世界的に有名なブロックチェーンの開発企業「Blockstream:ブロックストリーム」に、インタビューさせていただきました。サイドチェーンやBlockstreamが提供しているLiquidネットワークについて聞きました。是非、ご覧ください。
アレン・ピシテッロ (ブロックストリーム:プロダクトマネジメント副代表)
インタビュー日 : 2020年1月17日
Blockstream アレン・ピシテッロ氏(全インタビュー記事)
Bitcoin、Blockstreamとの出会い
私とビットコインの出会いは2011年でした。当時、ポーカープレイヤーだったことがきっかけで、ポーカーのサイトでビットコインを知りました。その時、アメリカにいて問題だったのは、ポーカーをするためにそのサイトにお金を送ることが困難であるということでした。多くの銀行からの送金手段が絶たれる中で、ビットコインというデジタル通貨があるということを耳にしました。当時、そのコインが0.75セントで売られていたことに大きな衝撃を感じたので、リサーチを開始し、たくさんの記事も読み始めました。
Allen Piscitello
その後に日本で起こったのが、あの有名なマウントゴックス事件でした。暗号通貨取引ができたのは、ほぼその場所だけでしたが、大きな危機が起こり、市場全体が崩壊していきました。その取引所は日本にいる1人の人によって運営されていると知り、とんでもない事だと感じました。私はその時点で、全てを売却し、暗号通貨をやめることにしましたが、その後、予測市場に強い興味を持ち、もう一度戻ってきました。
この世界に戻って来てからも、ネットワークで分裂の不安などがあったため、もう一度全ての通貨を売ってしまいましたが、まだ関わり続けてはいました。マイナーが中央集権化していることなども不安に思っていました。ビットコインについては多くの記事を書くことができ、Blockstreamの色々な方に会うことができました。最終的には、プロダクトマネージャーとして、この会社に加わることができました。
サイドチェーンとは?
サイドチェーンを語るときに、私が好んで使う説明は「デジタル通貨を、一つのネットワークから別のネットワークへと移動させたり、戻したりするための手段」というものです。1つのブロックチェーン(メインチェーン)だけでは持てないような、色々な資産や特性を、サイドチェーンでは持つことができるようになります。Blockstreamという会社は、サイドチェーンという概念を基にして、5、6年前に設立されました。ビットコインの上でも、おもしろいものを色々作ることはできますが、ビットコイン自体はゆっくりと一定のペースでしか動きません。
サイドチェーンは、より実験的な機能を、別のブランチでテストすることができ、それを利用することを選択した人だけが対象となります。ですので、万が一、サイドチェーンに問題があったとしても、メインチェーンへの危険性はありません。現在は、トレードとアセットを重視した「Liquid Network」や、ビットコインをネイティブコインとして利用でき、イーサリアムが持つような機能を実現させる「Rootstock」などがあります。つまり、サイドチェーンにはメインチェーンでは実現できない違った特徴や、ルールを設定することができます。
Liquidの一つの特徴としては、「フェデレーテッド(連合)ブロックシステム:Federated Block System」というものがあり、そこでブロックを生成し、承認するグループがあります。ビットコインでのマイニングは、ネットワークを安全に保つ良い方法ですが、非常に不安定であり、 ロックベース(Lock-based)です。ブロックが見つかるまでの時間に変動があり、10秒で見つかることもありますが、3時間かかってしまうこともあります。トレードで使用するのであれば、これは非常に不便です。お金を別の取引所に移したが、1分か3時間かかるのかわからない状況というのは良くないので、Liquidでは毎分ごとにブロック承認が行われ、安定性が保たれます。しかし、トレードオフも存在します。全てが非中央集権型のマイナーによって行われるマイニングとは違い、Liquidは連合のグループによって承認が行われます。トレードをするため、または既にお金を取引所から出してしまっている場合には、このトレードオフはそこまで大きな問題ではありません。
Liquidのサイドチェーンで得られる秘匿性とは?
Liquidのトランザクション自体はビットコインと似ていますが、いくつが違いがあります。主に2つの違いによって資産の取引が可能となります。一般的なユースケースとしては、ステーブルコインとセキュリティートークンがあります。ビットコインを送金できるだけでなく、スマートコントラクトを生成することなく他の種類のアセットも送金することができます。
Liquidのもう一つの特性は、コンフィデンシャル(秘匿)トランザクションです。これは、トランザクションの金額とアセットタイプを、公から隠す方法です。例えば、ブロックエクスプローラーについて言えば、Blockstream.InfoというものがLiquidにはあります。ビットコインのネットワークを見ると、自分が送ったBitcoinの数量だけでなく、いくらの送金手数料だったかも見ることができます。そのような状況で、ビットコインを多く送金してしまうと、自分に関する多くの情報が明らかになってしまう可能性があります。その情報が流出した場合、非常に大きな潜在的危険にもなりえます。また、お金を取引所に移動する場合、自分でトレードするチャンスを得る前に、お金がその取引所に移動しているのを、皆が見ることができてしまいます。その場合には先を越されてしまいます。
それに比べて、Liquidは、送金人と送金先を知る必要がある人々、または送受金者が情報共有を許可した第三者機関以外には、全ての情報を隠すことが可能です。したがって、サイドチェーンでは、メインチェーンよりも匿名性が高くなり、全ての個人情報を保護することができるのです。しかし、それと同時に、皆が、何もない場所からお金が増発されていないかどうかを検証することも可能です。金額を明らかにすることなく、本当のお金を送っているということをわかってもらうことができます。
プライバシーについてどう考える?
Blockstreamは、プライバシーのバランスを保とうとしてると思います。我々は、トランザクションが検証可能である事と同時に、コンフィデンシャル(秘匿)であることも望んでいます。全ての情報を隠してしまうのではなく、その情報を誰と共有するかを、人々が自ら選択できる事こそがプライバシーであると考えています。情報を必要としている人々、規制当局や監査員などには、もちろん共有することが必要ですが、競合他社や害悪を及ぼすような人々には、絶対に情報を公開したくないはずです。金融機関にとっては、ユーザーの情報をしっかり保護することは非常に重要なことなので、我々のシステムでも重視しています。
Liquid Networkで得られる流動性とは?
「流動性」とは、「市場において大きな量を購入しても、その価格が動かないこと」と定義することができます。資金を持つトレーダーが少ない取引所では、誰かが少額を購入しようとした場合でも、価格は急激に上昇してしまいます。それは暗号通貨のトレーダーにとっては良いことではありませんので、そのような取引所ではビットコインが買われません。例えば、1000ドル相当のビットコインを購入して価格が急上昇してしまえば、非常に悪い取引になってしまいます。したがって、価格を大幅に変化させることなく、取引所で大量の資産を売却できることは非常に良いことです。
「ボラティリティ」とは、「時間の経過に伴う価格の動き」です。何かが非常に不安定である場合、価格は大きく乱高下します。技術が世界中に広がっていく中で、様々なビットコインの取引所がマーケットには存在します。市場にはいくつかの分断があり、何らかの形で統合すべき小さなマーケットが多く存在します。日本で価格が上昇すると仮定すると、米国では価格が低くなる可能性があります。これらの取引所がより速く相互に作用できるほど、価格の変動は少なくなります。さらに、こうした大規模な購入は様々な場所や取引所に分散するため、価格に大きな変動が生じないようになります。
暗号通貨取引所がLiquid Networkを使うことで得られるメリットの一つは、送金をより速く受け取ることで、流動性と取引量を増やせるということです。ビットコインのような従来の資産、または他の暗号資産、法定通貨がトークン化され、Liquid Networkに統合される取引所が増えるほど、流動性は高まります。
ある大口の買い手が来て、そのネットワークにある全てのビットコインを買おうとしたとします。その場合、他の顧客のために供給を取り戻し、流動性を提供してくれる人が必要になります。Bitcoinを使用すると送金が10分以上はかかりますが、Liquidを使用すると、ほぼ瞬時に送金を完了できます。多くの取引所にとってそれがメリットです。基本的に、顧客からはより早く資金を受け取れ、確認数を待つ必要はありません。これは、取引所と顧客、両方にとって非常に便利な機能です。
Blockstreamの歩み
私達がBlockstreamを始めてから6年が経ち、現在も多くのプロジェクトに取り組んでいます。 Liquidは大プロジェクトで、Blockstreamの設立後すぐに開発を開始しました。私達が知られている大きなプロジェクトといえば、他にLightning Network(ライトニングネットワーク)があります。Lightning Networkにも、かなりの力を注いでいます。現在、Lightningにはいくつかの異なる実装方法があり、様々な企業と共に進めています。私達は、ビットコインのスケーリング技術(拡張技術)として、Lightningにも注力しています。
LightningはLiquidと互換性があり、Liquid Bitcoinを使用して、Liquid上でもLightningのトランザクションを実行できます。将来、Lightningにいくつかの機能拡張が行われた後、そこでもアセットトランザクションを行えるようにしたいと考えています。また、Blockstream Greenと呼ばれる非カストディのマルチシグウォレットにも取り組んでいます。Blockstream社がウォレットの鍵の一つを預かり、2段階認証を許可するもう一つの鍵を顧客が預かります。これは、Blockstream社が明日消えてしまっても、資金が取り戻せるということを意味します。
Lightning Networkの詳細ついてはこちらをご覧下さい。
中央集権と非中央集権の両立
中央集権と非中央集権は、思っているよりも両立できると考えています。重要なことは、非中央集権的なシステムの上にも中央集権的なシステムを構築できることです。例えば、それ自体が分散化されているビットコインの上に、中央集権的なビットコイン銀行を作ることも可能です。これの良い点は、銀行が資金を持っていることを証明でき、多くの利点を得られるということです。ただし、中央集権なシステムの上に、非中央集権的なシステムを構築しようとする事は、ほぼ不可能です。
Liquidは、半分散的(Semi-Decentralized)なシステムであり、世界中の15のグループと多数の権限範囲で構成されています。その点で、規制を順守することもできます。セキュリティトークンの様に「誰がこれらの資産を持つことができるか」や「それらがどのように移転されるか」に関して多くの制限を付けた仕組みを、分散したシステムの上に構築する事ができます。もしも、それを使いたくない場合は、関わる必要がなく、今のままのビットコインを使い続ければ、問題ありません。私は選択できるこそが全てだと思います。ユーザーと発行者の双方に選択肢を与えることができます。これらの規制を遵守するかどうかという選択肢がない人もいますが、私達はそれができるようになる拡張性が必要だと考えています。
マイニングの必要性
マイニングはビットコインの非常に重要な部分です。マイニングのアイデアは、大変大きいコストをかけなければ、台帳の履歴変更が行えないというものです。また、ビットコインの全てのマイナーは匿名であるため、ネットワークに登録する必要がありません。必要なのは計算力を使い続けることだけで、それを行うための多くの設備が世界中に散らばっています。
多くのお金と計算能力を持っていたとしても、マイナーが履歴を改ざんすることは困難となります。一方で、改ざんを防ぐために、マイナーは対価として報酬を受け取ることができるのです。十分な数の人がマイニングに参加している限り、彼らが結託するということは起こりません。これはビットコインには良いことですが、コストが非常に大きく、ブロックを生成するプロセスもランダムであるため、予測が不可能です。ブロック生成にコストがかかり、どのくらい時間がかかるかわからないマイニングですが、分散的なシステムを維持するためには、私が知る限りで一番良い方法だと思います。
ブロック署名
Liquid Networkの場合は、マイニングを「ブロック署名」と呼ばれるものに置き換えます。秘密鍵を保護するHSM(ハードウェアセキュリティモジュール)を備えたサーバーを動かすフェデレーションのメンバーによって構成されています。ブロックを有効にするには、メンバー全員がブロックに署名する必要があり、マイニングと比較すると署名にかかるコストが非常に安くなります。どのメンバーも非常に簡単に署名を行うことができるようになります。簡単に署名が実行できるため、ブロックの履歴を書き換え不可能にするなどの特定のルールに従うHSMを使います。
これにより、非常に安定した頻度でブロックを生成することができます。それぞれのメンバーが順番交代にブロックを出し、他のメンバーはそのブロックが有効かどうかを確認します。有効であると判断した場合は、デジタル署名でブロックに署名を行います。11のメンバーがデジタル署名をしている限り、ブロックは生成され続けます。これが、毎分ブロックを生成できる理由です。履歴を書き換えることなく、ネットワークを健全で機能的な状態に保つインセンティブが各メンバーにあります。フルノードを動かすこと自体は、フェデレーションメンバーでなくともLiquid Networkのユーザーであれば可能です。ソフトウェアを開けば、それらがルール通りに動いていることを確認できます。
環境に対するマイニングの影響
マイニングは台帳を維持するために大きなエネルギーを使用するため、環境への心配があることはよく理解できます。ただ、マイニングに使われる電気の多くは、その電気の活用方法がない地域から来ているということに気付きました。多くの水力発電がある中国の一部の地域では、発電所が孤立した地域にあり、その場所で活用することはできません。マイニングは、グリーンテクノロジーを使うことで非常に効率的に多くの電力需要を生み出せると考えています。それができない場合は、そのようなグリーンテクノロジーに対して助成を行うこともできます。そうすることで、エネルギーをより効率的に活用でき、安定した電力需要を生み出すことができるようになります。
電力需要の状態は大きく変化しています。たとえば、世界中の多くの場所では、日中にエアコンが必要ですが、夜は需要が減ります。それに対して、安定した電力需要がある場合は、実際の電力コストを相殺することができるようになります。水力発電や原子力発電のようなテクノロジーには、多くの革新が起こると思います。以前は経済的に実現不可能であったことも、これからの新しいイノベーションにより実現可能になります。「ジェボンズのパラドックス」という考えがあるように、エネルギーが不足することはありません。より効率的な方法により、より多くのエネルギーを世界で得られるようになれば、より多くの人々に利益をもたらし、彼らの助けにもなるのです。
Lightning Networkとは
Lightning NetworkはBitcoinを利用した技術で、ほぼゼロの手数料で瞬時に支払いが行えます。私とあなたで、お互いにLightningチャネルを開き、そこに各々がお金を入金します。支払いを行いたい場合、お互いがいくらの残高を貸し借りしているかという記録を遡り、台帳を最新のものにアップデートしていきます。この場合は、データを第三者と共有する必要もありません。Lightning Networkから残高を外に移動させたい場合は、そのLightningチャネルを閉じる操作をします。仮に、残高が多くあった過去の台帳の状態でチャネルを閉じようとした場合は、システムのルールにより、その操作が不正であるという証明を行いペナルティを課すことができます。
これが、Lightningの単純なバージョンです。現在、実際の世界で、Lightningの送金は1対1でなく、他の人を経由して行われています。資金が送金されるように、世界規模のルーティングが行われ続けています。また、同時にプライバシーを守ることができる送金方法でもあります。Lightning Networkで5つノードが離れている人に向けて送金を行いたいとします。自分が送金を行う際に、次に誰に送金すべきかを伝える必要があります。目的の送金先にお金が届くまで、次の人への送金を繰り返していきます。要求された通りに次の人に送金が行われた場合のみ、台帳を更新することが可能となります。
LightningとLiquidは補完的な関係です。Lightningが活用されるのは少額の口座、または当座預金口座のようなアプリケーションだと思います。一方で、Liquidは大きな額を取引所間で瞬時に送金するのに役立ちます。将来的に、LightningとLiquidの統合は必ず行いたいと思っています。現在、Liquid-Bitcoin(L-BTC)が既に利用可能で、サポートを行なっています。資産もサポートしたかったのですが、そのための技術的なハードルがいくつかあります。Lightning Networkの修正も必要になりますが、それを解決する方法はわかっているので、あとは時間の問題だと思います。
デジタル資産の取引
ステーブルコインであるテザーを使用して、もう一つ別のデジタル資産を作り出すというアイデアを考えてみます。ある個人が、指定された銀行口座にお金を預け入れ、預け入れられた金額と同額のトークンをテザーが提供するという仕組みです。これにより、ネットワークを通じて送金を行い、使用が可能となります。現時点で、ブロックチェーンは大量のトランザクションのスケーリング(拡張)には適していません。全てのユーザーが、最終的なセトルメントについて知る必要はないので、メインチェーン上のそれらのトランザクションを、Lightning Networkに移動させて送金を行うことが可能です。Lightning Networkで資産を扱う場合、小売タイプの決済アプリケーションで役に立ち、少額のステーブルコインも高頻度で使用できるようになります。Bitcoinの代わりにトークン化されたドルで支払いを行う場合は、Liquid Networkでも利用することが可能です。
Blockstreamのビジョン
私達は、Bitcoinに関する多くのリサーチを行なっており、当社の研究チームは技術の改善を専門としています。Pieter Wuille博士という方は、この界隈に最も長い間いる開発者の一人です。彼は、SegWit、Taproot、MiniScript、またSimplicityと呼ばれる技術など、多くの機能を担当してきました。Simplicityは、検証作業を可能にするため設計されたスマートコントラクトの言語です。Simplicityは、スマートコントラクトを非常に簡単に作成できるように作られたEthereumのSolidityなどとは大きく異なります。ただ、Simplicityは非常に堅牢で、何が起こっているかということを簡単に証明できるように設計されています。
Liquidは、テクノロジーの実験場であり、全てが集まる場所だと考えています。暗号通貨は、既に広く利用されているものなので、Liquidというアプリケーションとは非常に相性が良いものです。この領域には、伝統的な金融システムも入り始めていて、フィデリティのような企業もビットコインに参入してきています。ビットコインをデジタル証券として見ている金融の企業もあります。これら2つの世界が融合する日がいずれ来ると思います。
金融と暗号通貨の世界の融合が大きくなるにつれて、Liquid、またそれと似たような連合体が、グローバルな金融のセトルメントシステムで使用され始めます。まだ多くの問題はありますが、Liquidに基づくテクノロジーで解決できると思います。私達の目標はLiquidを成功させることであり、これら資産のセトルメントが可能なこと、そしてシステムの欠陥を検証しながら秘匿性の確保が可能なことを世界に証明することです。これは他の金融システムにも更に広がっていくと思います。これが当社のビジョンです。
インタビュー・編集: Lina Kamada
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