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「スイスで高まる暗号通貨教育への需要」SEBA Bank マルセル・ハーマン氏 (全インタビュー記事)

スイスSEBA Bankが運営する暗号通貨・デジタル資産の教育プラットフォーム『SEBAversity』で責任者を務めるマルセル・ハーマン氏(Marcel Harmann)に、スイスの暗号通貨教育についてお話を伺いました。ハーマン氏は、スイスで史上初めてブロックチェーンのコースを開講したルツェルン応用科学芸術大学でも、講義内容の策定などを行われています。政府がブロックチェーン技術をサポートし、クリプト・バレーとも呼ばれるスイスの現状について説明していただきました。

マルセル・ハーマン

インタビュー日 : 2020年5月13日

マルセル・ハーマン氏 (全インタビュー記事)

大学のブロックチェーン教育

元々、私は金融出身で、今のように起業家になるまでは、数年間スイスの大手銀行で働いていました。これまで、創業から投資家、役員まで様々な立場を経験する中で、テクノロジーに対する熱意を自分の中で持つようになりました。

ブロックチェーンの世界にはかなり早い時期からいましたが、当時はただの趣味のようなものでした。しかし、それが変化したのは、ICOブームが到来し、スタートアップがICOで自分たちの資金を集め始めた時でした。

Marcel Harmann

そのような事に惹きつけられ、テクノロジー自体にも興味を持つようになりました。その後、自分の全体のキャリアを方向転換し、暗号通貨やブロックチェーン技術、FinTechにシフトすることとなりました。現在は、コンピュータサイエンス、ブロックチェーン、FinTechの分野で博士号を目指しています。

それと同時に、スイスのルツェルン応用科学芸術大学ではコースマネージャーとしても働き、SEBAバンクが運営する暗号通貨・デジタル資産の教育プラットフォーム『SEBAversity』の責任者も務めています。ルツェルン大学では、ブロックチェーンについての教育を行っており、現在は『Direction of Cryptocurrencies』と呼ばれる別のコースの開設に取り組んでいます。

私は、授業で何を教えるかというコースのアジェンダや、シラバスの作成など授業内容に関わること全てをGeorges Grivas博士と一緒に担当しています。ブロックチェーンと暗号通貨の世界で起こっていることについては、自分の情報を日々更新していけるように努めています。

スイスのクリプト・バレー

スイスのツークという町では、電車の乗車チケットを暗号通貨で購入することができます。このように、スイスで暗号通貨ビジネスが栄える場所は『クリプト・バレー』と呼ばれ、そこでは多くの暗号通貨ATMが設置されています。

ツークやルツェルンという町だけでなく、そこから車で30分の場所にあるチューリッヒもクリプト・バレーと呼ばれています。スイスは小さな国ですが、ルツェルンから車でわずか1時間で行けるリヒテンシュタインもブロックチェーンと暗号通貨技術を推進する上で重要な役割を果たしています。私達は競争相手ではなく、このテクノロジーを一緒に前進させていきたいと考えています。

ツークは、政府からの後押しを受けたこともあり、ブロックチェーンの分野では国際的に認知されている町です。一番最初にBitcoinを行政サービスに取り入れたのもツークであり、ブロックチェーン技術を活用した投票も非常に早くから行われています。何かの問題を抱えていれば、政府に対して要望を出すことができ、その問題の解決してもらうことができます。ここでは、他の地域では見られないような非常に素晴らしいサービスが提供されています。

現在、スイスのクリプト・バレーには、4千人から5千人の従業員を雇用する約700のブロックチェーン企業があり、このエコシステムはフランス語圏のジュネーブとローザンヌまで広がっています。

デジタル資産教育の需要

私はSEBA Bankで働いているので、博士課程では応用研究を行っています。この銀行は、スイスの金融規制当局から銀行業のライセンスを受けており、世界に2つだけ存在する『暗号通貨銀行』の内の1つです。通常、銀行はゲートキーパーなので、お金を貯めたり運用したりするノウハウを表には共有していません。しかし、私達はそのような銀行とは異なり、知識を共有し拡散していきたいと考えています。

そこで、教育を無償で提供する『SEBA University』というオンラインプラットフォームも立ち上げました。ここには、一般の方やコミュニティの方々が参加できるハンズオン型のコースもあります。デジタルファイナンスが新しいパラダイムへと移行していることを理解してもらうためにレクチャーを行っています。

また、企業や銀行向けの専用コースも提供しており、大手のプライベートバンクの従業員に研修を行うためのパートナーシップもあります。銀行はデジタル資産の需要が拡大していることを認識しているため、そこで業務を行う従業員はそれぞれの商品に対応し、その背後にある技術を理解できる必要があります。そのため、成績と単位を付与できる教育システムを準備しており、未来の金融について学習するための機会を提供しています。

ルツェルン応用科学芸術大学には、学士号と修士号のコースが用意されていて、その中でブロックチェーン技術に集中して勉強することができます。分散型台帳技術に関するしっかりとした講義を受けることができます。ブロックチェーンだけを専攻する学士号は、まだあまり需要がないので用意されていませんが、今後そのようなコースに変更される可能性はあると思います。

スイス政府からの後押し

スイス政府は常に柔軟な考え方を持っていて、2018年にヨハン・シュナイダー・アマン大統領は、スイスは暗号通貨の国家になるべきであると公に主張しています。政府は非常に大きな組織なので、何かを行うのにはかなりの時間が必要ですが、この動きは非常に良いことだと思っています。

スイスにおいて一番最初にブロックチェーンの授業を始めたのはGeorges Grivas博士で、彼は人気の最先端技術を非常に理解されている方です。また、ルツェルン応用科学芸術大学は、スイスでブロックチェーンと暗号通貨のコースを開講した最初の大学であり、最も長くブロックチェーンの教育を提供している場所です。他に多くの選択肢ありましたが、私にとってこの大学に入るというのは非常に大きな選択でした。

ルツェルン応用科学芸術大学は、スイスのクリプト・バレー・アソシエーション(CVA)の創設メンバーでもあり、そのエコシステムの一部であることも、私にとっては非常に重要でした。最近は、金融と暗号通貨に関する新しいコースを開始することが決まり、今は最終段階に入っています。

ブロックチェーン技術は、政府の投票、サプライチェーン、医療分野、金融商品に至るまで、多くの業界に変革をもたらす可能性があると考えています。スイスには、プライベートバンク、リテールバンク、グローバルバンクなどの非常に大きな銀行業界があります。ブロックチェーン技術が一番ではありませんが、金融には非常に大きな影響を与えています。そのため、銀行業界からの需要は着実に高まっていて、ブロックチェーンに関する教育を行っています。

また、仕事をしながらキャリアアップをしたい方のための幅広い教育も用意されており、6ヶ月間のプログラムもあります。スイスでは、CAS (Certificate of Advanced Studies)と呼ばれており、これらのコースに参加するには、学士号や修士号、実務経験などが必要となります。

通常、このようなコースには管理職や中間管理職の人達が参加していて、専門性を高めたい人やキャリアチェンジを目指す人がいます。スイスでは、大きな教育のエコシステムがあり、現在最も求められているブロックチェーンと暗号通貨の技術に関するコースを作り上げました。

ルツェルン応用科学芸術大学のブロックチェーン課程

IT部の学士課程では、ブロックチェーン、コンセンサスアルゴリズムがどのように機能するかといった仕組みや、分散化、分散型台帳、そして計算に関連するあらゆるメカニズムについて深く掘り下げます。

このような内容を教えている大学は実は他にもあり、数年前からこういったコースを取り入れるようになってきました。他の大学では、この分野はビジネス的な観点からアプローチされることが多いです。

教育課程の構成要素は大きく分けて4つあります。まず1つ目は、ブロックチェーン技術の基礎です。ブロックチェーン技術について深く掘り下げ、参加者が基本的なことを理解できるようにします。

2つ目は、ブロックチェーンのプラットフォームおよび実践です。ここでEthereum、Hyperledger(ハイパーレジャー)、Tezosといった大きなプラットフォームを見て、ブロックチェーンのプロジェクトは、どういった実践が最適なのかを学んでいきます。

3つ目は、ブロックチェーンのビジネスモデルについてです。従来の学び方は、業界ごとに分けてビジネスモデルをみていくものでした。たとえば医療業界のビジネスモデルを見たり、政府や金融などのビジネスモデルを見たりといった感じです。しかし、この課程においては、特に発展が進んだ分野に重点がしぼられています。

金融業界は、非常に目まぐるしい変化を遂げています。それにあわせて、教える内容も迅速なアップデートが必要です。我々のエコシステムの改善に直結するような、有益なことを中心に取り入れていかなければいけません。

最後の要素は法とコンプライアンスです。ここでは、シンガポールやニューヨーク、ヨーロッパ、そして日本などのグローバルなハブにおける、参加者として重要な規制システムについて学びます。

分散型の世界をつくるためのブロックチェーン技術

デジタル通貨は素晴らしい決済手段だと思いますが、Bitcoinがこの手段となれるのかはわかりません。Bitcoinは通貨というよりは、価値の保存手段に向いている思います。

Bitcoinは大幅に値上がりする可能性があります。誰も、ピザを100万ドルで買いたいとは思わないでしょう。家など、大きい買い物の場合は、良い支払い方法だとは思いますが、ガムを買ったりするのなんかには全く向いていません。

私はブロックチェーン技術そのものに注目しています。ブロックチェーン技術は、個々人が権力を取り戻せる、分散型の世界をつくるのに役立つ可能性を秘めていると思います。

権力分散型の世界では、政府は無期限にお金を印刷し、空虚なバブルを作り出すことができなくなります。私は、世界がより分散化された方向に進んでいくのを望んでいます。

いまだに現金が人気

現金は未だに、最もよく用いられる支払い方法です。現金が最有力だと証明する数々の研究も存在します。そして、スイスには未だに、1000スイスフラン札という高額紙幣があります。ユーロ圏における最高額紙幣は500ユーロ札です。

現金が最も有力な手段で、次いで有力なのは銀行カードを使った支払いシステムです。これには世代の違いもあるでしょう。若い世代はほとんど現金を使わないのに対して、年配の世代は現金しか信用していません。

スイスで普及するデジタルバンキングライセンス

スイスのFINMA(金融庁)は、非常に早い段階で規制を作り、異なる種類のトークンをどのように扱うべきかについてのガイドラインを発表しました。FINMAはとても前衛的でオープンマインドでしたが、これは国家として非常に良いことだと思います。

これは各種業界、特に金融業界に、これらの技術について本格的に検討し始めるための基盤を与えました。政府によって支援されている明確なガイドラインやルールの存在により、恐怖心が緩和されたのです。

スイスでは、設立されて間もない、デジタル資産と暗号通貨に特化した2つの銀行に本格的なデジタルバンキングのライセンスが与えられました。Sygnum Bank AGとSEBA Bank AGです。

この2行は、他行からも注目されています。UBSグループ、クレディ・スイス・グループ、EFGインターナショナルなど、現時点でデジタル通貨システムを提供していない大手銀行は、非公開で新しい戦略に取り組み、テストを行っています。

大手銀行は、この新しい技術を理解する必要性を分かっています。さらに、約4000人の従業員を抱えているジュリアス・ベア銀行のように、新しいアイデア対してより積極的な銀行もあります。

ジュリアス・ベア銀行はSEBAと提携し、現在BTCやETHなどのデジタル資産をSEBAを通じて顧客に提供しています。このように、異なる種類の金融機関が、様々な努力や取り組みをしています。今後1〜2年の間に、より多くの銀行がこの技術を導入していくようになる思います。

暗号通貨界隈のインフルエンサー

私はアンドレアス・M・アントノプロスの本が好きです。彼はインターネット・マネーやBitcoinに関する達人で、この業界のことについて知るためには、欠かすことのできない人物の1人です。

もう1つおすすめしたいのが、ウィリアム・ムーゲイヤー氏の著書『ビジネスブロックチェーン(The Business Blockchain:Promise、Practice、and Application of the Next Internet Technology)』です。面白い本が続々でてきていますので、常に目を光らせておくべきです。

私はポッドキャストとYouTubeを視聴しています。この業界は大変ダイナミックなので、トップを目指したいという人には、様々なタイプのポッドキャストやYouTubeを視聴することをお勧めします。

Ivan on TechとCarl The MoonというYouTuberが今のお気に入りです。市場分析をしている人たちなので、取引や投資に興味がある人には面白いと思います。見るべきものは他にもたくさんあります。

Youtubeの以外だと、ブロックチェーンと暗号通貨についてのTEDトークは見る価値があります。あと私は昔から、家で料理などの家事をしながら、ピーター・マコーマック氏の「What Bitcoin Did」というポッドキャストをよく聞いています。

それからTwitterは、様々な異なる視点からの多くの情報を収集するのにもってこいの場所です。

インタビュー・編集: Lina Kamada

     

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