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「ロシア語圏の暗号通貨コミュニティ」Forklog CEO アナトーリ・カプラン氏(全インタビュー記事)

ロシア語圏最大の暗号通貨メディア「Forklog」のCEO、アナトーリ・カプラン氏(Anatoly Kaplan)にインタビューさせていただきました。ロシア語圏の暗号通貨コミュニティや取引所の現状、政府による暗号通貨の法規制の現状などについてお話を伺いました。ぜひご覧ください。 

アナトーリ・カプラン氏

インタビュー日 : 2020年9月3日

アナトーリ・カプラン氏(全インタビュー記事)

私はForklogのCEO、アナトーリ・カプランと申します。Forklogはロシア語圏の暗号通貨コミュニティのために暗号通貨マーケットの話題をとりあげているメディアです。2014年から運営しているのでもう創業して6年になります。

はじめは別会社にコンサルティングやマーケティングを中心とした部署も設けていましたが、しばらくしてからそちらの部署はたたみました。現在は主に動画コンテンツや特別企画などのコンテンツ制作に力を入れています。

ロシア語圏の暗号通貨コミュニティ

ロシア語圏の暗号コミュニティはロシア以外の様々な国を含みます。ロシア、ウクライナ、ベラルーシをはじめとし、キルギスやカザフスタン、アゼルバイジャン、エストニア、グルジア、ラトビア、リトアニア、モルドバ、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタンなどのロシア語圏の国々がコミュニティに含まれています。

これらの国には歴史的なつながりがたくさんありますが、似通った国々であると言ってしまうと、政治的な理由から、一部の人を傷つけたり、争いごとの引き金になったりすることがあります。

なので、ロシア語圏の暗号コミュニティには、何らかの形でロシア文化に影響を受けたり関係している国が含まれていると言わせていただきます。

最も活発な暗号通貨コミュニティはサンクトペテルブルク、モスクワ、キエフです。どれも非常に活発なコミュニティですが、モスクワのコミュニティとは大きく異なります。ベラルーシも非常に活発な地域だと言われていますが、これは国内で起きている政治的、経済的な混乱のためです。

抗議活動がはじまってから、経済は混乱しました。銀行が現金や信用を与えてくれなくなり、人々はお金を貯める機会を探し求めています。銀行は現金を保有しておらず、ベラルーシでは米ドルを買えません。

誰かが保有している米ドルを売却してくれるのを待たなければ買えないのです。このような過激な環境は今のところベラルーシだけで、政府と反対勢力の間で起こっている抗議と立場の不一致が原因となっています。 

暗号通貨と政府による規制

今のところ、政府はほとんどの場合、暗号通貨を無視しています。彼らは暗号通貨を、ゲームのための手段やハイリスクなアプリ、あるいは単なるビジネスツールとして見ています。法律や規制を担当する政府部門も存在するものの、暗号通貨は未だ曖昧な状態にあります。

政府は、暗号通貨はリスクが高く何らかの形で規制されなければならない、という立場が前提です。暗号通貨やデジタル資産に関する規制のほとんどは2015年から始まりました。これはデジタル金融資産法(DFA)が制定された年です。 なので最近の「ロシアがついに暗号資産を合法化した」という内容の記事は目新しいものではなかったです。

こういった記事のタイトルはたくさんクリックされるためにつけられています。同じような内容の記事は2015年からすでにインターネット上に出回っています。最近あったことと言えば2020年の夏ににDFAが改正されたことくらいですし、DFAのほとんどの部分は以前のままなのであまり変化はありません。

規制当局が法律の施行を先延ばしにしたとしても想定の範囲内です。はじめに政府は暗号通貨を禁止しようとしましたが、結局合法化し、そして今度は、マイナーがBTCを受け取ることを禁止しようとしているので、とても混乱した状態になっています。 

政府にとって最も簡単なのは暗号通貨をグレーゾーンにしておくことだと思います。今は他に対処しなければならない問題がたくさんあるので暗号通貨どころではないと思います。 

ロシアの暗号通貨コミュニティはどちらかといえば規制がゆるいほうで、自由度があると思います。私はスイス、エストニア、ドイツに住んでいたことがありヨーロッパのことについてよく知っています。

スイスにはBitcoinのATMもあり、KYCなしでスイスフランを引き出すことができ、Bitcoin利用者にとって大変よい環境だと思います。しかし規制が厳しすぎて、暗号通貨の分散化という部分に影響を及ぼしていると思います。

スイスでは暗号通貨は課税されている上、政府当局からの注目度も高いです。一方ロシアではスイスのようにDFAによる規制がない分自由度が高く、人々に様々なことを試す余地を与えていると思います。汚職に関連したようなことを行うのは難しいですが、そういったことに巻き込まれていない限り、問題はありません。

ロシアで人気な暗号通貨インフルエンサー

Tone Vaysは有名なトレーダーですが、トレーダーには良い評判もあれば悪い評判もあります。トレーダーは好かれるか嫌われるかのどちらかです。

ロシアの暗号通貨コミュニティには、Kuna ExchangeのCEOであるMike Chobanianや、2016年に世界的なブロックチェーンプラットフォームであるWavesを設立したSasha Ivanovといった著名なインフルエンサーが何人かいます。

Sasha Ivanovは暗号通貨の世界で最も成功しているロシア人の一人だと言えるでしょう。もっとグローバルなインフルエンサーでいうと、バイナンスの創業者CZは、ロシアのBitcoinユーザーの間でも非常に人気があります。

ロシアの取引所について

取引所のほとんどは、国内のP2P取引で処理されていますが、今のところロシアで暗号通貨の取引所を運営するための法的枠組みはまだありません。ロシアで取引所を設立しようと思えばできますが、サポートしてくれる銀行を見つけることができません。

それでも取引所を作ろうとしたところで、何が合法で何がそうでないかわからないため、運営することができないのです。闇のウェブサイト上で違法に運営されているような取引所があるかもしれませんが、本当のBitcoinerからは批判的な目でみられています。

彼らは、海外に実際に存在し、安全性が確保された取引所を使うことが最善であると理解しています。

ロシア人向けに運営されている取引所もありますが、イギリスのような、取引所を運営するための法的な枠組みを持っている他の国に置かれています。従業員はほとんどロシア人です。そういった取引所は増加傾向にあります。

私はDFAの施行の携わった関係者と話しました。新バージョンのDFAは無力で、うまくいかないだろうということでした。新しく改正された法律はマイナーが報酬として暗号通貨を受け取ることを制限するものです。つまりマイナーとして活動することはできても、報酬が暗号通貨であってはいけないということです。

もうわかっていただけたと思いますが、この通り、法規制を担当する人たちは業界に関する知識もないし技術的な専門知識も不足しています。ロシア政府は多くの国の政府と同じようにどちらかというと保守的です。

暗号通貨がどのように機能していて、どのように取引されているのか、また法律や仕組みを構築するにあたって、どうやって技術的な専門家や市場の専門家を呼んでいいかもわからないのです。 

ブログから暗号通貨メディアへ

Forklogは法律上ヨーロッパの企業で、暗号通貨の取り扱いも問題なくできます。最初のうちはこれだけの準備と仕組みをつくることに苦労しましたが、なんとかやり遂げることができました。

とはいえ、ロシアの規制当局には常に気を配っています。我々はインターネット上で動画コンテンツを投稿しているので、新しくでてくる可能性のあるインターネット規制には細心の注意を払わなければなりません。

ロシア規制当局とテレグラムの戦い

2018年にロシアの規制当局とテレグラムの間に論争があり、ロシア政府はこれをうけてTelegramをブロックしました。そこでテレグラムはロシアのユーザーのために技術的な面での解決策を模索しはじめました。

ユーザーはその努力を見て、テレグラムを支援し始めました。そして政府の意向に反して、テレグラムのために無料のプロキシが作られました。その結果、政府がテレグラムをブロックできたのは、数時間だけとなりました。

政府は、Amazonや他の大規模なプラットフォームを含む、テレグラムにリンクしているすべてのものをブロックしたのです。ところが政府は、このように巨大なインターネットサービスをブロックすると、政府のネットワークにも影響が出るということを考慮にいれていませんでした。 

政府は、インターネットのインフラが政府のサービスにも関係しているということをまったく考慮していなかったわけですが、このようなことが起きたのは、テレグラムをブロックしたかったからに他なりません。

結局、政府の試みはすべて実を結ばず、一歩後退してすべてを元の状態に戻さなければなりませんでした。規制当局や政府機関で常に何かが起こっている状態に慣れているためか、ロシアの人々は暗号通貨にたいして少しのんきな考え方をしているように思います。

Forklogのはじまり

2014年に、私が住んでいたウクライナで革命が起こりました。革命が起こったのはウクライナに住みはじめてから2年が経った時で、革命が終わると今度は、戦争がはじまろうとしていました。状況が悪化して経済危機になり、IT企業に勤めていた私は職を失いました。

ウクライナの通貨フリヴニャは、1ドル=8フリヴニャから1ドル=27フリヴニャにまで下落しました。一時は1ドルが50フリヴニャまで落ちたと時もあり、状況はさらに悪化しました。しかしその後すぐに政府の救済措置によって27フリヴニャまで回復しました。

苦労して稼いで貯めたお金の価値がこんなにも下がってしまうのをみるのは、本当につらかったです。私は23歳の時のこのようなインフレを経験しました。 社会人になったばかりの若者には痛い打撃でした。

その時から、ウクライナに住むロシア人として、これからどうすればいいのか、と自問自答するようになりました。そして経済に関してはもちろん、お金に関して、そして通貨に関しても、もっと勉強するようになりました。

Bitcoinの話は2013年に聞いたことがありました。しかしそれは革命が起こる前のことでしたし、暗号通貨については、何やら狂ったような混沌とした話題だという印象を抱いていたので、特に注意を払いませんでした。

しかし経済危機を経験した後に、私は暗号通貨に非常に興味を持ち、研究するようになりました。研究すればするほど興味を持ったので、暗号通貨に関するロシア語のちょっとしたブログを運営することにしました。

ブログは情報共有のためだけではなく、暗号通貨について情報収集して、自分がより多くの知識を得るための手段でもありました。こうして、自分自身のノートのようなブログとして、Forklogは始まりました。わずか1年でどんどん人気が出てきて、現在では暗号通貨界隈で最大級のメディアプラットフォームとなりました。

人気のある記事のカテゴリー

人は良いニュースを好みます。良いニュースはBitcoinに関するニュースなので、Bitcoin関連が最もクリックされているカテゴリーの1つです。

もう1つ人気があるのが、調査・研究に関するカテゴリーです。これはForklogをはじめた時から、我々の仕事における特殊な面でした。

2017年にICOブームがあったため、今でもこの仕事の必要性を感じています。調査記事は映画の話のように読めますし、人々はそういうストーリーが大好きです。

我々のホームページが次に目指している部分は教育です。教育に関して基準としている点は主に2つありますが、そのうちの1つは、記事の短さに厳密にこだわると同時に、簡単な説明の記事を提供するということです。

我々は短くて簡単な記事を掲載するセクションをもっています。経験から分かったのは、長くて学術的な教育記事よりも、短くてシンプルな記事の方が、Bitcoinの新規ユーザーからの評価が高く、より理解されやすいということです。

一方、YouTubeチャンネルでは、より難しいトピックを扱っています。例えばプログラミング言語や有価証券について、それから技術的な相違点の話や、お金の話、経済学のオーストリア学派の話などについて説明しています。

世界のBitcoinコミュニティ、そして暗号通貨コミュニティは、オーストリア学派に関連している部分が大きいというのは有名な話です。

読者の利便性を追求する取り組み

我々のホームページのフォーマットはCoinDeskやCointelegraphと似ていますが、主にロシアのコミュニティのために作られているので、ロシアのコミュニティに合わせています。

我々は常にウェブサイトの改良に取り組んでいて、現在は読者がより便利で手軽にアクセスできるように、スマホ用の新しいアプリを準備している最中です。我々はアジアのスーパーアプリに非常に触発されていて、そういったアプリのもつ特徴を取り入ていきたいと思っています。

Forklogの働き方

Forklogの構成はとてもシンプルです。色々な部署があって、それぞれの部署で仕事をしています。我々は常にイノベーションの展望を持っていて、いつも新しい製品や新しいアプローチを試しています。それからAIコンテンツの実験も行っています。

メディアやジャーナリズムは、クリエイティブな文章の上に成り立っています。ロボットになりたいとは誰も思わないし、ロボットと一緒に仕事をしたいとも思いません。誰もが、クリエイティブな人間と一緒に仕事をしたいと思っています。そしてそれこそが、我々が実現したいことなのです。

2018年から完全リモートワークを始めました。その前の2年間はオフィスがありましたが、現在は全員がリモートで働いています。我々のチームメンバーは世界各国にいます。ウクライナにいる人もいればベラルーシにいる人もいますし、他にもヨーロッパの様々な場所にいます。人数は現在およそ30人です。

ロシア語圏のメジャーなSNSは?

ロシアで最もよく使われているメッセンジャーアプリはTelegramです。Twitterのユーザー層は、より対外的なコミュニケーションや、グローバルなコミュニティに参加したい人が中心です。

LinkedInはロシアでは人気がないため、FacebookがLinkedInと同じような使い方をされています。そして我々の使っているような多くの暗号通貨関連のチャネルは、主にTelegramにあります。

また、ロシア語圏でメジャーなVK.comと呼ばれるSNSもあります。これはTelegramを立ち上げたのと同じ人物であるパーヴェル・ドゥーロフ氏によって創設されたサイトです。VKはFacebookによく似ているのですが、UX/UIも機能も、Facebookよりもはるかに優れていると思います。

2020年1月1日からVKが政府所有のサイトになるということがニュースになりました。政府公認のSNSになることが公表されたわけですが、サイトは今もなお元の創設者の人達が適切に管理されていることは知られていますし、一般的な目的で好きなように使用することができます。

その他にも、Odnoklassniki.ruという、もう1つの主要なSNSプラットフォームもあります。そのサイトの使い方もVKと同様ですし、それらのサイトより高度なプライバシーや安定したサービスがいいのであれば、別のサービスプロバイダーを探すと良いでしょう。

ロシアのインターネットインフラはRunetとも呼ばれますが、スペインやドイツのものと比較しても、はるかに安定しています。ドイツのインターネットインフラが数十年前のものだと知った時は大変衝撃を受けました。

Runetは2000年代初頭から、企業や家庭内で様々な形で利用できるようになりました。たとえばダイヤルアップ、ケーブル、DSL、FTTH、モバイル、ワイヤレス、サテライトなどの形態を通して使うことができます。

2013年には、ロシア語はインターネット上で2番目によく使われる言語になりました。アジア版のLINEやWeChatようなスーパーアプリが、近いうちに登場してきてほしいと思います。

インタビュー・編集: Lina Kamada

翻訳: Nen Nishihara

     

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