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「火星で現金は使えない」スペースチェーンCEO ズィー・ジェン氏(全インタビュー記事)

宇宙空間において人工衛星のブロックチェーンノードでネットワーク構築を目指すSpaceChain(スペースチェーン)CEOのズィー・ジェン氏にインタビューさせていただきました。宇宙産業とブロックチェーン業界を融合する企業として世界をリードするSpaceChainは、すでに3度のブロックチェーンノードの衛星打ち上げに成功しています。インタビューでは、プロジェクトの立ち上げから宇宙に衛星を打ち上げる意味などについて語っていただきました。是非、ご覧ください。

ズィー・ジェン(スペースチェーン CEO・共同創設者)

インタビュー日 : 2020年3月23日

ズィー・ジェン氏(全インタビュー記事)

暗号通貨から宇宙へ

ブロックチェーン技術には、ずっと魅力を感じてきました。私は、BitcoinやEthereumが出てきた時からこれらのコミュニティーにいます。ブロックチェーンでのスマートコントラクト実装に興味があったので、特にEthereumに関わり続けてきました。最初にブロックチェーンの通貨システムと機能を調べ、決済システムに関する知識を得た後、スマートコントラクトを作り始めました。ある日、思い切ってブロックチェーン技術で事業に挑戦しようと決心しました。その後、世界最大の暗号通貨、Bitcoinの投資家の1人であり、私の師でもあるティム・ドレイパー氏に会いました。ドレイパー氏と様々なアイデアについて話を始め、SpaceChainを設立することとなりました。

Zee Zheng

また、共同創設者兼CTOであるジェフ・ガージクとの出会いもありました。彼は初期のBitcoin開発者の1人であり、Bitcoinコミュニティに貢献を行なってきた主要な人物でした。Bitcoinや多くのブロックチェーンにおいて分散型のアプリケーションが利用可能でしたが、全ての分散型アプリケーションが集権型のインフラで構築されていたので少し戸惑いを感じていました。私とジェフはこのようなことついて話し合い、宇宙空間をベースにしたインフラが最善の解決策となるのではないかと考えました。SpaceChainは、2年間で既に3度の打ち上げを行なっています。

宇宙産業と暗号通貨業界の違い

宇宙産業に従事することは容易なことではありませんが、同時に楽しい部分もあります。宇宙産業とブロックチェーン業界は発展のペースがそれぞれ異なり、二つの業界をうまく繋ぎ合わせることが最大の課題でした。ブロックチェーン、暗号通貨の領域では、多くの新しいことが毎週のように起こっています。 2年半前に事業を始めた時は、暗号通貨の世界でほぼ毎日新しいことが起きていました。現在は政府と大企業が関わり、暗号通貨業界はより法律に沿ったものへと変化しています。一方で、宇宙産業は80年〜100年前から存在していて、多くの企業は依然として非常に伝統的です。30年から50年も続いている宇宙企業もあるので、10年続いていても若い企業と見なされます。また、変化も規制もゆっくりとしたペースで行われています。

私達は、1年から2年先を見越して計画を作っています。今後1年以内の暗号通貨業界の発展を予測する必要があり、その年の顧客のニーズがどこにあるかによって方向性は違ってきます。私達のビジネスは、ブロックチェーンコミュニティとスペースベンチャーの間を行き来する必要があるので、非常にやりがいを感じています。これまで話し合ってきた多くの宇宙専門家は非常に伝統的な方達で、暗号通貨の分野に関してはほとんど知りませんでした。暗号通貨について知っていたのは、ハッキングとボラティリティについての話題だけでした。彼らに対する説明を常に続け、取り組んでいる課題や2つの業界がそれぞれの強みを活かせることを知ってもらう必要があると思います。

宇宙空間と地上のインフラ

SpaceChainの当初のアイデアは、分散型のインフラを構築することでした。従来のように地上のインフラを利用する場合、その設備は世界中に設置する必要があります。しかし、接続可能性の点から見れば、衛星インフラの方がより広いエリアをカバーできるため合理的なのです。ローカル環境でブロックチェーンのインフラを構築することは非常に困難です。さらに、ブロックチェーンの本質はグローバルでのアクセスが可能な点であり、地上から接続設備の構築を始めると、カバーしなければならない部分が遥かに大きくなってしまいます。

もう1つの大きな違いは、宇宙はよりニュートラルであることです。SpaceChainは単一の会社ですが、中国や米国など様々な国で立ち上げを行なっており、将来的には他の国のパートナー企業とも提携する可能性もあります。複数の地域でインフラの管理が行われており、設備を維持するという点では、それぞれの地域にある地政学的リスクに対して耐性があるのです。

火星で現金は使えない

次の世紀には人類が火星に移住し植民地化が可能になるかもしれませんが、そこではどのような通貨が使用されているのでしょうか。火星は完全に新たな場所であり、世界経済からは分離されているので米ドルや日本円のような通貨は単純にうまくいきません。そのような場合、Bitcoin、またはバーチャルな通貨が選択肢として魅力的なものになると思います。火星まで紙幣を運ぶことは考えられないので、未来の通貨としてはBitcoinが遥かにうまく機能するでしょう。

私達は、宇宙産業とブロックチェーン業界の融合という点で確実に先駆的な企業です。SpaceChainは、欧州宇宙機関(ESA)から資金提供を受けていて、国際宇宙ステーション(ISS)、ナノラックス社などの既存の企業とも協力を行なってきました。 SpaceChainが業界の融合を先導し、宇宙が素晴らしい選択肢であると皆さんに知っていただくため、できるだけ多くの方に参加していただきたいと思っています。最初に始めた時は私達だけしかいませんでしたが、プロモーションを通じて多くの企業の方にこの領域の可能性に気付いていただきました。 SpaceChainのビジョンは、人工衛星ノードの大規模なコンステレーション(多数の衛星を協調して動作させる運用方式)を構築することです。より多くの宇宙企業がブロックチェーンと融合する可能性を理解できれば、グローバルな集中衛星ネットワークを構築するという目標が達成できます。私達はオープンソースの宇宙技術を提供していて、専門知識も進んで共有しています。

衛星通信でのハッキング防止

マルチシグ(マルチシグネチャー)は、私達が衛星で採用している最も重要な技術です。1つの秘密鍵ではなく、複数の鍵を使用することでセキュリティを強化できます。2019年12月に、私達はSpace Xで衛星の打ち上げを行い、ブロックチェーンのハードウェアウォレットを国際宇宙ステーション(ISS)まで送りました。このウォレットは、トランザクションを行うユーザーのデジタル署名に活用される予定です。トランザクションを行いたい2者がリクエストを送信すると、そのトランザクションを承認するためのデジタル署名が衛星から提供されるという仕組みになっています。ここでは、地上のインターネットとは全く異なる衛星通信を使用しています。この衛星通信においてハッキングを行いたい場合、ハッカーはSpaceChainのシステムを通り抜ける必要があります。通常、ハッキングはサーバー上で直接行われ、約99%が地上のインターネット経由で実行されるので、それを防ぐための代替の通信方法として衛星を活用しています。

非常に興味深い点は、私達がトランザクションを故意に遅らせることも可能ということです。例えば、通信データが地球上にある特定の地点を3回通過(数時間が経過)しなければトランザクションが承認されないというように、その処理時間を設定することができます。これは、ハッカーにとっては非常に不利な状況です。システムをハッキングするにはトランザクションをできるだけ早く実行することが必要で、何時間も遅延が発生してしまう状況は避けたいはずだからです。私のビジネスパートナーの話によると、ハッキング事件を阻止すること自体は不可能ではないが、そのトランザクションは非常に早いスピードで実行されてしまうそうです。仮に、ハッキングに数時間が必要な場合、それを防止することができ、問題が解決できるのではと考えられています。

通信インフラを変革

データの通信方式を変えることが、SpaceChainの強みであると考えています。私達はブロックチェーンの性質自体を変えるのではなく、データの転送方法を改善しています。Ethereumや他のコインが取り組んでいるスケーラビリティ向上の流れも支持はしていますが、彼らが行っていることには関与しません。誰かに電話する時、通常の地上インフラの代わりに衛星という方法が選択できるように、その根本にある通信方法、通信機能の部分を変革したいと考えています。これにより、基本的にはハッキングのリスクは軽減されます。また、使用しているインフラやトランザクションという概念を変えようとしています。例えば、即座に承認が得られる署名方法とは別に、「Approval Orbits:周回軌道承認」と呼ばれる方法もあります。衛星が地球の軌道を指定された回数だけ周回しない限り、そのトランザクションが承認されないという仕組みです。

既に非常に多くの革新的なブロックチェーンプロジェクトがあるため、私達は独自のブロックチェーンを構築したいとは考えていません。宇宙産業とブロックチェーン業界の橋渡しとして出来るのは、システムの改善です。ブロックチェーンを新たに構築するのではなく、それらを繋ぎ合わせるということを行っています。既にEthereumとBitcoin、Qtumをシステムに統合しており、システムのアップデートも継続的に行っています。Qtumは私達のパートナーの1つで、2017年に初めて生まれたProof of Stake(PoS)のスマートコントラクトプラットフォームです。宇宙企業が直面する最も困難な課題の1つは電力であり、衛星は大量のエネルギーと電力を消費するため、あまり効率が良くありません。 Qtumを知った時、スマートコントラクトを実行するために使用するエネルギーがはるかに少ないPoSという方法に感銘を受けました。

グローバルな分散衛星ネットワーク構築

スマートコントラクトの最大のリスクの1つは、特にビジネスで期待される役割という点で過大に評価されていることです。初期の頃は、誰もが興奮し、スマートコントラクトで全てを自動化したいと考えていました。ただし、データは非常に重いアプリケーションも多く、より複雑なインフラが必要となります。全てのデータをスマートコントラクトに入れてしまうと、問題を解決するどころか、それ自体が大きなリスクとなってしまう可能性があります。SpaceChainでは、スマートコントラクトを宇宙企業が人口衛星と連携を行う手段として活用することで、当事者間でトラストレスなネットワークを構築しようとしてます。従来の方法では、信頼関係を構築しビジネス関係を確立するために、多くの話し合いと会議が必要となっていました。ブロックチェーンのスマートコントラクトを使用することで、データ共有の契約をより簡素化し、ビジネスにおいては未来の契約の形になると信じています。

SpaceChainの最終的な目標は、ブロックチェーンだけでなく、他の多くの産業もサポートできるグローバルな分散衛星ネットワークを構築することです。宇宙産業で私たちが直面している最大の課題の1つは、多くの企業が自分達の集まりの中で互いに競争し合っていることです。2020年の初めには、大手の投資会社から出資を受けていた大きなプロジェクトが資金不足になりそうでした。多くの企業が互いに競合し合っているため、このようなことが宇宙産業で非常に頻繁に発生しています。各企業が独自のプロジェクトを進める代わりに、コミュニティに共同で貢献できるような集まりを構築することが私達の提案です。他の企業がこのアプローチを採用しない主な理由は、信頼の問題だと思います。宇宙産業は複雑で、機密情報がたくさんあるため、SpaceChainが異なる衛星間を繋ぐ信頼できるシステムにしたいと思っています。企業同士が相互に信頼でき、システムを信頼できることが最も重要なことだと考えています。

世界中で合法的な資産に

なぜ、暗号資産に反対しようとする国が一部にあるのかが、私にはあまり理解できません。伝統的で集権化的な銀行がコントロールする力を維持するために暗号資産に反対していることは知っていますが、この現象を止めることはほぼ不可能である考えています。

最終的には、暗号資産コミュニティと集権的な銀行の両方が統合される可能性もありますが、暗号資産が銀行を完全に置き換えることはないと思います。従来型の銀行が提供するカスタマーサービスや、人と人との窓口は必要とされ続けると思いますし、この暗号資産システムを使用したい人々が法的資産へとアクセスできるようにすることは非常に重要です。

ドイツのような国は暗号通貨を資産として合法化し、インドは暗号資産の禁止を取り下げました。これら全ての動きからわかるのは、それぞれの機関が暗号資産とのバランスをうまく取ろうとしていることだと思います。そして、これが世界全体が進んでいる道なのだと考えています。

暗号資産は現在価格を反映

ボラティリティというものも暗号資産には必要だと思っています。「資産」として重要となる要素は、その価格発見機能と流動性です。適正な価格発見の仕組みがある場合、50%の価格上昇があるように、それが50%下落してしまうことも受け入れる必要があります。

それに対して、サーキットブレーカーや市場介入がある株式市場では、これらの資産の本当の価値や市場の状況を理解することは非常に困難であると思います。中央政府は市場を安定させるための対策を講じることができます。例えば、一部の国では、購入のみが可能であり、売却ができない場合があります。

これは非常に興味深い例で、資産を管理する権利は自分自身で持つべきです。株式市場と暗号資産市場の両方にボラティリティが存在し、これにより適正な市場価格を発見することができますが、自由にコントロールが可能な暗号資産の価格は、現在の状況をもっと正確に反映することができると思います。したがって、このコミュニティが成長していく中で、暗号資産の世界で何が起こっているか、そしてその可能性について人々に教育することは非常に重要です。

シンガポールの暗号資産

シンガポールには投資に精通した金融の専門家が多くいるため、Bitcoinについても3年間ほど前から非常によく研究されています。シンガポールの若い専門家はBitcoinについて理解していますが、彼らが好きなのはそのテクノロジーであり、取引には興味がないという人が多いようです。

そこにジェネレーションギャップがあるとは思いませんが、ブロックチェーンには興味があるがBitcoinにはないという人や、どちらに対しても強い興味がある人など、認識のギャップは存在しています。たとえBitcoinについてよく理解していたとしても、購入しないという人も多くいます。

私達がシンガポールで連携している暗号通貨交換所では、KYC確認に標準のシステムを採用しています。シンガポールで事業を行うことの強みの1つは、英語圏の国であるため、ビジネスプロセスが簡単に理解できることです。

それに対して、取引所が他の国に進出すると、そこで法的に必要とされているIDの情報を選別するのが非常に難しいことに気付きました。そのため、一部のユーザーは登録を行うことが非常に困難な場合があります。例えば、ある取引所が80ヵ国をカバーしているとしても、業務とKYCのプロセスに確信を持てない国があり、そこに関与してしまえば取引所のシステム全体に対する脅威となってしまう可能性があると思います。

資産のバックアップを宇宙空間に

SpaceChainでは、暗号通貨と宇宙産業のコミュニティの人達をネットワークで繋げたいと思っています。私達はBitcoinや他のブロックチェーン、デジタル資産のためのサイバーセキュリティソリューションを未来のために提供しています。これら全ての要素を結び付け、人々が安心安全に感じるように、ユーザーをハッカーから保護しようとしています。次世代の金融インフラは既に大きいですが、今後もさらに大きくなっていくと思います。

ブロックチェーンをビジネスに活用する場合、堅牢性を保ちネットワークが崩壊してしまうリスクを軽減するためには、インフラ内部でのノードによる検証が非常に重要になります。例えば、コロナウイルスなどの状況に対しては適切な対策を講じなければ、大きなリスクとなる可能性があります。資産を守るためには、あらゆる種類のバックアップを持っておくことが必要不可欠となります。予期しない事態が発生した場合に備えて、宇宙空間に資産のバックアップを置くことは非常に重要であると思っています。

私達はノードのインフラとして、人々が自分の資産に容易にアクセスできるようにしていきたいと考えています。私達が注目しているのは、想像を絶するようなインフレ率を経験し、現地通貨が暴落しているアフリカの発展途上国です。彼らは米ドルを使用する場合もあれば、現地通貨を使用する場合もあるようで、更には世界共通にアクセス可能なBitcoinも頻繁に使用されていると聞いています。そのため、そのような国の人々もアクセス可能な宇宙インフラを作りたいと思います。

お金の再定義

Covid-19の大流行により、資産を積極的に売却する人が増え、市場の暴落が引き起こされました。そして、多くの取引所が新商品をプロモーションするようになったことが原因で、暗号通貨が過剰に取引されています。ただ、長期的に人々はマーケットについてしっかりと理解するようになると思います。

米国の株式市場とBitcoin市場を見ると、中央政府によって何十億ドルものお金が投入されている経済と比較しても、暗号資産のパフォーマンスは悪くありません。資産の供給量が限られているため、Bitcoinが非常に重要になっていくことを人々は認識しています。全ての中央銀行がお金を投入し続ければ、あなたが保有している法定通貨は最終的にどんどん価値が少なくなってしまいます。

そのような金融政策に関して言えば、今がBitcoinにとっては最高の時期だと思います。Bitcoinが最大の発明だったのは、その技術だけでなく、更に重要な金融政策に対する思想があります。現代の経済と銀行システムにおいて、何が機能し、何が機能しないのかを考えさせられます。人々は本当の答えを探し続けているので、Bitcoinにとっては最もエキサイティングな時期だと思います。

インタビュー・編集: Lina Kamada

     

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