暗号通貨の大きなトランザクションをTwitterでお知らせするツール「Whale Alert:ホエールアラート」の共同創設者フランク氏にインタビューさせていただきました。サービスを始めた経緯や透明性の重要性などについてお話していただきました。
フランク(ホエールアラート:共同創設者)
インタビュー日 : 2020年2月13日
Whale Alert フランク氏(全インタビュー記事)
Whale Alert(ホエールアラート)の始まり
私は、Whale Alert創設者の一人です。私達は長くシステム開発の業務を行っており、主にWebサイトやビジネス用アプリケーション開発など、ほとんど全ての種類のプロダクトを作ってきました。2017年、私達は暗号通貨取引を活発に行っていましたが、そのときに市場のボラティリティが非常に高いことを知りました。なぜそのような動きが起こっているのかを知りたかったので、いくつかのソフトを作成することにしました。その内の1つが、ビットコインとイーサリアムの取引所間の巨額送金を通知するための追跡ソフトでした。暗号通貨が大暴落した後、私達は暗号通貨取引をやめてしまい、ほとんどのソフトを停止してしまいましたが、しばらく経ってから追跡ツールソフトがまだ動き続けていることに気付き、Twitterアカウントを通じて他のコミュニティにも共有することにしました。今ではとても人気なサービスになりました。
透明性の重要性
私は透明性が全てであり、必要であると考えています。透明性がなければ信頼を築くことはできません。ただ巨額送金のトランザクションを公開するだけが透明性ではありませんが、お金がどこに向かっているのか、特にテザーや他のステーブルコインなどでは、それが発行されたものかバーン(償却)されたものかどうかを私達は知らせています。これは、実際に価値が移転していることを見せるためです。Whale Alertが出てくる以前は、ブロックチェーンが本当に動いている事を人々に伝えるのはとても難しかったと思います。Whale Alertを使用すると、それが経済の一部として動いていることが実際に確認できます。これも透明性の一部分です。
クジラを追跡する
私達は、実際のクジラが何で、彼らがどれだけお金持ちであるかを、実際の例からもう少し深く理解することにしました。ジェド・マケーレブ氏を少し追跡し、彼の以前のトランザクションを確認しました。マケーレブ氏は、XRPとブロックチェーンにより、非常にリッチになった人物です。実は、彼はブロックチェーンに対して非常に大きな力を持っているので、実際にどれだけ持っているか、そしてその資産がどれだけ大きいかという面において、一度のトランザクションでマーケットを完全に破壊する能力を持っています。
ある大手データサイトで計算し推定されたXRPの市場供給量は約400億XRPでしたが、私達の研究と計算では、実際に250億XRPあると推定しています。推定では、マケーレブ氏はまだ約47億XRPを保有しています。その47億を市場に出回っている総供給量の250億と比較してみると、非常に大きい額であるとわかります。しかし、リップルがマケーレブ氏との間で合意を取り交わしたことで彼の力を制限しました。それがいつ終了するのか、その合意について何もわかりませんが、確かなことはそれが終了する時は、多くの人々にとって良くないことが起こる時でもあります。
これが、どのように市場が見えるかという情報を皆さんに提供している理由の一つです。それにより、多くの情報が得られ、次のステップに向けて実際に自分自身で判断できるようになります。価格やボラティリティの動きだけがあるのではなく、その背後にはもっと多くのことがあり、特にその背後にはもっと多くのお金があります。私達がマケーレブ氏に関する記事を書いたばかりのとき、XRPの価格は約25セントでした。現在の約30セントと比べると、彼は事実上1日で約1億ドルから2億ドルを稼いでいることになります。なぜそのような事が可能なのか、私は理解に苦しんでいます。私達は皆さんにただ注意を促したいだけであり、パニックを起こしたりすることは望んでいません。私達が求めているのは、皆さんに自分自身でリサーチを行ってもらうことであり、私達はそのリサーチができるような情報を提供しているのです。
Unknown Wallets(不明なウォレット)の追跡
不明な送金が非常に大きい場合、そのウォレットの所有者が誰であるかを確認しています。ウォレットの所有者が特定の取引所であると推測される場合、確認のために取引所に直接連絡することもよくあります。残念ながら、所有者が誰であるかを見つけることは簡単ではなく、場合によっては不可能です。
マネーロンダリングについて
私はマネーロンダリングにおいて、ブロックチェーンだけにしか注目していない人々があまり好きではありません。なぜなら、それは全体の制度からして非常に不公平だと思うからです。世界の犯罪活動のほとんどが、銀行を介した現金とドルで行われていますが、これらの問題について誰も話しません。どれだけのドルがあるのか、どこにあるのか、偽札のドルがいくつあるのか、何に使われているのか、誰にもわかりません。この状況をブロックチェーンと比較してみましょう。それがどこにあるか、どれだけあるか、いつ使用されるかがわかります。ビットコインを違法行為に使用するということは最も愚かなことだというのが、私の意見です。違法行為に使用されているかがわからない場合でさえも、全ての台帳が保持され続けており、全てのデータはブロックチェーン上にあります。そのため、犯罪者にとっては将来的に私たちが発見するというリスクが残り続けます。
マウントゴックス事件の教訓
当時の暗号通貨市場を考えると、マウントゴックスの事件は、いずれは起こるであろうという惨事だったと思います。マウントゴックスの資金は、暗号通貨の市場価格に反映されるべきでしたが、ほとんどの人はその存在について知りませんでした。一般の人がどこまで知っていたのか定かではありませんが、もし当時Whale Alertが利用可能で、マウントゴックスのトランザクションを追跡できていれば、より多くの人々が何が起こっているのか、なぜ起こっているのかということを知ることができ、多くのお金を守ることができたでしょう。
あの事件によってどこまで悲惨な結果が人々に及んだか詳しく知りませんが、当時既にマーケットから撤退していた私達にとっては、それほど悪い影響はありませんでした。しかし、多くの人にとっては大切なビットコインを失ったことで、多くの貴重な教訓を得たと思います。それが、Whale Alertのような追跡サービスが重要だと思う理由です。
このサービスは、何かが起こった原因を皆が理解するのに役立ち、市場がどのようになっているか警告してくれます。実際にBitcoinを持っているのは誰か、EthereumやXRPを誰が保有しているかという情報を皆が得られれば、市場から多くのボラティリティを取り除くことができるはずです。これが私達の考えです。ボラティリティが高いことは、一部の人々にとっては良いかもしれませんが、ブロックチェーンの普及を後押しすることはありません。
ブロックチェーンの普及と課題
現在、ブロックチェーンには崩壊に繋がるかもしれないいくつかの問題があります。その中には、必要とされている規制が不十分であるということや、ブロックチェーンの世界で中央集権化が進行していることがあります。たとえば、中国政府はブロックチェーンを強く推進していますが、正当な理由でそれを行っているかどうかはわかりません。多くの人たちがお金を追い続け、詐欺やピラミッド・スキームなどもまだ横行しています。残念なことに、依然として引っかかってしまう人もいます。また、2018年初めの市場の崩壊は、ブロックチェーンを後退させ、暗号通貨は詐欺という印象を人々に与えてしまったため、暗号通貨の普及に対して大きなマイナスとなりました。そのため、非中央集権と規制はバランスが重要です。
違法行為に使われた暗号通貨を追跡する精度は、かなり良くなっています。これらは全てはデータで決まります。より多くのデータを取得すればするほど、より正確に追跡できるようになります。私たちは個人を追跡するのではなく、大きなクジラと暗号通貨取引所のトランザクションを追跡しています。適切な量のデータがあれば、良い分析ができると思います。マネーロンダリングの話題は、本当は注目すべき大きな問題から目をそらすために使われていると思います。もちろん、これらの問題にも注意を払う必要がありますが、全体としては、ごく一部分のもので、主要な問題とは思いません。
暗号通貨との出会い
私が暗号通貨について最初に読んだのは2011年頃だったと思います。テック系のニュース記事を読んでいて、暗号通貨の話を時々目にしましたが、当時はあまり注目していませんでした。正直、それが何であるか、何の意味があるかということは、自分では完全に理解できませんでした。非中央集権の意味や、技術だけでなくそれが一般に対し何を意味するのか、分散システムの通貨を持つことの影響などについてもっと勉強する必要がありました。
暗号通貨に関して、 「あの時にビットコインを購入すべきだった」、または「売却すべきではなかった」などということは、あまり考えるべきことではないと思っています。何らかの機会を失う可能性は毎日あります。何年も前に購入したビットコインが入ったウォレットの鍵を紛失し、自殺してしまった人の記事を少し前に読みました。それが原因で彼はうつ病になり、精神的に大きなダメージを受けてしまったという事件で、非常に衝撃的でした。なので、「持っていればよかった、持つべきだった」ということに気を使いすぎる必要はないと考えています。
暗号通貨は、将来的にもっと多くのチャンスが増えると私は信じていますが、マイナス面も多くあると考えるべきです。送金に関しては細心の注意を払わなければならず、本当にそれらを正しく使用できているかを確かめる必要があります。残念ながら、多くの人がたくさんの間違いを犯してきましたが、状況は良くなってきていると思います。
巨額送金とボラティリティ
私達が目指していたのは、市場にあるボラティリティが説明できるようになることでした。そして、追跡システムによって、その一部が説明できるようになりました。例えば、2017年の非常に大きな暴落のタイミングは、私達が追跡したマウントゴックスの巨額送金の時期と一致していました。そして、大きなトランザクションの直後に、価格が下落するということに気が付きました。一番興味深かったのは、EOSのチームが巨額のETHを取引所に送金したことが追跡ソフトで検知され、そのすぐ後にETHの価格が急速に下がり始めたことでした。暴落の原因に関しては様々な理論がありますが、その時は何が起こっているのかを理解することができました。
プライバシーのないブロックチェーンでは、どのような送金でも見ることができます。人は、BitcoinやEthereumを何らかの理由で移動させようとします。お金を移動させる理由の一つは、暗号通貨の売却、取引をするためであり、多くの人が売却を行う場合、それだけ多くの人が送金を行っていることになります。既に自分の資産を取引所に置いている人が多いため、これが全てに当てはまるわけではありませんが、ほとんどの場合は送金も多くなることがわかっています。
口座保有者と資産保有者にはいくつかのタイプがあります。現在、私達は取引所、ハッカー、詐欺師、ICO、Rippleなどの企業を区別していて、個人(大口コイン保有者のクジラ以外)は追跡していません。アドレスの所有者(送金者と送金先)を判断するプロセスは非常に複雑であり、数多くのデータを計算、調査し、ブロックチェーンごとに違った方法をとります。
ブロックチェーンの中には色々な違いがあります。私達にとって最も重要な違いはトランザクション構造となります。Bitcoinのようなブロックチェーンは複数のインプットとアウトプットを持つことができるため、コインがどこから来てどこへ行くのかを把握することが難しくなります。Ripple、Ethereum、EOSなどのブロックチェーンは、ほとんどの場合「One in」と「One out」の構造(インプットとアウトプットが一つずつ)なので、はるかに単純です。また、BitcoinとEthereumは、保有者数とトランザクション頻度という点で最も人気のあるブロックチェーンであり、その他のブロックチェーンはほとんど使用されていません。
サイドチェーンのトランザクション追跡
サイドチェーンのトランザクションに関しては、追跡や通知などを行わないことにしていますが、サイドチェーンの一部であるUSDTのトークンスワップのようなトランザクションに関しては通知を行っています。これは、一方のチェーンでトークンがロックアップ、バーン(償却)され、もう一方のチェーンでトークンがロック解除、または発行されたのを通知するということです。サイドチェーンのトランザクションをサービスに統合しない理由の1つは、これら2つのトランザクションが常に100%正しいとは限らないからです(USDTのスワップでは、数日遅れでトランザクションが生成される場合があります)。ただ、この様なサイドチェーンのトランザクションを、チェーン上の特定のユーザーアドレスに関連付けすることは行っています。
暗号通貨の現状
暗号通貨の世界には、非常に影響力のある有名なYouTuberが数人いて、何万人もの人々が彼らのチャンネルを登録しています。2017年の初めに、これらのYouTuberが価格に対して非常に強い影響力を持っていることを知りました。私達は、彼らが暗号通貨について発言するたびにアラートを発するシステムを作り、非常にうまくいっていました。しかし、多くの人々がお金を儲け、そして失ってしまったたので、全てがクラッシュしてしまった後は、ブロックチェーンに対する印象は非常に悪いものになってしまったと思います。
暗号通貨に関して、日本、アメリカ、マルタなどの国々の仕組みが、なぜ違っているかを考えると、マーケットの新しいアイデアや技術を許容できる度合いの違いがあると考えています。ここオランダよりも、日本のような国々のほうが少し進んでいると思います。また、韓国人は暗号通貨においてリスクを取り、投資したものを失ってしまうということをあまり気にしないように感じます。これは良いことだと感じますが、オランダの人々はお金に対して少し保守的であり、お金でリスクを取ることを好みません。また、彼らは新しいアイデアに対して少し懐疑的です。まずは少し待って、何が起こるか様子だけを見ようとしますが、それでは手遅れなのかもしれません。
透明性の源
ブロックチェーンのデータの収集には、多くのコンピューターと技術に関する知識が必要となります。私達は、全てのデータを収集するために40以上のサーバーを持っており、現在はシステムの大きなアップグレードに取り組んでいます。処理しなければならないデータの量を考えると、それは決して容易な事ではありません。将来的には、暗号通貨は更に多く使用されるようになり、結果としてもっと多くのトランザクションが行われるようになるため、その変化に応じてシステムを設計し直す必要があります。より多くのトランザクションを見なければならなくなるというのは非常に困難な課題ですが、それに関してはうまく対応できていると思います。そして、私達が最大の透明性の源となれるよう開発を続けている理由もここにあります。
ハッキングとセキュリティ
「ハッキング」という言葉を使う人がいますが、ハッカーによって取引所から大金が盗み出されるのは、ほとんどの場合セキュリティの欠陥によるものです。誰かからお金が盗まれる事件が起こるとハッキングと呼ばれますが、それは必ずしもビットコインやブロックチェーン自体がハッキングされているというわけではないのです。
Quadrigaと呼ばれるカナダの取引所で、1つの前例があります。カナダ最大の暗号通貨取引所QuadrigaのCEOだったジェラルド・コッテン氏は、インド旅行中に病気で突然亡くなりました。彼がブロックチェーン上で持っていた鍵が失われたと伝えられ、価格の変動し、ボラティリティが大きくなりました。
私達は、お金が実際にどこに向かっているかを人々に見せるため、バイナンスへ行われた全ての募金なども追跡しています。特にそのような送金に関しては、ホエールアラートの目から逃れることはできません。それらのお金が、人々が望むような場所で使われているのかということを見せています。一方で、お金を盗んだ人は、それをどこでも使うことができなくなります。特にお金を盗んだりハッキングが行われた偽の取引所では、これまで多くの問題が起こってきました。私達が取り組んでいるのは、取引所がどのくらい安全で、いくらの金額があるかという透明性を人々に与えることです。お金がどこに移動し、それが然るべき所で使われているのかを見せています。
若い運営者
この業界には若い人達が運営している企業が多くあります。しかし、暗号通貨の企業が20代の人達によって運営されていることに対して心配する必要はないと思っています。20代半ばでも子供ではありませんし、暗号通貨などの新しい分野では、経験が一体どれほど重要なものなのかと思っています。何が正しい方法かということを判断してしまうのは少し早すぎるかもしれませんが、ブロックチェーンの世界には頭の良い人達がたくさんいます。仮に全てが失敗してしまったとしても、それは能力の欠如ではなく、だた未来を見誤っていただけなのです。
私達のビジョンは、透明性をより一層高めることです。現在、世界中には不平等など数多くの問題があります。世界の富は一体どこにあるのか、それを正確に知るのは難しいことか、この瞬間に何が起こっているのか、市場の動きはどうなっているか、誰がどこに送金しているか。将来的にこれらの問題は更に大きなものになっていくと考えています。透明性が必要であり、ブロックチェーンこそがその答えです。ホエールアラートは、その透明性の中心になり得ると考えてます。
インタビュー・編集: Lina Kamada
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