2021年、現在の世界にはどのような暗号資産のマイニングメカニズムがあるのでしょうか。有名なものとしては、Bitcoinが採用しているPoWが思い浮かぶかもしれません。今回はPoW以外にも存在している様々なマイニングについて、その仕組みやどのような暗号資産で使われているのかなど、興味深いマイニングの世界をご紹介しています。ぜひご覧ください。
本記事はTechFitLabの掲載記事「Types of Cryptocurrency Mining 2021」の内容を日本語へ翻訳し掲載したものです。原文の英語版はこちらをご覧ください。また、TechFitLabのウェブサイトもぜひご参照ください。
PoW(プルーフオブワーク)について
PoW(プルーフオブワーク)とは暗号学上のゼロ知識証明の一種です。仕組みとしては、ある当事者(証明者)が他の当事者(検証者)に対して、ある特定の計算量が費やされたということを証明します。
PoWの目的は、ユーザーが実際には獲得していないコインを使ってしまうこと、つまりダブルスペンディング(二重支払い)を防ぐことです。ユーザーがコインを2回以上使うことができてしまえば、事実上通貨の価値がなくなってしまいます。
PoWを採用したブロックチェーンで最も有名なのは、紛れもなくBitcoinです。2009年に誕生したBitcoinは分散型デジタル暗号通貨の分野を開拓し、現在は時価総額において明確なトップの座についています。
マイニングによるBitcoin獲得のメカニズムとインセンティブ
Bitcoinマイニングのプロセスは、マイナーがBitcoin取引の検証を行う(検証プロセスを実行する)代わりに、Bitcoinを獲得するというものです。
このプロセスを通してBitcoinネットワークにはセキュリティーが提供され、マイナーには報酬としてBitcoinが与えられるという仕組みになります。マイナーは得られたBitcoin価格がマイニングにかかるコストを上回ると利益を得ることができます。
サトシ・ナカモトはBitcoinのホワイトペーパー内で、マイニングのインセンティブについて以下のように述べています。
インセンティブはノードが正直でいることを促すのに役立つと考えられる。もしも強欲な攻撃者が、あらゆる誠実なノードよりも多くのCPUパワーを集めることが出来た場合、そのパワーを使用して人々を騙して自己の支払い額を取り戻すか、あるいは新たなコインを生成するか、二者択一の選択をしなければならない。強欲な攻撃者はシステムや自己の富の正当性を損なうような行動をとるよりも、自己に有利なルール、つまり誰よりも多くの新しいコインを得られるようなルールに従う方が有利になると考えるはずである。
Bitcoinマイニングのルール
BitcoinマイニングはすべてのPoWブロックチェーンの根幹をなしていて、3つの主要なルールがあります。その1つ目は、全ての取引は非中央集権的な公開台帳へ追加され検証されるということです。つまりあらゆる取引は、この台帳上で確認することができるということです。
2つ目は、PoWのプロセスにおいてマイナーが解くパズルについてのルールです。まずパズルが解かれる計算速度についてですが、これは1つのパズルに対して平均10分です。一番最初にパズルを完成させたマイナーによって、新しいブロックがブロックチェーンに追加されます。
パズルの難易度はネットワーク難易度とも呼ばれ、2016ブロックごとに変更されます。これは日数にすると、ほぼ16日に1回という割合で難易度が変更されるという計算になります。ネットワーク難易度についてもっと説明すると、これはBitcoinのネットワークにどれぐらいのハッシュレート(マイナーの計算能力)が費やされているか、ということです。
そして一番最後のルールは、ブロック追加の報酬はパズルを最初に解いたマイナーに与えられる、ということです。
なお、たとえどんなに多くのマイナーがいたとしても、1BTCをマイニングするのには10分かかります。10分間という時間の中で、他のあらゆる条件が同一であれば、ASICマイナーの平均的な電力使用量を考えた場合、1BTCをマイニングするのに必要な電力は72,000ギガワットです。
PoC(プルーフオブカバレッジ)について
PoC(プルーフオブカバレッジ)は、暗号資産Heliumのブロックチェーンで使用されているアルゴリズムです。このアルゴリズムは、電波を使用してホットスポットと呼ばれるハードウェアルーターが正当なワイヤレスカバレッジを提供していることを検証します。
PoCの検証は、新しいブロックの追加、新しいタスクの実行、そしてマイナーへの報酬の付与という一連の仕組みによって機能します。
トゥシャール・ジャイン氏(Tushar Jain)によれば、Heliumはブロックチェーンの分野の中でも類を見ないほど野心的なビジョンをもっており、この分野においてこれほどの大きな野心というのはEthereumにおけるスマートコントラクトの登場以来であるということです。
というのも、Heliumのアプローチは、無線ネットワークを大規模に展開・管理するための根本的に新しいアプローチであり、つまりはコスト構造を根本的に削減するアプローチなのです。
Heliumの無線プロトコル「LongFi」について
Helium LongFiというのは、低帯域幅のIoTデバイスのための新しいオープンな無線プロトコルであり、何マイルにもわたる長い通信距離の達成、およびバッテリー寿命の最大化を実現するために最適化されています。
LongFiは、LoRaWANワイヤレスプロトコルというプロトコルとHeliumブロックチェーンを組み合わせたものです。これにより、どのLoRaWANデバイスもHeliumネットワーク上でデータを転送することができます。
LongFiはローミング機能を提供し、マイクロペイメント(少額決済)トランザクションをサポートしているため、顧客はゲートウェイやネットワークサーバーを導入することなく、ネットワークの使用量に応じて支払いを行うことができます。
Helium(HNT=ヘリウムトークン)獲得のメカニズム
ホットスポットと呼ばれるハードウェアルーターに分配されるHNTの量というのは、ネットワークに対して実行される「作業」の種類によって異なり、各種類の作業のネットワークへの価値貢献度によって決まります。このネットワークへの貢献度の検証を行うアルゴリズムがProof-of-Coverage (PoC)と呼ばれる新しい作業アルゴリズムです。
PoCに参加するために、ホットスポットは指示 (「チャレンジ」とも呼ばれる ) を受け取り、その指示に従って近隣のホットスポットにペイロード(送受信用のデータ本体)を送信して監視・検証をしてもらいます。
これらのシングルホップ(端末同士が直接相互通信する通信方法)によって送られて検証される「チャレンジ」は「beacons(ビーコン)」とも呼ばれます。近隣のホットスポットがない場合は「チャレンジ/ビーコン」を発行することはできますが、発行したものを検証してもらうことができないため、収入が少なくなります。また、各ホットスポットは1年目が経過すると、分配額の調整が入ります。
各作業の分配率について
- 「チャレンジ」を送るチャレンジャー(分配率0.95%)
- 「チャレンジ」を送るホットスポットはネットワークによって選ばれます。選ばれたホットスポットはインターネット上で暗号化されたメッセージである「チャレンジ」を、ホットスポットのターゲットグループに対して発行します。ホットスポットは、ローカルに限らず、どこからでもチャレンジを発行できます。発行された「チャレンジ」は、PoCの検証においてワイヤレスカバレッジを検証するために使用されます。
- PoCの「検証」への参加(分配率5.31%)
- ホットスポットはPoCの検証に参加して相手のワイヤレスカバレッジを検証することで、HNTのシェアを獲得します。各ホットスポットが獲得する金額は、PoCの活動に直接参加した頻度によって決まります。
- PoCの検証の「監視」(分配率21.24%)
- 他のホットスポットのPoCの活動を監視して報告したホットスポットは、監視した活動の量とチャレンジを送られた側のホットスポットの報酬量に応じてHNTの一部を受け取ります。
- ネットワークデータ転送(分配率32.5%)
- HNTはネットワーク上のデバイスからデータを転送するホットスポットにも分配されます。HNTの量はホットスポットが転送したデータの量に応じて比例配分されます。
- コンセンサス・グループ (分配率6%)
- ホットスポットはランダムにコンセンサスグループに選出されます。コンセンサスグループに選出されたホットスポットは取引の検証やブロックチェーンへの新しいブロックの公開等のタスクを実行します。コンセンサスグループには6%の分配率でHNTが分配され、各グループメンバーはその一部を受け取ります。
PoSpace(プルーフオブスペース)について
PoSpace(プルーフオブスペース)とは、サービスプロバイダーが提示する課題を解決するために相当量のメモリやディスクを割り当てることによって、サービス(電子メールの送信など)に対して正当な受益権があることを示すという手段です。
PoWとの違いについて述べると、Bitcoinのマイニングプロセスではマイナーが競ってPoWにおける解を探し、一番最初に見つけたマイナーによってネットワークに新しいブロックが追加されます。当該マイナーは報酬を得て、新しいブロックの拡張に切り替えます。
ところがPoSpaceのような証明システムにおいては、全てのマイナーが一瞬でPoSpaceの計算を解くことができます。したがって誰が競争に勝ったのか、どのタイミングから新しいブロックに移行するのか、ということを何らかの形ではっきりさせる必要がでてきます。
PoSpaceに基づくSpacemint(PPK+15)のブロックチェーンでは、各PoSpaceに特質(この特質は単に証明作業のハッシュ値である)が割り当てられます。「最高の特質を持ったPoSpaceをチェーンの正当な延長(新ブロック)と見なすべきである」とプロトコルでは規定されています。
PoSpaceに基づくChiaの獲得のメカニズム
暗号資産Chiaはラップトップやデスクトップ、あるいは企業ネットワークの未使用のストレージでファームすることができます。ファーミングを通じてブロックチェーンの安全性確保に貢献した見返りとして、Chiaで報酬を受け取る機会があたえられます。
Chiaノードソフトウェアを使用すると、一定量の未使用のディスク領域を割り当ててプロットを作成することができます。なお、リソースを必要とするのは最初のプロットだけなので、一度Chiaノードソフトウェアをダウンロードさえしてしまえば、あとはバックグラウンドでドライブがプロットされていくという仕組みになります。
プロット作成が完了すると、コンピューターが自動でファーミングをしてくれます。ソフトウェアがすべての作業、および報酬の追跡も行ってくれます。継続的にファーミングを行ってもネットワーク帯域幅をほとんど使わず、またストレージ以外のリソースもほとんど消費しません。
使用していないディスクスペースさえあれば誰でもファーミングプロセスを利用できるようにすることで、Chiaのブロックチェーンは真に分散化されたブロックチェーンを目指して発展しており、ストレージやクラウド業界への相互補助の役割も果たしています。
未だ実装されていないEthereumのマイニングメカニズム、PoS(プルーフオブステーク)について
PoS(プルーフオブステーク)とは、コインの保有枚数に応じてマイニングやブロック取引の検証ができるという概念です。つまり、保有するコインの数が多ければ多いほど、マイニングパワーが高くなるということです。
PoSは少なからず批判を集めています。批判されている理由の一つは、Ethereumの開発者たちはいち早くPoSのについて宣伝したものの、PoSはまだEthereumに実装されていないためその効果は未だに証明されていないからです。
EthereumへのPoSの追加は長らく待望されていました。というのも、Ethereumの生みの親であるヴィタリック・ブテリン氏(Vitalik Buterin)がホワイトペーパー内でPoSについて提案したのは、はるか昔の2013年のことなのです。最後にホワイトペーパー内でのPoSについての説明を一部ご紹介して締めくくりとします。
PoSではマイナーが保有するコインの割合に応じてマイニングパワーを配分する。したがってPoSにおいて各マイナーは、PoWのようにパズルを解くためにエネルギーを費やす代わりに、コインの所有権に応じた割合のトランザクションのみのマイニングに制限される。たとえばコインの3%を所有しているマイナーは、理論上3%のブロックしかマイニングできないということになる。
翻訳: Nen Nishihara
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