台湾のデジタル担当大臣である、オードリー・タン氏にインタビューさせていただきました。国家は暗号通貨を法定通貨として採用すべきかどうか、ブロックチェーンから着想を得たという台湾の投票システム「総統杯ハッカソン」、NFTの価値はどこにあるのか等、暗号通貨技術をめぐる様々な疑問や話題について語っていただきました。ぜひご覧ください。
インタビュー日 : 2021年7月9日
選挙にブロックチェーンを導入する必要性はあるか
まず私は、現行の紙ベースの投票システムと集計システムが必ずしも中央集権的だとは思っていません。現行の制度では、それぞれの投票所が独立して集計を行い、また独立したオブザーバーが経過を観察します。
台湾では、ユーチューバーが集計作業の様子を撮影することもあります。したがって、今の投票制度が中央集権的というよりは各地域に分散化された仕組みであるということ、そして仕組み自体の透明性も担保されていると言えます。
まずは各地方の投票所が集計を行うのですが、この個別の集計は最終的には国民の総意として集計されて、たとえば総統を選出したりといった重大な決定が行われる際に利用されます。
このような特徴から考えてみても、現行の紙ベースのシステムが中央集権的な仕組みであるとは言えず、強いて言えば、どこか1カ所で印刷された投票用紙が各地区や自治体に配布されるというところ以外は中央集権的な特徴は皆無であると思います。
したがって、紙ベースの投票システムの対極にあるものとして、ブロックチェーンベースの「より分散化された」システムを構築する必要なないと思っています。
もしかするとブロックチェーンを導入することでシステムの効率性をあげることはできるかもしれません。しかし、ここで一番大切なのは、人々がそのシステムをより安全だと感じられるかどうかということだと思います。
これは決して簡単なことではありません。なぜなら、誰もが暗号通貨の専門家ではないからです。それに全部の政党が、選挙制度について毎回意見することができるほどの数学者を雇っているというわけでもありません。
だからこそ、現時点では我々は人に投票する時にはまだ紙ベースの投票用紙を採用しています。しかし議題設定の段階では、電子投票を利用しています。そして投票の集計段階ではもちろん、ライブストリームを会計用にカスタマイズするなど、デジタル技術を使って監査性と説明責任を最大限に発揮できるようにしています。
しかし台湾では今のところ、多くの投票自体はまだまだ紙ベースで行われています。分散型台帳技術は多くのプロセスで応用することができると考えていますが、この技術が必ずしも、投票のプロセスにおいても必要であるとは思っていません。
台湾政府が導入する議題投票制度
台湾には「総統杯ハッカソン」と呼ばれる、重要議題への投票制度があります。総統杯ハッカソンでは、169項目以上もの持続可能な開発目標の中から重要な項目を選んで投票します。毎年数多くの目標提案がありますが、その中から5つ、特に重要だと思う項目を選んで投票するという仕組みです。選ばれた目標は総統の公約のような扱いになります。
総統杯ハッカソンの投票は完全オンラインです。また、人ではなく議題に対して投票する仕組みで、有権者には議題に対するインセンティブ以外生じないので、人に投票するよりも問題が少ないです。たとえシステムを悪用したところで、誰か自分のお気に入りの人を当選させることができるというわけではありません。したがってシステムを悪用する動機も利益もないのです。
総統杯ハッカソンの投票システムには、ブロックチェーンから着想を得た「quadratic voting(クァドラティック投票制度)」というシステムを使用しています。これは3年前から使っているシステムなのですが、非常にうまく機能しています。
クァドラティック投票制度では、有権者は1つの案にしぼるのではなく、複数の案に投票することができます。そうすると何が起こるかというと、政策の好みのニュアンス的な部分をより豊かに表現することが可能になるのです。
1人1票しかないような投票制度だと、きっと皆が自分の贔屓にしている人に投票するだけとなってしまうでしょう。しかし総統杯ハッカソンにおいては、人々は様々な案の相乗作用を考慮しながら、多くの案をじっくりと検討することができるのです。
インタビュー・翻訳: Nen Nishihara
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