に指名された経歴もあります。インタビューでは、Bitcoinに対する考え方や、世間を騒がせたロビンフッド事件、トランプ前大統領について思うことなどについてお話を聞かせていただきました。
インタビュー日 : 2021年2月3日
アンソニー・スカラムッチ氏(全インタビュー記事)
お金であると定義された紙
お金、価値の交換手段をめぐる技術革新が起きています。
まずお金とは何かということを理解するためには、その5500年以上ある歴史を振り返る必要があります。人間は価値の交換のための対象物としてお金を使うという決定をしました。
この対象物の形は、たとえば貝殻だったり、あるいは政治家の横顔が描かれた金貨だったり、そして政府によってスタンプが押されて承認された紙だったりします。これらはいわばトークンで、歴史の中で価値を表現して、価値を交換するのに使われてきたものです。
価値の交換手段としてのお金は、実際に価値のある商品やサービスと比べると、本質的な価値はないものです。私がいくら紙幣を出しても、それは所詮政府によってお金だと定義されているだけの紙なのです。
しかし人々は、そのお金と引き換えに作りたてのピザを食べさせてくれますし、家の水道管を修理してくれます。お金というのはつまるところ、社会の中で人々の間の台帳として機能しているのです。
Bitcoinファンドの立ち上げ
試行錯誤の後、2009 年にDigiCashやその他何種類かのデジタルマネーが登場しました。しかしBitcoinは、他のデジタルマネーとは絶対的に異なる、進化した戦略をもって登場してきたように思います。
サトシ・ナカモトが果たして個人なのか団体なのかはわかりませんが、彼、あるいは彼の組織が匿名を貫く理由は、Bitcoinの分散化されているという特徴を推進するためだと思います。
Bitcoinの暗号化が破られることはありません。また、コインの発行上限は2100万枚に固定されています。Bitcoinは転送可能です。安全に守られているので盗まれることもありません。
このような特徴からBitcoinは過去の十数年間、人々の間で価値交換に役立つ通貨として、そして台帳として受け入れられてきました。
現在では、Bitcoin以外にも多種多様の暗号通貨があります。しかしBitcoinはそれら全てに勝っていて、業界のリーダーとして台頭してきました。
我々の予想が正しければ、Bitcoinは日々その存在感を強め、そして概念として証明されていくことで、ゆくゆくはゴールドのように価値の貯蔵庫的存在になっていくことでしょう。
このような予測のもとに、私は2020年の12月にBitcoinファンドを立ち上げて1月に投資家に公開しました。我々が保有する資産クラスの中におけるBitcoinの残高を報告しているのですが、今のところ5億ドル分のBitcoinを保有しています。この事実に大変ワクワクしています。
Bitcoinはゴールドを超えるか
Bitcoinのエバンジェリスト達(伝道者)には大変感謝していますし、尊敬しています。彼らはブロックチェーンや、Bitcoinのユニークな暗号化技術に魅了された人たちだと思います。
Bitcoinはネットを通して相互チェックが働く仕組みなので、非常に安全であるという利点があります。しがたってBitcoinのことを周りにもっと広めたいという熱心な伝道者がたくさんいるのもうなずけます。
また我々も、Bitcoinの理論と通貨ネットワークとしての劇的な成長を信じているので、ある意味では伝道者だと言えます。私がBitcoinを資産クラスとして扱い、顧客のために買っているのも、Bitcoinがあまりにも過小評価されていると思っているからです。
ゴールドの時価総額は12兆ドルですが、Bitcoinについて我々の見方が正しければ、ゴールドの15倍以上の取引が行われる潜在力があると思います。
仮に私の見方が間違っていて、成長率が予想よりもはるかに低かったとしても、それでも7倍くらいはあると思っています。こういった理由から、我々はBitcoinのもつ潜在的な可能性に非常に期待しています。
ロビンフッド事件はなぜ起こったのか
私は33年間ウォール街にいたので、ロビンフッド事件についてはよく知っています。私がゴールドマン・サックスで最初に学んだことは、決済がどのようにして行われるのかということ、そして証拠金要件は何のためにあるのかということです。
米国における証券預託機関である、DTC(Depository Trust Corporation)という規制機関があります。この機関は国際市場、特にウォール街の取引の流れや清算の規制を担当しています。
2021年1月最終週のあたり、ゲームストップ株の取引では次のようなことが起こっていました。
たとえば50ドルで購入した株が上がって75ドルになったとしましょう。そこでネット証券のロビンフッドに証拠金を出してもらい証拠金で株を追加購入します。その後さらに株価が上昇したため、証拠金をつかってより多くの株を購入します。
そうすると何が起こるかといいますと、ロビンフッドがゲームストップ株1株あたりに対して、250ドルを貸しているような状況になります。
当時ゲームストップ株は1株あたり500ドルで取引されていました。ではそこから一体何が起こったのでしょうか。
株価は500ドル台の高値から一気に100ドル台にまで下落しました。ロビンフッドは、証拠金で株を購入をした人々にお金を貸しているという状況なので、このような場面ではかなりリスクがあります。
株がパーになってしまったとしましょう。しかし人々がロビンフッドからの借金を返済するのに使える担保はありません。したがって、ロビンフッドはそういったアカウントに対して取引を停止しました。
人々はこれに憤りました。ロビンフッドは個人投資家の味方するべきであるにも関わらず、逆に危害を加えていると非難されたというわけです。
事件の裏側
ロビンフッドには、規制上の資本要件が課されており、これを満たさなければなりませんでした。しかし要件を満たせるだけの資金力がありませんでした。というわけでDTHがロビンフッドの取引を止めたのです。
ロビンフッドの最高経営責任者は、事件との関わりを避けたがりました。彼としては、銀行との取引がなくなるのではないかと恐れていたのではないかと思います。
銀行は、連邦準備制度から無金利で資金の借り入れができる資格があります。つまり銀行は資本要件を満たすために、連邦準備金に頼ることができるのです。
しかしロビンフッドは、今回のゲームストップ株の騒動で失われた資金を取り戻すために、34億ドルもの資金を迅速に調達しなければなりませんでした。そのためにはDTHに従うしかなかったのです。
ここで大事なのは、ロビンフッドの真の意図は、決して個人投資家たちを騙したり、株の購入を妨げたりしたいというものではなかった、ということです。ロビンフッドとしては規制を遵守するしかなかったのです。
規制機関としても、ロビンフッドに対して規制をしなければならないという役割があります。個人投資家たちにとっては非常に厳しい状況でした。なぜなら彼らはファンダメンタルズの非常に弱い株で、熱狂的な状況を作り出そうとしていたからです。また彼らは、機関投資家たちに立ち向かっていました。
ゲームストップ、AMC、そしてその他いくつかの銘柄は底打ちとなるかもしれません。これは今まさに起こっている興味深い事です。しかもすぐに終わるようなことではないと思っています。
分散化する資本主義
資本主義の民主化について、あるいはマーケットプレイスについて、もしくはゲームストップ株とロビンフッドをめぐる事件について語る時、人々はよくこれらの状況を「分散型資本主義:Decentralized Capitalism」である形容します。なぜなら、1人1人の個人投資家たちが力を持っているからです。
テクノロジーの発展の賜物のは、一人一人の個人がプロップトレーダー(自己勘定取引を行うトレーダー)としてトレードできるようになったことです。個人がロビンフッドを通じて、コストのかからないトレードをすることができ、スマホで瞬時に情報にアクセスできるようになったのです。
私が仕事をはじめた1989年当時は、ロビンフッド事件のような騒動の主な被害者となるのはゴールドマン・サックスのプロップ・トレーディング・デスクでした。個人投資家ではありません。この変化からも、市場が民主化に向かっているというのは確かに言えると思います。
新しいことに挑戦すること
人は生活において現状を維持しようとする傾向があり、多くの変化を望みません。しかし私の経歴をみていただければおわかりいただけるかと思いますが、私は数々の変化をものともせずのり超えてきました。
私は様々な方向にハンドルを切るのが好きです。これは時には大きく成功しますし、また時には失敗することもあります。自分を真剣に受け止めて、粘り強く仕事に立ち返れば、必ず人生で成功を収めることができるというのが真実です。
私は3、4年前にBitcoinに出会ったにもかかわらず、懐疑的な気持ちを抱いていて、実際に手を出すまでに時間がかかりました。私の経験は、人は学習して物事と関わっていく能力があるということを物語っています。特に若い人たちには、まずは自分でやってみるということをアドバイスしたいです。
トランプ前大統領の下で働いた経験と後悔
私は以前、共和党のための資金調達の仕事をしていました。この仕事はとても気に入っていました。私は社会人生活を通して、ずっと何かしらの形で政治に関わっていました。しかし、自分が政治に対して積極的になる日がくるとは思っていませんでした。
トランプ氏が大統領選に勝利した時、私はジェブ・ブッシュ氏と一緒でした。ジェブ・ブッシュ氏は結局大統領選からは撤退しました。
トランプ氏とは以前からの知り合いで、選挙戦の時期は1年ほどの彼の下で働いていました。彼は大統領の役を引き継ぐにあたって、その準備のためのチームの一員に私を指名しました。我々は選挙戦に勝利したトランプ氏に対して、大きな期待を抱いていました。
しかし残念なことに、彼の行動にはよくない徴候が垣間見えていました。これらの徴候について無視したことを私は今でも後悔しています。たとえば、彼がメキシコ人コミュニティに対して言ったことや、イスラム教徒の入国を禁止したことは、決して無視するべきではありませんでした。
ところが当時の私は、自分の行っていることは共和党への忠誠的な行動であると信じていたのです。
その後トランプ氏に頼まれてホワイトハウスで彼のために働くことになりましたが、失態を犯しクビになってしまいました。しかし私にとっては、クビになっても何の問題もありませんでした。むしろそれでいいとさえ思いました。
私がいつも若い人たちに教えていることは、何か間違いを犯してしまった時や、クビになるほどの失態を犯してしまった時は、その失敗とそれに伴う責任と向き合うようにしなさいということです。私もそのようにして来ました。
一連の発言について
トランプ氏のことを肯定的に捉えて支持する努力をずっと続けてきましたが、うまくいきませんでした。
彼は移民の家族を分離させるような政策をとったり、諜報機関を糾弾したり、マスコミを国民の敵呼ばわりしたりしました。
さらには白人でない4人の女性下院議員のことを「分隊」と差別しました。そして彼女らに「自分の来たところに戻って、犯罪にまみれた場所の修復に勤しむべきだ」と人種差別この上極まりないことを言いました。
弾劾裁判の行方
自分が間違っていたことに気がついたのは2年ほど前です。トランプ氏の行動をみて、彼を支持するべきではなかったということに気がつきました。大統領として在籍していた間に、彼は弾劾裁判に送られました。そして昨年、彼のコロナ政策は悲惨でした。
彼の下で働いた日々は、私にとっては痛みを伴う長い旅でした。私だけでなく私の家庭も混乱に陥ってしまい、妻とは離婚しそうになったくらいでした。
私が2年前に感じた、彼を支持するべきではなかったという勘は正しかったことが証明されました。
彼は1度のみならず2度も弾劾裁判にかけられました。まだ支持者はいるものの、彼の支持率は大幅に下落し、20%~30%をさまよっています。弾劾裁判の結果はみものだと思います。
トランプに投票した有権者
私は自分の経験から多くのことを学びました。おかげでとても謙虚な気持ちになることができました。そして結果として、より精神的な観点から物事を考えられるようになりました。
アメリカは現在まさしく危機に直面しています。多くの人々が社会に対する不満を抱いています。7400万人もの人々がトランプ氏に投票しました。この事実は重く受け止める必要があると思います。
このような人々に手をさしのべる方法を考えなければなりません。彼らの願いを叶えてくれるような、もっと普通の候補者と繋がれるようにしていかなければいけないと思います。私はこういったことに今後も貢献していきたいです。
トランプ氏が再選されなかったことには安堵しています。彼がもう4年間大統領を務めようものなら、さらに大きな被害がもたらされたと思います。彼が選ばれなくてよかったです。
コロナには科学的な対策を
政府の役割はいたってシンプルだと思います。安全を保証すること、外国からの侵略されるのを防ぐこと、雇用機会を創出すること、そして人々の仕事を妨げるような官僚主義がないようにすることです。
もう1つ大事なのは、たとえばパンデミックといった国際的な危機が発生した場合に、公衆衛生や安全部門の専門家と連携して対応をとるということです。
トランプ氏の支持者が何と言おうとも、トランプ政権の経済はほどんどオバマ政権の延長線上にあっただけです。
彼の支持者にとっては耳の痛い話かもしれませんが、彼の悲惨なコロナ対策により、1300万人もの国民が失業し、40万人以上の国民が亡くなり、そして1000万人以上もの国民がウイルスに感染しました。
感染者数は減りつつあるとはいえ、彼がいなくなってくれて本当によかったと思わざるをえません。
少なくともオバマ政権では科学に依拠した政策をとっていましたし、戦略を立てる際には専門家の意見を聞いていました。
どんなビジネスをするにしても、一番大切な前提となってくるのは健康と安全です。パンデミックが一刻も早く収束し、家族から引き離されたり、隔離生活を余儀なくされたりする日々が早く終焉を迎えることを心から願っています。
インタビュー・編集: Lina Kamada
翻訳: Nen Nishihara
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