銀行による暗号通貨業者へのサービス提供を禁止したインド準備銀行(RBI)との裁判において、勝訴を勝ち取ったアシム・ソード弁護士にインタビューさせていただきました。インドの中央銀行を相手に訴訟を行った経緯や、国内での暗号通貨の現状についてお話しをいただきました。
インタビュー日 : 2020年3月12日
親日のインド弁護士
私はインドで弁護士をしており、インドとカリフォルニアの両方で弁護士として実務を行う資格があります。主にインドで訴訟を担当しており、インド最高裁判所、その他のインドの裁判所や国際仲裁裁判所でも訴訟に関わり弁護士活動を行ってきました。。私は、暗号通貨に特化しているわけではありませんが、新しい時代のテクノロジーは確かに興味深いものであり、関連する訴訟問題は積極的に取り組んでいきたいと思っています。私のオフィスはニューデリーにある小さい場所ですが、良い仕事ができていると思います。
Ashim Sood
日本の素晴らしいクライアントの方々とも一緒に仕事を始めました。日本は非常に魅力的な国で、年に数回訪れます。とても大好きな国なので、仕事を始めた後に何とかして日本に行ける理由を探し、クライアントを広げるために一生懸命頑張りました。アメリカのロー・スクールに通っていた頃の数人を含め、今では日本の弁護士の友達がいます。日本食も大好きで、いつも日本の友達に素敵な居酒屋に連れて行ってもらっています。インドでも日本語を勉強していますが、私のレベルはまだ初歩すぎて話す事ができません。昨年は母を含め家族全員で来日して、日本各地で長い間過ごしました。
インド準備銀行と暗号通貨界のギャップ
インドでは、暗号通貨に関してスペシャリストと呼べる弁護士は誰もいないと思います。私は、“Nishith Desai Associates”という法律事務所のJaideep Reddy弁護士から、最高裁判所で今回の訴訟を主導するよう依頼されました。私が最高裁判所の訴訟を専門としていることや、テクノロジー関連の仕事に興味がある事を彼は知っていました。彼らには、暗号通貨交換所のクライアントがいて、インド準備銀行(RBI)が通達によってインド国内で暗号通貨の交換を止めてしまったことに異議申し立てを行いたいという説明を受けました。その通達では、暗号通貨取引を行なっている人々の銀行口座を停止するよう、インドの全ての銀行に命じられていました。
「戦い相手は、インド準備銀行か」というのが、私の最初の反応でした。 RBIは政府の右腕であり、経済と通貨システムをコントロールしています。裁判所は、経済問題の専門家である規制当局の判断を再検討することに細心の注意を払っているため、暗号通貨禁止措置の再審理は、裁判所が避けたがる事案でした。通常、このような問題に関しては、裁判所はインド準備銀行の判断に従います。事件が多く、多くの作り話と偏見、恐れで溢れている場合は、特にそうなります。その偏見と恐れのせいで、最高裁判所の裁判官は少し保守的になってしまうと思いました。
名高いインド準備銀行が、「通貨システムは、我々を信頼しなさい。我々が何かを悪と言う時、それは悪なのだ」と言う一方で、反対に技術オタクは「暗号通貨はそれほど悪いものではない」と言っていて、ある意味で本当の世代間の戦いでした。私は、簡単な戦いだとは思っていなかったので、暗号通貨取引所のクライアントに対して「インド準備銀行が一方的な態度をとっていて、そんなにニッチで誤解が多い分野では、恐らく裁判所は耳を傾けない」と言ったのを覚えています。しかし、彼らは戦いを望んだので、最終的に裁判所に足を運び、クライアントのために最善を尽くせるよう準備しました。
暗号通貨での失敗談と訴訟の始まり
私達は、RBIの通達が与えた影響を調査し、異議申し立てを行う根拠があることに気が付きました。私自身も暗号通貨の経験があり、2013年に取引していましたが、利用していた取引所が、突然詐欺で閉鎖してしまったため、全ての暗号通貨を失ってしまいました。その後は、暗号通貨の保有、トレードなどは一切行なっていませんが、もちろん興味はあったので、発展の状況を注目していました。私は、自分の指を火傷してしまった内の一人でしたが、ある意味で一部分の悪役が暗号通貨に汚名を着せているだけと感じました。それは世界中のどんな活動にも当てはまりますが、準備銀行が裁判所を揺さぶるために根拠としていたのが、このような詐欺事件の例でした。私はそれと戦うべきだと感じ、2年前にそれを始めました。
RBIから通達が出たのは2018年4月で、私たちが訴訟を起こしたのは2018年5月でした。裁判所には、審理しなければいけない訴訟のリストが多数あったので、この訴訟は2019年8月まで始まりませんでした。既にインド準備銀行によって解決された事案だと思われていたので、裁判所は受理を行うまで、それが非常に重要な事案であるとは考えていなかったと思います。暗号通貨に関しては、既に正しい判断がなされているという考えが、裁判所には確かにありました。
私達は夜遅くまで働き、多くの資料を集めて勉強しました。法律を勉強しなければなりませんでしたが、技術に関しても深く理解する必要がありました。YouTubeのビデオも20時間近く見て、ブロックチェーンと暗号通貨に全く馴染みのない人達に説明するための最も単純で効果的な方法を考え出そうとしていました。
インド準備銀行が暗号通貨に関わる者に銀行口座の保有を許可しないことを、私達の裁判官たちは理解しました。RBIは、インド政府でさえ違法であるとは言わなかったことを禁止しようとしていました。銀行口座の開設を制限し、禁止することで効果的に措置を機能させるためです。銀行口座にアクセスできないオンラインビジネスに対しては、完全な禁止でした。現金取引ができないことも、裁判所は理解しました。また、私達はインドで暗号通貨に対する禁止措置がこれ以外にはないことも説明しました。
RBIの反論として、禁止措置が目的としていたのは、ユーザーをハッキングや投機から保護すること、そしてマネーロンダリング、テロ資金との戦いでした。しかし、暗号通貨自体を取引所から出金してP2P(1対1)で取引することができたため、これらの禁止措置では実際に何も解決できていませんでした。そのような意味で、この禁止措置は事態を悪化させていたのです。
インタビュー・編集: Lina Kamada
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