デイビッド・アンドルファット氏(David Andolfatto)は、アメリカセントルイス連邦準備銀行研究部門のシニアヴァイスプレジデントです。経済学者としての経歴も長く、カナダの大学に20年間勤務した後の2009年に連邦準備制度のために働き始めました。今回は貨幣論とBitcoinの関係や、銀行システムと暗号通貨システムの関係についてお話していただきました。
インタビュー日 : 2021年2月2日
中央銀行の仕事
1980年代以降のアメリカのインフレ率は年平均で2%近くです。もしも全資産を現金で保有していれば、この数年間で財産は大きく減少しているでしょう。
しかしほとんどの人は、資産のほとんどを現金で保有しているわけではありません。現金以外の資産や有価証券は、インフレに合わせて収益率が調整される傾向にあります。
気をつけるべきなのはインフレ率の急激な変化、つまり急激な上昇や下落です。この調整は中央銀行の主な仕事の一つでもあり、中央銀行はインフレ率を低く安定させる必要があります。
Bitcoinは、長期的な価値の保存には適しているかもしれません。しかし短期的な収益の安定を重視したいという場面では、良くない選択肢だと思っています。
M2のグラフからわかること
M2とは、マネーサプライの指標です。貨幣には固有の定義がありません。そのため経済学者たちは様々な定義付けをしています。
マネーサプライにおいて貨幣の次に大きな部分を占めているのが当座預金です。当座預金というのは、銀行が融資を行う際に、必要に応じて換金ができるようにという目的で作成される預金口座です。当座預金+通貨が、M1と定義されています。
M2はこれに普通預金も加わったものです。しがたってM1よりもやや広い範囲がカバーされています。
アメリカのM2のグラフからは、アメリカ人、それからアメリカの当座預金口座を保有している人のマネーサプライの状況がわかるというわけです。
印刷されたお金は反映されるのか
印刷されたお金の量はM2のグラフには反映されません。印刷されたお金というのは通常、紙幣のことを指します。そして既に印刷された紙幣というのは、政府や銀行によって管理されていません。
紙幣は銀行口座から引き出されることで流通市場に出回って流通します。ですのでここに反映されているのは印刷された紙幣というよりは、銀行が顧客に対して発行している預金負債です。
そうなるともうマネーサプライだとは見なされていないということです。
M2のマネーサプライが増加するメカ二ズム
1980年に連邦政府は金融政策を金利政策に変更しました。したがってM2のグラフはマネーサプライではなく、主にお金の需要を反映しています。
グラフの上昇は、お金の需要が急激に増加したということを意味します。たとえば2020年初めに急上昇を見せていますが、これはコロナ禍が始まってありとあらゆる企業が銀行から現預金を引き出したということを表しています。
また、たとえばある企業が100万ドルの融資をしてもらった場合、その企業は突如として預金口座に100万ドルの預金を保有することになります。これもお金の需要ですので、我々の見ているデータに反映されるというわけです。
つまり銀行は、人々や企業にとって需要のあるお金を作り出したのです。また、もう1つ考えなければならないのは、政府がパンデミックを克服するために大量の国債を発行しているということです。この国債の発行も、お金の需要の増加と同じで、M2のグラフの上昇要因となっています。
連邦準備制度(FRB)も、限りなく0に近い金利を設定していたことを思い出してください。コロナの危機以前と比べると、安全な有価証券とされる金利もかなり下がったと言えます。したがって当座預金にお金を預けておくのにかかる機会費用はもはやそれほど大きくありません。
本当にインフレは起きているのか
少なくともまだインフレは起きていません。政府の統計はインチキだと文句を言う人もいますが、民間の運営する「Billion Prices Project」の示すインフレ率も政府の指標と一致しています。
インフレが将来的に問題になるかどうかは、様子を見なければなりません。パンデミックが終わって経済が再開すれば、一時的にインフレ率が上昇するという予測もあります。
大手企業によるBitcoinへの投資
どこに投資するかは企業の自由だと思っています。投資家としては、会社の株を購入する時にはその会社が何に投資しているのかを聞くべきです。たとえばテスラといった自動車の会社でも、どのような会社でも、暗号通貨ファンドを買う時も、これは同様です。
ドルはテロの資金源になっているのか
正直なところ、これについては何とも言えません。出来ることはあまりないと思っています。実際、ドルが登場する以前にもテロはずっとありました。
Bitcoinはポートフォリオの分散化に向いているか
Bitcoinは、ポートフォリオを少しでも分散させたいという人にとって、よい価値の貯蔵手段となる可能性を秘めています。Bitcoinがすぐになくなるとは思いません。
歴史的にみると、同じ地域内の人たちによって使われる地域通貨が存在し競合し合ってきたという過去があります。
ところが現代においては、地域社会やソーシャルネットワークというのは、物理的に近くなければならないという制約を受けなくなりました。
Bitcoinは誰の許可もいらないお金である(パーミッションレスである)という側面が重視されて、政府を信用しない人々によって使用されています。
Bitcoinだけが暗号通貨というわけではありません。世の中に存在するそれぞれのニッチな市場、そしてそのニッチな市場を構成しているニッチな利用者たちの需要にかなうように設計された様々な暗号通貨があるのです。
通貨システムとしてのBitcoin
私はBitcoinがよい通貨システムになるとは思いません。ゴールドとBitcoinがなぜ通貨システムとして最低であるかについては、私のブログで詳細に触れています。
インタビュー・編集: Lina Kamada
翻訳: Nen Nishihara
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