Bitcoin、Lightning Networkの開発を行う企業Lightning LabsでビジネスオペレーションのVPを務めるデシレー・ディッカーソン氏(Desiree Dickerson)にインタビューさせていただきました。是非、ご覧ください。
インタビュー日 : 2020年6月25日
デシレー・ディッカーソン氏(全文インタビュー記事)
日本や他のアジアのコミュニティと繋がりを持つことは、私達にとって非常に重要なことなので、今回インタビューの依頼をもらったときは、非常に嬉しく感じました。アジアのマーケットでも、BitcoinやLightning Networkに対する関心があることは知っていました。少し難しくなるのは言語の壁ですが、コミュニティが成長する上でそれが妨げになるとは考えていません。
DoigecoinからBitcoinへ
元々、私は大学院で科学を専攻していていました。当時は、あまり友達が多くなかったこともあり、インターネットに多くの時間を費やしていました。SNSのRedditをずっと見ていて、そこでDogecoinのコミュニティに出会いました。
Dogecoinコミュニティは、私にとって最初の暗号通貨界隈への入り口でした。ニュースやネットでは、Bitcoinや暗号通貨について聞いたことがありましたが、そこから入ろうとは思いませんでした。
Dogecoinは、全体のプロジェクトがコミュニティを中心に動いているので、とても楽しい場所です。彼らは、モータースポーツのNASCARや総合格闘技(MMA)などのスポンサーにもなっています。
それが非常に力強く影響力があるものだと気付き、これがきっかけとなりBitcoinの世界にもシフトしていきました。そこで、Bitcoinが物事のやり方を大きく変える力を持っていると理解しました。
Lightning Labsの取り組み
Lightning Network(ライトニングネットワーク)の目的は、Bitcoinをより速く簡単に、そしてより安価に使用できるようにすることです。そして、私達Lightning Labsの役割は、Bitcoinが機能するためのインフラとレールを構築することです。
Lightning Labsは、次の大きなキラーアプリを作ろうとしているのではなく、そのキラーアプリを作るためのインフラを構築しています。私達が作っているのは、Lightningアプリに必要なインテルのCPUのようなもので、キラーアプリとなる全てのLightningアプリを動かすことを目指しています。
Lightningを簡単な送金方法に
誰しも様々な課題を抱えていますが、私達にとって解決すべき最も重要な課題の1つは、ユーザビリティとアクセスのしやすさです。これまで、Lightningは非常に技術的でエンジニアが扱うものでした。しかし、このテクノロジーは私から祖母まで全ての人が扱えるようになるべきで、それは難しくないと思っています。
現在のLightningは少し複雑で、Bitcoinウォレットを用意した後にBitcoinを入手し、Lightningウォレットを準備してから、そこにBitcoinを送金するという作業が必要となります。
それは、大部分の人にとっては困難なことなので、ユーザビリティについて考える必要があります。私にとっては、ノンカストディアル(非管理的)なソリューションが理想であり、これが仲介者を取り除けるBitcoinに興味を持つようになった大きな理由です。
このテクノロジーの重要な側面ですが、結局のところ、多くの人が自分の秘密鍵を保管するための技術的な知識を持っていない、或いはあまり気にしていないので、それぞれの人に合ったテクノロジーの開発に取り組む必要があると思います。
最終的な目標はノンカストディアルのソリューションですが、一方でより多くの人々に参入してもらう必要があります。それがカストディアルかどうかに関わらず、その方法を考えていく必要があります。BreezやStrikeのように、多くのウォレットやアプリが大きく進化しています。また、ZEBEDEEがゲーム用のウォレットを発売したように、ゲームを通してLightningの世界に新しく入って来る人も増加しています。
送金の考え方を変える
ウォレットを新しいユーザーに広げていくことも課題です。どのように興味を持たせて参加してもらうかを考える必要があります。例えば、人々がクレジットカードを使用する前は、現金と小切手しかありませんでした。この伝統的な資産の移転方法から、完全にバーチャルな方法へと人々の考えをどのように変えていけば良いか。
最近、私が住むビルの管理人からBitcoinについて聞かれ、彼はBitcoinが完全にバーチャルであることに関して否定的な考えを持っていました。毎日、請求書の支払いをしたり、Amazonで何かを買う時などに、実際にそのお金を目にしているのかと私が尋ねてみると、彼の返事はノーでした。なぜ法定通貨の場合はデジタルであっても問題なく、Bitcoinとなると物理的であるかが気になってしまうのか。
これも、私達が取り組むべき課題の一つですが、有り難いことに最近では、今までよりも少し理解されてきているようです。完全な初心者から技術者に至るまで、全てのレベルの人に対して語りかけ、より良い教育を行っていく必要があります。ビジネスとマーケティングの観点からは、どのようにおもしろくできるか、簡単に参加できるようにするかということが、個人的には重要視している部分です。
Lightning NetworkはHTTP
オンチェーン(On-chain)とは、全てのトランザクションが記録される「事実」のレイヤーであり、Lightning Networkは、それをより効率的に行うための2番目のレイヤーです。Lightning Networkは、BitcoinというTCP / IPプロトコルに対するHTTPのようなものです。
Lightning Networkは、Bitcoinの上にある巨大なスパイダーウェブまたはペイメントチャネルのネットワークであり、全てのチャネルがこのネットワークを介して他のチャネルと接続することができます。
まず、ペイメントチャネルを開き、資金をオフチェーンでLightningネットワークに送金します。その後、非常に低い手数料で、ネットワークの誰に対してもBitcoinを即座に送金できます。この送金はチャネルの残高を更新するだけで完了します。Bitcoinのブロックチェーンにブロードキャストし、各トランザクションが実行されるのを待つ必要はありません。最後に、ペイメントチャネルを閉じて、残高をLightningのホットウォレットからオフチェーンのウォレット、或いはBitcoinのコールドウォレットに移動することができます。
Lightningの可能性が生かせる場所
抑圧的な政府体制下で、ハイパーインフレが起こっているような場所では、Lightning NetworkやBitcoinに対して多くの関心があると思います。Bitcoinが、ベネズエラの人々にどれほどの影響を与えたかを見れば、Bitcoinが持つ可能性を知ることができます。人道的な活動に取り組んでいる人も多く、影響力も大きくなっています。
また、多くの新しいLightningの活用方法が生まれてきています。例えば、「Stak」と呼ばれるメカニカル・タークのようなサイトがあり、そこでマイクロタスクを実行するとSatoshiを受け取ることができます。 Lightningは、お金を稼いで、自分の銀行を持てる新しい方法を生み出しています。
楽しい活用事例もあり、私のお気に入りはLightning対応のゲームです。いくつかの企業が、LightningとBitcoinのゲーム開発を行っていて、Zebedee、ThndrGames、Donner Lab、Satoshi’s Gamesなどがあります。また、新しく生まれたゲームやテクノロジーを披露し、テストを行うための「MintGox」というプラットフォームもあります。
暗号通貨業界の女性にもっと注目を
この業界には多くの女性がいますが、彼女たちはもっと注目されるべき存在だと思います。当社Lightning LabsのCEOであるElizabeth Starkをはじめとして、CoinSharesのMeltem Demirors氏やFidelityのAmanda Fabiano氏など、パワフルな女性がたくさんいます。
もしかすると女性たちは皆、Twitterに費やす時間がないくらい仕事で忙しくしているから、すごい人たちなのにもかかららず、いまいち知名度が上がらないのかもしれません。
RedditにあるBitcoin関連のフォーラム
Redditは、あらゆる種類のコミュニティのためのフォーラムがある面白い場所ですが、悪い情報や誤った情報がたくさん混ざっていることもあるので、注意が必要です。私はr/Bitcoinとr/Dogecoinというフォーラムに参加しています。
初心者が、情報を収集したいという場合、Redditは入り口としてはあまりおすすめしません。Lightning subredditというのもありますが、あまり活発ではありません。
Redditでは自分で情報を取捨選択する必要があります。ただしr/BTCだけは絶対に避けてください。Redditの他には、Twitter、Telegram、Slack、Discordなども、業界にはじめて入るにあたっておすすめのツールです。
Twitterか、それともRedditか
Redditには色々なグループがありますが、非常に穏やかなフォーラムです。Redditのイメージは基本的には「恐ろしい図書館」といった感じですが、情報がよく整理されていて、Twitterや「暗号通貨界隈のTwitter」と比べると論争が少ないです。
Twitterはというと、みんな好き勝手なことを言っているので、まさに無法地帯だと思います。Bitocoinコミュニティ、暗号通貨コミュニティの内外で言い争いが絶えませんが、これにはなかなかエンタメ性があります。
Twitterでは、人々がアルトコインやBitcoinなどについて語り合ったり、論争を繰り広げたりする姿だけではなく、いい大人が食生活のことなんかで言い争ったりしている場面なんかもみられます。
Twitterのいいところは、適切な人をフォローすれば、信頼できる正確な情報を入手できるという点です。たとえば、Lightning LabsチームのAlex Bosworthは、日々とても豊かな情報提供をしてくれます。私は彼をフォローして、自分の取り組んでいることの情報を得たり、技術面のことなどを学んでいます。
興味のある分野を探したり、自分が最も興味感心をそそられる話題について、正しい情報を発信している、フォローすべき人を探したりする時間は、大変有意義なものです。たとえば、マイニングに興味がある人であれば、巨大なBitcoinマイニングコミュニティがTwitter上にあります。
私の場合は、ライトニングネットワークと、ゲームの活用事例に関するツイートに興味があります。
ゲームプラットフォームこそ次世代のSNS
父もよくゲームをしていた影響で、私は小さい頃からずっと、ビデオゲームで遊んできました。ゲームが本当に得意な人の中には、信じられないほどの時間とお金をかけてプレイしている人もいて、私はそういう人を何人か知っています。
彼らはゲームに勝つと、そのゲームに固有のゲーム内通貨を受け取ることができ、その通貨はゲーム内に残ります。そうすると、ゲーム内でしか使えない無駄なポイントをたくさん保有することになります。
しかし、ゲーム内で稼げるポイントがSatoshi(Bitcoin)だった場合、それはゲーム内でしか使えないポイントでなはく、ライトニングウォレットに入れて実際に使うことができます。
eスポーツは、人々が交流するためのソーシャルプラットフォームやSNSへと進化しつつあります。我々の世の中で次に流行るSNSに、通貨が組み込まれるのは自然な流れだと思います。
現在私たちが直面しているパンデミックの影響もあって、思っていたよりもは早く、新しいSNSが台頭するかもしれません。
SNSによるBitcoinとライトニング・マイクロトランザクションの活用事例
次の段階は、SNSを通じての価値の伝達です。現在FacebookやInstagramのアプリでは、広告をクリックすることで直接商品の購入ができます。このようなSNS内での売買が、これから我々の向かう先です。
マイクロペイメント(少額決済)も重要な活用事例です。普通、ゲームでは1セント以下の単位はありません。どの不換紙幣でもそこが最小限の単位です。
しかしBitcoinの場合は、Satoshiを受け取ることができます。1 Satoshiというのはたいへん小さい単位なので、たとえばゲーム内において、10 Satoshiの報酬というのは、それほど高いものではありません。
しかし、プレイヤーにとっては、時間が経てば経つほど価値が蓄積されますし、価値が低いといっても、他のゲーム通貨よりもはるかに価値があります。
Zebedeeは、自社の開発したZEBEDEE Unity SDKにより、ゲームの開発者が、Bitcoinのライトニングマイクロトランザクションを、開発したゲームやデジタル体験に統合できるようにしました。
Bitcoinのライトニングマイクロトランザクションを統合することで、ゲームを通じてBitcoinの支払い、受け取り、引き出しができるように、開発を進めることができます。
このようなプラットフォームは、ライトニングネットワークを直接人々に広められる素晴らしい機会です。
実は以前にData Labsの方々にお話を伺い、実際にBitcoinを使用したことがある人はどれくらいいるのかを聞いてみたことがあります。すると、プラットフォームを使っているにもかかわらず、Bitcoinを使ったことがない人が多数いたため、とても驚きました。
もともとはゲームをすること自体に興味があった人たちが、いつの間にかゲーム内でお金を稼ぐようになる、ということが起こっています。これは、Bitcoinとライトニングネットワークを今まで使ったことのない新しいユーザーを呼び込むのに、またとない良いチャンスだと思っています。
ゲームプラットフォームの未来に向けた実験
北米がパンデミックの騒ぎに襲われる前の数ヶ月、私はライトニングとBitcoinゲームの界隈で起こった進歩について、なんとかもっと、世間の興味を引きたいと考えていて、イベントやカンファレンスに向けていくつかのアイデアを準備していました。
残念ながら、パンデミックにより私の計画はほとんど中止になりましが、かわりにMintGoxという、より大きな素晴らしい成果につながりました。
Simon CowellやZebedee、THNDR GAMESのメンバーたちと協力して、ライトニングを利用して構築した様々なゲームを売りにした、バーチャルイベントシリーズを毎月開催しました。
たいへん楽しい数ヶ月間でしたし、活用事例も成功をおさめ、とても嬉しく思います。我々が行ってきたのは、人と直接対話できない世界において、ゲームがどのような未来をもたらすことができるかを観察する実験のようなものです。これまでのところ我々の実験は非常に成功しています。
本格的なライトニング企業の登場
ライトニングネットワークとBitcoinの規模の拡大、そして人気の上昇は、とどまるところを知りません。昨年ベルリンで開催されたThe Lightning Conferenceには400人を超える人が参加しました。驚くべきことです。
ライトニングネットワークの成長だけでみても、著しいものです。ライトニングネットワークは、新しいアイデアを試していたほんの数人の開発者から始まりました。しかし今では本格的な企業が多数誕生し、稼働しています。
FOLD、Bitrefill、LN Marketsなどの企業は、急成長を遂げています。またここ1年の間に、ライトニング関連ビジネスに対するベンチャーキャピタルの関心も高まっています。見ていてわくわくするほどの関心と成長です。
有益なポッドキャスト
たくさんの素晴らしいポッドキャストがあります。Stephan Liveraのポッドキャストと、Peter McCormackの「What Bitcoin Did」は、誰でもすぐに聞けるし、非常に有益です。
他にも、Mart Bentの「Tales from the Crypt」、Pierre RochardとMichael Goldsteinの「Noded」、Brad Millの「Magic Internet Money」なども、良いポッドキャストです。「Lightning Junkies」のような、ライトニングネットワークに特化したポッドキャストもあります。
こういったポッドキャストを1週間も聞けば、情報が段違いに増えます。コミュニティ・オーガナイザーでFulmo Lightingの責任者でもあるJeff Gallasは、自身のYouTubeチャンネルに数々の素晴らしいインタビュー動画を投稿しています。
彼はイベントにも番組にも、たくさんの素晴らしいゲストを迎えています。
VR技術と組み合わせるのはまだ難しい
VRとBitcoinライトニングネットワーク技術の交差するところで、何かできないか模索しているのですが、これはまだ時期尚早だと思いました。
VRのヘッドセットをつけて、VR世界に夢中になっている状態で、ライトニング上に支払いをしようとするのは、とても困難です。パンデミックの前は、VRヘッドセットを使用する試みは一切ありませんでした。
ここ数ヶ月、VRヘッドセットを借りて使用してみたのですが、すっかりはまってしまいました。軽く運動する時なんかにも使っていますし、パンデミックが原因で、今ではVRライブのヘビーユーザーです。
問題は、VR技術がまだ開発の初期段階にあることだと思います。まだ世間に採用されていない点では、Bitcoinやライトニングネットワークのようなものだとも言えます。しかしそこには、大きな可能性があると思います。
MintGoxで取り組んでいる問題のひとつは、「どうすればバーチャルだけでなく、バーチャルリアリティ(VR)でも取引をすることができるのか」というものです。
ライトニングネットワークの場合は、スマホにQRコードとライトニングのウォレットを入れておく必要があります。
ではVRのQRコードをスキャンするだけで、スマホで支払いを出来るようにするには、どうすればいいのでしょうか。これは現時点ではできないため、ここが大きな障壁となっている状態です。
インタビュー・編集: Lina Kamada
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