現代の技術革新のペースはすさまじく、あらゆる技術が次世代型のものへと常に進化し続けています。インターネット社会も例外ではなく、現在のWeb2からよりいっそう非中央集権化の進んだ「Web3」への移行が一部の人々の間では期待されています。本記事の著者は自身の視点から、Web3への全面的な移行が難しい理由を3点挙げ、それぞれについて細かく考察しています。Web3にはどのような難点があるのでしょうか。ぜひご覧ください。
本記事はCryptoSarsに掲載されたAlex Honcharenko氏の「3 Reasons Web3 is Doomed to Fail」の内容を日本語へ翻訳し掲載したものです。原文の英語版はこちらをご覧ください。
新しい技術のかかえる苦悩
技術革新というのはとても素晴らしいもので、我々が日常的に使っているさまざまな装置や道具を生み出し、世界中の何十億人もの人々の生産性と生活の質を飛躍的に向上させてきました。
洗濯機さえあればもう手で洗濯する必要はなくなりますし、便利な機能の揃ったキッチンがあればわざわざ焚き火で炊事をしなくてもよくなります。Tフォードの車があれば目的地までひとっ飛びなので、遠い道のりを苦労して歩く必要もありません。
ところが物事はこう簡単には行かないものなのです。
たしかに人々の生活は昔よりはいくらか便利にはなりました。しかし、たとえば洗濯機ですが、初代の洗濯機というのは非常にルーブ・ゴールドバーグ・マシン的なもので、決して使い勝手の良いものではありませんでした。
(訳注:ルーブ・ゴールドバーグ・マシンはアメリカの漫画家ルーブ・ゴールドバーグによって発案された、普通にすれば簡単にできることを難しいからくりを多用して逆にややこしい手順で実行するマシン。20世紀の機械文明に対する風刺的表現である。)
それからキッチンのガスコンロについて。ガスコンロはたしかに料理の生産性を高めたのですが、家の中で火災を引き起こす危険性を伴う発明でした。だからこそ、ガスコンロが一般家庭に普及しはじめるまでには実に約30年間もの年月がかかりました。
そしてTフォードの車。Tフォードの車ですが、まずシートベルトがありませんでした。 車体もガタガタで、ブレーキに至っては、頼むから機能してくれと祈らなければならないような代物でした。
しかしそれでも、史上初の量産型自動車の誕生は紛れもなく技術進歩のおかげで可能となった奇跡でした。しかしこの自動車は多くの利点をもたらしたにもかかわらず、利点以上の問題を生み出したのではないかと多くの人が問いかけたのもまた事実です。
新しい技術のかかえる運命
人の人生の中で初めから決定している運命はたった2つしかないと言われています。1つは死、もう1つは税金です。しかし私はこの2つの運命に、もう1つ付け加えたいと思います。技術革新に取り組むすべての人々には、3つ目の逃れられない運命があると思います。その運命は以下の通りです。
たとえどんな新技術でも、完全な形で市場に登場し、すぐに使えるということはない。
ここから先は、この第3の運命を踏まえた上で、ブロックチェーン、暗号通貨、DeFi(分散型金融)、dApps(分散型アプリケーション)などをはじめとするネットワーク技術の非常におもしろい分野に内在する重大な問題点について考察していきたい思います。
私自身、デジタル分析やオンライン広告、B2Bデジタル製品の製作に10年近く携わってきましたので、今回はそれらの経験から考えたことをお話しします。また、私よりもさらにこれらの話題に精通している方も多くいるかと思いますので、そういった方々のご意見や反応も非常に楽しみです。
問題① 既存の消費者向けハードウェアでは、ブロックチェーン技術の導入を主流規模でサポートできない
ブロックチェーン技術の利点の中で最も重要なのは分散化という概念です。
分散化が意味することを簡単に説明すると、従来のインターネット社会では外部的な権威がなければ実現できなかったようなオンライン上の活動を、各種ソフトウェアやコンピューターコードを通して一般の人々でも実現できるようにするということです。
代表的なのはたとえば「海外送金」です。海外にいる家族にお金を送りたいという場合、送金サービスを実行してくれる銀行のような仲介業者が必要です。しかし既存の仲介業者は目的を果たすのに時間がかかり(ほとんどの場合3〜5営業日)、高い手数料もかかります。
もしもこういった現状に対してBitcoin等のデジタル通貨を使用することで、たとえば時間の遅さや送金手数料の高さといった既存のソリューションの抱えている問題点を解決することができるのであれば、大変素晴らしいことだと思います。
しかし、トラストレスかつコードのみに頼ったソリューションに果たして欠点はないのでしょうか。
ブロックチェーンの重要な特徴の1つは、過去の全トランザクション(送金取引だけではなくプロセスパワーを必要とするあらゆる形態のユーザー活動)に関する不浸透性の(決して手を加えることのできない)記録が残るという点です。
つまりどういうことかというと、たとえばBitcoinの場合は、すべてのユーザーが送受信したすべてのBitcoinがブロックチェーンという基礎となるデータ構造によって永久的に記録され続けているということです。
この無限に続いていく一連のトランザクションの記録というのは、Bitcoinネットワークの中にいるすべての人のデバイス(つまりノード)に存在している必要があります。敢えて繰り返しますがこれは「必ず」存在していなければなりません。
今のところBitcoinのブロックチェーン上の1つの取引のまとまり(つまり1ブロック)のサイズは1メガバイトです。そして現在約70万強のブロックが存在しています。
ブロック数にしてたかだか数十万、多少増えたところで数百万ブロック、各ブロックのサイズもデジタル写真以下となれば、なるほどたしかに管理はしやすいでしょう。
しかし、もしも今後我々が完全にブロックチェーンベースの基本設計(コンピューティングアーキテクチャ)に移行した場合、一体どうなってしまうのでしょうか。
現代では誰もがスマホ上で2〜30個のアプリを使っているのは当たり前だと思います。もしも、今使っている銀行アプリ、家計簿アプリ、SNS、メール、チャット、生産性向上アプリ、等々の様々なアプリが、すべてブロックチェーンベースの基本設計に変わるとどうなるでしょう。
たとえばメッセージ用アプリのWhatsApp。このアプリをブロックチェーンベースにすると、1人1人の全会話履歴と全メタデータが物理デバイスの中に強制的に保存される仕様になるのでしょうか。
ブロックチェーンベースのYoutubeでは、アカウントの視聴履歴やアップロード履歴や共有履歴にある4K動画や数ギガの動画もすべて強制保存されてしまうのでしょうか。
ブロックチェーンベースのマイクロソフトパワーポイントを使うと、これまでに作成してきた何年分ものドキュメントとその改訂履歴がすべて強制保存されてしまうのでしょうか。
つまり何が言いたいかというと、ブロックチェーン技術に基づくコンピューティングモデルに根本的な改変がない限りはブロックチェーンの革新の方がどうしても既存の消費者向けハードウェアやストレージ、処理能力を上回ってしまうため、(たとえいくらハッシュ化で圧縮したとしても)あらゆる前提条件が満たされず無意味になってしまうということです。
問題② ブロックチェーンベースのアプリケーションを使いこなすのは、平均的なデジタルリテラシーのユーザーにとってはあまりにも不便で困難
皆さんは、パソコンやスマホから銀行口座を開設した経験がありますでしょうか。経験があるという方には当時の経験を思い出していただきたいのですが、おそらく「非常に円滑な手続きだった」という感想にはならないのではないかと思います。
多くの方が、手元にない書類や個人情報を探してアップロードするのに四苦八苦した経験があるのではないかと思います。手続き途中にメールをチェックするためにほんのちょっとウィンドウを離れようものなら、また1から全部やり直しになってしまいます。しかも新しいパスワードも作らないといけないし、それを覚えていないといけません。
しかしこれらの問題にもかかわらず、この一連の手続きプロセスというのは長年のユーザーテストによって確立された「安全」かつ「スムーズ」な方法なのです。にわかには信じ難いことですが、平均的なユーザーがアプリを使って目的を果たすのに最も簡単で効率的な方法を試行錯誤によって模索し続けた結果がこれなのです。
しかし、これはただ現状の最善策というだけで、決して我々の出し得るベストの解法というわけではないと思います。
銀行口座開設がオンラインでできるということ自体は、一般に広く知れ渡っています。しかしこれほど一般的になっているにもかかわらず、多くの顧客は簡単で便利であるはずのオンライン口座開設を選択せずに支店での口座開設を希望します。これは、多くの人がオンライン口座開設のプロセスに手間取ってしまうということではないでしょうか。
オンライン銀行口座開設ですらこのありさまなのに、たとえばおばあちゃんに暗号通貨のウォレットの使い方を教えるなど、もはや夢物語でしょう。
まずは設定とアクセスには12単語からなるランダムに生成されるシードフレーズが必要だということを説明し、しかもそれだけでは使えず、アカウントの秘密鍵として機能するアルゴリズムによる暗号化されたフレーズも必要だということを言わなければなりません。さらに、シードフレーズと秘密鍵は紛失したり盗まれたりしないように「オフライン」で安全に保管しておかなければならないということもわかってもらわないといけません。
しかもここで終わりではありません。暗号通貨を送ったり受け取ったりするのにブロックチェーンベースのオンラインアプリにアクセスしたいという場合は、未処理状態の、もしくはQRコードに変換処理した公開鍵を手元に置いておかなければなりません。そして使用するデバイスも、アクセスしたいdAPPと相互運用できる暗号通貨ウォレットをサポートしている必要があります。
仕組みが複雑すぎるだけでなく、トラブルが起こった際の対処法もあまり存在しません。もしもオンライン銀行口座のパスワードを忘れてしまったとしても、パスワードの更新依頼をすればそれで済みます。あるいは、ハッカーにパスワードを盗まれてオンライン口座からお金が盗られてしまった場合でも、銀行預金は一定額まで保険によって保護されているので大丈夫です。
しかし暗号通貨の入った口座で今挙げたような不運なことが起きた場合、残された唯一の方法は「じっと耐えて、なかったことにする」ことです。つまり泣き寝入りするしかないのです。
個人的には、Web3やブロックチェーンベースの技術の一般普及は、一定の重要な問題解決メカニズムが合意に達し確立されない限りは不可能だと考えています。
エラーやハッキングといった問題点が解決されていないのにも関わらず、個人の財務情報や社会保障番号や医療記録といった極めて重要なデータをブロックチェーン上に置くことに、我々は納得がいくのでしょうか。
堅実で信頼できる金融エコシステムというのは、悪質な行為を働こうとする人からユーザーを保護するだけでなく、ユーザー自身によるミスやエラーからもユーザーを保護しなければならないというのが実情です。しかし現状、我々はこの問題に対する解決策の候補を持ち合わせていません。
問題③ ブロックチェーンベースのアプリはインターネット版「バベルの塔」である
バベルの塔というのは、紀元前3500年頃にバビロン(現在のイラクあたり)の人々が集まって、文字通り天に届くほどの高い塔を建てようとしたという聖書の話です。
神は塔の建設を快く思いませんでした。そこで塔建設プロジェクトを頓挫させるために、塔建設に関わっているすべての人々が別々の言語を話すようにして、塔の建設に関して互いに協力し合えないようにしました。
コミュニケーションの失敗はたいてい同じような結末を引き起こしますので、物語の結論は簡単に想像がつくかと思います。塔は崩壊し、こうして世界中のさまざまな言語が生まれました。
ここまでがバベルの塔の話ですが、この物語がブロックチェーンとどう関係しているのでしょうか。
まずはじめに説明しなければいけないのは、そもそも「ブロックチェーン」という用語自体が、ブロックチェーンとは何なのか、どのようなテクノロジーなのか、という定義部分に対するひどい誤認識を内包しているということです。
「ブロックチェーン」という用語は、まるで1つしかないものを表しているかのように、たいてい「単数形」で使用されます。しかし実際には世の中には何千何万もの異なるブロックチェーンがあります。そしてこれらブロックチェーンはどれも、バベルの塔を建設している労働者たちと同じように、互いに意思疎通できる共通言語を持っていません。
お好みの会計ソフトと簡単に連動させることができるオンライン銀行口座とは違って、ブロックチェーンではそういったことが簡単にできないのです。
なぜこのような仕様になっているのかといった類の技術的な話は一旦おいておきます。今ここで理解しておかなければならないのは、多くの暗号通貨やブロックチェーンベースのアプリというのは独自の仮想環境のみで作動するような手法やコード構造で構築されているため、それ以外の環境では機能しないという点です。
となると、純粋に実用性という観点から考えても、ブロックチェーンベースのインターネットに移行することは、従来のインターネットで作り上げてきた価値の大きな部分を放棄するということにならないでしょうか。
現在のインターネットの世界では、Googleアカウントを使えばいちいち新しいユーザー名やパスワードを作らなくても多くのアプリケーションにサインインすることができます。ボタンひとつでYoutubeのビデオをFacebookで共有することができます。また、お手元にあるテレビとリモコンだけでApple TVもAmazon Fire Stickも視聴することができます。
皆さんは今のこの状況を便利だと感じていますでしょうか。少なくとも私は便利で素晴らしいことだと感じています。
しかし現在のブロックチェーンプロトコルをより大規模なソフトウェア環境で実装すると、先ほどあげたような数々のちょっとした利点も、多くのより重大な利点と共になくなってしまうのです。
私個人としてはどうしても、何十年にもわたって築いてきた現在の技術の進歩から逆行するようなことを積極的にしたいとは思わないのです。
翻訳: Nen Nishihara
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