ブロックチェーン上のデータから暗号資産分析を行う会社、Glassnodeの共同創設者兼CTOのラファエル・シュルツクラフト氏(Rafael Schultze-Kraft)にインタビューしました。様々なデータから市場についてどんなことが分かるのか、Bitcoin市場ではどんなことが起こっているのかなどについてお聞きしました。
インタビュー日 : 2021年1月15日
警戒すべき指標
古いコインが動き始めたりすると、警告するべきシグナルとして見ることができます。このような動きは、必ずしも悪い可能性しかないというわけではありせん。しかし目は光らせておくべきです。
他にも例えば、オンチェーンデータで、長い間取引をしていなかった長期投資家が急にコインを動かし始めた、というケースなどにも注意すべきです。
我々は取引所の動きや取引所に流れ込むコインの量などを見ています。取引所はこの業界の中心的存在であり、市場を動かしている原動力の一つです。だからこそ取引所の動きやコインの保有量を見るのはとても重要です。
ここ2、3ヶ月間は大量の出金が観測されました。また、当社のデータによれば、取引所の暗号資産の準備高は昨年と比較して20%減少しています。これは実質的取引の可能性、つまり市場の流動性が低下していることを意味しています。
これらの指標は、市場の状態の判断材料の一つです。しかし判断の仕方は個々人の時間軸の捉え方によります。それから、アクティブなトレーダーなのか、それとも長期的なファンダメンタルズが見たいのかでも違ってきます。
市場への良い参入タイミングを見つけたいという場合は、世界のBitcoinサイクルを教えてくれるような指標がたくさんあるので、それらを参照するといいでしょう。
オンチェーンデータの指標からも、価格がピークに近づいているのかどうか、今が買い時なのかどうか、弱気相場が終わりに向かっているのかどうか、といったことなどが分かります。
Source : Glassnode Studio
高額の送金を警戒すべきか
大量のBTC取引や、BTC以外にも、様々な価値のあるような資産の高額取引というのは、何かしら興味深い出来事に関連しています。
オンチェーンデータ上の高額取引を参照する時は、その取引が同一のグループ内で行われた資金移動ではないということを確認する必要があります。しかし、これは生のオンチェーンデータからだけではなかなか判断できません。
そこで我々はデータ上に多くのインテリジェンスレイヤーを追加することで、高度なクラスタリング技術を用いた分析を行っています。
こうすることで、ある高額取引が異なるグループの間で行われたものか、それとも例えば取引所内の資金移動といったような同一のグループの中での取引なのか、といった情報を確認することができます。
例えば取引所が新しいコールドウォレットを作ってそこに数千BTCを移動する、といったようなこともあります。しかしブロックチェーン上の生のオンチェーンデータだけを見ると、これはあたかもクジラによる高額取引が行われたかのように見えてしまいます。
生データの動きを見てパニックになる人がいますが、ほとんどの場合は、不安になる必要はありません。もしも仮に異なるグループ間で高額取引が行われていたとしても、慌てずにもっと深く掘り下げていけばいいだけのことです。
企業や開発者の保有量を知るには
我々は高度な機械学習とデータサイエンスのパターン認識を用いることで、事業体に属しているネットワークアドレスをクラスター化しています。
こうすることで、個々のアドレス単位で見るのではなく、同じ事業体によって保有されているアドレスを一つのクラスターとして見ることができます。
そうすると事業体が実際にどれだけのコインを保有しているのかということを非常によく把握することができます。しがたってより真実に近いデータを見ることができるということです。
サトシ・ナカモトの保有量を知るには
サトシは一番最初のマイナーで、初めから大量のコインをマイニングしていました。そしてその時のコインは動かされていません。したがってサトシの保有量はだいたい100万BTCくらいだと推測されています。
パトシ・パターン(Patoshi pattern)と呼ばれているものがあるのですが、我々はこのパトシ・パターンでマイニングされたブロックのナンスパターンが、サトシによってコントロールされているということを確認できました。
2020年5月21日に、古くからあるBitcoinが動かされたというオンチェーン取引を確認するアラートが出ました。動かされたコインは2009年2月のものでした。つまりBitcoinのジェネシスブロックが作られてから約1カ月後のものにあたるものなので、皆が大騒ぎしました。
しかしそのブロックにはパトシ・パターンがなかったことが確認されているので、おそらくサトシの仕業ではないでしょう。
高額トランザクションの影響力は小さくなる
市場に対してより大きな影響力を持っているのは人間の心理だと思います。今後この市場において大量保有者、つまりビッグプレーヤーが増えれば増えるほど、高額取引自体の影響力は小さくなっていきます。
「もしもどこかの大量保有者が、急に100万BTCを投げ売りしたらどうしよう」と考えて心配になる気持ちはわかりますし、このような高額取引に対して警戒心を持つこと自体は悪いことではありません。
しかし例えばマイケル・セーラー氏のような人は「サトシ」が50BTCを動かしたからといって自分のコインを動かしはじめるようなことはしないと思います。
Bitcoinの「国際的規制」を求める欧州中央銀行
Bitcoinの規制について、ECBやクリスティーヌ・ラガルド総裁が登場してきたことにはまったく驚いていません。ECBには数々の対応しなければならないことがあると思います。この業界は無視できるようなものではないので、ここまではごく自然な流れだと思います。
この市場には莫大な注目が集まっていて、時価総額は史上最高値に到達しようとしています。非常に巨大な時価総額になってきているので、もはや無視することは不可能なのです。
数年前とは打って変わって、この市場にいるのはもう技術に精通したマニアたちだけではありません。伝統的な金融機関も市場に参入してきています。だからこそ、対策をとっていく必要があるのです。
そんな中、ECBはデジタルユーロの話をしていますが、ECBの議論を見てみると彼らのBitcoinに対する理解がいかに浅いかということが分かります。彼らはBitcoinとは何なのかということも、なぜ特別なのかということも、まだ理解できていません。
Bitcoinはその性質上非中央集権な通貨であり、過去12年の間完璧に機能してきた通貨です。このことはBitcoinが単なるデジタル通貨ではないということを示しています。Bitcoinには非中央集権であるということ以外にも様々な特質があります。
Bitcoinは検閲耐性のある通貨であり、また不変性も持ち合わせています。さらにデフレ的な通貨であるという性質もあらかじめプログラムされています。
ECBのクリスティーヌ・ラガルド総裁は、Bitcoinを「いかがわしいビジネス」だと主張していますが、これは真実ではありません。
Bitcoinというのは、実は人々が考えているほどプライベートなものではありません。オンチェーンのデータ情報を利用すればBitcoinを詐欺に使っている人々を実際に追跡することができます。
しかも法定通貨で行われている「いかがわしいビジネス」の量は、Bitcoinを使って行われているものをはるかに上回っています。したがってクリスティーヌ・ラガルド氏の主張は根拠がないのです。
Bitcoinのボラティリティの高さに着目して「送金手段や決済手段として機能しない」という主張もされてきました。しかしBitcoinの主要な基本機能が「決済手段」ではないということは、すでに周知の事実だと思います。
Bitcoinの立場は「決済手段」から「デジタルゴールド」に変わりました。Bitcoinは今や、法定通貨システムの欠陥によって引き起こされている世界的なインフレから身を守るための手段なのです。
多くの政治家や権力者はこの技術についてよく理解していません。民間企業のトップの中には、マイケル・セーラー氏のような、自分の考え方を柔軟に変えられる人もいます。
彼は政治家ではなく、自分のビジネスを持っている民間人で、だいぶ後になってからBitcoinの価値に気づきました。
しかしECB総裁や他の政治家たちは、マイケル・セーラー氏のような民間企業のトップとは全く違う利益を追求しています。したがって彼らにとって、すぐに考え方を変えるというのは難しいことかもしれません。
BitcoinやEthereumは公平な通貨なのか
BitcoinもEthereumも公平な通貨だと考えています。分布のしかたを時系列でみてみても、時間が経つにつれてより分散化されていて、ネットワーク内の様々なセクションに保有が拡散しています。
もう一つ忘れてはいけないのは、これらの通貨は大きな分母でも割ることができるということです。たとえBitcoinをsatoshi単位で少量保有していたとしても、その価格はだんだん上昇していくいのです。
オンチェーンのデータを見ると、市場に新たに入ってきている人々がいるということが分かります。だからこそこれらの通貨の保有は継続的に分散しているということが分かるのです。
よく「Bitcoinの95%は上位2%のアドレスで保有されている」という主張を聞きます。しかしこの主張は、取引所の保有量などを考慮に含むことを忘れています。現在における取引所の保有量は、実に約260万BTCもあります。
それにもかかわらず、取引所をBTCをたくさんもっている「1つのアドレス」と捉えてしまうと、全体像が非常に狭く歪められてしまい保有が偏っているように見えてしまう、という事実があるのです。
しかも、取引所によって保有されている260万BTCというのは、たった十数個の企業によって保有されているわけではありません。何百万人ものユーザーが取引所にBTCを預けているというのは明らかです。
したがって、BTCの保有が一部に偏っているという議論は、ほとんどの場合に欠陥があるということです。
教育目的の情報
我々は教育目的でインサイトページを作成していますが、これはとても需要の高い部分でもあります。
この業界は全体的にまだまだ初期段階にあるので、特にオンチェーンデータといったようなニッチなものに関しては、まだまだ人々の理解が足りていません。
だからこそ、オンチェーンデータの価値や、オンチェーンデータからどれだけのことが分かるのかということを知ってもらうためにも、教育的な要素はとても重要になってきます。我々の出しているオンチェーン記事があるのですが、これらの記事の一部はオンチェーンデータ分析のパイオニアであるウィリー・ウー氏(Willy Woo)と共同執筆しています。彼は我々のパートナーとして、我々の提供する情報に解説を加えてくれています。
インタビュー・編集: Lina Kamada
翻訳: Nen Nishihara
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