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ウクライナ危機がBitcoinとクリプト市場に及ぼす影響とは : サイモン・チャンドラー氏

ロシアとウクライナをめぐる緊張は株式市場や暗号通貨市場含む金融市場にどれほど影響を及ぼしているのでしょうか。直近の下げ相場もウクライナ危機による地政学リスクから来ているのでしょうか。今回の記事では幅広いアナリストたちへの取材を元にして、ウクライナ危機がクリプト市場に及ぼしている影響について探ります。ぜひご覧下さい。

本記事はCryptonewsに掲載されたサイモン・チャンドラー氏(Simon Chandler)の「Here’s How the Ukraine Crisis Might Impact Bitcoin and the Crypto Market」の内容を日本語へ翻訳し掲載したものです。原文の英語版はこちらをご覧ください。

記事要点

  • ここ最近の景気後退はロシアとウクライナの間の緊張以外の要因が大きく影響している
  • アナリストたちは直接的な武力衝突が発生した場合は間違いなく影響が出ると見ている
  • 大きな影響が出る可能性はあるものの、ほとんどは比較的短期的なものだと考えられる
  • 武力衝突の脅威はあるもののBTC保有者が恐れる必要はないと述べるアナリストもいる 

迫るウクライナ危機

危機は今まさに差し迫っています。私がこの記事を執筆している間にもロシアはウクライナとの国境で軍事演習を行っており、アメリカは東欧での戦争勃発に備え、約8500人もの兵士を派兵して警備体制を敷いています。

NATO加盟をめぐるロシアとウクライナの緊張はここ最近で最高潮に達しました。両国の代表が会談を行っていますが、状況は依然として不透明です。

世界はこの数十年の間に互いにものすごく密接に結びつくようになりました。したがって現在の危機がもたらしている不透明性というのは、暗号資産含む金融市場全体にも波及しています。

さて、ウクライナ危機が暗号資産市場に与える影響についてですが、Cryptonews.comの取材に応じてくれた幅広い層のアナリストたちの見方によれば、我々が現在心配しているほど劇的なものではない可能性があるということです。

しかしこの見方の裏にあるのは、他の要因(主にマクロ経済的な要因)がもたらしている影響の方がはるかに大きいため、そういった要因のほうがウクライナ危機よりも市場を圧迫しているという分析です。

暗号通貨市場への影響は限定的?

確かにウクライナ危機は暗号通貨含む金融市場に対して多少は影響を及ぼしました。しかし市場を観測している評論家たちの大多数は、過去数週間の下げ相場の原因はロシアとウクライナの緊張以外にあると見ています。

スイスのツークに拠点を置くフィンテック企業「Horizon」の社長であるマーク・エレノウィッツ氏(Mark Elenowitz)は以下のように述べています。

「ウクライナ危機は確かに株式市場に影響を及ぼしています。しかし現在の世界経済に影響を与えている要因は複数あるということにまず注目する必要があります。複数の要因というのはたとえば新型コロナウイルスの蔓延が続いていること、労働市場とサプライチェーンをめぐる問題、インフレ懸念、(FRBの)利上げ示唆、慢性的な経済格差などです。」

エレノウィッツ氏は、ウクライナ危機も間違いなく投資家に不安を与える要因となってはいるものの、今回の景気後退の主因はより深く、より組織的な部分にある可能性が高いと指摘します。

「Bannockburn Global Forex」の専務取締役であるマーク・チャンドラー氏(Marc Chandler)も同じ見解で、ウクライナ危機がロシアとウクライナの国債(およびロシア・ルーブル)以外に及ぼす影響は「高が知れている(minor at best)」と述べています。

今ウクライナ危機よりも気にすべき数々の懸念事項

チャンドラー氏は我々の取材に対してこう語ります。

「大事なことは2つあると思っています。1つ目は、多くの投資家はより甚大で差し迫った問題に直面しているということです。たとえばFRBの会議も気になる要因ですし、多くの人々は積極的な金融引き締めを予想しています。また、ほどんどの予測は市場を過大評価してしまっていたという問題もあります。そして2つ目に言いたいのは、2014年にロシアがクリミアを併合した際に何が起こったか覚えているでしょうか、ということです。」

2014年、ロシアはウクライナへ侵攻しクリミアを併合しました。この時世界の株式市場は甚大な影響を受け、中でも特に欧州市場とロシア市場への打撃は深刻でした。しかし影響は比較的短期間で収束しました。アメリカではこの年にS&P500が史上最高値を更新したほどです。

このような背景もあり、アナリストたちは暗号市場が今心配すべきなのはウクライナ危機ではなく他のことだと述べています。

ブルームバーグのインテリジェンス・アナリストのマイク・マクグローン氏(Mike McGlone)は、以下のように述べています。

「世界の株式市場や暗号通貨市場が今下げ局面なのは、それ以前の期間に特にアメリカの株式市場を中心に大きく上昇したからです。アメリカの(消費者)物価指数は40年ぶりの高水準となりました。ここから推察するに、FRBはもう限界にきていると思います。」


マクグローン氏また、「FRBはインフレ対策を義務づけられている」と付け加えており、さらに暗号資産については「最も投機的でインフレした資産の1つである」とし、したがって「金利が急上昇すれば最もしわ寄せがくるところである」と指摘しています。

しかし一方でBitcoinについては「暗号資産の中では最も低リスクである」とし、いずれゴールドに変わるリスクオフ資産となる可能性もあると主張しています。

なおウクライナ危機については、最近の下げ相場の主要な原因ではないにしても、暗号通貨に一定の影響を与えている要因ではあるとマクグローン氏は認めています。

アナリストでライターでもあるグレン・グッドマン氏(Glen Goodman)も同様の見解を持っており、ここ数ヶ月の暗号資産相場は米国の小型株と強い相関関係にあると指摘します。グッドマン氏の見解は以下の通りです。

「1月の下げ相場では、Bitcoinはアメリカの小型株とほぼ同じ値動きでした。ウクライナ危機はいわゆる『リスクのある資産』とみなされているような数々の資産の評価に重くのしかかっています。このリスクのある資産というカテゴリーは、多くの株式とほぼ全ての暗号資産を含んでいます。」

戦争が勃発してしまった場合はどうか

多くのアナリストは、現在のところまでのウクライナ危機というのは暗号通貨市場にそれほど大きな影響を及ぼしてはいないと見ています。

しかし、もしもロシアとウクライナ(及び両国の同名諸国)の間に直接的な武力衝突があれば話は別で、その場合にはより確実な影響があると考えているようです。

前出のエレノウィッツ氏は、戦争が勃発してしまった場合について以下のように分析しています。

「もしも武力衝突が発生した場合、暗号通貨の相場は確かに大きく下落するでしょう。ただ私の見解では、武力衝突はまず石油市場や食料市場に影響を与え、暗号通貨はそれらの市場から間接的な影響を受けて下がるという可能性が高いと見ています。武力衝突はサプライチェーン(供給網)の混乱を招き、食料不足を引き起こす可能性が高いです。」

エレノウィッツ氏はまた、ロシアに対する制裁がヨーロッパへの主要な石油パイプラインを遮断してしまうため、天然ガスや石油価格が高騰する可能性があると指摘します。

エレノウィッツ氏によれば「暗号通貨市場と従来型資産の市場との相関性は、ここ2年ほどでだいぶ強まりました。したがって暗号通貨以外の商品に打撃があった場合、暗号通貨の価格も短期的な影響を受ける可能性が高いでしょう。」とのことです。


「大きく影響を受ける可能性はあるが、比較的短期間で終わる」と考えているアナリストはエレノウィッツ氏だけではありません。たとえばグッドマン氏は以下のように述べています。

「歴史的に見ると欧州諸国を巻き込んだ武力紛争が発生すると、株式市場はまずマイナス影響を受けます。暗号通貨市場も株式市場の下落に追随するだろうと予想されます。ただ悪いことばかりではありません。というのも、市場への悪影響は短期間で終わる傾向があるのです。」


グッドマン氏によれば、投資家たちが欧米の経済成長が衰えていないことをいったん確認すると、市場はすぐに回復に向かう傾向があるとのことです。

また、かなり楽観的な見方にはなってきますが、そもそも現在のウクライナ危機が戦争に発展する恐れはあまりないと考えているアナリストもいます。

たとえばマクグローン氏は「本格的な武力衝突はあり得ないでしょう。」と見ており、その上で「ただ原油価格と穀物価格は、世界最大級の原油輸出国であるロシアがこれまた最大級の穀物輸出国であるウクライナに侵攻するというリスクを織り込んできています。」と分析します。

また「Blockchain Coinvestors」のルー・カーネCEO(Lou Kerner)は「武力衝突の脅威はたしかに可能性としてはあります。しかし少なくともBTC保有者にとっては恐れることではありません。」と述べます。

カーネ氏によると「戦時中、ゴールドは非常によいパフォーマンスをみせました。これと同様にBitcoinも、武力衝突が発生した場合には株式から切り離されて値上がりするはずです。」とのことです。


たしかにBitcoinは暗号通貨界隈の多くのアナリストから「デジタルゴールド」と見なされてきました。

しかしその一方で「Bitcoinは株式やその他のリスク資産と共通点が多い」と主張し続ける評論家たちもいます。したがって、もしもロシアとウクライナが衝突した場合、投資家たちは無傷でいられるとあまり過信しない方がいいでしょう。

チャンドラー氏は「最近の暗号通貨はインフレヘッジというよりもリスク資産としての側面が強くでていると思います。」と述べ、「おそらくこの資産クラスは『より長期的な』分析を行うのに十分な期間がまだ経過していないのでしょう。」と続けました。

暗号通貨市場が回復するためには

万が一現在のウクライナ危機が戦争に発展してしまった場合に暗号通貨市場が回復できるかどうかは、和解や停戦といった政治的要因よりもどちらかと言えばマクロ経済的要因の方に依存していると評論家たちは述べます。

たとえばグッドマン氏は、「市場を圧迫している主な原因は米国と欧州諸国における金利上昇見通しです。欧州諸国を巻き込むような戦争が経済に及ぼす影響というのはほとんどの場合、金利の大幅な上昇による影響と比べるとはるかに小さいです。」と述べます。

これは言い換えればつまり、インフレや金利上昇といったマクロ経済的な脅威が落ち着くまでは、暗号通貨市場の回復は期待できないということです。しかしそんな中マクグローン氏は、少なくともBitcoinについては中長期的な見通しは明るいと語ります。

マクグローン氏は「Bitcoinは通常3万USドルを下回ると下値がある程度限られてくると思います。そこからは次の大きなしきい値に向けて、たいていは10万ドル前後のしきい値ですが、そこを見据えて基盤構築をはじめるという可能性が高いと考えられます。」と述べます。そしてさらに以下のように続けます。

「Bitcoinは世界規模のポートフォリオの中で考えると、ほんの小さなポーションを占めているに過ぎません。というのもほとんどの資産管理者たちは、リスクが比較的大きいということを認識してこの革新的な技術あるいは資産への配分をゼロにとどめているのです。対して管理者たちが配分を割いているのは株式を含むその他の資産ですが、こちらの資産は逆に、主に低利回りの債券が多すぎるせいで多少肥大化してしまっているようです。」

翻訳: Nen Nishihara

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