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「ConsenSysとEthereumの関係」フィリップ・マトブ氏(全インタビュー記事)

イーサリアムに特化したソフトウェア開発・投資を行うコンセンシス(ConsenSys)のフィリップ・マトブ氏に、企業の取り組みやブロックチェーンとの出会いについてお話をいただきました。

フィリップ・マトブ(コンセンシス:ベンチャーアーキテクト)

インタビュー日 : 2020年3月26日

フィリップ・マトブ氏(全インタビュー記事)

コンセンシスとイーサリアムの関係

コンセンシスは、2014年のイーサリアム誕生からわずか数か月後にジョセフ・ルービンによって設立され、企業や政府機関向けに開発を行う世界最大のブロックチェーン特化型テクノロジー企業です。イーサリアムは、イーサリアム財団によって管理されていますが、イーサリアム共同創設者の1人であるジョセフ・ルービンは、イーサリアムのツールとエコシステムの発展をミッションとしてコンセンシスを立ち上げました。イーサリアムのプロトコルは財団によって管理され、エコシステムの構築をサポートするインフラとツールを開発、管理している営利組織がコンセンシスです。

現在、約700名以上の専門家、起業家、コンピュータサイエンティスト、デザイナー等がおり、米国からアジア、ヨーロッパからアフリカ、オーストラリアまでと、世界中の様々な場所にいます。私達は、大きな可能性を秘めた新ビジネスに投資を行うベンチャー・プロダクション・スタジオとしてスタートし、それらのビジネスをある程度の段階まで成長させるサポートを行なってきました。インフラ構築によってできた様々な組織とのコネクションを生かして、大企業や政府機関で技術の活用を手助けしています。また、必要としている企業に資金提供、インフラ提供も行なっています。現在、多くの企業において最も広く使用されているブロックチェーンソリューションの基盤をとなっています。

当社の中心的なプロダクトにInfura、PegaSys、Codefi、Alethioなどのインフラソリューションがあります。また、投資先企業には、Kaleido Trustology、Metamask、uPort、Rhombusなどがあります。製品とインフラ構築に対してお金を投資すること以外にも、開発者、起業家、企業マネージャーに対して、イーサリアムとブロックチェーンについて数多くの研修を行なってきました。人々を教育し、企業に資本を投入することから始め、非常に大規模なプロジェクトに携わってきました。

フィリピンでのイーサリアム活用

私達が投資しているプロジェクトの中に、フィリピンで最も大きな銀行の1つであるユニオンバンクがあります。あまり多くの人には知られていないですが、フィリピンでは人口の約3分の2人の人々が銀行口座を持っていません。500を超える地方銀行はあるものの、実際に中央の銀行システムにアクセスすることはできません。また、WEBのネット銀行にもアクセスが不可となっています。少し前は、ある島から別の島にお金を移すことが非常に困難でした。そこで、私達はフィリピンに向かい、ユニオンバンクと中央銀行に協力することになりました。これらの銀行から合意が得られ、私達はイーサリアムを決済のレイヤーとして導入しました。そのため、現在は、イーサリアムを利用して取引を行う地方銀行が毎日100以上もあります。

ブロックチェーンとの出会い

私の出身はブルガリアで、パリで4年間数学を学びました。パリで大学の課程を終えた後は、香港で1年間勉強し修士号を取得しました。直ぐには仕事を始めたくなかったので、パリでも1年間過ごし、もう1つの修士号を取りました。最初の仕事は東京で、3年間日本で働いていました。当時は、日本語を教えてくれる先生もいましたが、主な仕事内容は東京のBNPパリバ・カーディフでデジタルトランスフォーメーションをサポートすることでした。まだ、日本語の会話はできるかもしれないですが、ビジネス日本語は話せません。私が完全に日本が大好きになった2016年は、ブロックチェーンについて知った年でもありました。

  

Philip Matov

私がこの技術について知ったのは、ブロックチェーンの教室でコバヤシ・サトシさんという先生に出会ったのがきっかけで、それはとても不思議な体験でした。
彼は、スマートコントラクトジャパンの創設者であり、日本最初のブロックチェーン・エバンジェリストの1人でした。2016年から17年にかけて日本で最初のブロックチェーンカンファレンスを開催し、東京でのプレゼンテーションにコンセンシスを招待していました。それは多くの投資銀行、投資会社が集まる大きなイベントで、そのカンファレンスでブロックチェーンについて学びました。彼らの話は非常に印象的で、色々な方法でブロックチェーンの概念やアイデアを語っていました。電力の管理から決済、デジタル資産まで、あらゆる話題が含まれていました。完全に心を動かされた私は、不思議な世界へと足を踏み入れることにしました。

その時から、ブロックチェーンについて学び始め、この新しい発明が従来型の方法や考え方とは違うことを早い段階から理解できました。ブロックチェーンとは、問題を解決し、物事と働きを整理するための方法なのです。BNBパリバにいた時に、どのように今の仕事にブロックチェーンが活用できるのかということを考え始めました。当時はブロックチェーンでできることがあまりありませんでしたが、それでも技術に対しては興味を持ち続けていました。

その後、自分でブロックチェーンのコンサルティング会社を立ち上げるために数年間ブルガリアに戻りました。その地域の多くの大企業と協力して、彼らの仕事でブロックチェーンがどのような価値を生み出せるか話し合いました。しかし、南東ヨーロッパには、十分に大きな市場がなく、かなりの限界がありました。自分がブロックチェーンの最前線にいないような気がしていました。

初めてブロックチェーンについて知った時からコンセンシスには注目しており、共同創設者であるジョセフ・ルービンに大きく感銘を受けていました。この会社のビジョンを日本で聞いたことが、最初にブロックチェーンの概念を知るきっかけだったので、コンセンシスが目標を達成できるようにサポートする使命感のようなものを感じていました。なので、コンセンシスに参加できて、大変嬉しく感じました。現在、私がコンセンシスのロンドンオフィスに来て1年以上になります。事業展開、特にデジタル資産の戦略に焦点を合わせたビジネス開発のサポートが私の役割となっています。非常に新しい産業なので、実際に活用可能な製品や市場を見つけるのには大きな努力が必要でした。

ステーキングとは

現在、Ethereumはプルーフ・オブ・ワーク (Proof-of-Work)と呼ばれる合意アルゴリズムでトランザクションが行われています。トークンの送受信を可能にするルールは、この合意アルゴリズムによって定義されています。Bitcoinにも同じ様なプロトコルが使用されており、トランザクションが行われるたびに、検証のための複雑な数学アルゴリズムを解く競争が様々なマイナーの間で起こります。このアプローチの問題点は、エネルギー効率が非常に悪いことであり、望むほどのスケーラビリティ(拡張性)はありません。

Ethereum 2.0では、代わりにステーキング(Staking)と呼ばれる合意メカニズムが提供されます。Ethereumの所有者であれば、システムの保護とトランザクションの検証のため、そのEthereumをステーク(預入)することができます。ステーキングのメリットは、システムを支えるためのEthereumの預入によって報酬が得られるということです。ステーキングが利用できるようになると、Ethereumで利子を得ることができるようになります。取引所、カストディアン、投資ファンド、そして一般の大口保有者にとっては、そこから利益を得る大きな機会となります。

ただし、ステーキングはそれほど簡単なものではありません。ステーキングには多くのリスクが伴い、それが正しく行われているかを確認するために適切なインフラが必要となります。ConsenSysが提供しているのソリューションの1つに、ETH 2.0のステーキングサービスがあります。ETH 2.0のリリース前に、取引所とカストディアンで既に試行実験を開始しており、技術的、機能的要件を満たしているかを確かめたいと考えています。今年の7月からはインフラを構築しなくてもステーキングが直ぐに始められるようにするため、非常に力を入れています。

データ分割「シャーディング」

「シャーディング」と呼ばれる方法があり、データ処理を高速で管理しやすくするため、データをシャード(Shard)と呼ばれる小さなパーツへと分けるデータベース分割を言います。情報を複数に分割することで全てのデータを調べる必要がなくなります。データベースをスケーリング(拡張)させる方法は、垂直分割と水平分割の2つがあります。例えば、「氏名」「住所」「ID」という個人情報を集めたデータベースがある場合、「氏名」と「住所」を1つのデータベースに置き、「ID」を別のデータベースに分ける方法を垂直分割と呼びます。

もう一方の水平分割では、同じデータベースを「氏名」のアルファベット順に並べ、このアルファベットを基準として分割が行われます。このような水平分割の方法が、シャーディングと呼ばれます。これにより、よりデータが管理しやすくなり、簡単で高速なデータベースでEthereumの機能が使用できるようになります。

ブロックチェーンの金融サービス

私達は、大きなブロックチェーンのプロジェクトに依存するだけではなく、多くの製品も自分達で開発しています。インフラ、開発ツール、アプリケーションなどがあり、今の主力製品の1つにCodefiがあります。

DeFi(分散型金融)とは、借用、貸与、売買などの金融サービスの包括的な用語です。スマートコントラクトなどを使ったパブリック型の分散型ブロックチェーンに基づいて構築されており、レンディングサービス、STO(セキュリティ・トークン・オファリング)の提供などが含まれます。これは、非常に効率的に資産を管理するための代替法ですが、その可能性を十分に活用するためには、現在のように紙で集中管理されている金融商品や資産を分散台帳へと移行する中間のステップが必要となります。

そのようなアナログからデジタルへの変換は、非常に多くの企業が必要に迫られているプロセスです。資産のトークン化、セキュリティトークン、ステーブルコインなどでファイナンス・トランスフォーメーション(Financial Transformation)が行われています。そして、ここで発生する資産の問題を解決するのがCodefiというプロダクトです。

FinTechの分野は、製造、ミドルオフィス、流通という3つの異なるレイヤーがあり、RobinhoodやRevolutなどのFinTech企業は、製品の流通段階において様々な問題に長い間取り組んできました。かなり昔からあるような同一の製品を、より魅力的な方法で、特に若い消費者に流通させることに成功しています。ミドルオフィスの部分においても効率が向上していて、積極的に取り組んでいる企業もあります。しかし、製造の部分に注力している企業はなく、金融システムの基盤は何十年も変化してきませんでした。そこで、業務プロセスを最適化し、資産と金融商品をデジタル化するために構築された金融、商業ためのオペレーティングシステム、Codefiが開発されました。

Codefi Assets(デジタルアセットの発行、流通、管理)、Codefi Networks(ETH 2.0のステーキング、レンディングのプロトコル等)、Codefi Payments(暗号通貨、ステーブルコイン決済)、Codefi Data(分析、管理、リスク分析)、これら4つが大きな柱となっています。これにより、Codefi Assetsを通じて資産を発行し、Codefi Paymentsで決済を管理するということが可能となります。

信用状の交換

コンセンシスが開発支援を行ったものの中に、Komgoというプラットフォームがあります。これは、クレディ・アグリコル、シティグループ、ロイヤル・ダッチ・シェルなど世界最大級の貿易金融企業15社が集まるプラットフォームで、ここでは企業が信用状の交換を行うサポートをしています。

特にコモディティ取引のビジネスでは、信用状というものが必要不可欠となっており、この信用状により取引を確実に行うことができます。例えば、アジアからヨーロッパへガソリンを輸送する場合、通常は買い手と売り手だけでなく、取引を効率的に追跡できるように貨物の保管を行う金融機関も必要となります。

これらは作業は、歴史的に多くの異なるプレイヤーが必要となってきました。コモディティの取引には、様々な地域に多くの権限とルールがあり、これらの取引を管理するには多くの事務処理が必要となります。そのため、この効率を上げるためにブロックチェーン技術を活用し、事務処理を大幅に削減して様々なプレイヤーが共同で作業を行える透明性のある仕組みを構築しました。これらは、コンセンシスの多くの実績の中のほんの一例に過ぎませんが、私達が誇るべきプロジェクトだと思っています。

国際市場へのアクセス

コンセンシスには、多くのプロジェクトとのコネクションがありますが、企業からの依頼は当社の製品とビジョンに関する情報を見た方達の方からいただくことがほとんどです。これまで、様々な開発段階にあるプロジェクトの方から依頼をいただいてきました。スタートアップと協力することもありますが、大企業に協力して資金調達を行うことが多く、彼らには既にノウハウがあり、自分たちの市場も持っています。

そのような企業がブロックチェーンの導入を求める理由は、プロセスの効率、透明性の確保、そして相互の繫りを広げることで国際資本を増加させ、アクセスを多様化させるためです。これにより、今ある資産を世界中の様々な取引所で取引できるようになります。現在は、まだ準備が整っていないかもしれませんが、多くの様々な人達が、将来的に更に効率的な取引方法を実現するためのインフラ構築に貢献しています。

クライアントとしては、プライベートエクイティファンドなどの投資ファンドとも話し合いを行っています。従来、この領域は非常に閉鎖的でしたが、このような状況は投資家との関係を維持するためにあまり良いことではありません。彼らは国際市場にアクセスすることができず、お金を稼ぐことのできる範囲は非常に限られていました。そのため、私達はそのプロセスを簡素化し、投資家が国際的な市場により簡単にアクセスするサポートを行いました。

もう1つのタイプのクライアントは、銀行です。これには、デジタル通貨導入を検討している中央銀行も含まれます。コンセンシスは、決済メカニズム円滑化のために、安定した価値をデジタルでアクセス可能にすることを目指しているので、このようなプロジェクトは私達にとっては非常に重要な事例です。

資産の交換を円滑化

ブロックチェーンには、Atomic DvP(引渡し:Deliveryと支払い:Payment)と呼ばれる概念があります。例えば、デジタルの形で不動産という資産を所有しており、同じブロックチェーン上のインフラでお金が管理されている人とそれらの交換を行いたい場合、トランザクションは自動的に行われ、決済と交換は同じタイミングで行われます。

これがAtomic DvPですが、片方が純粋なデジタルデータのトークンであり、もう片方がデジタルではない場合は、ここで摩擦が生じてしまいます。トークン自体は非常に簡単に交換できますが、その後に銀行口座への電信振込が必要となる場合もあります。今日の多くのデジタル資産のプラットフォームは、電信振込を通じた資産の交換サービスを提供しています。しかし、私達は全てのトランザクションとシステムがより効率化されるように、取引を行う双方が共にデジタル化される世界を目指しています。

コンセンシスのビジョン

世界に大きな価値をもたらす事業に関わることができ、とても幸運に思っています。機関投資家や伝統的な金融機関だけでなく、小売業や貿易業界もサポートすることができました。分散型のデータベースの価値を説明するには、多くの教育、説得力、時間を要することは間違いありませんが、努力する価値は大いにあると思っています。

現在、私達が直面している課題は、プロダクトに適した市場を見つけること、そして企業がブロックチェーン技術を使用して本当に拡張可能で再現可能なソリューションを見つけ出すことです。コンセンシスは、デジタルトランスフォーメーションと分散型台帳技術を導入することでメリットが最も大きくなる活用事例と市場に注力しています。

また、企業向けブロックチェーンと分散型インフラの開発の両方をサポートしています。Codefi NetworkとPaymentsでは、ステーキング、レンディングプロトコル、ユーティリティトークン、決済など暗号通貨が活用できるユースケースを探し続けています。最近は、ユーティリティトークンを購入、使用、管理するためのプラットフォームであるActivateもリリースしました。

販売と金融に関しては、世界中にある大手投資銀行、大手サプライチェーン、小売業などと非常に密接に協力してきました。ブロックチェーンの取り組みでフォーカスしている部分は、資産の発行、配布、および管理という方法を改めて考え直すことです。このような動きは非常に幅広い企業に影響を与えています。

ブルガリアのブロックチェーン業界

私が日本からブルガリアへと帰国したときは、ブルガリアの活気に満ちた文化に非常に驚かされました。また、多くの重要なブロックチェーンプロジェクトがブルガリアの起業家によって始められ、ブルガリア国内で開発が行われていることを知り、非常に嬉しく感じました。

Aeternityというプロジェクトは、一時トップ30位のブロックチェーンのプロジェクトに入っていたこともあります。もちろん、Ethereumほど支持されているわけではありませんが、素晴らしいプロジェクトだと思います。資本提供、暗号通貨ミートアップの推進、プロトコル・インフラの構築など、このプロジェクトはブルガリアのブロックチェーンエコシステムの発展にかなり貢献してきました。

また、NEXOと呼ばれる別のプロジェクトもあります。これは、暗号通貨ローンのプロジェクトです。このソリューションにより、暗号通貨を担保とすることでローンが受けられるようになります。将来性が認められ、このプロジェクトは他の企業からSTO(セキュリティトークンオファリング)で5000万ドル以上の資金提供を受けました。

他にも、ブルガリアにはマーケティングや広告を専門とするAdExや、不動産を取り扱うPropyと呼ばれるブロックチェーン企業もあります。かなりの数のブロックチェーンプロジェクトがブルガリアから始まり、非常に大きなコミュニティに成長しています。エンジニアも多く、常に優秀な方が集まっています。

一方で、ビジネス環境自体は非常に伝統的で保守的です。従来型の金融や保険などの大規模なグローバル企業では、同じ企業の本部と比べて各支部でのイノベーションに対する予算が非常に制限されており、何に投資でき、どれだけの変化をもたらせるかということに対して持てる力の量が遥かに少ないのが現状です。その点で、ブロックチェーンのスタートアップエコシステムは非常に素晴らしく、優秀な方達から多くのことを学ばせてもらいました。

インタビュー・編集: Lina Kamada

     

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