「史上最大の経済危機」の著者であるドイツのエコノミスト、マーク・フリードリヒ氏(Marc Friedrich)に再びインタビューさせていただきました。今回、フリードリヒ氏は新たに「史上最大のチャンス(The Biggest Chance of All Times)」という新著を刊行しました。パンデミックが経済にどのようなダメージを与えたか、またこの経済危機がどうしてチャンスなのかといったことについてお伺いすることができました。
インタビュー日 : 2021年3月22日
コロナで加速するEU経済の分断
パンデミックはすぐには終わらないと思います。しかも政治家たちはパンデミックを口実に、議会を通さず国民の意見も聞かず統治ができるということにとても魅力を感じているようです。これは非常に危険な特権だと思います。今回のパンデミックで、違憲判決が下されたケースがいくつかありました。
例えばイタリアでは、ECBの前総裁であるマリオ・ドラギ氏が選挙プロセスを経ずにイタリアの新首相に就任しました。選挙なしで就任したので、これはれっきとした共産主義、あるいはファシズムだと言えるでしょう。そしてドイツでも現在、議会を通さずに政治的決定が行われています。
EUが設立される前にマーストリヒト条約というものがありました。この条約の中でユーロという単一通貨を作ることが合意され、これがEUのバックボーンとなっています。
しかしこの条約もパンデミックのどさくさに紛れて破られました。イタリアのコンテ元首相がパンデミックを「経済的・社会的緊急事態」だとして経済支援を呼びかけ、合計5,000億ユーロの緊急融資を行う「コロナ・ボンド」が合意されました。
この一件で、北欧諸国はEUに裏切られたと感じています。苦境に立たされている南欧諸国が、資金を賢く使ってきっちりと債務の返済をしてくれるとは思えないからです。債務が返済されないにも関わらず、ECBは南欧諸国に約束した融資のためにさらにお金を印刷し続けているという状況なのです。
現在の状況は、我々の民主主義に対する脅威です。我々は今、非常に社会主義的な問題を抱えています。これは非常に危険な道です。政治家たちは,国会を通さなくても自分たちのやりたいことができると思っています。
選挙もしなくていい、お金をもっと刷ってもいい、そしてもっと増税してもいいと思っています。これらの政策を全てパンデミックという状況のせいにし、正当化することができるからです。
欧州委員長選出の不透明性
フォン・デア・ライエン氏というドイツの政治家が欧州委員長に選出されましたが、彼女は委員長には適していないと思います。また、彼女がどのようにして選出されたかという点も問題になっていて、テレビでもニュースでも声を挙げる人が後を絶たない状況です。
フォン・デア・ライエン氏は正式に委員長に選出されてはいない、という声が挙げられています。EU委員長の選挙には2人の候補者がいました。マンフレート・ウェーバー氏とフォン・デア・ライエン氏です。ウェーバー氏は正攻法で当選しましたが、フランスがウェーバー氏を選出したくないと拒絶したのです。
そして選挙手続きを経ずにフォン・デア・ライエン氏を選出し、委員長の座に就任させました。これはイタリアの首相が選出された時と同じで、共産主義的であり、民主主義に反しています。
インフレ進行で貧困化する核家族
私の父は家を建てたり修繕したりする便利屋でした。父の収入は月1000ユーロ程度でしたが、当時の稼ぎで我々家族を養い、アパートを購入し、そして休日は色々な場所へ連れていってくれました。本当に驚くべきことです。
しかし今ではたとえ月に5000ユーロ稼いだとしても、突出したお金持ちにはなれません。高い家賃や食費、そして様々なサービスにかかるお金のことを考えれば、たちまちお金は消えてしまいます。
そして忘れてはいけないのが、所得税も払わなければならないということです。ドイツは、世界の中でも最も所得税が高い国の1つで、税率は最大で40%にもなります。
1980年代、子供が2人いる核家族の家庭では片方の親だけが働きに出れば家族を養えました。通常は父親が働きに出ていました。
父親が働いて家族を養い、家といった財産を購入し、そして年に2、3回は家族旅行に行く、という生活が可能でした。しかもこれらに加えて老後の貯金さえも可能でした。40年前の豊な生活とはこのような形でした。
現在の家族はというと、まず両親は共働きをしなければいけません。そして共働きをした上でなお、子供を持つ余裕があるかどうかということについて考えなければなりません。このような状況なので、人口問題が発生しています。つまり、インフレが人口の健全な増加を妨げているのです。
しっかり職にも就いている高学歴な大人が「子供はお金がかかりすぎる」と言うのは信じがたいことです。しかも、たとえ子供がいなくても、まともな生活をするには四六時中働き続けなければなりません。
例えば欧米で2人の子供に恵まれた両親が、自分たちの勤務地に近い大都市の郊外にマンションを購入したい、と考えていたとします。そうすると、マンションの購入がこの夫婦にとっての最終目標になります。
この家族は旅行になんて滅多に行けないでしょう。さらには、下がり続ける通貨の価値や無利子政策、それにインフレの進行といった要素が相まって、老後のための貯蓄をする余裕もないでしょう。
通貨システムは放物線を描くように動き、最終的には貧困を生み出します。だからこそ人々はBitcoinといったものに投資をして自由を得なければなりません。システムは超富裕層の人にとってしか有利に働かないのです。
変革が必要なドイツの政治体制
人類に訪れた危機は全て進歩のためだったと言っていいでしょう。第二次世界大戦後のドイツの話をします。戦争が終わった後のドイツは壊滅的な状況でした。ほとんどの建物が爆撃を受け、あらゆるものが再構築を必要としていました。
当時は誰もドイツに未来があるとは思っていなかったでしょう。無意味な戦争のために何百万人もの人々の命が失われました。そして男性の大半が亡くなったのです。
しかし戦後の壊滅的な状況を克服した後、ドイツは最も繁栄した時代を迎え、世界で最も豊な国の一つとなりました。戦争でぼろぼろになった街や建物からは予想すらできない繁栄です。当時の誰にも信じられないことでしょう。
ところが現在、我々は再び繁栄の時代を終えようとしています。我々の通貨システムは大惨事に向かいつつあります。そして日本をはじめとする多くの国々が、ドイツと同じ状況にあります。
私が政治体制の変化を望んでいるのは、現在の体制があまりにも耐え難いものだからです。白髪が増えてしまうほど、本当に耐え難いです。
変革には困難がつきもので、改革による被害を被る人もたくさん出てくると思います。しかしそれでも、最終的にはよい結果が待っていることを切に願っています。
政府が国民のために政治をしている限り、右翼的な政治体制でも左翼的な政治体制でも問題はありません。とにかく新しい政治システムが必要です。私は常に通貨システムと政治システムは進化すると信じています。
現在の議会制民主主義というのは機能していません。遅すぎるし、腐敗しきっているのです。現在ドイツの最大与党は自由主義・保守主義政党のCDU(ドイツキリスト教民主同盟)で、メルケル氏が首相を務めています。メルケル首相は2021年に16年の任期を終えてその地位を退く予定です。
ドイツでは長い間、何もかもが行き詰まっている状態です。したがって現存の政党、例えば他の野党や緑の党といったような政党とは全く異なる、新しい政党が必要だと思っています。
実質インフレ率の衝撃
世の中の公式的なインフレ率は1%前後だと皆思っています。中央銀行はインフレ率が低いということでインフレを起こそうとやっきになっています。もしもデフレを放置すると、大恐慌になってしまいます。だからこそ中央銀行が大量にお金を印刷しているというわけです。
私は本を執筆するにあたって欧米諸国の実質インフレ率を計算してみたのですが、結果をみて大変ショックを受けました。公式発表の数字よりも高いということは知っていたのですが、それにしても衝撃的でした。昨年の実質インフレ率は、ドイツだけとってみても14%という驚きの結果でした。
マイケル・セーラー氏は「資本のインフレ率は15%~20%である」と言っていましたが、彼の言葉の通りでした。アメリカの実質インフレ率はドイツよりもさらに上を行きました。これは、アメリカの経済成長がドイツよりも弱かったからです。
通貨システムと政治家の間には、不健全な依存関係があります。政治家は選挙に当選するために公約を掲げます。そうするとどうにかして公約を果たすべく、お金を用意しなければなりません。税金だけでは足りないため、公約を果たすためにはさらに借金をしなければなりません。
さて、金融システムにおける借金のキャパシティーがなくなると、銀行は政府に救済を求めるようになります。もしもここで政府が救済しなければ、通貨システムは崩壊してしまいます。したがって、通貨システムが政府よりも優位に立っている状態だとも言えます。
Bitcoinを恐れ始めたECB
欧州中央銀行(ECB)はBitcoinを恐れています。なぜならBitcoinがどれだけ強力になり、支配的になってきたかを目の当たりにしているからです。
ガンジーは「はじめに彼等は無視し、次に笑い、そして挑みかかるだろう。そうして我々は勝つのだ」という言葉を残しています。
確かにBitcoinは初めの頃は無視され、そして笑われました。今はこの第3段階で、戦っているところだと思います。そして私には、その先にある勝利が見えます。
Bitcoinは政府にとって圧倒的すぎる存在でした。人々が想像していた以上に強力で、廃止することも禁止することも出来ないからです。
政府にとっての最終手段は規制を行うことであり、ブラックリストにのせ、プロパガンダを広め、人々が取引を控えるようにすることしか出来なかったのです。
Bitcoinについて書くと批判されるワケ
2020年の秋にドイツの大手ニュース雑誌「Focus」にある記事を書いたのですが、その記事の中でBitcoinの相場に関する予測をしました。
私の立てた予測というのは、数ヶ月の間に信じられないほどの強気相場が起こるというもので、これは実際に起こりました。
一部の人々はこの予測にポジティブに反応し、投資もしました。しかし一方では、批判や否定的な意見もありました。こういった反応は恐れからくるものです。
私は記事の中で、我々の生きるシステム全体に対する疑問を投げかけました。しかしこういった問いかけは人々に好まれないのです。疑問を持たずに、自分の今いる壁の中から外に出ようとしない方が快適なのです。
しかし、今進んでいるこの道をこのまま突き進んでも、行き止まりになってしいます。したがって我々は今まで「当たり前」だと思っていた生き方を変えざるを得ません。しかしこう言うとどうしても対立的に聞こえてしまいます。だからこそ人々は批判してくるのです。
Bitcoinとその他の実物資産
実物資産とは自然やアルゴリズムによって制限されているものです。例えばゴールド、シルバー、ダイヤモンド、不動産、土地、森林、美術品といったものが当てはまります。一部の株式なども実物資産に含めることができます。実物資産は自分の購買力の保険のような役割を果たすもので、必ず保有しておくべきものです。
例えばBitcoinは、コードによって制限されています。今のところBitcoinには、他の資産に比べて優位な点が1つあります。それは存在する量が正確に分かっているということです。ゴールドやシルバーといった資産は、正確にはどれくらいあるのか知ることはできません。
ゴールドには5000年以上の歴史があります。また、あらゆる中央銀行がゴールドを保有していると見て間違いないでしょう。
日本の中央銀行もゴールドを保有しているでしょうし、中国はかつてないほど大量にゴールドを購入しています。ロシアやトルコもゴールドを購入し、所有しています。我々人類には、ゴールドを富をバックアップする価値のあるものとして受け入れてきたという歴史があります。
Bitcoinはまだ実験段階なので最終的にどうなるかわかりません。もしも成功すれば私にとってはプラスです。しかしもしも成功しなければ,その時には他の選択肢を取りたいと思っています。
たった1枚のカードに全てをまとめようというのは無謀だと思います。色々なものを少しずつ所有して、ポートフォリオを分散させる必要があると思います。
Youtubeの新シリーズ「コロナ禍の投資」
私はYouTubeで「Invest during the Pandemic(コロナ禍の投資)」というシリーズを作り、サイクルや経済、政府などについて、さまざまな知識人と話をしました。
グラント・ウィリアム氏(Grant William)、プレストン・ピッシュ氏(Preston Pysh)、それにリチャード・ワーナー氏(Richard Werner)といった、ゲストの方々との会話はとても楽しいものでした。
インタビュー・編集: Lina Kamada
翻訳: Nen Nishihara
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