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「ケンブリッジ大学が暗号資産研究を行う意味」アポリン・ブランディン氏 インタビュー

ケンブリッジ大学オルタナティブ・ファイナンス(CCAF)で暗号資産研究プログラムの責任者を務めるアポリン・ブランディン氏(Apolline Blandin)にインタビューさせていただきました。これまでに、ブランディン氏は暗号資産、ブロックチェーンに関する二つのベンチマークレポート作成に携わり、暗号資産規制なども研究されています。

アポリン・ブランディン氏

インタビュー日 : 2020年6月17日

アポリン・ブランディン氏 インタビュー

ケンブリッジ大学の暗号資産に関する研究

私の名前は、アポリン・ブランディンです。ケンブリッジ大学オルタナティブ・ファイナンス(CCAF)で暗号資産研究プログラムの責任者を務めています。CCAFは、2015年にケンブリッジ・ジャッジ・ビジネススクールに設立された研究所です。

当初は、クラウドファンディングとデジタルレンディングに関する研究が行われていましたが、2016年の後半に暗号資産とブロックチェーン技術に焦点を当てた調査チームが作られました。

Apolline Blandin

この調査チームの目的は、この新興産業を研究し、データ収集によって業界の動向と発展状況を明らかにすることです。調査レポートは、非公開のデータに基づいて毎年作成されています。

これらのデータは、暗号資産業界の企業や団体への調査を通じて収集しています。暗号資産のベンチマーク調査は、マイニング、取引所、カストディ、決済という4つの主要な業種を対象としています。

研究所では、オルタナティブ・ファイナンスという言葉の定義を「伝統的な金融システムの外で生まれた全ての金融システム、金融商品、メカニズム」としているので、暗号資産はこの定義に完全に合致していると思います。

中国からケンブリッジへ

私が初めて暗号資産に出会ったのは、北京に住んでいた頃です。暗号資産マイニングについては耳にしていましたが、当時はあまり注目していませんでした。

その後、フランスに帰国し、テック系スタートアップ企業と投資家の協会で働き始め、ハードウェアウォレットを提供しているLedgerなどの暗号資産企業と協業を行っていました。

そして、この業界の人達と定期的に関わり始め、彼らの仕事に魅了されるようになりました。また、私のバックグラウンドは研究調査だったので、主に業界の中で行われているリサーチに興味を持っていました。この分野にフォーカスしようと思い、最終的にはケンブリッジへとたどり着きました。

私の初期の研究は、モバイルファイナンスと金融包摂に関するものでした。多くの場合、テクノロジーは金融包摂を促進し、より多くの人々が金融サービスを利用できるようになることで、不平等を減少させ国のより良い発展につながると考えられています。

私がBitcoinに魅了されたのは、そこにある仕組みです。最初は、どのようにBitcoinが金融包摂に利益をもたらすことができるかを調査したいと思い、その時から暗号資産業界全体に非常に興味を持ちました。

私の研究のほとんどはBitcoinに焦点を当てたものとなっています。おそらく私が現時点で最も理解しているのはBitcoinであり、今まで勉強するのを止めたことはありません。暗号資産業界は非常に万能であり幅広い分野だと思っています。

不可知論的で客観的な研究

暗号資産市場は他の市場と比較してまだかなり小さいですが、独自の仕組みがあるので興味深いです。2009年にBitcoinが始まって以来、産業は大きくなってきていて、それに対して詳細な調査と研究を行っていくことが重要だと考えています。

また、お金とは何か、通貨制度がどのように機能するかについての意識を高める良い機会だとも思います。信念を持つことも素晴らしいですが、リサーチの観点からは、コインやブロックチェーンに対しては不可知論的な考えを持っています。強いイデオロギーに関係なく、可能な限り客観的な質問で回答を集めることに関心があります。

大学教授と学生の関心

現在、ケンブリッジには暗号資産を研究している教授が何人かいます。米商品先物取引委員会(CFTC)の元チーフエコノミストであるAndrei Kirilenko博士は、財政及び規制の観点から研究を行っています。

経済学部は、暗号資産とブロックチェーン技術をミクロ経済学として位置付けています。コンピュータサイエンス学部にあるケンブリッジ・コンピューターラボも、暗号資産と業界の調査を行っており、分散型台帳技術に特化した博士課程もあります。

ケンブリッジ大学の学生は、暗号資産とブロックチェーン技術に非常に興味があります。コンピューターラボ、法学部、経済学、会計学部などの様々なバックグラウンドの学生が集まる「Cambridge Blockchain Society」と呼ばれる学生主導の団体もあり、非常に多様です。

地理的な多様性

私達の研究はグローバルに行われており、できる限り業界の状況とその多様性を研究に反映させる必要があります。地理的にバランスの取れたサンプルをしっかりと集める必要がありますが、返答してくれない取引所や事業者も多いので、時々苦労することがあります。

そのような状況は、中国に拠点を置く企業でもありました。2016年後半に行われた最初の調査には、かなりの数の中国企業が参加してくれましたが、翌年からは中国企業に参加してもらうことが困難となりました。

2017年9月に中国政府が暗号資産交換の禁止を発表した数か月後にも調査を行いましたが、多くの企業が情報開示を恐れており、事業を他の地域に移転することに多忙だったため、調査には消極的でした。

このような問題は常に発生していますが、私達は業界全体を可能な限りグローバルに捉えようとしています。今年の調査は7つの異なる言語に翻訳されました。私達のチームには、中国語、アラビア語、ウクライナ語、ロシア語を話すメンバーがいるので、できる限り多様化していきたいと思っています。

各国の規制の違い

2019年4月には、暗号資産の規制状況について23の地域を調査しました。暗号資産の登場に対する規制の対応は地域ごとに異なり、バミューダのように特別に規制の仕組みを作った地域もあれば、日本のように既存の規制を改定した地域もあります。

同じ業界であってに地域によって権限の範囲が異なり、これにより業界が完全に規制に準拠することが難しくなっています。法律の世界では、規制による萎縮効果についても話し合われており、規制が曖昧すぎると、何が許可され、許可されないかが企業とっては不明確となり、暗号資産の使用が妨げられることに繋がります。

暗号資産の定義とは

用語の問題も、重要な研究のテーマです。暗号資産、暗号通貨、仮想通貨、デジタル通貨などの様々な用語が使用されていて、話が混乱してしまうことがあります。

私達は、狭い定義の「暗号資産:Crypto Asset」という用語をBitcoinやEthereumなどに使用していて、「経済的なインセンティブメカニズムが基本的な役割を果たすパブリック・ブロックチェーンを介して発行、移転される全てのデジタルユニット」と定義しています。

残りは「デジタル資産」という広い用語に該当しますが、これは多くの場合、現実の世界に既に存在する資産がトークン化された形のものです。多くの人はあまり区別していませんが、これらは非常に重要なことであり、調査と研究では「暗号資産」という用語が何を意味するのかを明確にする必要があります。

CCAFのマイニング研究

CCAFの目標は、この分野の研究をさらに進めたい人達、そして数年後にこの業界に新しく参入してくる人達のためにデータを残すことです。したがって、私達が調査で使う質問には一貫性が必要です。

前の年からどのように変化したかを確認するために、いくつかの質問は内容を変えていません。ただし、この業界で新しいものが生まれた場合には、新たな質問を追加しています。例えば、今年は課税や保険、マイニング業者のヘッジ戦略に関するいくつかの質問が追加されました。

CCAFでは調査を中心に行っていますが、マイニングなど他のプロジェクトや研究にも携わっています。マイニングは見過ごされがちで、外の人からはあまり理解されていないと思います。

最近、私達はBitcoinのネットワークによって消費されている電力量をリアルタイムで推計するWebサイト「Bitcoin電力消費指数」を作りました。Bitcoinのハッシュパワーの地理的分布を知るために、マイニングプールにも協力してもらいました。このようなプロジェクトは私達にとって非常に重要で、十分に研究されていない事柄を明らかにする助けとなります。

研究調査の目的

今回の調査には3つの主な目的があり、1つ目はこの業界を研究したい人にデータリポジトリを提供することです。暗号資産業界は新興産業なので、他の産業のようにデータがあまり収集されていません。データを蓄積し、どのように発展しているかを確認する必要があります。

2番目の目的は、業界に対する理解度と透明性を高めることです。多くの規制当局者がこれらの新しいテクノロジーと概念を理解しようとしており、この業界がどのように存在し発展しているかをしっかりと知ってもらう必要があります。

3番目は純粋に研究のためであり、より多くの人々にこの業界に関する研究を行ってもらえることを望んでいます。この分野でより多くの研究が生まれることで、より多くの参加者がその研究を発展させ、その結果として安心感と透明性をもたらすことができると思います。

インタビュー・編集: Lina Kamada

     

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