ブロックチェーン上のデータから暗号資産分析を行う会社、Glassnodeの共同創設者兼CTOのラファエル・シュルツクラフト氏(Rafael Schultze-Kraft)にインタビューしました。様々なデータから市場についてどんなことが分かるのか、Bitcoin市場ではどんなことが起こっているのかなどについてお聞きしました。
インタビュー日 : 2021年1月15日
暗号通貨のリサーチ会社Glassnodeの設立
Glassnodeを共同設立したパートナーと出会ったのは約2年半前になります。彼はスイス出身で、長年投資家として暗号通貨業界に携わってきた経緯がありました。彼は、よりよい投資判断をするためにより良いデータを入手する必要性を感じていました。
こうして、Glassnodeは基本的には我々自身のニーズから生まれました。私はデータサイエンティストなので、データサイエンスとBitcoinという、自分の好きな2つのものを融合させるというアイデアに一瞬で夢中になりました。
だから喜んで共同設立者兼CTOになったというわけです。CTOの立場としてオンチェーンデータに集中して取り組めることを大変嬉しく思っています。
オンチェーンデータとは何か
オンチェーンデータ(On-Chain Data)というのは全く新しい概念だと思っています。
現在我々は、何百万もの取引が記録されているオープン台帳、つまりブロックチェーンを使っています。ブロックチェーン上にあるデータには、市場のファンダメンタルズに関する多くの情報があり、高い価値があります。これがオンチェーンデータです。
オンチェーンデータからは、市場の各種サイクルのタイミングを知ることができます。これは業界にいる人なら誰もが気にしていることだと思います。
オンチェーンデータからは、ネットワーク参加者や投資家がどのように行動しているのか、裏で何が起こっているのかということを知ることができるのです。
Glassnodeの価値提供
オンチェーンデータは公開されているとはいえ、簡単にアクセスできるものではありません。誰でも公開されている台帳を見に行きデータを読むことはできるのですが、生の状態では非常にアクセスしづらい情報だと言えます。
これこそが、Glassnodeが実際に提供価値をしている部分だと思います。我々は生データを抽出して、わかりやすい指標へ変換するという大規模な作業を行っています。
これにより人々は、分かりやすく処理された後のデータに直接アクセスして、色々なデジタル資産のネットワークに関する情報を入手することができるのです。
ユーザーはこの情報を利用し、その資産ネットワークの活動状況をみたり、投資家行動を観察したり、市場心理を判断したり、市場のタイミングを推し測ったりすることができます。
アクティブアドレスから何がわかるか
アクティブアドレスという指標が人気ですが、これはとても基本的な指標です。この指標からは、ブロックチェーン上でBTCを送金しているアドレスが、一定期間内にどれだけアクティブになっているかを知ることができます。つまりネットワーク上の活動について多くのことを教えてくれる指標です。
もちろん、1つのアクティブアドレスが直接的に1人のユーザーを表すわけではありません。たとえば1人で複数のアドレスを所有しているユーザーもいれば、複数人のユーザーのBitcoinを管理している取引所のような存在もあるからです。
この指標は、活発に交流している新規参加者がネットワークにどれくらいいるのかということや、ネットワークにどのようなトレンドがあるのかといったことなどを理解するのに使えます。
つまりユーザー行動から、ネットワークがどれだけ使われているのか、そのネットワークの成長の健全性をみることができる指標というわけです。
たとえば資産価格もユーザー行動に関連して推移するため、オンチェーンデータと資産価格との間にも明確な相関が見て取れます。
BTCのアクティブアドレス数(オレンジ色)とBTC価格(灰色)の推移
暗号通貨市場の発展と成熟
一般的に新しい産業が暗号通貨市場に参入するというのは非常に良い兆候です。これは、暗号通貨市場と暗号通貨という資産クラスが成熟してきたということを表します。市場への参入は、産業の今後の発展にとっても良い影響を与えます。
2017年の強気相場はどちらかと言えばリテール主導でしたが、現在の強気相場は、個人の富裕層、投資機関、そしてファミリーオフィスなどが中心となっています。
これはつまり、市場のインフラが整ってきているということです。インフラが整備されたおかげで富裕層がコインを大量購入をしたり、各種管理サービスを利用してコインを保有したりすることができるようになったのです。
以前から市場にいた個人の利用者たちは、このことを大変プラスに評価しています。このように供給が吸収されているということはつまり、大きな需要があるということだからです。
暗号通貨という、スマートで成熟したお金に対する需要が増えてきているのです。ますます多くの企業の参入により、暗号通貨価格は上昇しました。市場参入者が増えて市場が開発され、発展したということです。個人投資家やリテール投資家にとっては喜ばしいことです。
1000BTC以上保有している数(オレンジ色)とBTC価格(灰色)の推移
富裕層は投機目的なのか
企業や富裕層が投機目的で市場に参入しているとは思いません。富裕層も法定通貨やインフレに対するヘッジとしてのBitcoinの価値をしっかり理解しているのです。
つまり、Bitcoinがすぐに消えてなくなってしまうような類の資産ではないということを分かっているのです。彼らの理解度については、Bitcoinの成熟度をみてもよくわかります。
企業や富裕層といったビッグプレイヤーたちは、必ずこの市場に長期的にいると信じています。
オンチェーンデータから分かること
Bitcoinは全部で2100万枚です。その内1,860万枚はすでにマイニングされています。
誰がどれくらい保有しているのか、どれくらいの数が活発に取引されているのか、取引所にはどれくらいあるのか、マイナーの分はどれくらい残っているのか、といった情報は非常に気になるところです。
現在ネットワーク内にあるBitcoinは、そのグループがどのくらいの量のBitcoinを使用しているかによって、流動的なグループによる保有量と、非流動的なグループによる保有量に分けることができます。
非流動的(水色)、流動的(オレンジ色)、高流動的(赤色)Bitcoinと価格の推移
このように分析してみると、Bitcoinの全供給量のうち78%が非流動的と分類されるグループによって保有されている、ということがわかりました。
これはつまり、現時点でBitcoinが大量に市場に出回るということはないということです。したがってBitcoinを入手するのは非常に難しいということになります。
わかりやすく言い換えると、市場で循環、供給されているBitcoinの割合、つまり常に保有者が変わる可能性のあるようなBitcoinの割合はとても少ないということです。
したがってBitcoinの希少性がますます高まり、売り圧力の低下と需要の増加につながるのです。
供給量が不足しているため、取引所の流動性が低下しているということになります。オンチェーンデータからは、このように市場の動きを理解することができます。
脳科学からBitcoinまで
私は「我々は一体何者なのか」とか「脳はどのように機能しているのか」といったような、人生における大きなテーマに興味がありました。このような疑問をもっていたので計算論的神経科学と認知科学の勉強を始めました。
そして計算論敵神経科学を勉強していく中で、データモデリングの領域にも足を踏み入れはじめました。脳内の働きをよりよく理解するために、神経の仕組みや認知のプロセスを表す数学的なモデルを作ろうとしたのです。
そこでプログラミングを学び、機械学習やインテリジェントデータ分析も学びました。これが私のデータサイエンスへの道の始まりでした。そしてこのデータサイエンスへの情熱に、Bitcoinへの興味も加わりました。
データサイエンスとBitcoinというのは、全く難しい組み合わせではありませんでした。機械学習の手法とデータサイエンスを応用することができました。ここまでくれば、あとはもう方法論は同じなのです。
違うのは、その方法論を脳内の電気信号に適用するのか、それともユーザーデータに適用するのか、はたまたオンチェーンのデータに適用するのか、という部分だけです。つまり方法論は普遍的で、神経科学的なデータにも、ブロックチェーンデータにも適用できるということです。
インタビュー・編集: Lina Kamada
翻訳: Nen Nishihara
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