PH

「Ethereumのアップデートに対するマイナーたちによる抗争」アイゼイヤ・マッコール氏 分析記事

今年の8月に行われたEthereumの大型アップデート「ロンドン」ことEIP-1559により、Ethereumは高騰するトランザクション手数料(ガス代)のburn機能を手に入れました。これはEthereumのネットワーク全体に利益をもたらすアップデートではあるものの、全ての人が大歓迎しているというわけではありません。今回はアップデートに対するマイナーたちの姿勢をとりあげつつ、Ethereumをめぐる様々な問題点を見ていきます。ぜひご覧ください。

本記事は、 アイゼイヤ・マッコール氏(Isaiah McCall)の「Right Now We’re on the Brink of Ethereum Civil War」の内容を日本語へ翻訳し掲載したものです。原文の英語版はこちらをご覧ください。

Right Now We’re on the Brink of Ethereum Civil War

Ethereumに大きな影響をもたらす大型アップデート「ロンドン」

夏前のEthereumの史上最高値更新は余興に過ぎず、この現象は今夏の大型アップデートのための前座でしかありません。7月(実際に行われたのは8月)のEIP-1559、またの名を「ロンドン」ハードフォークという大型アップデートは、Ethereumに大々的な影響を与えるものです。

もっと具体的に言うと、このハードフォークによりEthereumが燃やされる(burnされる)ようになり、世界の供給量が大幅に減少します。つまり大型アップデート「ロンドン」はまさにEthereumの通貨収縮なのです。

このことについて書こうとするとつい前のめりになってしまうので、いったん深呼吸をする必要があるかもしれません。今回のアップデートでは「Block elasticity(ブロックの伸縮性)」という概念が導入されました。

これにより近い将来、ブロックチェーン上で発生したトランザクションの数に応じて、ブロックが拡大、または縮小するようになります。こうしてEthereumはトランザクション手数料(ガス代)のburn機能を獲得し、最強の暗号資産として確固たる地位を築こうとしています。

Ethereumの生みの親であるヴィタリック・ブテリン氏は以下のようの述べています。  

もしもEthereumを使用したいという需要が十分高ければ、実際には作られるETHよりも破壊されるETHの方が多くなるはずです。だから私は時々こういうジョークを言うんです。「もしも供給量が固定されているBitcoinが『健全な通貨(sound money』なのであれば、供給量が減る通貨は一体どうなるんだろうか。soundを超えた『ultrasound money』(超音速通貨)』にでもなれるのか?」ってね。

誰もが歓迎しているわけではない

ハードフォーク「ロンドン」は、Ethereum 2.0への長い道のりの中の最初の大きな一歩となるアップグレードです。しかし誰もがこのアップデートを歓迎しているわけではありません。

今回のアップデートにより、Ethereumのマイナーたちは多額の資金を失います。通常、トランザクション手数料というのはマイナーに行くお金です。ところが今回のアップデートでは、そのトランザクション手数料がburnされるのです。

しかもこれはEthereumのマイニングエコシステムの大改革の序章にしか過ぎません。Ethereum2.0では、ブロックチェーン全体がPoS(プルーフオブステーク)に移行します。つまりマイニングが一変してしまうのです。

本来であれば「ロンドン」ことEIP-1559を皆で大歓迎したいところですが、マイナーたちはそれとは逆のアクションを自分たちの手で起こそうとしています。彼らの一部の間では、Ethereumチェーンに51%攻撃をしかける可能性について議論されているのです。

そもそも今までのマイニングとは

この問題の本質を理解するためには、Ethereumにおいてはもうすぐ廃止されるPoW(プループオブワーク)についての簡単な知識が必要になります。

まず、Ethereumに関わる人たちの中で最も大きな力を持っているのはマイナーでしょう。マイナーの持つ力は間違いなく開発者よりも強いでしょう。マイニングという行為は、コインを生み出しているわけではありません。むしろ「トランザクションを検証する手段」がマイニングになります。

ここでわかりやすくするために、たとえばですが友人のグループの間で使える共有の台帳というのを想像してみてください。その共有台帳というのは、ファミレスで行った割り勘アプリによる支払いを管理するために使えるようなものです。

その台帳の更新を担当するのが、ブロックチェーンシステムで「マイナー」と呼ばれる人たちです。複数のマイナーがいれば互いに責任を負い合うことができます。この責任を負ってくれるマイナーたちに、対価として一部のお金が支払われるのです。

実際のEthereumの台帳は、友人のグループにとどまらず何百万人もの人々の間で使用されているものです。その上で構築できるビジネス規模は数十億ドルにものぼり、Crypto Kittiesといったものを販売できるマーケットプレイスという仕組みもあります。これがEthereumの大体の全貌です。

マイニングについて深堀る

マイニングについてよく誤解されているのは、エネルギーを浪費しているということです。たとえばビル・ゲイツといった評論家たちはよく、Ethereumのマイニングがエネルギーを大量に消費していると批判します。

これは確かに一理あるのですが、彼らは、マイニングの本質を理解していません。マイニングの本質は難解な数学的問題を解決するということではありません。書籍「21 Lessons: What I’ve Learned from Falling Down the Bitcoin Rabbit Hole」の著者であるGigi氏は、著書の中で以下のように述べています。

Bitcoinの本質は数学的計算ではありません。むしろ、物事の順序について独立して合意することです。(中略)累積して最も多くの作業を行ったチェーンが真であるということに、誰もが事前に同意しているのです。

PoWのシステムにおいては、より多くの計算エネルギーを提供するほどブロックチェーン上での覇権が大きくなります。そうすると、より多くのEthereumトークンを獲得することができます。マイナーたちがを計算能力を共同出資して蓄えようとする理由もここにあります。

ところがEthereumの新しいマイニングのPoSはPoWとは異なり、ステーキングしているトークンの数が多ければ多いほどブロックチェーン上で大きな力を持つことが出来るというシステムです。トランザクション手数料に関しても無作為に受け取るだけとなり、ブロック報酬はありません。

EIP-1559に対抗しようとするマイナーたち

トランザクション手数料というのはEthereumホルダーの保有しているEthereumに対して7~9%の年収率に相当します。これはいわば暗号化された貯蓄口座のような役割を持っていると言えます。つまり、私のようなマイナーでない人々にとっては素晴らしいものです。ところがEthereumマイナーにとっては、まるで時限爆弾のようなものとなってしまっているのです。

3月に行われたEthereumのマイニングは、産業規模にして13.8億ドルでした。ここまで巨大な産業になれた大きな要因としては、高いガス料金です。EIP-1559(ロンドン)は、マイナーの生活に影響を及ぼすものであるがゆえに、何とか戦おうとするマイナーもいるというわけです。

Ethereumの小規模マイニングプールの1つであるFlexpoolは、ロンドンのアップデート案を阻止するためのウェブサイトを立ち上げました。そしてこれはSparkpoolやEthertime(いずれもマイニングパワーの20%以上を所有)といった他のより大きいマイニングプールからも支持を得ています。

これらのことを踏まえると、Ethereumの全マイニングパワーの約60%がEIP-1559に対抗しているという現状があります。51%のパワーさえあれば、ネットワークを破壊することができます。もしも対抗しているパワーが協力して攻撃をしかけるようなことがあれば、Ethereumを不安定にして不正なトランザクションを引き起こす可能性があるということです。

現に、攻撃をほのめかすようなエイプリルフールのジョークさえありました。しかしもはや笑える冗談ではありません。

もしもマイナーの視点に立って現状を確認してみれば、彼らの言い分も理解できるでしょう。ところが、EIP-1559の6人の立案者のうちの1人であるAbdelhamid Bakhta氏は「マイナーたちはこのような事態が来るということをあらかじめ知っていたはずである」と指摘しています。

同氏は以下のように述べています「彼らはこの提案を知らなかったわけではありません。このアイデアについては2018年の7月にヴィタリック氏がある記事の中で紹介しています。」

ネットワーク攻撃のメカニズム

ネットワーク攻撃のメカニズムについてはYoutuberの「Bitcoin for Beginners」がまとめてくれていますので、以下にその内容をご紹介したいと思います。

・ネットワークの破壊
これは理論的には可能ではありますが、可能性は極めて低いです。なぜならマイナーはEthereumでお金を稼いでいるからです。そのネットワークが組織的な攻撃を受けるとEthereumの価値が下がり、その過程でマイナーが潰されてしまいます。それでは誰も得をしません。誰も生存者のいない戦の跡となってしまいます。したがってこんなことをしようと思う人は誰もいません。

・Ethereum Classic 2.0
たとえばEthereum Classicといったようなフォークされたブロックチェーンを、マイナーがサポートし続けるということも可能です。しかしここでの問題点は、5年前などに比べたらEthereumのブロックチェーンは何倍も複雑になっているということです。DeFiとNFTだけでも数十億規模の産業です。フォークすることを考えたら、複雑な個別データをすべて移植する必要があります。そこまでしようというのは、完全に夢物語です。

・新しいチェーンに攻撃を仕掛けて操作する
マイナーが新しくできたばかりチェーンに攻撃をしかけるという可能性も考えられます。いわばトロイの木馬(コンピュータの不正プログラムの一種)のような攻撃シナリオです。とはいえ、理論上このようなことができるのはブロックが半分以下しか埋まっていない場合に限られます。したがってマイナー側がかなりの調整を行う必要がありますが、これが今のところの一番現実な計画ではあります。

非中央集権的なシステムの面白さ

マイナーにとって、ネットワークへの攻撃に有効な選択肢は決して多くはありません。とはいえ、個人的にはまだ懸念が残るところではあります。

10億ドル規模の産業を相手に戦争を仕掛けるとなると、そう簡単にはいきません。マイナーとEthereumの開発者の間には、根本的な緊張関係があります。これもまたすごい話ではあるのですが、あるマイニング会社はEthereum用の新しいASIC(Application Specific Circuit)マイニング機を発表しました。

一体これは何が起こっているのでしょうか。Ethereumから最後の一滴の蜜をしぼりとろうとしているのでしょうか、あるいはもっと不吉なものなのでしょうか。非中央集権的なシステムの面白いところは、本当のところは誰にもわからないというところです。

Ethereumの「試練の時代」

マイナーには同情の余地があるとはいえ、今回のアップデートは今後数年間にわたってネットワーク全体に利益をもたらすものです。Ethereum2.0が稼働すると、1秒間に15トランザクションから10万トランザクションにまでスケールアップするのです。EIP-1559は、その現実への第一歩です。

実はすべてを解決する可能性のあるハードフォークへの提案はもう一つあります。それはEIP-3368という提案で、これは一旦ブロック報酬を3ETHに引き上げ(その後四半期ごとに0.25ETHずつ引き下げ)2年間かけて最終的に1ETHにしようというものです。しかしこの提案についてはまだ審査が完了していません。

このように様々なことが起こっているEthereumにとっての「試練の時代」において、創始者であるヴィタリック氏は冷静なアドバイスを残してくれています。

「たとえ去って行くマイナーいても、新しいマイナーが来ればいい。」

大変ありがたい言葉です。

最後に

私は子供の頃からファイナンシャル・アドバイザーになることが夢でした。しかし残念ながらその夢は実現しませんでしたので、私はファイナンシャル・アドバイザーではありません。本記事に掲載されているいかなる情報も、投資アドバイスとして解釈されるべき内容ではありません。

最後になりましたが、読者の皆様におかれましてはインターネット上にいる不特定多数の人の話を鵜呑みにするのではなく、ぜひご自分のリサーチを行うということをしてください。

翻訳: Nen Nishihara

     

【免責事項】

本ウェブサイトに掲載される記事は、情報提供を目的としたものであり、暗号資産取引の勧誘を目的としたものではありません。また、本記事は執筆者の個人的見解であり、BTCボックス株式会社の公式見解を示すものではございません。