ブロックチェーンメディア、Bitcoin Magazineでテクニカルエディターを務めるアーロン・ヴァン・ウィルドゥム氏(Aaron van Wirdum)にインタビューしました。暗号通貨メディアで働いた経験について、記事を書く時の工夫、そしてBitcoinに対する考え方などについてお伺いしました。ぜひご覧ください。
インタビュー日 : 2020年10月19日
サイファーパンク運動とは
サイファーパンクとは、インターネットがまだ目新しかった1990年代に起こった運動です。当時インターネットは、巨大な可能性を秘めていると言われていました。
またインターネットのもたらす潜在的な効果について、2つの真逆の予想が存在していました。
1つ目の予想は、インターネットがパノプティコン(全展望監視システム)のような監視機械となり、全員のプライバシーがなくなり、全体主義国家が登場する恐れがあるというものです。
2点目は、逆に強力な暗号化技術によってプライバシーが守られ、プライベートな通信や取引が自由にできるようになるというものです。
サイファーパンクは、この2つ目の予想を実現するための運動でした。70年代~80年代に発明された暗号化ツールをソフトウェアに変え、人々が利用できるようにしたのです。たとえば匿名で電子メールを送ることを可能にしたリメーラーサービス(Remailer Service)も、この内の1つです。
またサイファーパンクの一環として、人々が匿名で取引できる市場をつくろうとする動きもありました。運動に携わった人たちは、匿名で使えるデジタルのお金が必要だと考えました。
そこで行われたのは、様々な初期段階のアイデアや、デジタルキャッシュのプロジェクトを用いた実験です。実験を繰り返し、最終的にこれらの実験と技術の発明が組み合わさり、Bitcoinが誕生しました。
Bitcoinの大型アップデート「Taproot」
Bitcoinのさらなる発展につながる、2つの重要な出来事が現在進行中です。
その内の1つは、Bitcoinの大型アップグレード「Taproot」です。このアップグレードが現在が進められています。
Taprootはプロトコルのアップグレードで、このアップグレードが実行されれば、プライバシーへの配慮を維持しつつもより柔軟な機能を備えた、より融通の効くスマートコントラクトの利用が可能になります。
例えば、ライトニングネットワークでは、基本的にスマートコントラクトを使ってチャネルを開設します。つまり傍からみれば、ライトニングのチャネルが開いたり閉じたりしているのがわかるというわけです。
ところがTaprootでは、開閉は通常のトランザクションに紛れ込み、見た目上通常のトランザクションと区別がつかなくなります。これによってプライバシーのレベルが高くなります。
それだけでなく、スケーラビリティーの面でもより優れたものになります。Taprootは、SegWit以来のBitcoinの最大のアップグレードになるでしょう。
もう1つの重要な出来事は、大企業がバランスシートにBitcoinを載せはじめたということです。これは、Bitcoinがより重要な地位を得るようになってきている、ということを示す指標です。
特に現時点ではインフレ対策の側面が強く、インフレに関係のない資産であるBitcoinは、主にヘッジ手段として保有されています。
マクロ経済的な関連性のある資産クラスを保有することの意義は大変大きいのです。大企業が確信的な態度でBitcoinに数百万ドルを投入しているというのは、非常に注目すべき発展です。
たったの約11~12年前にゼロから始まったインターネット通貨が、ここまで発展して重大なものになってきているというのは本当にすごいことです。
Bitcoinについて学べるポッドキャスト
私は「The Van Wirdum Sjorsnado」というポットキャスト番組を配信しています。Bitcoinに深く貢献している人物と共に創っている番組で、毎週Bitcoinの技術的な側面について取り上げて話しています。
技術的な側面というのは、Bitcoinの新しいアップグレードについてだったり、またはBitcoinの特徴や機能についてだったりです。あるいは、ある特定のメカにズムが一体どのように機能しているのか、といったことについて話したりもします。
我々は、リスナーがBitcoinについてより深く学べるように、リスナーのためになるようなコンテンツ作成を目指しています。たまにではありますが、ゲストを迎える回もあります。ゲスト回でもBitcoinの様々な側面や理論について話しており、非常に有益なポッドキャストとなっております。
Bitcoin以外のコインについて
どのコインがいいのかを決めるのは私にとってはいたって簡単です。なぜなら、Bitcoinでないものはスキャムの可能性があると思っているからです。
人々は私のことを「Bitcoinマキシマリスト」と呼び、非合理的な考えの持ち主であるかのように扱うかもしれません。しかしそれは一向に構いません。もう少し間をとってみてもいいのかもしれませんが、現状私はかなりBitcoin側に強く傾いています。しかし決してそれが非合理的なことだとは思っていません。
Bitcoin以外のコインはスキャムのようなものだと思っている、という私の意図が正しく伝わるのであれば、「Bitcoinマキシマリスト」というレッテルは全く気になりません。
Bitcoin Magazineチームの働き方
我々のオフィスはアメリカテネシー州のナッシュビルにありますが、ここに出勤するかどうかは人によって様々です。オフィスにきて仕事をする人もいれば、リモートで仕事をしている人もいるという状況です。
個人的にはリモートワークが合っています。毎日オフィスに出勤して決められた時間そこに座って仕事をするなんて想像できません。自分にとってベストの時間帯に、自由に働くというスタイルが合っているのです。
現代のジャーナリズム
私は子供のころ記者になりたいと思っていました。記事を書いてコンテストにも応募していました。ジャーナリズムは、民主主義にとって非常に重要だと思います。なぜなら、自分の周りで何が起こっているのかを知らなければ、民主主義は機能しないからです。だからこそジャーナリズムは大切です。
しかし、近年ではジャーナリズムの評判が悪くなってきています。したがって、ジャーナリストとして生計を立てることが難しくなってきています。
使えるリソースと時間は少なくなり、その上人々はコンテンツが無料であることに慣れてしまっています。このような状況があるため、ジャーナリズムはどんどん難しくなってきているのです。
執筆中の新著について
現在Bitcoinの前史についての本を執筆中です。本の中では、サイファーパンクの詳細について、それからオーストリア経済学についても取り上げています。Bitcoinの発明にいたるまでの重要な事柄について書かれている本です。
本を書くというのは、私にとって全く新しい経験です。今自分が書こうとしていることに関連した話題について、非常に上手くまとめられている本もよく目にします。少し脅威にも感じますし、緊張もします。
しかしそれと同時に身の引き締まる思いもします。Bitcoinを歴史的な観点から紐解いていくことで、デジタルキャッシュプロジェクトの年表が論理的に理解できるようになり、そして今までの出来事が意味を持ち始めるのです。
インタビュー・編集: Lina Kamada
翻訳: Nen Nishihara
【免責事項】
本ウェブサイトに掲載される記事は、情報提供を目的としたものであり、暗号資産取引の勧誘を目的としたものではありません。また、本記事は執筆者の個人的見解であり、BTCボックス株式会社の公式見解を示すものではございません。