ブロックチェーンを利用したデジタルアートのプラットフォーム、SuperRareのCEOであるジョン・クレーン氏(John Crain)にお話を伺いました。SuperRareは、NFT(非代替性トークン)の仕組みを利用し、デジタルアート作品をEthereum上で発行し流通させるサービスを提供しています。
ジョン・クレーン氏 (SuperRare CEO)
インタビュー日 : 2020年11月11日
ブロックチェーン上のデジタルアートの窃盗
SuperRare上でアートがハッキングされたり、ロンダリングされたりしたことはありません。しかし、SuperRareからアート作品を持ち出して、別のデジタルアートプラットフォーム上でNFTトークンを作成されたケースがありました。これは大変腹立たしいことでした。
特に大変な思いでがんばって作品を作ったアーティストにとっては、より一層腹立たしいことです。ものすごく努力して作り上げた作品を、他の人に奪い取られて手柄にされたら、誰だっていい気分ではありません。
我々はこのようなことが起こらないように、他のプラットフォームやマーケットプレイスとパートナーになり、協力し合いました。
不正な作品があれば、ウェブサイトから削除することができます。トークンとオリジナルのアートは紐付けされているので、偽物を見破るのことは非常に簡単です。しかし面白いのは、ブロックチェーン上に作成されたトークンについては、誰にもどうすることもできないということです。
暗号通貨界隈のアート業界で非常に面白いのは、アート業界にいる人はアイデンティティや評判を好み、とても重要視しているという点です。
これはたしかに他の世界にも通じる話ではありますが、アートのコミュニティの場合は特に、アイデンティティと評判という部分がコミュニティの中核となっていて、これがコミュニティを機能させているとものだといっても過言ではありません。したがって、このコミュニティの特徴自体が、大規模な詐欺を抑制している一因となっています。
見知らぬ匿名の誰かが、スクリーンショットを撮ったりアートを盗んだりといったことは起こりえます。しかしそのようにして奪われたGIFファイルに価値はありません。アートプラットフォームと暗号通貨プラットフォームを連携させれば、偽アートを減らすこともできると信じています。
デジタルアーティストとして生計を立てる
みんながみんな、SuperRareでアートを出すことによって暮らせるというわけではないのですが、中にはSuperRareでデジタルアートを販売して生計を立てているアーティストもいます。
SuperRareはアーティストの間で人気になったので、プロのアーティストもたくさん集まってきています。プロのアーティストたちはおそらく、デジタル作品の他に、普段は彫刻や油絵といった作品をギャラリーのために創作しているのだと思います。
しかし2020年はパンデミックで、多くのギャラリーが閉鎖しました。そんな中多くのプロのアーティストたちがSuperRareに転向して、デジタルアートで生計をたてているというのは、なかなか驚きだと思いました。
自分の作品も掲示しているのか
私は個人的に作品を作ってSuperRareに載せたりはしていません。もしも自分のアートをSuperRareに掲載してしまうと、利害の対立があるかもしれないからです。しかしチームメンバーの中には、自分のアート作品をSuperRareに掲載したり、他のアーティストとコラボしたりしている人もいます。
デジタルアートの市場規模や競合について
我々には何社かパートナーがいます。例えばDecentralandです。Decentralandは、NFTマーケットプレイスも持っています。そして我々はEthereum上にスマートコントラクトがあるので、Decentralandと直接統合できます。
パートナーだけではなく、ライバルもいます。例えばMakersplaceというプラットフォームや、デジタルアートに力を入れているNifty gatewaysという会社などが、我々の競合にあたります。
実際には、デジタルアートの業界には想像以上に多くの人が関わっています。また、美術館やギャラリーの近くに住む必要がなくなったという面もあり、人々はアートにより参入しやすくなりました。
市場の規模感でいうと、今のところは1万人ほどだと考えています。しかし今後5年の間に、何百万人もの人がデジタルアートに関わるようになると推測しています。
この業界はインターネットでかなりアクセスしやすくなりましたが、それでも希少価値の部分はまだ維持されていると思います。
アートとBitcoinの共通点
我々はコレクターやアーティストにインタビューをしているのですが、コレクターたちからよく聞くのは「以前から何となくアートに興味をもっていて、アート収集に興味があった。しかしどうやって始めたらいいのかよくわからなかった」ということです。
Bitcoinもこれとなんだか似たようなところがあると思いました。Bitcoinは、今まで金融についてよく知らなかった人たちに、金融について教えてくれました。人々はそれまで、権力者が決める事柄に対してなす術がなく、はじめに何をどうしたらいいのか、分かっていない状態でした。
しかしBitcoinがリリースされると多くの人が「自分にも何かできるかもしれない、何か変えられるかもしれない」と考えるようになったのです。アートもこれと似ているのです。実は参加できるのに、そうする機会がなかっただけなのです。
ロイヤリティをどうするか
過去の50年をみてみると、アーティストのためにより公平なシステムをつくろうとする試みがいくつかありました。
たとえば1970年代フランスでは、アーティストがまだ生きている内にコレクターがアートを転売した場合、売却額のいくらかをアーティストに支払わなければならないと義務づける法律が制定されました。ただこの法律は実行がとても困難だったため、実際には普及しませんでした。
しかし我々はここから着想を得て、このアイデアをプラットフォームの中に組み込みました。システム内でアーティストが生きている限り、作品が転売されるたびに作動する自動の機能をつけたのです。
様々なロイヤリティのシステムをみてみると面白いです。たとえばSportifyのシステムは受け取りを待つ期間が長く、アーティストがロイヤリティを受け取るまで半年かかることもあります。
その点Ethereumモデルのブロックチェーンシステムでは、短期間内に自動的にロイヤリティが発生します。
ソーシャル・コレクティングとは
ソーシャル・コレクティングという言葉の背景には、アートは友達と一緒に楽しんだ方がより楽しい、という前提があります。我々が最初に目指したのも、アーティストやコレクターのためとなる楽しく魅力的な体験づくりです。
我々には、楽しいオンラインコミュニティ、そして皆で楽しめる交流の場がありました。これらを参考にして、コレクターやアーティストがオンラインでSuperRareを通じて交流できる場を作りたいと考えたのです。
ゲーム業界に接近するアート業界
アートとゲームのちょうど間くらいに、面白い領域ができはじめていると思います。現代アートも伝統的なアートも、業界としてはすでに落ち着いてきているため、動きもゆっくりです。
しかしそんな中人々はDiscordを使って交流しはじめました。するとアートの世界とゲームの世界の端部分が、少しずつまとまりはじめたのです。
今ではゲームとアート、両者の世界の要素や特徴が色々と混ざり合ってきています。そしてこの工程はまるで、新しいものを作り上げているようです。
例えば我々は、VRアートショーを何度か開催しました。アーティストがVR彫刻を制作して、Unityといったツールを使いVRショーをするのです。Unityというのは、アートを鑑賞のための世界をつくれるゲームツールの一種です。
これはビデオゲームとかではなく、VRでコインを集めるわけでもないのですが、VRアート体験で使われたツールはすべてゲーム業界から来ています。ゲーム業界のツールを使うと、たとえばVRヘッドセットをつけてVRギャラリーに入り、彫刻を鑑賞したりすることができます。
近い将来、こういったVRツアーをグループで行うようになるかもしれません。チャットも活用すれば、絵を見ながらのライブチャットなんかもできるかもしれません。
アーティストが自分の作品について話し、それを録音することもできます。そうすると、アートのVR世界に入り作品に近づけばアーティストの音声が流れて作品について教えてくれる、なんてことも実現できます。
こういった体験はまるで、美術館体験とビデオゲームのストーリー体験を織り交ぜて、新しいジャンルを作っているようです。
パンデミック後のアート業界
いずれはパンデミック前のように、人々が実際のギャラリーや展覧会に足を運び、またリアルな生活の中で交流をしていくようになると思います。とはいえ、パンデミックのおかげで、アートは少しずつ前進していると思います。
アーティストがビデオゲームを作ったり、その他のデジタルアートを作ったりということはこれまでもたくさんありました。しかしそれでもどうしても、ゲームの世界とアートの世界の間には超えられない大きな境界線があります。
パンデミックの後のアート業界においては、個展やギャラリーでの従来の展示方法をまた戻しつつも、超えられなかった境界線が少しずつ曖昧になっていくのを期待したいです。
SuperRareの向かう先
我々は、アートを定義する境界線を押し広げ続けたいと思っています。
ビデオ、オーディオ、バーチャルリアリティ、ゲームなどなど、今でもアートの種類は非常に様々です。そしてこれから先は、本当に面白いミックスメディアが出てくると思います。
だからこそ我々は、アートを作れるというだけではなく、体験できるプラットフォームでありたいと思います。これこそ我々が前へ進める分野だと思っています。
インタビュー・編集: Lina Kamada
翻訳: Nen Nishihara
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