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「インフレーションは立法なき課税」英国コメディアン ドミニク・フリスビー氏(全インタビュー記事)

ドミニク・フリスビー氏(Dominic Frisby)はロンドン出身のファイナンシャルライター、コメディアンとして活動されており、投資や税金問題について扱った数々の著作を出版しています。「死と税は避けられない」というのがフリズビー氏の主張です。また彼は、現代人が生きているのは、戦後の奴隷制の時代であると語ります。インタビューでは、税制度の社会でのあり方ついてお話していただきました。

インタビュー日 : 2021年3月17日

ドミニク・フリスビー氏(全インタビュー記事)

コメディアンから投資まで

私は一番最初、コメディアンとしてキャリアを始め、ある程度のお金を稼ぐことができました。この時稼いだお金をつかって投資をし始めたのことがきっかけとなり、2005年から2006年にかけてお金について興味を持ち始めました。

お金の仕組みについて興味を持ったので、お金に関する話題を取り扱うポッドキャストも始めました。するとポッドキャストに出演していたゲストからコラムを書かないかと誘われました。そこでお金に関する記事を書き始めました。

『Life After the State』と『Bitcoin: The Future of Money』、そして『Daylight Robbery』という3冊の本を書きました。 

社会問題の多くは、我々のマネーシステムが壊れていることに起因していると考えています。したがってマネーシステムを修正する必要があると確信しています。この問題について取り扱った私の著書が『How Tax Shaped Our Past and Will Change Our Future』です。

社会の運命を決めるのは税制

私は「社会は税制によって設計される」と考えています。課税の仕方によって社会の運命が決まる、と言っても過言ではありません。

社会の運命とは、人々がどれだけ豊かになるか、あるいは貧しくなるか、どれだけ自由になるか、あるいは不自由で従属的になるか、といったことです。そして税は、その額だけではなく、その課され方も大変重要だと考えています。

例えばですが、昔は労働者に対してそれほど多くの税金が課されていませんでした。しかし現在では、労働者への課税が非常に重視されています。

課税と人々の自由の間には深い関係があると思っています。例えば、奴隷や全体主義国家の下で暮らす国民は、自分自身のための労働力を有しません。一方で無政府下での人々はというと、自分の身体と労働力を100%所有しています。

このことをふまえると、現在において我々のお金の40~50%は税金としてとられています。したがって我々は自分自身、そして自分の労働力の50~60%しか所有していないと考えることができると思います。税金の割合については、もっと下げられるべきだと考えています。

Bitcoinによって作られる新しい社会と税制

Bitcoinで大儲けしている人々は、全く新しい法的区域の下で、マイニング事業などを中心とした、新しいコミュニティーや国や砦が生まれるという話をしています。いったんこれらの新しい場所が形成されはじめれば、今度は税制について考える必要がでてきます。

我々は新しい国や社会が出現する度に、歴史の変化を経験することになります。税制は新しい社会が成功するかどうかの決め手となります。したがって必ず話し合う必要があります。

政府の役割とは 

政府の役割については人によって意見が異なりますし、制度も国によって異なります。個人的には、政府が福祉や教育、医療を提供するというのが最良の方法だとは考えていません。もっと安くて良い方法があるのではないかと思っています。

さらに言えば、政府が教育を提供するということは、人々が何を学んで何を学ばないかということを政府が決めるということです。これは正しい方法ではないと思います。 

教育に使える最も素晴らしいツールはインターネットだと思います。インターネットは自由市場の発展によって開発されました。誰もがインターネットを通じて、自分の興味があることを自由に学ぶことができます。しかも政府による規制なんかもほぼありません。

医療についても、同じような考え方が重要だと個人的には思っています。しかしやはり政府が教育や医療を提供するべきだと考えている人もいます。

税金を廃止すれば、政府の資金源はなくなります。例えば現在シリアで戦争が起きていますが、この戦争も歴史上のあらゆる他の戦争も、税金で賄われています。税金がないと結果として政府は兵士を雇えなくなり戦争をすることもできなくなります。

税制によって形作られた国々 

現在のような形の国家があるのは現在の税制のおかげです。200年程前までは、産業革命後に構築された経済インフラを中心に税制モデルが作られていました。そういった税制モデルのもとに形作られたのは、当時のドイツやイタリアのような多くの国々です。

しかし税制も経済も時とともに変化していくので、存在していた国々も、それとともに消えていくと思います。

ロンドンの不動産はおすすめか

私は生まれも育ちもロンドンですが、一生懸命ロンドンから脱出しようとしています。今のところまだ脱出できていません。

現在のロンドンの不動産は非常に高騰しています。例えば寝室を3つ備えた一般家庭用の家でそれなりの立地であれば、価格は200万ポンド(約3億円)前後です。しかし150年前まで遡ると、このような家は労働者階級の人々が住んでいた水準です。

ロンドンは非常に高価な都市になってしまったということがお分かりいただけたかと思います。そしてこのような状況を招いてしまったのは、機能不全に陥った我々のマネーシステムなのです。

ロンドンはチャンスの多い都市です。だからこそ人々は皆ここに住みたがります。しかし新型コロナが最終的にどれほどこの都市に影響を及ぼすかは分かりません。もうすでに約70万人の人がロンドンから離れていきました。1年前のような人口の集中や活気も、もうありません。

ロンドンがこのような状況からどれくらい立ち直るかもまだ分かりません。レストランも、劇場やライブ会場といったエンタメ施設も、すべて閉鎖されてしまいました。今のロンドンはとても静かです。

インフレーションは立法なき課税

ロンドンも他の大都市も高くなってきているのは、政府がお金を印刷してインフレを起こしているからです。

これは言ってしまえば一種の税金です。人々から富を抽出し、それを国家に移す方法なのです。経済学者のミルトン・フリードマンは、インフレを「立法なき課税」と呼びました。

何かしらの課税がされていないものというのは、世の中にほとんど存在しません。政府の提供するサービスには、必ず税金がサービスにかかる費用として差し引かれているのです。

政府によるサービスは、より低価格でより良いものであるべきだと主張してきましたが、課税はあくまで避けられないということは認めています。

たとえBitcoinのように、自由市場であったとしても、税金は避けてはとおれません。我々はマイナーやマイニング会社に、手数料という名前の税金を支払っています。

労働者ではなく土地に対する課税を増やすべき 

政府によって課される税金については2つ問題点があると思います。1つ目は労働者への課税が重すぎるということ、そして2つ目は土地への課税が全くといっていいほどなされていないということです。

20世紀後半に最も成功を収めた経済の一つとして、香港が挙げられます。香港のGDPをみてみると、税金の占める割合は14%以下でした。

香港は労働者には課税しませんでした。大金持ちだけから所得税をもらい、一般の労働者には全く所得税を課税しなかったのです。香港は1945年にはスラム街でしたが、その後どこよりも高い一人当たりのGDPの高さを誇る、世界有数の経済都市となりました。

香港は素晴らしい教育システムと交通システムも備えていて、人々も健康で長生きです。香港は、税金を低く抑えても、一般の人々に必要なあらゆるサービスを提供できるということを証明する都市です。

一方で、例えばフランスといった西ヨーロッパの国々は香港とは真逆です。税金の割合が実にGDPの60%近くを占めています。この数値は高すぎです。これでは成長できないのも当然だと思います。

課税は避けられないものではありますが、10%~15%程度に抑え、そして労働者ではなく土地に対して課すべきだと思います。 

不公平な課税制度 

超富裕層に有利に働くシステムは、とても腹立たしいものだと思います。超富裕層を見てみると、ほとんどの場合は、自分の労働力に頼って超富裕層になったわけではありません。

スポーツ選手やロックスターは別ですが、ほとんどの場合、超富裕層が裕福になれたのは、保有していた会社や株や債券や不動産といった資産の価値が上がったからです。

このような資産は、売らない限りほとんど税金がかかりません。人々が売りたがらないのは、売ると税金を払わなければならなくなるからです。つまり、資産が所得と同じように課税されるというわけではないのです。

この事実から、中間層の労働者たちは、所有している財の割合に対して自分たちが富裕層よりも多くの税金を負担しているということに気が付きます。このようなシステムは大変不公平だというのが私の主張です。

Bitcoinとの出会い

私は金融コラムを書き始めたことがきっかけでBitcoinとの出会いを果たしました。「Bitcoinについて調べてみたほうがいい」といった内容のメールをもらうこともよくありました。また中にはBitcoinを送金してくれた人もいました。

ある人は私に176BTCを送ってくれました。しかし残念ながら私はハッキング被害に遭ってしまい、その時に受け取ったBitcoinは盗まれてしまいました。2014年のことだったのですが、当時の私はインターネットのセキュリティをきちんと確保できていなかったのです。

Bitcoinはその時よりもはるかに高価になりました。しかしたとえ今日のBitcoin価格でも、誰もがBitcoinについて理解してそして少しでも保有しておくべきだと思います。Bitcoinは法定通貨と共存していくようになると私は考えています。

私は、例えば近所に牛乳を買いにいくような時なんかはまだ法定通貨を使いますが、貯金をしたり、または国際送金を行ったりする際にはBitcoinを使用します。

デジタル経済に対応できない税制

現行の税制というのは物理的な経済を中心に設計されたものなので、グローバル化したデジタル経済にはもはや対応できていません。確かに、その昔、富は物理的なものでした。富として挙げられるものは、例えば土地や鉱山や農場、そして工場などでした。

しかし今となっては、Bitcoin、データ、商標、知的財産、インターネット企業の株式、といったように、富はデジタル化しています。大部分の富はもうデジタル経済の中に存在していると言っていいでしょう。 

例えば多額の税金を課しているような国家があれば、企業は「我々は他の国を拠点にします」と言ってもともとの国家に収める税金をほぼゼロにするでしょう。

グーグル、アップル、アマゾン、それからバイナンスなどように、各国に拠点を置いている企業もあります。これらの企業というのはいずれも税金の低い地域を選んで拠点を設置しています。企業はこのように、あの手この手を使って税金をあまり払わなくていいようにしているのです。

しかし一般の労働者というのは企業とは異なり、基本的に1つの国に居住しているため、このような選択肢はありません。したがってより多くの税金を支払うことになってしまうのです。

世界最古の納税記録

現在発見されている最古の文字の中に、7~8000年前の古代メソポタミアの石板に刻まれている文字があります。実はこの石板に刻まれていたのは納税記録です。文字の一番初めの用途は納税記録をつけることだったのです。

このことから、税金は文明と同じくらい古い歴史を持っているということが分かります。また、歴史家が社会の歴史について研究する時は、よく納税記録を参照します。これらの記録は比較的保存状態がいい傾向にあるからです。

狩猟採集社会においても、自分の所属するより大きな集団に対する義務のような概念が存在していたのではないかと思います。

しかし文明が形成されて成長しはじめたばかりの頃というのは、税金は必ずしもお金で支払われていたわけではありません。なぜかと言えば、当時の一般人はお金を持っていなかったからです。貨幣のかわりに、労働力の提供や作物の提供という形で納税が行われていました。

文字を習得した徴税人

最古のお金というのは、円盤や円錐のような形をした小さな粘土片で、それぞれ羊や麦を表していました。

これらのお金は土器の中で焼かれて作られ、借金が返ってくるまでその代わりとして手元で保存されていたのです。どういうことかと言うと、決済が終わると土器が叩き割られて、これが債務が決済されたということを象徴するのです。

このように、初期の頃のお金は、いわば小さなトークンのようなものだったのです。初期のブロックチェーンのようなものだと言ってもいいかもしれません。

その後は土器の中で粘土片を焼く方法ではなく、粘土に表したいものの絵を刻むという方法が発見されたため、その方法が使用されるようになりました。こうして文字によるシステムが誕生したというわけです。

このように、技術と文字、お金、納税記録の間の関係というのは大変古い時代から存在していました。文字を習得した人々は、scribes(書記、筆記者、あるいは律法学者)というように呼ばれていました。この人たちが、最初の徴税人だったというわけです。

政府は巨大化しすぎているか 

現代の政府は大きくなりすぎていると私は思います。それに税制も時代遅れですし、法定通貨システムも崩壊しています。

しかも日本は欧米と比べるとずっと長い期間、金利を抑えて通貨価値を低く保ってきました。通貨の価値をこのように操作することで負債の相殺を目指すというゲームをを長い間ずっとしている状況です。

これは早かれ遅かれ悪い結果を招くでしょう。おまけに、Bitcoinが法定通貨に終焉が訪れるのをより加速させている状況です。

『白昼強盗』と呼ばれた窓税

「税金は文明社会の代償である」と考える人がいる一方で、「税金は窃盗そのものである」と考えている人もいます。このような理由から私は最新作の著書にこの題名を付けました。この2つの主張はどちらも間違っていないと思いますが、全ては課税の度合いと課税の仕方によると思います。

極端な例だと、北朝鮮なんかでは人々は100%課税されています。誰も自分の労働力を所有していません。全員が国家のために働いていますが、その対価としてお金を受け取ることはありません。

しかし一方で、無政府状態であれば自分の労働力は100%自分のものです。誰にも税金はとられません。

Daylight Robbery (白昼強盗)という表現は窃盗を連想させますが、実は16~18世紀にイギリスをはじめとするヨーロッパ各地で行われていた「窓税(家の窓の数に基づく固定資産税でした)」が起源となっている表現です。

家に窓があると「窓税」がとられるということで、人々は徴税を免れるために窓を塞ぎました。当時は電灯もガス灯もまだなかったため、人々は主に明かりをとるのにろうそくを使用していました。

したがって、昼間の光がなくなってしまうのは大きな問題ではあったものの、税を払いたくないという人々が窓を塞ぐという行為に出たため、結果として日の光が失われてしまったのです。

このような背景から「窓税」は「Daylight Robbery (日の光のどろぼう)」という名前で知られているのです。

現代はもう「窓税」はありません。しかしそれでも、我々のお金は強制的に奪われ続けています。もしも税金を払わなければ、刑務所行きになってしまいます。だから「税金は窃盗」と言われるというわけです。

ブロックチェーンと税制

ブロックチェーン技術が課税や経済の規制に使われるという可能性は、どんどん現実的なものとなってきています。これをよく示唆しているのが中央銀行の発行するデジタル通貨や、中央銀行のウォレット等の登場だと思います。

そうなってくると、税から逃れることは今までよりもはるかに困難となります。つまり我々の自由の度合いも、それだけ失われていくということです。

インタビュー・編集: Lina Kamada

翻訳: Nen Nishihara

     

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