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「​経済にとってのデフレとは」投資アナリスト リン・オールデン氏 インタビュー ③

投資アナリストとして人気を集めるリン・オールデン氏(Lyn Alden)に、現在のマーケットについてお話を伺いました。オールデン氏が毎週執筆するニュースレターは多くの投資家に読まれ、彼女を暗号通貨業界でも一躍有名にしました。今回は、暗号通貨におけるマクロ分析の重要性などについてインタビューしました。ぜひご覧ください。

リン・オールデン氏

インタビュー日 : 2020年10月13日

経済にとってのデフレとは

経済にとっての理想的な状態はデフレです。なぜならデフレになったほうが自分の保有するお金の価値が上がるからです。

私はJeff Booth氏という方と何度か一緒にポッドキャストを配信したことがありますが、彼の主張は「テクノロジーは、それ自体にデフレ効果がある」というものでした。

テクノロジーは我々の生産性を向上させコストを削減してくれるので、色々なものの値段を安くしてくれるという側面があります。つまり、我々の保有するお金で、より多くのものを買うことができるようになるということです。

しかし、現状の経済は、負債があまりにも肥大化しすぎています。GDPや所得やマネーサプライに対して負債が多いため、デフレが長期化しないのです。この状況は最終的に組織的な崩壊を招くことになります。

現在の短期景気循環では、毎回中央銀行が介入して金利を下げ、不況をなるべく短く押さえようとしています。中央銀行の介入は金利が0になるまで続けられます。

しかし理想的なのは、当局が市場に介入して短い景気循環を生み出す、という流れをやめることです。

景気を循環をそのままにしておけば、財政支援はできても債務の増加を促進することはできなくなります。そうすると、デフレにより人々の通貨の購買力が高くなります。

現時点では、今陥っている負債バブルから抜け出す方法を考えることが先決になります。この負債バブルは、このまま行けば、より一層深刻なインフレへと発展してしまうからです。

アメリカで株式投資が盛んな理由

数十年前までは、企業が個人のために年金を提供するのが一般的でした。しかしそれは変わりました。時間が経つにつれ、人々は「401K」という投資用口座に移行し始めました。

401Kの口座はシステムアカウントであり、雇用主から従業員に提供されます。従業員は自分の賃金のうちの何%かを拠出して、401K口座に入れることができます。

401K口座にいれた分に関しては課税されません。通常は、従業員が自分の賃金から拠出した資金の一定割合を、雇用主が「マッチ(match)」として給付します。この給付金も、直接従業員の401K口座に組み入れられます。

例えば従業員が自分の賃金の5%を拠出すれば、雇用主も5%を従業員の401K口座にいれるといった具合です。

401K口座内のお金は税制上の優遇が受けられます。また口座内のお金は投資に回すことができます。提供されている選択肢の中から、自分で任意の資産を選んで投資します。

選択肢の中には、たとえば株式、債券、ETFなどがあります。運用中は非課税で、退職した後などに401K口座からお金を引き出して使い始めると、その時に税金の支払い義務が発生するという仕組みです。

401Kは、人々のための投資だと言えます。アメリカでは株式市場への投資が盛んに行われていますが、これの一つの理由としては、401Kという仕組みがあるからです。401Kと似たようなものでRoth IRAというのもあります。このように、我々には株式の所有を奨励する多種多様な口座が提供されています。

こういった仕組みは全て、株式に重きを置く傾向があります。だからこそ、ヨーロッパや日本に比べると、アメリカ人は純資産の多くを株式に投資しているという傾向があります。

投資家とトレーダーの違い

私の保有期間は数年単位ですので、そういう意味では投資家です。私は危ない賭けにはでません。

トレーダーはアルトコインに興味をもつ傾向があります。アルトコインはボラティリティが高いからです。ボラティリティを重視したトレーディングは、資金が3倍になる可能性もある一方で、一晩で半分の資金を失ってしまう可能性もあります。

これに対して投資家は、より長い時間の枠組みで物事を考えていく必要があります。例えば「Bitcoinの時価総額は今後の3~5年の間に伸びる可能性があるのか」「Bitcoinの価値をより高められる動因としては何があるか」「どのようなリスクがあるのか」といったことを考えなければなりません。

トレーディングが好きでテクニカル分析をしているような人であれば、今日、来週、来月、といったような短い時間の枠組みで物事を考えます。つまり、トレーダーと投資家では、時間の枠組みの捉え方と、目的が違うということです。

完全非中央集権のBitcoinと、まだ中央集権的であるその他の資産

ゴールドトークンは、技術を上手く応用したいい例です。ゴールドに流動性を求める人たちに、より高い流動性を提供することに成功したのです。しかもETFに比べると中央集権への依存度も少し低くなります。

しかしそれでも、ゴールドに裏付けされている各種資産と、完全に分散化されていて中央管理者不在のBitcoinとでは、大きく異なります。

ゴールドに裏打ちされた暗号通貨や、ゴールド関連のETF、そしてゴールドトークンなどは、まだ中央管理者によって保有されています。

したがってこれらのもので取引をしようとする我々は、中央管理者の主張を「信用」しなければならないのです。

中央管理者が「埋蔵量を確保できている」「検証できている」「政府の干渉はない」と言ったら、これらの主張を「信用する」ということを求められるのです。

中央管理者のいるトークンは、様々な分野に応用できる技術だとは思いますが、それでもBitcoinとは別物なのです。

高騰する手数料を抑えるには

暗号通貨の業界はまだまだ発展途上です。以前よりも効率的になってきてはいるものの、それにともない手数料も高くなってきている状況です。ライトニングネットワークといったセカンドレイヤーが、手数料を押さえる役割を担っていると思います。

例えばある銀行から別の銀行に送金したいとします。これには多くの時間と費用がかかります。いちいち全てのトランザクション、特に少額のトランザクションなんかには、膨大な時間と費用はかけたくありません。

小規模なトランザクションについては、たとえばPaypalといったような、迅速に送金ができるグローバルなプラットフォームがいくつかあります。また、各国もそれぞれ、自国で使えるプラットフォームをもっています。

Bitcoinによるトランザクションも効率的です。時間は多少かかりますが、手数料は安価です。Bitcoinがよりスケーラブルになるにつれて、ライトニングネットワークをはじめとする、セカンドレイヤーの重要性より増してくると思います。 

これらのセカンドレイヤーでは、トランザクションの一部を一旦チェーンからはずして効率的な処理をほどこし、そしてまたチェーン上にのせる、ということが行われています。 

0%よりも1% 

暗号通貨業界に参加すべきかどうかを考える私なりのアプローチに「0でないようにするためにはどうすればよいか」というものがあります。

このアプローチは「Bitcoinに大きく賭けるべきかどうか」という議論ではありません。私は「なぜ0%よりも1%の方が良いのか」という考え方に主眼を置いています。

例えば、ポートフォリオの内の1%~2%をBitcoinに投資すると、リスクとリターンの非対称性が発生します。つまり、Bitcoinにポートフォリオの全てを投資したり、ポートフォリオの20%を投資したりするよりも、ポートフォリオに、より多くのものを追加することがきるということです。

もちろん中には、この分野をよく研究し、業界に精通していて、確固たる信念をもっているため、Bitcoinにより多く投資ができる人もいます。

Bitcoinの時価総額をみてみると、まだ世界中の富の内の約1%の割合です。世界の富のほんの一部なのです。このことについてはよく理解して頭に入れておくべきです。

もしも自分の富の1%をBitcoinに投資しているのであれば、すでに時代の先を行っているといえると思います。この業界における自分のスペースを、すでに確保できているということだからです。

Bitcoinの値動き

暗号通貨業界に参入してBitcoinを買うべきもう一つの理由は、Bitcoinの価格です。ログチャートを見てみると、Bitcoinの値動きが指数関数的に上昇しつづけているだけではない、ということがわかります。

一定の期間ごとにピークが訪れたり、数年間にわたりもみ合い相場がつづいたりしてます。Bitcoinの値動きは半減期のタイミングにかなり影響を受けていると言えます。

Bitcoinの平均市場価格推移

もみ合い相場→更なるもみ合い相場→小さな強気相場→大きな強気相場→調整局面ともみ合い相場、というの一連の流れが、次の半減期までのサイクルです。

ここ2~3年の間は弱気相場が続き、Bitcoinは新たな高みに達していません。したがって業界の活気も弱まりました。ユーザー数が増えていないのも当然のことです。

ログチャートの値動きは人々の関心を集め、人々を興奮させる作用があります。とはいえ、ログチャートをみるのはとても参考になります。もしも再び強気相場が戻れば、人々の関心もまた戻ってくるでしょう。

年次レポートの内容

私は毎年、年次レポートを発行しています。このレポートは約30カ国の経済動向を追うもので、全ての情報を1箇所に集めた仕様のレポートとなっています。その中でも特に一握りの国々については、さらに詳細な考察を実施しています。

私は、アメリカ、ヨーロッパ、日本、中国、インド、ロシア、そして南米全体を一つの大きなグループとして見ています。これが私にとって鍵となるグループで、このグループに関しては、より集中的に見るようにしています。こうして集中するこで、今後の動向の可能性を検討しています。

たとえばS&P500に乗っているような上場企業をいくら分析しても、競合に対して優位性を保つことはできません。これらの企業を分析しているアナリストが多すぎるからです。

インタビュー・編集: Lina Kamada

翻訳: Nen Nishihara

     

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