本記事は、暗号通貨に関するデータ分析を行うCoin Metrics(コインメトリックス)のニュースレター「State of the Network」を、皆様に向けて有益な情報発信を行うために日本語へ翻訳し掲載したものです。原文の英語版はこちらをご覧ください。Coin Metrics社の詳細情報に関しては、メール(info@coinmetrics.io)からご連絡ください。
記事作成者 : Karim Helmy、Coin Metrics メンバー
作成日 : 2020年5月19日
キーポイント
- 現在、ブロック報酬はマイナーの主な収益源となっている。今回のマイナー報酬の半減は、一部のマイナーがネットワークから離脱する原因となっている。短期的には、突然のマイナーの離脱により、ネットワークが51%攻撃などのセキュリティの脅威にさらされる可能性がある。
- 異なる種類のマイニングハードウェア間におけるハッシュパワー(マイニングの計算力)の分布も、ネットワークセキュリティの特性に影響を与える。中古市場での旧式ハードウェアの可用性は、ネットワークに潜在的な脅威をもたらす。
- ナンス分布などの新しい手法により、S7やS9などの旧式ハードウェアを含む、特定の機種のハードウェアによって提供されるハッシュパワーの量を数値で推定することができる。
- 以前は動いていなかった多くのS9が、現在は再び稼働し始めている。現在、マイニングマシンのAntminer S9は、Bitcoinのハッシュパワーの約32%を占めている。
- 稼働していないS9によって計算される可能性のあるハッシュパワーの量は、ネットワークを51%攻撃するほどではないが、これらのマシンの存在によって引き起こされるネットワークのセキュリティの変化は重大である。
半減期
5月11日、毎ブロックごとに新規発行されるコインの数量半減が、Bitcoin史上3度目に行われた。「Halving:半減期」として知られるこの出来事は、コインの発行が最終的にゼロに切り捨てられるまで、210,000ブロック(約4年)ごとに行われる。
直近の半減期では、ブロック報酬が12.5 BTCから6.25 BTCへと減少した。半減に至るまでの期間は、市場のボラティリティの高さが顕著だった。この出来事がBitcoinネットワークのセキュリティに与える影響は微妙となっている。
現在、ブロック報酬はマイナーの主な収益源であるため、この報酬の削減により、一部のマイナーはネットワークから離脱する。マイニング報酬が少なくなると、マージンが小さくなり、非効率なマイナーは損失を出していることに気付く可能性がある。長期的には、市場の調整が行われることにより、これらのマイニングはより効率的なものへと置き換わっていく。ただし、短期的には、マイナーの突然の離脱により、ネットワークが51%攻撃などのセキュリティの脅威にさらされる可能性が高まる。
「State of the Network Issue 44」では、半減期がマイナー経済に与える影響について推論した。ここでは、同様のトピックを扱い、半減期がセキュリティに与える影響と旧式マイニングハードウェアを稼働させることの経済性に焦点を当てる。プロセスとしては、ナンスデータを使用し、ネットワーク上の特定のタイプのハードウェアの普及率を推定し、旧式のハードウェアの存在がBitcoinのセキュリティにどのように影響するかについて説明する。
Bitcoinマイナーは、半減期で直接影響を受けるブロック報酬と、影響がないトランザクション手数料の両方を得ている。通常、トランザクション手数料は、ブロック容量に対する需要で決まるため、トランザクションが渋滞している期間中には急上昇する傾向がある。
現在、トランザクション手数料がマイナーの総収益に占める割合はわずかである。過去5年間で、トランザクション手数料がマイナーの収益に占める割合はわずか4.4%となっている。
トランザクション手数料がマイナーの収益に占める割合
出典: Coin Metrics Network Data Pro
Bitcoinのブロック報酬は約4年ごとに半減し続けるため、マイナーがチェーンを維持するための十分なインセンティブを得るには、トランザクション手数料を増やす必要がある。半減期の少し前から、トランザクション手数料はマイナー総収益の約17%を占めるまでに急増している。この効果はブロック報酬の減少によって強くなり、トランザクション手数料自体もここ1年で見られないレベルにまで増加している。
このトランザクション手数料の増加は、半減期後に起こったハッシュレートの低下によって大きくなった可能性がある。このハッシュレートの低下は、ネットワークから離脱した非効率なマイナーによって引き起こされている。ハッシュパワーの低下により、ブロック間隔の時間が長くなり、使用可能なブロック容量が減少した。
多くの場合、マイナーはコストを削減するため、マイニングプールというものに集約される。マイニングプールとは、プール管理者によって組織され、通常はハッシュパワーの貢献度によって収益を配分するマイナーの集まりである。多くの場合、個々のマイナーは管理者が徴収する手数料などのいくつかの要因に応じてマイニングプールを切り替える。
悪意のあるグループがBitcoinのハッシュパワーの半分以上をコントロールしない限りは、ネットワークは安全となる。 51%攻撃と呼ばれる方法は、ネットワークの半分以上のハッシュパワーのコントロールする攻撃者がトランザクションを検閲し、二重支払を実行できることを意味する。
ネットワークで51%攻撃を行うため、共謀するのに必要なマイニングプールの最小数は、「Nakamoto coefficient:ナカモト係数」として知られている。現時点で、ネットワークで51%攻撃を行うためには、上位4つのマイニングプールが共謀を行う必要がある。Bitcoinの歴史の中では、この数は増えており、継続的に非中央集権化(分散化)が進んでいることが示される。
51%攻撃に必要なマイニングプールの数(ナカモト係数)
ナカモト係数は完璧な基準ではなく、これによりBitcoinは実際よりもはるかに集権化されているように見える。ハードウェアのような資本に多額の先行費用が必要な個人マイナーには、ネットワークを攻撃するインセンティブがないため、悪意を持って操作されたマイニングプールからは離脱する可能性がある。
しかしながら、マイニングプールもそれぞれのマイナーが採掘するブロックを指定し、ある程度は離脱を阻止することができる。また、攻撃者が「フェザーフォーキング:Feather forking」などの手法で、ネットワークのハッシュパワーの半数未満のトランザクションを検閲する可能性もある。したがって、マイナーの集権化の程度を定量化するには、ナカモト係数のような基準が有用となる。
元のプロトコルに変更を加えBetterhashを実装するStratum V2は、マイニングプール管理者がマイニングするブロックを選択するのではなく、個々のマイナーに自分でブロックを選択させることを提案している。マイニングプールの運用方法に対するこの改善により、個々のマイナーのより大きな力を与え、ネットワークを更に分散化させることができる。
それぞれのグループにおけるハッシュパワーの分布に加え、マイニングハードウェアの機種別でのハッシュパワーの分布も、ネットワークセキュリティの特性に大きな影響を与える。
ハードウェアの強化
ブロックチェーンにブロックを加えていくため、Bitcoinマイナーは特定のターゲットの以下のハッシュ値となるナンス(任意の値)を見つけようとする。これらのハッシュ値が計算、検証される速度がハッシュパワーと呼ばれ、この条件を満たすナンスは「Golden Nonces:ゴールデンナンス」と呼ばれる。理論的にゴールデンナンスは、全体に均等に散らばっている。ブロックヘッダーのハッシュ値が満たす必要のある閾値は、ネットワークの難易度パラメーターによって設定される。このパラメーターは、ブロックがチェーンに取り入れられた速度に従って定期的に調整されていく。
マイニングは最初、CPUで実行されていたが、プロセスが並列化され、GPUの導入により早い段階で効率が向上した。今日、ほとんど全てのマイニングが、ASICSと呼ばれる特殊なチップを含むマイニングリグを使用して行われている。これらのデバイスは、他のハードウェアよりもはるかに高速で、並列化とエネルギー効率に優れている。
これらの機器を購入するには、多額の先行投資が必要となる。マイナーの資本を非流動的な資産に固定させることで、悪意のある行為が阻止できるため、これはネットワークのセキュリティに対してプラスとなる。
旧式のマイニングハードウェアは、運用コストは高くなるが初期投資が少なく済むため、旧式ハードウェアが存在するとによりセキュリティのモデルは変化する。ハードウェアのコストとは別に、マイニングファームの立ち上げには事業を行うための障壁があるが、旧式ハードウェアの存在により、資本支出を大幅に抑えて市場に参入することができる。
マイニング産業は機密性が高いため、ネットワークの保護に使用されているマイニングハードウェアのタイプを識別することは一般的に困難となる。ただし、新しい手法を用いると、特定のタイプのハードウェアによって提供されるハッシュパワーの量を数値で推定できる。
Bitcoinのナンスの分布により、ネットワークでマイニングに使用されているハードウェアの機種に関する情報を得ることができる。このデータを中古市場でのハードウェアの価格情報と組み合わせることで、安価で少し古いハードウェアの存在によってもたらされるリスクの程度を定量化できる。ナンス分布の詳細な説明については、シリーズ「シグナルとナンス」Part 1とPart 2に記述。
ゴールデンナンスは、全体の範囲に均一に分布しているため、有効なナンスをプロットしても、時間の経過に伴いランダムになものになると予想されるが、Bitcoinのナンス分布はそうではない。
ビットコイン・ナンス
プロットした表の左側では、ナンスは分布図のより低い範囲に集中している。これは、CPUマイニングの時代にマイナーが使用したサンプリング手法の結果である。これは、ゼロから開始し、大きな値へと繰り返しテストしていく手法である。
Bitcoinのナンス分布にも特徴的なしま模様があり、2015年後半に初めて出現し、最近は消え始めている。最初、この筋は広い状態で始まり、その後突然狭くなり徐々に消えている。筋は4つあり、それぞれ狭いものと広いもので示されている。
しま模様は、ナンスがBitmain Antminer S7およびS9のマイニングリグラインによる抽出方法に起因していることがわかった。それぞれのリグは、ある時点ではネットワーク上の主要なマイナーとなっていたが、最近S9はAntminer S17に代替されるようになった。
広い筋と狭い筋は、それぞれS7とS9で使用されている抽出方法から発生している。この情報を用いて、S7とS9によって計算されるネットワークのハッシュパワーの割合を数値で推定できる。
これらの数値によると、S7と関連ハードウェアによって計算されるハッシュレートの割合は、2016年5月に約61%でピークに達した。今日、S7はそこまで大きなハッシュパワーを占めてはいない。 S9と関連ハードウェアによってマイニングされたブロックの割合は、2018年5月に約78%でピークに達した。現在、ブロックの約32%がS9によって生成されている。
これらの数値は、ハードウェアのハッシュパワー出力に関する他の推定とも一致している。 2019年12月に公開されたBitcoinマイニングに関するCoinSharesレポートでは、S9が同クラスのハードウェアの約3分の2を占めていると推定されている。 北京を拠点とするSpark Capitalの創設者は、3月にS9がBitcoinのハッシュパワーの20〜25%を提供したと推定している。
各タイプのマイニングリグによって提供されるハッシュパワーの比率から、旧式ハードウェアによってもたらされる脅威についての今後の見通しが得られる。
マイニング機種別のハッシュパワー割合
この図から得られる最も顕著な考察は、ネットワークを保護するハッシュパワーが指数関数的に成長していることである。
S9によって提供されるハッシュパワーの推定値は、2019年8月に毎秒約52エクサハッシュとなりピークに達した。 2020年2月に、S9によって計算された推定ハッシュパワーは、毎秒約21エクサハッシュとなり底を打った。
恐らく最近のBitcoin価格高騰の結果として、以前稼働していなかった多くのS9が再び稼働し始めたようである。現在、このハードウェアは、毎秒約37エクサハッシュを計算している。
急速に変化する市場の状況により、この影響が続かない可能性もある。しかし、旧式のハードウェアでのマイニングがどの程度まで稼働可能かや、このように安価なハードウェアを簡単に稼働できることを説明することができる。
S9は、中古市場で定価を大きく下回る価格で販売されている。マイナーは、元の価格である約3000ドルに比べ、20ドルから80ドルでS9を購入できるようになっている。今日の経済情勢と中国の梅雨によってもたらされる安価な電力を考えると、マイナーはこれらのデバイスを有利に稼働できると理解している。
稼働しているS9によって計算される可能性のあるハッシュパワーの量は、Bitcoinを51%攻撃できるほどではないが、その存在によって引き起こされるネットワークのセキュリティの変化は重大である。この効果は、BitcoinのPOWアルゴリズムを使用する他のプラットフォームでより深刻となる可能性がある。これには、Bitcoin CashやBitcoinSVも含まれており、現在それぞれが毎秒約2.5エクサハッシュ、毎秒約1.8エクサハッシュの計算能力で保護されている。
半減期や機関投資家の関心の高まりに関連した楽観ムードにより、Bitcoinの価格は劇的に上昇した。マイナー報酬半減後、ボラティリティは幾分か落ち着いたが、価格は上昇傾向を続けている。また、半減期はトランザクション手数料の増加を加速化させ、ハッシュパワーのわずかな低下をもたらした。
半減期に関連するセンチメントは引き続き市場に影響を与え、半減によってBitcoinのマイナー収益が、トランザクション手数料に基づくモデルにうまく移行できるかどうかが試される。この出来事の長期的な影響はまだ見られていないが、マイナーの経済性と市場全体への影響は既に顕著となっている。
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