ブロックチェーンを利用したデジタルアートのプラットフォーム、SuperRareのCEOであるジョン・クレーン氏(John Crain)にお話を伺いました。SuperRareは、NFT(非代替性トークン)の仕組みを利用し、デジタルアート作品をEthereum上で発行し流通させるサービスを提供しています。今回のインタビューでは、作品の価格設定や既存のアート作品との関係性などについて語っていただきました。
ジョン・クレーン氏 (SuperRare CEO)
インタビュー日 : 2020年11月11日
SuperRareのCEOのジョン・クレーン(John Crain)と申します。SuperRareは、Ethereumのブロックチェーンの上につくられた、デジタルアート収集のための世界最高のプラットフォームです。
我々はデジタルアートのアーティストやコレクターたちのために、素晴らしいアートを展示したり収集したりするのに必要なツールを提供することで、アート収集の未来をつくっています。
SuperRare設立のきっかけ
大学時代にジェネレーティブアート(Generative Art)にとても興味がありました。ジェネレイティブアートとは、コンピュータやプログラミング、プロセッサーを使ってアートを作ることです。
数年後にBitcoinとEthereumに出会い、その技術に大変興味を持ちました。私はこの新しいコンセプト、インターネット上でプログラムできるお金であり、インターネット上でプログラムできる価値をもつデジタル通貨という技術が、非常に興味深いと感じました。
私はEthereumに夢中になり、この新しい技術を使って、人々のために、特にアーティストのために、新しく面白いビジネスモデルをつくりたいと思って、その方法を考えるようになりました。
YouTubeやInstagramなどのプラットフォームを見てみると、生み出された価値のほとんどが、プラットフォームの収益になってしまいます。我々は、プラットフォーム上で創造された価値を、もっとユーザーに還元できるようなものをつくりたいと思いました。これがSuperRareの始まりです。
SuperRareのためにEthereumを選んだ理由
実はBitcoinでもプログラミングを試みたのですが、かなり難易度が高かったです。スクリプト言語自体は非常にシンプルなのですが、実際に使用するとなるととても難しいのです。それに比べてEthereumは遥かに柔軟性がありました。
SuperRareをどんなプラットフォームにしたいかを考えた時に、Solidity(Ethereum上で動くスマートコントラクト開発の言語)は、ロイヤリティのプログラムができたり、流通市場でアーティストとやりとりしたりできるという点で、とても魅力的でした。
ほんの少しコーディングをするだけでこのような機能を実現できるのです。これにより強力な構想を実現できるので、より公正で公平なエコシステムをつくることができます。コードのシンプルさ、コーディングのしやすさ、さらには資金や所有権を移転できるというEthereumのもつ強みは、大変魅力的でした。
EthereumとBitcoinの棲み分け
Bitcoinは大変面白いと思いますし、最初に出現してこの界隈全体を形作ったコインです。Bitcoinはデジタルマネーであることに重きを置いていて、その狙いの通り、優れたデジタルマネーとして機能しています。
Ethereumはというと、何に使われているのか、あまり明確に決まっていません。デジタルマネーとして使用する人もいれば、アプリケーションやDapps(分散型アプリケーション)に使用する人もいます。それゆえにEthereumはまだ、何者なのか定まっていないのです。それに比べると、Bitcoinはしばらく前から存在しているので、技術としては比較的成熟しています。
したがって、どのような機能を求めているか、デジタル資産なのか、プラットフォームなのか、といった具合に、ユーザーの求めるものの違いによって、2つコインの異なる用途が近年だんだん明らかになってきました。
SuperRareとアーティスト
SuperRareの申請プロセスは、アーティストにとって非常にオープンなものとなっています。誰でも我々にコンタクトをとり自分の存在をアピールした上で、アーティストとしての自己紹介や、自分の取り組み、作品の紹介をすることができます。
我々のキュレーションチームはSuperRareのスタッフとコミュニティのアーティストで構成されています。このキュレーションチームがアーティストの応募を受け付けています。
今のところ我々のプロセスは人の手作業によって行われているのため、どうしても全てのアーティストが参加することはできません。しかしSuperRareが成熟していくにつれ、より多くのアーティストがプラットフォームを利用するようになるでしょう。
我々のプラットフォームに参加しているアーティストの多くは、デジタルネイティブで、デジタルアートの経験が豊富です。モーショングラフィックスやVR(バーチャルリアリティ)彫刻など、様々な取り組みを行っています。
今までの現代アート市場には彼らの居場所がありませんでした。デジタルアートは、現代アートの中のほんの1分野で、なかなか盛り上がりませんでした。そこで我々はNFT(非代替性トークン)などの技術が、アート収集とデジタルアート鑑賞を流行らせるための強力な触媒になると考えました。
SuperRareを利用するコレクターは、新しく珍しいアートに興味を持っています。SuperRare上で情報収集をするにはいくつか方法がありますが、最も人気なのはアクティビティフィードを利用することです。
これはまるでInstagramのように、SuperRare上の全ての出来事をライブストリームでチェックできる機能です。例えば、新しい入札があるかどうか、アーティストが新しいアート作品を創作したかどうか、といった情報を見ることができます。
プラットフォーム上にどんなアート作品があるかを把握した後は、マーケットプレイスへ行って好きなアートを購入することができます。マーケットプレイスは特定の種類のアートを探して購入するためのツールです。
NFTとアート
NFT(非代替性トークン)とはトークンの規格の一種です。NFTの最大の特徴は、固有のIDをもつ点です。NFTを発行すると、固有のIDが得られます。
固有IDがあると、特定のトークンを、誰がどこで使っているのかを具体的に知ることができます。誰かに送った場合でも、転送されたということを追跡できます。このNFTのもつ固有IDという特徴が、アートの世界にとって魅力的なところです。
NFTはその性質上、アートの来歴を追跡することを可能にします。つまり、誰によって所有されていたのか、いつ創作されたのか、本物かどうか、といった情報を知ることができるのです。これらの情報を確認することで、アートによくある偽物の問題を減らすことができるのです。
SuperRareでは、全てのアーティストが独自のNFTを発行します。コレクターなどSuperRareにアートを探しにくる人たちは、NFTの発行元や発行された日時といった様々な情報を確認することができます。
このシステムの従来と違うところは、アートの出所を明確にできる点です。さらに利用者は、システムの提供するオープンソースのアートに関するデータセットをほぼ無料で使うことができます。
NFTによってアート作品は唯一無二のものになります。NFTはいわば、本物であることの証明書のような存在です。現状、デジタルでない物理的なアートの世界においては、アーティストやコレクターのためにこのような証明書サービスをつくるのはまだかなり難しいです。
アート作品のファイルの全情報を取り込んで署名し、ハッシュを作成し、ブロックチェーン上のトークンに保存すると、NFTが発行されます。 このNFTによる証明書は、誰も偽造したり複製したりできないものです。 この世に1つしかない存在で、1人の人しか所有できないので、デジタルの希少性が生まれます。
アートの価格設定
価格設定はオープンマーケットで行われ、いくつかの方法があります。アーティストがオークションを行うという方法が一般的です。
アーティストが新しいアート作品を制作し、SuperRareのオークションシステムで新作を発表すると、誰でもそれを見ることができるようになり、オークションを始めることができます。別の価格設定方法として、作品にはじめから特定の価格を設定することもできます。
古くなった作品やトークンはどうなるか
興味深い傾向として、トークンは一般的に古くなるにつれて価値が上昇するということを観測しました。全ての作品がそうというわけではないのですが、有名なアーティストの作品に関しては、価格が上がっていきます。
それから、例えば2年前に創作されたアート作品と、昨日創作された作品とでは見られ方が違ってきます。こういった点を考慮すると、この世界にも、物理的なアート収集と通ずる要素が確かにあると思います。
Ethereumとドル、どちらを使用するか
実際の購入メカニズムはEthereumで行われます。 人々はEthereumで支払いをするのですが、コレクターの多くはドルベースで考えています。 コレクターは質問をしたり入札したりできるのですが、購入時の価格などはドルベースで記録されます。
アーティストが作品の価格を掲載する時はEthereumベースです。それを我々がドルだといくらになるか、ドルベースで記録するのですが、実際のトランザクションはEthereumで実行されるという仕組みです。
SuperRareの激動の年
2018年4月に、私を含め3人のメンバーでSuperRareを共同設立しました。その際にEthereumのメインネットワーク上で、最初のバージョンとなるプロジェクトを立ち上げました。
その少し後に4人目のメンバーが加わり、着々と成長してきました。新しくアーティストやコレクターが参加してきたのですが、爆発的な成長とまではいかないもので、ゆっくりとした成長でした。
しかし1年ほど前から、物事が急速に軌道に乗り始めました。 これには何点か異なる要因があったように思います。そのうちの1つは、デジタルアートを収集して自慢のコレクションをつくる人が現れたため、色々なバーチャルプラットフォームが登場してきたことです。
中にはCryptovoxels、Decentraland、Somnium Spaceなど、非常に有名になってきたプラットフォームもあります。この3つのプラットフォームがおそらく人気トップ3だと思います。
アーティストがVRのギャラリーを作っているのを目にして、人々が集まってくるようになり、「すごく熱中できるアートだ」「どこから来ているのだろう」と興味を持ってくれるようになりました。
こうしてSuperRareの成長の大部分はここ1年の間に起こりました。そして我々は現在、600人以上のアーティストと約2000人のコレクターを抱えています。この1年は間違いなく激動の1年でした。
SuperRareでグローバルなアート収集を可能に
SuperRareは現在、世界中で203カ国もの人々に利用されています。アートそのものもアート収集も非常にグローバルなものです。アートは誰もが共感できるものですが、 従来のアート収集には難点がありました。
まず美術館やアートギャラリーの近くに住んでいないと、なかなかアート収集に手が出ません。しかもアーティストは世界中にいます。ラテンアメリカ、東南アジア、北米、ヨーロッパなど、各地域に散らばっています。
地域と言えば、我々のプラットフォームを最初に利用していた大規模なコレクターの1人が、どこを拠点にしていたのかについて、様々な憶測が飛び交っていました。彼のツイッターなどの情報から、おそらくギリシャを拠点にしていたのではないかということが分かりました。
このように、我々はこの素晴らしい空間を通して、本当に幅広いユーザーと接点をもっています。我々はTelegramで、仲間と交流するソーシャルプラットフォームを始めましたが、現在は界隈にいる仲間たちと交流にはDiscordを使用しています。
インタビュー・編集: Lina Kamada
翻訳: Nen Nishihara
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