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「ノルウェーの暗号通貨コミュニティ」トールビョーン・ブル・イェンセン氏(全インタビュー記事)

ノルウェーの暗号通貨コミュニティにおいて長く活動されているトールビョーン・ブル・イェンセン氏(Torbjorn Bull Jenssen)にインタビューさせていただきました。オスロ大学出身のエコノミストであるイェンセン氏は、Bitcoinについての論文を執筆し、ノルウェーの首相、中央銀行、財務省などの機関で助言を行ってきました。経済学的な観点から見たBitcoinや、ノルウェーの暗号通貨コミュニティなどについて語っていただきました。ぜひご覧ください。 

トールビョーン・ブル・イェンセン氏

インタビュー日 : 2020年8月13日

トールビョーン・ブル・イェンセン氏(全インタビュー記事)

Bitcoinという新しい形のお金の登場  

私はオスロ大学出身のエコノミストです。オスロ大学の経済学はかなり保守的で正統派でした。もっと何かあるはずだ、と思っていろいろ探してしていたら、ロンドンのSOAS大学という場所を見つけました。

ロンドンのSOASでは、主流の経済学だけを教えるのではなく、様々な思想も教えていて、それがとても興味深かったです。結局、4年目まるまるSOASで交換留学生として学ぶことになりました。何人かの教授が、社会におけるお金の役割について、批判的に考える方法を教えてくれました。 

それはたとえば、お金に今の立場を与えているのは何か、なぜお金は特別なのか、お金は権力構造とどのように相互作用しているのか、といったようなことで、つまり、社会現象としてのお金をどのように理解し、分析することができるのか、といったことについて考えました。 

こういった考え方は私にとって新しいものばかりでした。私はオスロ大学で貨幣経済学を学びましたが、主流の経済学研究においてはお金は存在せず、金利だけが存在します。

お金は、いわゆる「実体経済」を覆うベールのようなものとして機能していると考えられ、機械にさす油のようなものとしてしか見られていません。必ず適切な量でなければならず、少なすぎても多すぎても機能しません。

しかし実際には、お金や信用といった金融構造の複雑性が重要であり、お金は経済において決して中立的なものではありません。こういったアイデアが本当に魅力的で、私はとりつかれてしまい、お金と信用に関する様々な異なる学派の理論を読み漁りました。 

同じ頃、ある友人が私にBitcoinの投資をすすめてきました。その時は詐欺と違法行為のツールの中間のようなものにしか見えなかったので、断りましたが、それでも興味をそそられました。 

そこで、Bitcoinについてもう少し詳しく調べてみると、素晴らしいケーススタディになり得ることに気がつきました。お金について分析したり書いたりする人の多くは、時間をさかのぼって考古学的な調査などをします。新しい形のお金はめったに出てこないため、お金がどのようにして生まれたのかを過去を遡ることで理解しようとします。

しかし、Bitcoinでは、リアルタイムで研究をすることができます。Bitcoinは明らかに、新しいお金の形であると認識されていて、使用価値がなくても交換価値があることが明らかになっています。

私はすっかり夢中になりました。これこそが私の調査するべきケーススタディでした。私はBitcoinについて論文を作成し、異なる思想の流派を応用して、「お金とは何か」という文脈の中でBitcoinとは何かということにフォーカスしました。私はこうしてBitcoinの沼にはまり、未だ抜け出せずにいるのです。

Bitcoinに出会えて本当に幸運だったと思います。 私は2012年から2013年にBitcoinについて読み始めましたが、その時はすでに波に乗り遅れたように感じていました。多くの出来事があり、世の中は非常に速く動いていました。今思えば技術の発展が急激に加速したから乗り遅れたと感じていただけで、実際にはかなり早い段階での参加だったと思います。

早期に参加できた利点は、誤解にあふれた質の悪い記事があまり出回っていなかったということです。私は技術的な内容や、より深く掘り下げる内容の、硬い記事や議論を読むことを余儀なくされました。おかげでこのテクノロジーを理解するための基礎を身につけました。

年月が経つにつれ、様々なアルトコインやエンタープライズ・ブロックチェーンに関する色々な誇大された宣伝が出てきました。このような宣伝を観察し、理解を深めることが、暗号通貨の世界の仕組みについて知ることに役立ちました。

サトシ・ナカモトのホワイトペーパーについて

サトシ・ナカモトのホワイトペーパーを読みましたが、たったの8ページでした。経済学を勉強したことがある人には、かなりわかりやすい論文だと思います。

また、暗号通貨で登場する数学は、高度な経済学にでてくるような数学とほぼ同じようなものです。私はプログラマーではありませんが、自然と暗号通貨の経済システムの構造を理解して分析できるようになりました。

暗号通貨の経済システムは主に、経済的な公理、暗号化ツール、ネットワーク効果、発展、出現を中心に構築されています。これらの要素をより大きな構造と組み合わせるのですが、これは一部のエコノミストたちと同じような考え方であり、私が勉強してきたようなことに近いと感じました。 

ノルウェーに戻ってきてからのキャリアについて 

2013年の大々的に騒がれていた時期に、なんとなく、Bitcoinに関する新聞記事を書くことになりました。あるジャーナリストから、Bitcoinに関する記事を書いてほしいと依頼されたオスロ大学の教授が、博士号を持った学生達に彼らを紹介し、そこで私に連絡がきました。

当時Bitcoinについて知っている教授は一人もいなくて私がBitcoinについて書くことになり、後にテレビの生放送にも招かれ討論会に参加しました。そこから私は割とすぐにBitcoinの専門家として知られるようになりました。ラジオ、新聞、企業が私に連絡をとってきました。

しかし、2014年にBitcoinのバブルが崩壊すると非常に静かになりました。私はひたすら研究を続けましたが、コンサルタント会社で正式に働き始めました。この職を選んだのは研究中心の業務内容がよかったのと、ノルウェーではBitcoin関連の求人がなかったからです。

しかし、2016から2017年にかけてBitocoinへ関心と誇大宣伝が、威力を増して戻ってきました。私はBitcoinに関して有料コンサルを実施したり、ワークショップやプレゼンテーションを行うようになったため、Bitcoinを仕事にできるようになりました。

結局のところ皆Bitocoinについて聞きたいと思っていたのです。私は2016年にノルウェーの首相とも会い、Bitcoinについて会議をしましたし、また銀行、労働組合、学生団体、FCI、テクノロジー企業など、あらゆる分野の人たちとも話しました。Bitcoinについての話は需要があり、そして私はBitcoinについて語るのがとても刺激的で好きでした。

ノルウェーの暗号通貨コミュニティの発展について

2011年、ノルウェーの暗号通貨コミュニティの伝説的存在であるStrule Sundeは、Localbitcoinsと自身のホームページを使ってBitcoinを販売し始め、IRCのチャットで購入者とやりとりをしました。IRCは昔からあるチャットアプリです。

彼はそれ以来、ノルウェークローネとBTCの交換しながら、ノルウェーにおけるBitcoinの流動性の確保に貢献してきましたが、Bitcoinを扱ったという理由だけで口座を閉鎖されたとして、北欧最大の銀行であるノルデア銀行を訴えて大規模な裁判を起こしています。

彼は多くの人がBitcoinをはじめる手助けをしたのです。多くの技術マニアの人たちも、RedditなどでBitcoinのことを読むとすぐにマイニングを始めました。多くの人はGPU、あるいは普通のCPUを使って、マイニング戦略を試していました。

Andreas Brekkenという人物によって創立された「Justcoin」という暗号通貨取引所がありました。この取引所は、銀行に口座を閉鎖されるという問題が発生する前に、急速に成長しました。銀行は暗号通貨が好ましく思っていないため、口座を閉鎖することにより、暗号通貨を取り扱う人を締め出しています。

ノルウェーの暗号通貨コミュニティは、急速に進化する活発な領域です。一つ面白かったのは、月日が経ち、Bitcoinがフォークを開始すると、はじめBitcoinを使っていた人のうち多くが、BitcoinCashに移行したことです。

その後Bitcoin SVに乗り換えた人もいます。このように、コミュニティもどんどんフォークしていったのです。また2017年以降は、より幅広いBitcoinコミュニティや暗号通貨コミュニティに新たに参加する人も多くなってきました。長い間ずっと活発なコミュニティなのです。

私はオスロに住んでいるので、ノルウェーの他の場所よりも、ここでコミュニティをつくる方が簡単です。ただ、他の都市にも小規模な暗号通貨コミュニティがあることは知っています。また、コミュニティの中心から遠隔地に住んでいるために国際的なコミュニティに参加する人もたくさんいます。

国外のコミュニティに参加するノルウェー人

ノルウェー人にとって英語は障壁になりません。映画や、若者がインターネットでみているコンテンツも、ほぼ全て英語です。誰もがスマートフォンをもっていて無制限のデータを利用できます。

したがって、インターネットを利用して簡単に様々なコミュニティと交流できます。小国なのでより一層外部のコミュニティとの交流を余儀なくされているのではないでしょうか。

ノルウェーの人々にとっての暗号通貨の世界の魅力とは

私にとっての魅力は、暗号通貨は全く新しいパラダイムで、デジタル空間における交流を提供できるという可能性を秘めている点です。

Bitcoinは根本的な0から1へのイノベーションです。Bitcoin以前は、何か仲介者がいなければインターネットを通して価値を転送したり管理したりすることはできませんでした。

支払いや、デジタルIDの管理やコンテンツへのアクセスにおいてもそうでした。インターネットはオープンで自由な情報流通が出来るものの、何かしらの仲介者がいなければ機能せず、中央集権化されていたのです。

しかし、サトシ・ナカモトがホワイトペーパーを発表した日から、何の仲介もなしに、価値を管理することが可能になりました。これはパラダイムシフトであり、今も絶えず進化し続けていて、私を魅了しているものです。 

人によって違う魅力があると思います。安価な電気と自然冷却が目的でたくさんマイニングをする人もいれば、学術的に、そして技術的にこれらの技術の最前線を目指している人もいるし、ギャンブラーもいます。

それから、暗号通貨の技術を、世界をよりよくしたり、より効率的な送金をしたり、金融へのアクセスを民主化したりするために使いたいと思っている人たちもいます。

ノルウェー国内をみると特に問題がなさそうに見える部分でも、世界はもっと広大なので、ノルウェー以外の国の多くの人たちの情勢が、私たちにも影響を及ぼすということを考えて、もっと世界を気にかけなければいけません。

暗号通貨の技術は非常に自由主義的で、この技術があれば自分のお金とデジタルライフを完全にコントロールできます。これがこの技術の将来性です。

しかし、私にとってはノルウェーの従来の金融システムで十分です。ただ、支払いにBitcoinを使ったり、ソーラーパネルに投資したり、従来の金融システムでは機能しないほど小口の金額のリースを南アフリカから毎月したりしていました。

でもこれらは自分が本当に必要としているものではありませんでした。ただ単にBitcoinの可能性を探りたかったのです。私の興味は自分の利益ではなく、自分の理解を超えているものを理解したいということです。

この技術がこれからどのように進化していくのか、どのような可能性を秘めていてどのような課題があるのか、知りたいのです。

ノルウェーの暗号通貨の法規制について

ノルウェーの法規制に関しては、ヨーロッパ全体と同じです。取引所は自国の金融を管理する当局にウォレットを登録する必要があります。登録と規制に関するフレームワークの作成は、各国が独自にできるように任されています。

例えば取引所を開設してノルウェーのユーザーをターゲットにしたい場合、ノルウェーの金融当局に登録をしなければなりません。ドイツのユーザーをターゲットにしたい場合は、ドイツの金融当局BaFinに登録しなければなりません。

同様に、スウェーデンの顧客をターゲットにしたい場合は、スウェーデンの金融当局に登録しなければなりません。現地の規制を担当する当局の規制に従い、承認を得ることで、銀行が積極的に協力してくれるようになります。

ノルウェーの金融庁は銀行に対して、金融庁に登録されている企業に銀行口座を開設してほしいとの声明を出しています。つまり暗号通貨企業にとっては、より金融サービスを利用しやすくなったということです。

企業のためのBitcoinを使ったソリューション

我々が目指しているのは、Bitcoinを活用したクロスボーダー取引を通して、企業を支援することです。ノルウェーは小さなオープンエコノミーで、世界中に対して輸出入を行っています。

ノルウェーの企業は世界中から支払いを受けていますが、様々な分野の企業で、Bitcoinやステーブルコインを利用できないかという問い合わせが増えています。しかしほとんどの企業はずっと法定通貨で取引をしてきたので、それらの問い合わせへの対処法が分からないのです。

我々が開発しているのは、このような企業向けのソリューションです。Bitcoinの専門家でなくても、Bitcoinによる支払いを受け入れ、そして最終的に銀行にある従来の通貨を得ることができます。支払いがより速く、より安くなり、さらに銀行を利用する場合のように、為替レートが原因で台無しになることもありません。

これは中小企業にとって特に重要です。両替を銀行に頼ると、支払いで得た金額の1%ほどのコストが経費だけでかかってしまいます。Bitcoinを活用して我々の提供するソリューションを使うだけで、こういったコストを削減することができるのです。

Arcane Cryptoのはじまり

暗号通貨は2018年春、価格こそ暴落していましたが、インフラと技術は目覚ましいスピードで進歩を遂げていました。マイクロソフトのような大手企業の参入もあり、価格に関係なく進化し続けていて、その発展の様子は非常に強気でした。

当時、暗号通貨界隈について長らく調査している2人の有名なノルウェーの投資家と接触しました。2人は、台頭してきている新産業に対して、確かな影響力を持った会社を立ち上げたいと考えていました。

過大な宣伝が多すぎたため、2017年は市場に参入したくないと2人の投資家は思っていました。彼らは2018年春がベストタイミングだと考えていました。私も完全に同意見でした。

何度かミーティングを行った後に、我々はArcane Cryptoという会社をはじめました。Bitcoinおよびオープンブロックチェーンの活用に向け、必要なインフラを開発して提供することが目的です。

より高速で安価なクロスボーダー決済の追求

我々は現在、いくつかの異なるビジネスラインのポートフォリオを構築しています。一つだけに賭けるのではなく、相乗効果と統合によるメリットを追求しながら、ポートフォリオをより強化していくためです。

他の業界ではよく知られているビジネスモデルを参考にしたのですが、それらのビジネスモデルは暗号通貨の分野にも応用することができました。

非常に速いスピードで動き続ける業界において我々が必要としたのは5年間がかりの計画などではありません。より迅速にそして効果的に結果をもたらしてくれる、市場に合った性質を求めていました。

我々は、マーケットメーカー、取引所、インターバンク市場、ヘッジファンド、決済テクノロジー企業、そして調査・コンテンツ作成事業など、6つの事業を含むビジネスのポートフォリオを構築しました。我々の目的は、これらの事業を掛け合わせることで、クロスボーダー決済を追求していくことです。

これによって従来の決済レールでは実現できなかった、より高速で安価なトランザクションを提供することができます。具体的には、Bitcoinとライトニングネットワークを、フィアット建てのトランザクションの決済レールとして活用することで実現できます。

需要をうまくマッチさせる役割

取引所のスムーズな運営には、マーケットメーカーの存在が不可欠です。そこで、助けてくれるマーケットメーカーを探すことができるのですが、外部の関係者がいることで、価格をコントロールすることができなくなります。

外部でなく同じ屋根の下でビジネスをすれば、共同作業がはるかに容易になるのです。決済ソリューションに関しても、これと同じことが言えます。決済ソリューションからのフローは、ヘッジが必要となります。そのフローの一部は、取引所でBitcoinを購入したいという需要と一致する可能性があります。

Arcane Cryptoは、他の企業にコンタクトをとり、投資をしたり、パートナーシップを築いたりすることができます。我々が作成するコンテンツは、暗号通貨界隈でなにが起こっているのかについて知らせてくれると同時に、Arcan Cryptoの存在感を高めるものになっているからです。

ストックホルムの証券取引所への上場

現在我々は、ストックホルムにあるナスダック傘下の証券取引所、ファーストノースに Arcane Crypto を上場させようとしています。リバーステイクオーバー(既に上場済の企業を逆買収すること)による上場で、上場企業になる予定です。我々は指揮能力と牽引力を兼ね備えていますので、上場は現在のビジネスラインをより加速するためです。

現在すでに、ポートフォリオのほとんどのビジネスから収入を生むことができています。これらのビジネスモデルは、規模の拡大に対応できるので、後は拡大する機会を掴む必要があります。Arcane Cryptoが上場することで、傘下にある企業は、知名度と信頼という恩恵受けることができます。

暗号通貨界隈は非常に分裂していて、まとまりがないです。したがって今まで通り継続して、エコシステムアプローチをとります。つまり、面白いアイデアを持つ新興企業と、テクノロジーの最先端を行く大企業、この両方に投資をします。

ノルウェーでなくスウェーデンの証券取引所に上場する理由スウェーデンで上場するのは、Arcane Cryptoはすでに多国籍企業となっているからです。我々はノルウェーの会社ですが、オスロの他にロンドンとストックホルムにもオフィスがあります。

リテール取引所のTrijo、そしてArcan AssetsのCIOであるEric Wallはストックホルムに拠点を置いています。スウェーデンの市場は規模が大きく流動性があります。

テック企業は、オスロの証券取引所でも問題ないかと思います。しかしやはり、漁業や石油産業での出来事に注目が集まってしまいます。一方スウェーデンでは、テクノロジーとフィンテックにより重点を置いています。

インタビュー・編集: Lina Kamada

翻訳: Nen Nishihara

     

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