暗号通貨メディアのCointelegraphで、リサーチディレクターを務めるデメルザ・ヘイズ氏(Demelza Hays)にインタビューをさせていただきました。ヘイズ氏はフロリダ出身で、現在はリヒテンシュタインで研究を行われています。インタビューでは、Bitcoinの背後にある経済の仕組みについて解説していただきました。是非、ご覧下さい。
インタビュー日 : 2020年8月26日
アメリカからヨーロッパへ
私は旅行が好きではなく、18歳まではアメリカを出たことがありませんでした。アメリカでは大学同士の学生獲得競争が激しく、大学は様々な種類の奨学金で学生を引き付ける必要がありました。
私が通った大学はあまり有名ではありませんでしたが、それでも学生を獲得すべく、成績が良かった学生全員にメールを送っていました。私は良い成績がとれたので、政府の奨学金に関するミーティングに呼ばれました。大学側は学生が奨学金を獲得できるよう支援をしてくれるとのことでした。
エッセイをいくつか書き、書いたものが気に入られたので、米国務省から国の奨学金を何種類かもらい始めました。インドへ研究にいける奨学金も獲得しました。インドで研究した後は、勉強を続けたいと思ったので修士課程でフランスに行くことにしました。
コンテンツ作成で受け取った0.5BTC
Liberty.meというWebサイトがあり、そこで2014年に記事を書き始めました。このサイトでは記事コンテンツを求めていて、どうにかしてコンテンツライターを呼び寄せようとしていました。
彼らは月末に最も人気だった記事に0.5BTCを与えることにしました。これは、1Bitcoinが150ドルの価値だった時のことです。私は記事を書き始め、毎月0.5BTCを集めました。これが私の暗号通貨との最初の出会いでした。
何より、サイト側はライターへの支払いを暗号通貨で行いたいと思っていました。そして私は当時Bitcoinの大ファンでした。今も暗号通貨の支持者です。
不平等な富の配分
私がBitcoinのファンである最大の理由は、カンティロン効果にあります。リチャード・カンティロンは、18世紀のアイルランド系フランス人経済学者で1750年代に活躍し、現在カンティロン効果として知られる事象について説明しました。
お金を新たに印刷すると、現存のお金の購買力が低下します。したがって、例えば誰かがルピーまたはドルを貯金していて、毎日そのお金をマットレスの下に敷いている場合、お金にそれほど価値はありません。ムンバイの中央銀行がお金を印刷している限り、苦労して貯めたお金は貯めた人の気持ちには全く関係なしに減価していくのです。
新たに印刷されたお金に最も近い人たちは、以前のお金の量で均衡していた価格の状態で、新たな資金にアクセスすることができます。例えばバナナやヘアカット、自動車などの価格は、均衡価格に設定されています。
新しいお金が発行されると、印刷されたお金に最も近い人たち(昔は王様と宮廷、今は政府と銀行)が先に入手し、高級品の価格が暴騰することになります。
目を疑うほどの高価格で物件を販売する高級不動産があり、お金持ちの人は金とシャンパン入りのパンを注文し、金で焼いたパンに何千ドルもかけます。その一方で電気代を払うこともできない人もいます。このような所得格差の拡大が我々の目の前にあるのです。
多くのメディアは、この所得格差の拡大の責任は団体や組織にあるとして指摘をし合っています。しかし実際の原因は私たちの貨幣システムにあります。最初にお金へアクセスできる人から最後にお金を手に入手する人へと、不平等な富の分配が行われているのです。
お金が発行されて経済へ流通すると、人々は商品やサービスを買い始め、この行動が価格の上昇につながります。お金は新たに印刷され増加したにもかかわらず商品やサービスは一定量だからです。
トリクルダウン経済
高齢者や失業者がいるという事実を考えると、状況はさらに悪化します。社会の中で最も不利な立場にあるグループは、物価が上昇するのを見るだけです。
彼らは、新しく印刷されたお金を手に入れることができないのです。このことをトリクルダウン経済と呼ぶこともあります。
どんな一流の経済学課程へ行っても、中央銀行員と話をしても、優位な立場の人にお金がいくことは貧しい人たちのために良いことで、彼らのためになることだといいます。
経済を活性化させ、資金を投入することで、大企業は融資を受け、人を雇うことができます。しかしお金を新たに投入すると、貧しい人々が保有している現存のお金の価値が下がるということについては触れられません。
貧しい人々の購買力の低下というデメリットよりも、彼らが企業から仕事を得て多くの賃金をもらえるメリットの方が大きいということは、証明されていません。
今まで理論上のお話をしてきましたが、実際にヨーロッパの賃金を見てみると、ここ20年間ずっと横ばいです。これは他の地域でもそうです。賃金は上がっていませんが、他のあらゆるものの価格は上がっています。特に、住宅、株式、債券、など、人々の投資対象となる資産の価格が上昇しています。
銀行は、新しく印刷されたお金を入手してそれを金融市場に流通させるだけです。そして金融市場では、担保のある企業にお金を渡します。担保がなければ新しく印刷されたお金を手に入れることはできません。
中央銀行の通貨発行とマイニングの違い
アメリカは資本主義の国と言われていますが、スウェーデンのような国でビジネスを始める方が簡単です。かつてアメリカは非常に資本主義的でしたが、過去50〜60年の間に、政府による規制が増えてきました。
問題は資本主義か社会主義かという点ではなく、不平等を生み出しているマネーサプライ(通貨供給)です。マネーサプライをより公平なものに切り替える必要があります。Bitcoinはまだマイニングされきっていないことを考えるとインフレが全くないわけではありませんが、誰もがマイナーになることができます。
ドルのように、国だけが新たに得られるものではなく、誰でも手に入れようと思えばマイニングできるのです。したがって誰しもが、シニョレッジ(通貨発行益)を得ることができます。
さらに、マイナーが新しいBitcoinをマイニングする場合コストがかかります。したがってマイナーは中央銀行とは違い、経済的な選択をしなければなりません。中央銀行は新しいお金く印刷しない理由がありません。なぜならコストがなく、新しくお金を印刷することには利点しかないからです。
私は個人の自由という考え方が好きなので、アダム・スミスやジョン・ローのような資本主義本来の考え方や、レッセフェール(自由放任主義)を好んでいます。私がBitcoinを使うのは、自由を取り戻したいからという理由があるのです。
自由主義からの離脱
多くのBitcoin利用者はリバタリアン(自由至上主義者)で、私もそうでした。しかし、ここ2、3年で考え方が変わりました。ヨーロッパの君主制の環境下に5年間住み、今は君主制を好むようになりました。
私の現在住んでいるリヒテンシュタインには、良い君主制があります。リバタリアンの問題点は、将来に不確実性があることで、どのようなシステムであれ100%確実に機能するとは限らないのです。
例えば、もしかするとリバタリアンが「お金さえあれば自由を取り戻すことができる」と主張して、米国で政治家になれることもあるかもしれません。でも最終的には、そもそも当初何を目的にしていたのか根本を忘れてしまい、そして全てがまた元通りになってしまうのです。
人生は良い時と悪い時の循環に過ぎず、ここは天国でもないので、ずっとよい時であり続けられるシステムは決してありません。他のシステムよりもうまく機能するシステムもあるでしょう。
しかしシステムが上手く機能するかどうかはあくまでも、文化やコミュニティの特徴などの要素に依存しています。コミュニティーとしては、自分のグループにとって、その時どのシステムが最適かを何とかして見つけるしかないのです。
政府のあるべき形とは
リヒテンシュタインは素晴らしい国です。とても小さいですが、それが良いところだと思います。国民の皆が課題を把握しています。政治家は庶民と同じ場所で買い物をし、同じスポーツ観戦に行きます。
この国の人口は3万人ですが、私の住んでいる村の人口は2000人です。私たちは、政治家が何をしているかということにも目を光らせています。政治家が立場を濫用すると当選できません。
昨年、ジミーチュウの靴や高級品に政府予算を使ったことで議会から追い出された政治家がいました。領収書で発覚し国会から追放されたのです。これが本来あるべき姿であり、説明責任があるべきです。
アメリカは大きすぎて、もはや誰が副大統領なのかもわかりません。ホワイトハウスや議会で何が起こっているのか、1万人の動向を把握することなど到底できないので、何が起こっているのか全くわかりません。
脳には処理しきれない情報量なのです。私には普段の仕事と生活もあるので、この巨大な塊のような政府の構造を把握する余裕はありません。
ルピーではなくボーダフォンでお金を貯めるインドの女性たち
私はインドで研究を行なっていた時に、自助グループ(SHG)に関するデータを収集するプロジェクトを担当していました。SHGには、2種類のプログラムがあります。1つ目は民間企業が女性に少額の融資を行うもので、2つ目は、政府が女性に少額の融資を行うというものです。
私は政府の方のプログラムのデータを収集し、融資をうけた女性たちの返済率を調べていました。また、そのお金をどのように使うのかも調べていました。そのためには、時には外国人が行ったことのないような村にも行かなければなりません。
女性たちに「子供は何人いますか?」「そのお金で何を買いましたか?」「返済はしましたか?」「ローンはいくつ借りましたか?」といった質問をしました。
そして私は、多くの女性がルピーの代わりにボーダフォンのM-Pesaを使ってお金を貯めていることに気づきました。彼女たちはルピーを使っていませんでした。夫からルピーを隠さなければならなかったからです。
私はボーダフォンのM-Pesaサービスのインド通信部門に興味を持ち、調査しました。これはモバイル送金・決済のサービスで、銀行口座にアクセスして、お金の送金と受け取り、商品の購入、請求書の支払い、貯金、短期融資等のサービスを受けることができます。
これらの特徴はBitcoinにも通ずるものがありました。Bitcoinは手数料は低く、ボーダーレスであるため、小規模な金融取引にに用いられるのではないかと、もともと誰もが考えていました。私はBitcoinに関する情報を、米国国務省向けのレポートを書こうとした時に、SNSのRedditで見つけました。
男性優位社会のインドパンジャブ地方
インドでBitcoinを使用している女性は見かけませんでしたが、自分がインドを離れる前に何人かの人たちにBitcoinを使えるようにしてあげました。その人たちにとって、今日の環境はとてもありがたいものになったと思います。彼らは以前よりもずっと経済的に豊かになりました。
私が調査に訪れた村の女性たちは読み書きができなかったので、家族の男性たちは彼女らに署名のしかたを教え、政府からの融資契約書に署名させました。
融資契約書に署名してお金を手にすると、男たちがお金をもっていくこともありました。これは文化にも大きく関係しています。パンジャブ地方では、女性が財産を所有することはタブーとされています。
女性が牛を買いたいと思っても、文化的な理由で夫が所有しなければならないことが多かったのです。これはなかなか面白い体験でした。
私が気づいたことの1つは、女性が簡単に銀行口座を開設できないことでした。彼女たちはグループに入り週に一度会います。そのミーティングで全員が自分の貯金額を報告しなければなりません。これは女性たちに説明責任を課して毎週貯金するように促すための規定でした。
女性たちは1週間あたり40セント、つまり1か月あたり約2ドルを貯金していました。銀行口座を開くことは彼女たちにとって選択肢ではありませんでした。
女性は銀行から遠すぎるか、銀行が彼女たちに口座を作らないかのどちらかでした。したがって、プリペイドSIMの携帯電話にお金をチャージすることが、彼女たちが自分自身のために金を貯められる唯一の方法でした。
「女の子は数に入らない」
私が訪れたパンジャブ地方の村では、女性たちは2種類の仕事をしていました。1つは彼女たちが融資を受けている小さな事業、例えば種まき、養鶏、卵の販売、石鹸作りといった仕事です。
そしてもう1つは、調理、掃除、子育てなどの家事全般です。彼女たちに自由な時間はあまりありませんでした。
そこにいる時に感じたのは、男性優位の文化です。シーク族の村なのかヒンドゥー族の村なのか、宗教の違いや村のカーストの違いによってもいろいろ違います。
ある女性に子供は何人いるのかと聞いたら、「男の子2人」と答えたのを覚えています。それで私は「2」と記録しました。後日のインタビュー中、小さな女の子がその女性を「ママ」と呼んで近寄ってきました。私が彼女に「男の子2人と言っていませんでしたか」と聞くと、「そうよ、女の子は数に入れていないわ」とのことでした。
女の子は、結婚の際に必要である新婦の持参金が出費であるとみなされ、負担だと思われることがほとんどです。中には、教育を受けた理解のある家庭もあり、女の子によい待遇を与えていることもありますが、これは、家族の背景、教育だけでなく、宗教や村のカーストによって違います。
インタビュー・編集: Lina Kamada
翻訳: Nen Nishihara
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