様々な業界に革命を起こした暗号通貨ですが、慈善事業も影響を受けた分野の一つです。近年では暗号通貨による寄付を受け付ける慈善団体が増えてきました。ブロックチェーンを使った寄付のメリットとはなんでしょうか。また、慈善事業団体にはびこる「チャリティー詐欺」とは何でしょうか。今回は慈善事業の抱える問題と暗号通貨を用いた解決策について、可能性を考察しています。ぜひご覧ください。
本記事は、トニー・シモノフスキー氏(Tony Simonovsky)の「They Too: Nonprofits to Start Accepting Donations in Cryptocurrencies」の内容を日本語へ翻訳し掲載したものです。原文の英語版はこちらをご覧ください。
寄付したお金の行方
午後6時10分、仕事帰り。真面目な表情をした偉い人たちの顔ぶれが延々と並ぶ長い道を抜けてようやく地上に出る。ロングコートに身を包んだ帰り道、ふと前方をみると手を振って注意を引こうとする女の子たちの集団に気が付く。
気付いた時にはすでに手が財布を探していて、そしてその財布から寛大にも50ドル札を1枚か2枚取り出して、寄付を募る女の子たちに手渡そうとしている自分がいる。
しかしここで躊躇するもう1人の自分もいる。なぜなら、苦労して稼いだお金を寄付したところでそのお金は困っている人々を助けるために使われるのではなく、権力者やお金持ちの人のポケットに入ってしまうということを知っているからだ。だから結局、寄付をすることなく黙ってその場から立ち去ってしまう—。
皆さんもこのような経験をしたことはないでしょうか。寄付、チャリティー自体は、とても美しいことです。しかし慈善事業への寄付率は世界的に下がっており、この問題の一番の要因となっているのは、非営利財団における腐敗です。
しかも腐敗は広く一般的になってしまっていて、悪徳な寄付金集めには「チャリティー詐欺」という名前がついてしまっているほどです。チャリティー詐欺というのは、集められた収益がチャリティー目的で使われると寄付者に思わせることで寄付者を騙す、悪徳なビジネス行為です。
集められたお金は実際にはチャリティーに使われることなく、マーケティング資料の費用だったり、「チャリティー」を語る人たちの光熱費だったり、あるいはそういった人たちが余暇で使うお金だったりと、様々な経費に流用されてしまいます。
慈善事業の魅力がもたらす負の側面
アメリカでは、実に120万種類以上のチャリティーが行われています。これは衝撃的な数字です。しかしこの数字の裏にあるのは、貧しい人々や恵まれなかった人々を守りたいという切なる願いではありません。
数々の営利目的の組織が非営利団体へと転換したいのは、法による免税特権があるからです。しかも政府による課税を免れるという利点だけではなく、集めたお金を簡単に再分配できるというメリットもあります。
チャリティー詐欺は医療行為や傷病者救護活動を行う非営利団体、宗教系の慈善団体、子どものガン患者への救済基金を募る団体、退役軍人による非営利団体など、知名度の高い大規模な非営利組織の中でさえもはびこっています。他にも多種多様な非営利組織がチャリティー詐欺の流行を牽引しているような状況です。
中には、青少年の育成支援を目的として掲げておきながら、実際に支援に回したのは集まった資金総額のわずか1%という慈善事業もありました。
また、末期がんの子どもを支援するという重要な使命を掲げて数百万ドルもの寄付金を集めておきながら、実際に子どもたちにわたったのは1ドルの寄付につき3セント以下だったという慈善事業もありましたし、がん患者支援のために9800万ドルもの募金を集めたのに、実際に支援したのは100万ドル以下というものもありました。
こういった数字をみていくと、この一見どうにもできなさそうな問題を解決する手段は本当にないのだろうかと考えずにはいられません。そして、答えというのはいつも思いがけないところからやってくるものです。
暗号通貨とブロックチェーンによる解決を考える
様々な業界に革命を起こした暗号通貨ですが、チャリティーもまた革命の恩恵を受けることのできた分野の一つです。ブロックチェーン技術がデジタル決済の領域においてもたらす数々の利点は見逃せないものばかりです。
ブロックチェーンの持つデータ不変性という性質上、いかなる取引であっても金額、日付、口座といった情報を細工して調整することは不可能となります。したがって、ブロックチェーンを用いれば、チャリティー活動の全記録が石に刻まれたような状態となるのです。
したがってどんな意図をもって記録を歪めようとしても、寄付の授受に関する記録を改ざんすることはできません。
また暗号通貨による決済は現金やクレジットカードを用いた従来の支払い方法とは異なり、暗号化されてるという特徴から、最高レベルのセキュリティーが確保できるという利点もあります。
この利点があるからこそ、慈善活動家たちは自分の支払い情報が何らかの手段(合法的な手段や非合法的な手段)で抜き取られてしまったり、むりやり徴収されてしまったり、あるいは盗まれてしまったりすることがないと安心することができます。この安心感により、寄付をするインセンティブがより高まるというわけです。
さらにブロックチェーン技術の持つ透明性のおかげで、寄付をしようとする人々は各種寄付先の公開アドレスを確認して、お金の保有状況やトランザクションに関するトランスクリプト、つまり記録情報にアクセスすることが可能となりました。これにより、詐欺チャリティーが集めた寄付金を支援以外の目的で再分配することは難しくなります。
このように、暗号通貨による決済は、寄付を行った人にとって自分の寄付金の行方を把握しやすいという利点だけではなく、これから寄付をしたいという人たちのために寄付のハードルを下げる効果もあります。
しかもこれらの利点に加えて、国際的な寄付を行う際の手数料の心配をする必要もなくなります。
暗号通貨による寄付には多くの利点があるため、実際の寄付というのも既にたくさん行われています。これらの利点というのはさらに多くの慈善団体を惹き付けているので、暗号通貨による寄付はこれからもどんどん増えていくでしょう。
すでに暗号通貨による寄付を受け付けている有名な団体としては、ユナイテッドウェイ(United Way)、The Water Project、Code to Inspire、Songs of Love、そしてウィキメディア財団(Wikimedia Foundation)などがあります。
将来的には全ての慈善団体が暗号通貨による寄付を普通に受け付けるようになってくるでしょう。もしかすると慈善団体が暗号通貨による寄付のみを受け付けるようになる日が来る可能性さえあります。いずれにしろ時間の問題だと思っています。
翻訳: Nen Nishihara
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