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Bitcoinは封じられていた実用性を解き放つ鍵:コナー・ブラウン氏記事 ②

Bitcoin懐疑派の「Bitcoinには本質的な価値がないため通貨として機能できない」という主張に対し、擁護派はBitcoin特有のさまざまな価値を持ち出し反論してきました。しかし本記事では逆に「Bitcoinには商品としての本質的な価値はない」という主張が正しいと認めた上で、「本質的な価値がないからこそ素晴らしい」という議論を展開しています。

Bitcoinは本的な価値がないからこそ通貨としての機能を存分に果たすことができます。Bitcoinのおかげで、本質的な価値があるにも関わらず価値貯蔵手段として使われ、商品としての機能を封じ込められていた資産クラスの価値を解放することができるのです。非常に興味深い論理展開となっていますので、ぜひご覧ください。

本記事は、コナー・ブラウン氏(Conner Brown)の「Bitcoin Has No Intrinsic Value — and That’s Great.」の内容を日本語へ翻訳し掲載したものです。原文の英語版はこちらをご覧ください。

この記事で述べられた意見はあくまで著者の見解を示したものであり、著者の所属する会社や雇用主の意見や信念を反映するものではありません

ハードマネーのパラドックス

もしもBitcoin懐疑派の人たちがミーゼスの著作をしっかりと精読していれば、彼が実は根っからのビットコイナーであったということに気が付くはずです。

ミーゼスは商品通貨に内在する問題について認識をしていました。しかし彼は問題を認識した上で、限られた選択肢の中ではゴールドが最良の選択肢であると考えました。

しかしゴールドが最良の選択肢であると考えたミーゼスも、『貨幣および信用の理論(The Theory of Money and Credit)』の中で、たとえゴールドに基づいた貨幣システムであっても「相当な不利益」が生じると論じており、その根拠として「貨幣の供給と需要の変動のみならず、金属の生産条件の変動とそれに対する産業需要の変動」(p. 238)があるから、といった点を挙げています。

つまりミーゼスは貨幣の商品としての価値について、産業需要の変動が供給に影響を及ぼすため、価格に歪みが生じるという点を正しく指摘していたのです。

ハードマネー、つまり物理的なお金というのは常にその固有の物理的属性と結び付けられてきました。この観点から言うとゴールドは驚くほど多くの用途があるため、この弊害がより深刻化してしまうというわけです。

この他にも、物理世界にはさまざまな貨幣的な観点の制約が生じます。まず自然界で生まれたものというのは、時間をかけて安定的に流通させるということができません。

しかしその点、Bitcoinは予測が可能で定期的な発行ができます。したがって数十年先の供給計算も行うことができるという、デジタルの世界ならではの利点があります。それに対して物理的なものの供給というのは監査することができません。

誰かが急に今まで発見されていなかった大量のゴールドを見つけたことによって現行の保有者たちの知らないうちに供給量の変化がもたらされ、根本的に価値が希釈されてしまう可能性だってあるのです。たとえば昔ヨーロッパの商人たちがタカラ貝を密かにインフレさせたためにアフリカの部族が不利益を被ることになったという前例もあります。

しかしBitcoinの場合はデジタル世界の存在であるというその特性上、全体供給を監査して正確な量を把握することができます。

このような進歩が実際に起こっている今の世の中で、オーストリア派経済学者たちが自分たちの生きていた頃の独自の時代背景に合わせて書いたアドバイスに執着するのは愚かなことではないでしょうか。

オーストリア派の学者たちは何も普遍的な定数を定めていたわけではありません。彼らも自分たちの限界を認識していて貴金属よりも優れた貨幣の形を望んでいました。新しい状況には新しい理論基盤が必要です。そしてBitcoinはまさにその新しい理論基盤を与えてくれる存在なのです。

Bitcoinは封じられていた実用性を解き放つ鍵

現代において最も優れた価値の貯蔵手段は、偶然にも商品自体としても有用性を持っているということは誰の目にも明らかです。

しかしここで重要なのは、ゴールドや不動産といったいわゆる商品貨幣と呼ばれる類のものは、商品としての有用性があるがゆえに価値貯蔵手段として成り立っているのではなく、「商品としても有用性があるにもかかわらず」価値貯蔵手段となりえているという点です。

ゴールドやその他の資産を通貨として使用する目的で保有することを決めた場合、その資産を有用性のある商品としてではなく富の貯蓄のために使うという明確な、かつ意図的な選択をすることになります。つまりそれは、ゴールドを電子機器の部品として使ったり宝飾品として使ったりするのではなく、延べ棒として持つことで貨幣的特性を活かすという選択です。

この判断は一見無害のように思えるかもしれませんが、実は経済的に有害な結果をもたらす可能性のある選択です。たとえば多くの人が価値の貯蔵目的で特定の商品に富を蓄える行為は、しばしば極端な浪費や投機的なバブルをもたらすことにつながります。

特に不動産がその典型的な例です。今日の投資家たちは自分の富を守るためにいわゆる「黄金のコンクリート」を追い求めている、という表現があります。

不動産デベロッパーのマイケル・スターン氏はこの状況を「世界のエリートたちは要するに貸金庫を探している」と説明しています。特に多くの投資家たちは自らの資金を保管しておくために、マンハッタンの不動産を買い求めているようです。これというのはまさに、投資家たちが高級マンションを買うのは住むためではなく財の貯蓄のためであるということを証明しています。 

投資家たちによるこのような行動の結果、以下のようなことが起こっているとジャーナリストは指摘します。

「国勢調査局の調査結果によるとミッドタウンの49丁目から70丁目、5番街とセントラルパークに挟まれている一帯では、3戸に1戸近くのアパートが、1年の中で少なくとも10ヶ月は誰も住んでいない状態となっている。」

同様の傾向は世界中の大都市で広がっています。The Guardian誌によれば「世界の超富裕層は家賃収入を得ずして富を確保する方法としてロンドンの1等地に投資する傾向がある。この傾向を受けてケンジントンとチェルシーの空き家の数は同一期間内に22.7%上昇した。2015年から比較すると8.5%の上昇となっている。」とのことです。

富裕層がこれらの不動産商品に投資し続け富を注ぎ続ければ、バブルが最高潮に向かって膨らみ始める事態となります。このような状況がいかに危険になってきているかということは、最新のUBSによる報告書の中でもよく示されています。

住宅投資による悪影響は、住宅が空き家になるということだけではありません。住宅を富の貯蓄場所として利用するという行為は、新しい住宅開発に対する健全な市場のインセンティブを破壊することにもつながるのです。

このような市場のインセンティブの破壊現象が明らかに見られる例として、サンフランシスコをはじめとするカリフォルニア州の住宅市場が挙げられます。


下図は、サンフランシスコのゾーニング規制を示した地図です。黄色く色付けされた部分では、すべての建物の高さが40フィート以下に制限されています。

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サンフランシスコの地域ゾーニング規制を示した地図

このような規制は、需要に見合った手頃な価格の住宅を新たに建設しようとする上で明らかに障壁となるものです。では、一般的な居住者や家賃への悪影響を考えると、一体なぜこのような規制が存在しているのでしょうか。

このような規制が存在している大きな原因の一つは、既存の住宅所有者たちが自分らの既得利益を守るために、人為的な供給制限を求めるロビー活動を展開しているからです。

カリフォルニア州議会分析局(Legislative Analyst’s Office for California)による最新の報告書内では、「既存の所有者たちは、新たな住宅を自分たちの経済的安定を脅かすものとして見ていると考えられる。住宅というのは多くの人にとって一番大きな投資である。したがって既存の所有者たちは自分の所有している住宅の価値が下がることを恐れて新しい住宅の開発や建設を制限しようとする傾向があると考えられる。」と指摘されています。

ごく一般の住宅購入者は、信頼のおける価値貯蔵手段をお金に見出すことができず、したがって住宅こそが自分の財産を守るのに最適であると考えています。だからこそ、彼らが自分たちの不安定な富が希薄化されないようにと住宅の供給を抑制するロビー活動を行うのもごく自然な行為です。そういった意味では、不動産の価値貯蔵性は人為的に生み出された希少性に依存してしまうと言えるでしょう。

では不動産に対してBitcoinはどうかというと、この問題を完全に解決できるというわけではありません。しかしそれでも、潜在的な住宅購入者たちにとって財産を長期的に安全に保管するための別の選択肢を提供してくれる存在です。Bitcoinが経済的な投資決断について人々に再考する余地を提供することで、新しい住宅建設に対する圧力が緩和される可能性もあります。

適正価格による新規開発を行うことができれば、都市は密度を高め、そこに住む住民1人1人の生活の質の向上につながるはずです。

たとえばサンフランシスコの住宅密度を高めることができれば、カリフォルニア名物である太陽の降り注ぐ天候は維持しつつ、二酸化炭素排出量の削減、歩いて移動しやすい街の実現、そして地域生活の質の向上を達成することが可能ということが調査モデルによって明らかになっています。

不動産の他にゴールドも、人々が代わりにBitcoinに富を保存することによって真価を発揮できるもののいい例です。人々がゴールドを売って代わりにBitcoinを購入すれば、これまで富の貯蔵目的で保有されていたゴールドを電子機器や医療機器の分野、あるいは航空宇宙分野で活用できるようになります。ゴールドを食用に転じることさえできます。

つまり、現在世界中に保管されているゴールドを活用してより安く質の高い製品を社会に提供することを通じて、今まで不可能だったようなこともより手軽にできるようになるということです。

ゴールドの愛好家たちはゴールドの持っている素晴らしい社会的用途を賞賛します。そしてゴールドには素晴らしい社会的用途があるというのは何も間違っていません。しかしここで言いたいのは、ゴールドの社会的用途の素晴らしさを賞賛するというのは逆に、デジタル・ゴールドに道をあけていることになるということです。


つまりどういうことかというと、我々は今まで純粋にお金として機能できるお金を持っていなかったために貯蔵商品をお金として使い、その実用性の活用については妥協しなければなりませんでした。しかしBitcoinが登場してグローバルな価値貯蔵手段として機能することで、我々がこれまで活用できず封じ込めてしまっていた貯蔵商品の実用性を解き放つことができるというわけです。

まとめ


Bitcoinは、有用な資源を富を貯蔵するためにその機能を封印することに伴う機会コストの損失を防ぐ手段を提供してくれます。Bitcoinによってもたらされるグローバルで永続的でかつアクセスのしやすい形の富の貯蔵は、世界各地の経済の将来のための強固な基盤形成に役立ちます。

他の資産クラスからBitcoinへの資金の流入が進むにつれ、(今まで資産として扱われてきた資源の)新たな供給が広がります。これによって手頃な価格の住宅、再活性化された都市環境、そして高品質な消費財といったものにより手が届きやすくなります。


以上のことをまとめると、Bitcoinに本質的な価値はありません。しかし、本質的な価値がないからこそありがたい存在なのです。

謝辞

Dan Held氏とBitcoin Observerの素晴らしい協力に感謝します。

翻訳: Nen Nishihara

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