ヘッジファンド「パララックス・デジタル」のCEO兼創設者のロバート・ブリードラブ氏(Robert Breedlove)は2014年に趣味で暗号通貨への投資を始め、やがてその趣味が彼の職業に変わりました。Bitocinのボラティリティや、お金と時間との関係などについてお話をしていただきました。
インタビュー日 : 2020年12月24日
中央銀行のルールとBitcoinのルール
中央銀行の提供する機能、たとえば自国通貨の国際的な管理や国や市中の資金管理、そして金融政策の維持といった機能ですが、これらは全て人海戦術によって成し遂げられています。
アメリカの連邦準備制度だけでもおよそ2万人の人が働いています。そしてさらに20万人の人々が、連邦準備制度の次の一手を把握するためにその動向を注意深く観察しているのです。
その点Bitcoinはというと、前述の中央銀行の持つ機能の全てを分散型ソフトウェアによって成し遂げて人々に提供しています。その効率性は中央銀行と比べると桁違いに高く、しかもより公平なルールをもつシステムとなっています。
Bitcoinは誰もが見れて、誰もが参加できるというルールのゲームです。これは不透明なベールに包まれた中央銀行のルールとは対照的です。
我々は米ドルについて、現存のドルがどれだけあるのかもわからなければ、追加であとどれくらい発行されるのかもわかりません。しかもこれらのことを予測したり、判断したりするのに必要な基準が何なのかすらわかりません。さらには、ドルの発行によって利益を得ているのが一体誰なのかということさえわかりません。
Bitcoinはオープンで公平で、参加者が主導権を握ることのできるゲームです。対して中央銀行は、暗く不透明で、参加者が主導権を握ることのできない操作的なゲームです。時間がたてば、やはり人は公平なルールのゲームを好むということがわかります。
レイ・ダリオの著書とBitcoin
私は2017年にヘッジファンドを立ち上げましたが、この時の私の考え方のベースとなったのは、史上で最も成功したといわれるヘッジファンドマネージャーのレイ・ダリオの論でした。私は当時「PRINCIPLES(プリンシプルズ)人生と仕事の原則」をはじめとして、彼の様々な著作を読んでいました。
彼はゴールドに対して非常に強気な見通しを持っていましたが、Bitcoinに関しては、欠陥があると考えていたという理由から、弱気な見方をしていました。
しかし彼の著作を読んでいく中で私は、著者であるダリオ自身の考え方とは裏腹に、彼の本で述べられているような原則は、Bitcoinによく当てはまっているということに気が付いたのです。
ダリオの本質的な考え方は「Idea Meritocracy:アイデア・メリトクラシー」という概念に象徴される、アイデアの自由市場というものです。Bitcoinもまた自由市場の貨幣であるため、このアイデアメリトクラシーの概念に含まれ、この概念の一環であるというのが私の主張です。
つまりBitcoinは「プリンシプルズ」の著者自身こそ気づいていないものの、この著書に書かれている世界観とまさに一致しているのです。
暗号通貨業界の法的な側面について
法律や規制方針が自分の取り組んでいるプロジェクトに深く関わってくる場合もありますので、このような場合は法整備に細心の注意を払っています。
逆に、自分の取り組んで業務において法律面を特段掘り下げる必要性がない時は、スキーム内を飛び交う多くのノイズを避けたいので、注意を払うことはありません。
最近の法規制で言うと、米国財務長官のスティーブン・ムニューチン氏が自己ホスト型ウォレットに関する法律、おそらくは自己ホスト型マルチシグやカストディスキームに反対する法律を可決しようとしました。しかしこのような規制法律はすべて、長期的にみると失敗する運命にあると思います。
米国のような国が技術やツールへのユーザーアクセスに対抗するべくアクセスの障壁を上げれば上げるほど、あるいは、より高レベルな規制の精査を要求すればするほど、これらのビジネスは米国から離れてより友好的な司法管轄区へと流れていってしまうのです。
このように、暗号資産のエコシステムにおける資本は超流動的で、場所の移動が非常に容易です。特定の場所に拘る必要がないので、管轄区域が敵対的になった場合はビジネス全体をあっさりと移動させることができるのです。そして我々は既に、多くの取引所がこうしてきたのを目の当たりにしています。
新大統領がBitcoin界に変化をもたらす可能性
バイデン政権の下で何かしらの変化があるとは思っています。しかし変化があったとしても、この政権も結局は中央銀行に忠誠を誓っている人たちです。彼らは皆、中央銀行の利益のために奉仕しています。
だからこそ、上院で敢えて議論されていないような話題があります。たとえば貨幣の独占について、そしてそれがいかに人々から経済的に搾取しているかということについて話されることはありません。これは民主党でも共和党でも何党でも同じです。
「知識に投資」するのがよい
コンピューターサイエンティストのニック・サボはかつて「信頼されている第三者というのはセキュリティー上の欠陥である」と述べました。Bitcoinではそれがないため、有益な方法で貨幣ネットワークをコントロールできる、大いなる力を与えてくれます。
中央銀行の機能は、ソフトウェアの面から言っても全て崩壊してきています。現在我々は、自分のためのもっとプライベートな口座をもつことができるようになりました。しかし大きな力には必ず大きな責任が伴います。だからこそBitcoinもこの界隈も、気の弱い人には向かないと思います。
この界隈には、よいサービスプロバイダーがいます。彼らと付き合っていくことができれば、いい形でこの世界に参加できます。カストディアンや取引所と共有する情報については細心の注意を払う必要があります。なぜならこれらの情報には漏洩の可能性がつきものだからです。「知識に投資するようにしなさい」というアドバイスが、この業界における最高のアドバイスだと思います。
この目まぐるしい世界で走り続ける理由
私には自分の知的好奇心を満たしたいという純粋な欲求があります。
情報の流通コストが崩壊したデジタル時代というのは、かつて見たこともないような方法で人間の知性を解き放とうとしています。人類史上でこんなに革命的なことが起こるのは印刷機の発明以来だと思っています。テクノロジーの変化、そしてデジタルルネッサンスは我々をより賢くしてくれると考えています。
人々は、学びに飢えていると思います。例えばジョー・ローガン氏のポッドキャストは2〜3時間のセッションですが、無編集のオープンな議論で、好奇心を刺激するトピックについてディープな討論が繰り広げられ、気になることを掘り下げていくことができます。
また、ジョーダン・ピーターソン氏のような人物もいます。彼は現代において最も多作な思想家の一人です。彼は大学での講義をYouTubeやポッドキャストで公開し、数百万回の再生数とダウンロード数を得ています。
これらのことをみてみても、人々が学びに飢えているということがよくわかると思います。人々は深い好奇心を自然と持っていて、学んで成長したいと思っています。
我々もまた、現実の深いところまで理解したいと思っています。しかしBitcoin界隈においては、求められている知識が提供されているのをあまりみたことがありません。
私のポッドキャストは、別にBitcoinに特化したポッドキャストではなく、「What is money(お金とは何か)」と呼ばれる番組です。しかしBitcoinこそお金の究極的な形態ですので、自然とBitcoinにつながっているのです。
このポッドキャストの目的は、「お金とは何か」という問いを投げかけることで、我々の面している数々の謎を掘り進めていく手段となることです。そして私自身にとってこの番組は、本当に深い思想をもった思想家たちと対話をするのに最適な方法です。
初ゲストであるマイケル・セーラー氏との収録は、10時間半にもわたりました。私のポッドキャストの多くは1〜2時間くらいで、質問も同じものを使います。同じ質問をベースとして、多少の味付けをしながら進めていくのです。
私のポッドキャストは、お金についての第一原理の探求を中心に据えた、高等教育レベルの話にしたいと思いました。私が知的好奇心を持っていて、他の人もきっと同じだと考えたからです。
Bitcoinをドル基準で考えるのは間違い
最も一般的な間違いは、人々がいまだにBitcoinをドル基準で考えてしまっているという点です。Bitcoinの価格について考えようとする時、人はしばしば自分がドルという経済的基準の枠組みを使っているということを見落としてしまいます。
たしかにドル価格というのは、Bitcoinがどうなっているかを示す指標です。したがってこれがBitcoinについて考える最も簡単な方法です。また、人々が何を考えているのかを近視眼的にみる指標でもあります。
しかしBitcoinが、多くの人に信じられているような方法で成功すれば、ドル価格はいずれ重要ではなくなります。そうすれば、日常においてBitcoinをドルとしてではなく「Satoshi」という単位で捉えられるようになるでしょう。
多くの人が誤解してしまい理解できていないのはこの点だと思います。我々がドル基準で物事を考えてしまう唯一の理由は、かつてドルは金と交換可能だったからです。しかしこの兌換性は50年前に既に取り消されているのです。
中央銀行の行っていることというのは人々の経済意識を乗っ取りです。人々からお金を搾取して、そして大量の資本の誤った分配をしているのです。こうすることで景気循環を操作して、そして悪化させているのです。
このような行動はいずれ社会を引き裂くことになります。お金を壊すということは、すなわち世界を壊すということです。我々はお金をなおして、世界をなおしていかなければなりません。
Bitcoinと税規制
Bitcoinには既に課税されています。アメリカではキャピタルゲインとして扱われていますが、規制当局がキャピタルゲインの税率を通常の所得税率と同等まで引き上げたため、優遇されなくなりました。
Bitcoinの成長に伴い、その税制もより敵対的になっていくというのは、決して不思議なことではないと思います。近い将来には、連邦政府に登録された取引所でしかBitcoinを購入できなくなる可能性も高いです。
しかし過剰な管理体制は、結果として他の管理体制をより友好的にみせることになるだけです。Bitcoinが他の管理体制の管轄下に入ってしまえば、ビジネスや税収もそこに逃げていってしまいます。
したがって、敵対的な税制がBitcoinを止めるのに効果的だとは思いません。もしかすると短期的には減速させることができるかもしれません。しかし長期的にみれば、Bitcoinに対して増税をすればするほど、逆に人々にBitcoinを保有し続けるインセンティブを与えてしまうのです。
政府がキャピタルゲイン対して40%以上課税するのであれば「ではホールドしておけばいい」と私だったら考えます。このように、中央管理機関が人間の行動に対して独裁的な方法に訴えようとすると、常に意図していない結果になることがあるのです。
したがってBitcoinを封じ込めようとする諸々の政令や、その他の規制の試みは失敗に終わると予測しています。
インタビュー・編集: Lina Kamada
翻訳: Nen Nishihara
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