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「香港の通貨問題」香港ビットコイン協会 共同創設者のレオ・ウィーズ氏へインタビュー ②

レオ・ウィーズ氏(Leo Weese)香港Bitcoin協会の共同創設者であり、香港の暗号通貨コミュニティにおいて長く活動してきました。2011年にBitcoinの仕組みに魅了され、現在は情報セキュリティ業界で働く傍らBitcoinのイベントを運営されています。是非、ご覧ください。

レオ・ウィーズ氏

インタビュー日 : 2020年8月31日

香港の曖昧な法規制

香港では、例えば円からドルへの両替を行う場合などに、送金業務のライセンスが必要となります。こういった通貨の交換業務を行う際に必要となる金融業務ライセンスですが、実は制限が緩いため比較的簡単に取得することができます。

ビジネスに対して規制が存在しているということは、そのビジネスにおいて期待されている役割が明確にあるということです。Bitcoinビジネスもそういうビジネスで、規制があって期待される役割があるはずです。

ところが香港のライセンス部門及び関税部門では、暗号通貨ビジネスとそれ以外の通常のビジネスは別物だとしています。暗号通貨ビジネスとそれ以外のビジネスは別々に管理されなければならず、この異なる2種類のビジネスを平行して行ってはならない、ということが非常に明確にされました。

そのため、米ドルと香港ドルの交換業務のための既存ライセンスを保有していると、Bitcoinの交換業務をすることは認められません。香港の立法機関は、まだ暗号通貨ビジネスの扱い方を規定する新しい法律や規制を可決していません。したがって各種問題が起こることはたやすく予想できました。

2016年頃に香港政府や警察など各種関係機関は、暗号通貨ビジネスをめぐる状況について、当面の間現状が維持されるとしました。

暗号通貨ビジネスのためのライセンスが制定されているはずなのですが、まだ作られていません。暗号通貨ビジネスのライセンスは、ついに政府から出てくることも、検討されることもありませんでした。

香港でBitcoin取引所を運営することは、法的な観点から見てもあまり問題がないので、実は理論的に言うと簡単です。しかし現実的には、取引してくれる銀行を探す必要があり、そして関係をもってくれるような銀行を見つけ出すことは不可能に近い難しさです。

銀行はBitcoinの法的な立ち位置が分からないため関係を築こうとしません。銀行にとっては、Bitcoinが合法であるということだけでは不十分であり、Bitcoinに関する法律上の義務についてもっと詳細に知る必要があるのです。

香港におけるライセンス問題

さらに香港にはライセンスの問題もあります。前にも触れたように、既存の金融業務ライセンスを持っていたり、銀行のライセンスを持っていたりすると、Bitcoinを扱えません。法律上、平行して2種類の業務を行うことができないのです。

しかも暗号通貨関連の取引所は、取引してくれる銀行を見つけることができません。銀行が取引してくれない取引所は、Tetherを利用する取引所や、暗号通貨の中間取引を行う取引所、デリバティブ取引ができる取引所なども含みます。

もちろんデリバティブ事業も、オプションや証券と同じように、認可を受けた事業なので一概には言えません。セキュリティトークンやICOを扱っている場合は、これらは証券とはみなされませんので、取引をすることはできません。

他国のライセンスを取得する香港企業

このように、香港では法律面で様々な懸念材料あるにもかかわらず、数社の暗号通貨ビジネスがかなりのところまで成長しているのは驚くべきことです。ただこれらの会社も、自分が香港企業だと公に言うことができません。

というのも、こういった企業は業務のために、香港のライセンスではなく他の国でライセンスを取得していることが多く、したがってより明確な法的枠組みに沿っています。また勤めているエンジニアやトレーダーたちも「他国で働いています」と言います。

暗号通貨界隈におけるやりがい

2020年はバーチャルイベントを中心に開催しましたので、1年前とはまた違った色の参加者が集いました。また現在では、一部の愛好家がより政治的に敏感な側面を見せています。

価格の上昇は、この界隈にいることのやりがいになります。それから、人によって求めるものは違いますが、暗号通貨やブロックチェーンの界隈では、様々なものが受け入れられやすい環境ですので、これもまたやりがいにつながりると思います。

Bitcoinの話は、特に金融業界ではまだ違法であるかのように思われている部分もありますし、詐欺のイメージがあって、カンファレンスでもあまり歓迎されません。しかし最近では、暗号通貨は全般的に高額のお金を生んでいるのも事実です。

香港Bitcoin協会のトップを辞めた理由

最も重要なのはコミュニティの拡大です。Bitcoin協会のイメージが、私という一個人だけになってしまうのは、長期的にみると問題です。多くの有能な人がいるので、そういった人たちが活躍するべきです。

人々はみんな自分のアイデアを持っているので、そういったアイデアは実行に移されるべきです。私1人だけだとコミュニティは決まった1つの方向にしか発展しないでしょう。しかし、様々なアイデアをもつ人が順々にリーダーとなれば、コミュニティは様々な方向へ成長、拡大することができます。

我々は現在も定期的にミートアップを行っています。そしてBitcoinを客観視して、その機能について中立的な立場から人々に教えられるような、正式な教育を目指しています。

現在のディレクターはブライアン・チャン氏ですが、彼は新しくインタビューのシリーズを始めました。ポッドキャストではない方式です。彼はオンラインコミュニティと関わるための新しい方法を試しているのです。

Bitcoinだけでお金を稼ぐ難しさ

Bitcoinはただのツールなので、Bitcoinだけでお金を稼ぐことが難しい時代になりました。したがってBitcoin企業は経済的な困難に直面しています。しかし私の専門であるオンラインプライバシーの分野と組み合わさると、状況は少し違ってきます。

オンラインプライバシーは、コンテンツマーケティングの観点から見るとより人々の興味を引く分野であり、それについて知りたいと思っている人が多くいます。私はオンラインプライバシーの分野の中でも、特に情報セキュリティのオペレーターが専門です。

情報セキュリティは多くの人に直接関係があるため、関心度も高いです。特に暗号通貨が登場してBitcoinが大人気になって以来、情報セキュリティは多くの人に注目されるようになりました。明確な技術として関心を集めるようになったのです。そして現在、情報セキュリティを活用した、Bitcoinを失わない方法の教育に関する需要は間違いなく高まっています。

課題点は世界共通

Bitcoinに関して、香港には多くの課題があります。中でも問題なのは、完全にオンライン化された暗号通貨の世界と、香港はどのようにして関係性を築いていくべきかという部分です。

近頃の人気なビジネスの特徴は、場所を選ばないことです。そんな中考えていかなければならないのは、香港でビジネスをしたいと思う強い動機となるのは何なのか、ということです。

仮に香港でビジネスをしたいと思えるような動機があったとしても、次に、ではそのビジネスは、香港の地域社会にとってどのような利益があるのか、という部分が問題になってきます。

こういった問題は今年に入ってからかなり目立つようになってきましたし、香港だけではなく、世界各地に共通する課題です。例えばカリフォルニアやニューヨークといった所得税収入に依存した地域では、市の収入が減少しています。リモートでも働けるのなら、カリフォルニアという場所にいる必要があるのか、と人々が疑問に思いはじめたのです。

香港の通貨問題

香港の抱える通貨問題は、金準備の問題よりも、通貨ペッグ制度の問題です。香港ドルは米ドルにペッグされていますが、非常に面白い特徴は、香港ドルは完全に米ドルに裏付けされているのということです。

この裏付け制度は、約7.75~7.85香港ドルに対して1米ドルです。これは通貨ペッグの歴史の中でも異例のことです。裏付けがされていることにより、ペッグ制度は消えることがありません。それでも政治的な不安要素はあります。

例えば、そもそもペッグ制度を続けることは望ましいのか、ペッグ制度を変えた方がいいような政治的変化が起こるかもしれない、といった不安要素が常にあります。このような不安が現実となってしまった時、それは地域経済に一体どのような影響を与えるのでしょうか。

香港経済は今のところ、おそらく中国の経済よりも欧米経済と連動しています。しかし、この10年で中国が急成長したことで、国際市場への依存度もかなり変わってきました。

多くの香港企業は現在、収入のかなりの割合を中国から得ています。ですので、香港ドルを米ドルではなく人民元にペッグしたほうが、香港企業にとっては理想的なのかもしれません。

米ドルの価値が上下すると香港ドルも直接影響を受けます。もしも香港政府が中国経済との一体化を図るために、香港ドルを欧米経済から引き離そうとしたらどうでしょう。香港ドルを人民元にペッグして、香港経済を中国経済に統合していくためのツールとして活用できるかもしれません。

香港のこういった不確実性のすべてが、香港に拠点を置くビジネスにとって大きな問題点となっています。今のところは現状維持すべきという理論が有力ではあるものの、最近になってからは新たな論点も色々と登場してきています。

例えば米ドルとの通貨ペッグを継続するか否かという議論は、2年前では考えられなかった論点です。しかし現在は多くのことが議論されているので、今後の状況は変化していくでしょう。

インタビュー・編集: Lina Kamada

翻訳: Nen Nishihara

     

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