FATFによる12ヶ月レビュー: 着実な進展と一貫した対応の追求

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記事作成】Chainalysisチーム

翻訳】重川隼飛 Chainalysis セールスエンジニア

     

訳注: FATFに参加するメンバーには単一の国だけでなく複数の国から構成される政策機関も含まれることから、原文では「国」を意味する”country”ではなく、「法律の管轄区域」を意味する”jurisdiction”という用語が使われています。日本語では、原則としてそれに従い「法域」と訳しています。

   

今週、Financial Action Task Force (FATF)は、12ヶ月という期間で、公共及び民間部門において、暗号資産関連の規制について施行すべきこと(FATF勧告)がどの程度進んでいるかについてのレポートを発表しました。このFATF勧告は、元々2019年6月に発表されており、FATFの200以上のメンバーやオブザーバーである法域に対して、以下のような規制を施行することを求めています。

  • 取引所やホステッドウォレットなどを含む暗号資産サービスプロバイダ(Virtual Asset Service Provider: VASP)を免許制とすること
  • 本人確認(Know Your Customer: KYC)やエンハンスドデューデリジェンスを徹底すること
  • VASPにおいてトランザクションモニタリングによるリスクベースのAML/CFTコンプライアンスを義務付けること
  • トラベルルールコンプライアンス − 1,000 USD/EURを超える資金移転の送金元・送金先の身元確認を行い、対向のVASPにその情報を送ること

FATFのレポートは概ね好意的な見方をしており、公共と民間いずれもこうした勧告を施行するにあたり大きな進展があると自評しています。また、FATFはレビュー期間を2021年6月に延長しており、それまでには全ての法域で公共及び民間部門が全ての勧告を施行することになるだろうと予期しています。

なぜレビューが遅れているのでしょうか。各法域で規制の導入について進展は見られるものの、実際に施行される規制やそれを執行・監督する機関、施行に必要な技術面での対応が、法域によってまちまちであり、グローバルで効果的に規制を敷くための国際的協力を発展させるには、まだまだ時間がかかるだろうとFATFはみています。

公共部門: FATF標準施行と実効性との間のギャップ

FATF勧告の施行についての法域での進捗状況は数字上の情報から読みとることができます。FATFのアンケートに答えた54の法域のうち32件が、AML/CFTコンプライアンス遵守をVASPに対して求める規制を適用済と回答しています。ただし、32件というのは、FATF相互審査の対象全体の15%に過ぎません。アンケートに回答していない多くの法域では未だ勧告通りの規制が適用されていません。まだまだ課題が残されているということで、レビュー期間の1年延長が決定されています。

FATFのレポートでは、勧告通りの規制を適用済であると回答した32の法域についても、一様ではないと指摘しています。例えば、32の法域のうち15件は既にトラベルルールを規制上の要件としたと報告しているものの、それらのうちほとんどは、VASPがそれに遵守するための包括的な技術的ソリューションを必要としていることについて触れていません。Chainalysis Know Your Transaction (KYT)のようなツールを使えば、トラベルルールが適用されるトランザクションについての必要な送金元・送金先の情報が確認できますが、世界中のVASPにそのような情報を渡すためのソリューションについては、この業界でも模索中です。

また、その32の法域のうち、現時点でVASPを免許制としているのは23件のみにとどまります。ここに、FATFの規制を法制上適用しようとする当局の動きと、その実際の執行力との間には大きな隔たりがあることが分かります。法域内で免許を受けた全てのVASPを把握できる中央管理機関がない場所では、暗号資産規制の規制を実際に執行するのはほぼ不可能でしょう。このように、多くの法域でVASPに対しAML/CFTコンプライアンスを義務付ける法整備がされてきていることは良い兆しであるものの、延長されたレビュー期間の間に各国がそれを実現していくにはまだまだやるべきことがあると言えます。

さらに、FATFは、FATF勧告適用済の32の法域のうち19件の報告より、暗号資産に関する「疑わしい取引の届出」(Suspicious Transaction Report: STR、あるいは、Suspicious Activity Report: SAR)の件数についてもデータを示しています。これら19の法域では、2018年1月から2020年の3月までの間に、合計134,500件ものSTRがあったと報告されています。しかし、これらのSTRはVASPというよりも、金融機関や決済サービスプロバイダによるものがほとんどでした。このことから、VASPのコンプライアンスチームや現地当局が全ての疑わしい取引を特定・報告するための調査能力を高めるためのトレーニングや教育が一層必要と言えるかもしれません。

最後に、暗号資産規制を監督する機関が法域によって異なることをFATFは指摘しています。AML/CFTコンプライアンス要件を施行済の32の法域の中でも、金融サービスの監督省庁の場合もあれば、中央銀行や証券の規制当局、国税庁であったり、あるいはVASP専門の監督機関を新設したりする場合もあります。各監督機関によって、暗号資産の専門レベルや規制の優先事項は大きく異なりますが、グローバルでの効果的な規制を行うためには国境を越えた協力が必要であることを考えると問題となるかもしれません。これも各法域の監督機関が目的や実効的なやり方について足並みを揃えるために、FATFがトレーニングや教育を提供するべき領域と言えるでしょう。

公共部門: 引き続き求められる暗号資産Regtechの発展

トラベルルールコンプライアンスを展開する具体的な技術的ソリューションは未だに無いとは言え、着実に進展はみられるとFATFは記しています。現時点で一番良い実例はInter Vasp Messging Standard (IVMS)でしょう。これはトラベルルール対象のトランザクションについて、対向VASPに送金元・送金先の情報をどのように渡すかを定めたグローバルのメッセージ標準です。FATFはこの取り組みを、ここ数年の民間のグローバル規制標準に対する貢献で最も大きいものだと評しています。

メッセージ標準についてだけではなく、FATFはトラベルルールをリアルタイムで実現するためのソリューションを複数のプロバイダが開発している点にも触れています。このような技術は世界中のVASPに求められると同時に、各国独自の要件も考慮する必要があることから、複数ソリューションの開発は非常に歓迎すべきことでしょう。

しかし、VASPによるAML/CFTコンプライアンスプログラムには向上の余地があるともFATFは指摘しています。法域によっては、グローバル基準に則ったコンプライアンスプログラムに不可欠なAML/CFTの基本知識が民間業者に欠けているとの危惧がレポートには示されています。また興味深いことに、このような知識面でのギャップは、長らく暗号資産の規制法があるアメリカのような国においては、問題として必ずしも明白ではない、ということにも触れられています。これは、世界標準のコンプライアンス分野の知識習得に遅れをとっている各法域に対し、質の良いトレーニング暗号資産コンプライアンスツールを普及させることが必要であることの証左であり、FATFのレビュー期間延長の別の理由とも言えるでしょう。

レビュー期間の延長中、一層の国際協調を促進するFATFの働き

この12ヶ月のレビューのレポートに加え、FATFは、各法域の当局が規制の取り組みについて協調したり、監督下にあるVASPの情報を共有したりする国際的な枠組みを作ろうとしていることを発表しており、手始めとして10月に国際ミーティングを開く予定です。このミーティングで期待されている一つの成果は、マネーロンダリングやテロ資金供与などの暗号資産取引に関わる金融犯罪の兆候となる「危険信号」(red flag)をリスト化し、各法域の規制当局やコンプライアンスの専門家に共有することとされています。FATF勧告の法への適用と実際の執行との間に一貫性が求められる中、2021年6月までにFATF勧告の全ての事項が全ての法域で実運用されるよう、レビュー期間延長中のFATFのさらなる働きが期待されます。

   

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