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「Avalancheプロトコルの誕生」コーネル大学教授 のエミン・ギュン・シラー氏にインタビュー

コーネル大学教授であり、AvaLabsの共同創設者兼CEOとしても有名なエミン・ギュン・シラー氏(Emin Gün Sirer)にインタビューさせていただきました。プルーフ・オブ・ワーク(PoW)を利用した世界初のデジタル通貨を開発したことや、Bitcoinのセルフィッシュマイニングの研究でも知られています。今回は、Avalancheシステムが誕生するまでのお話や暗号通貨の今後の展望についてお話を伺いました。是非、ご覧下さい。

エミン・ギュン・シラー氏(AvaLabsの共同創設者兼CEO)

インタビュー日 : 2020年7月28日

エミン・ギュン・シラー氏 インタビュー

Bitcoin登場以前に作られた非中央集権のデジタル通貨「カルマ」システム

私はコーネル大学で教授をしています。教授の仕事はもう19年になります。暗号通貨やP2Pシステム、特にファイル共有システムに関しては2001年に研究を始めました。ファイル共有システムでは、ファイルをダウンロードした人がアップロードを行わないという問題がありました。これはほとんどのP2Pシステムに共通する問題です。

当時私は、ダウンロードの際に対価を支払い、アップロードすることで報酬が得られるような仕組みの、非中央主権のデジタル通貨を考えていました。そうすると人々は最終的にコインを使い果たし、新しくアップロードに貢献せざるを得ません。このアイデアから、Cynthia Dwork博士のプルーフ・オブ・ワークのアプローチを用いた「カルマ(Karma)」というシステムが生まれました

私はサトシ・ナカモトやBitcoinの登場の約6年前である2003年にカルマを公開しました。しかし不運なことにカルマの初期段階は、時期的に9.11の直後と重なってしまいました。当時私は駆け出しの教授で、同僚から、つくっているものは本当に面白いけど、テロリストによる資金調達が懸念となってこの種の研究に資金が集まることはないだろうと言わました。

同僚の言葉は正く、また、非中央集権の通貨でキャリアを築くこともできないと考えたため、カルマの研究をやめて新しい研究分野に移りました。

Bitcoinの「セルフィッシュマイニング」問題 

Bitcoinが登場した時、私はまた暗号通貨界隈に戻ってきました。サトシ・ナカモトは画期的な発明をしたと思いますが、私はこの時Bitcoinのプロトコルの最大の欠陥である「セルフィッシュマイニング」と呼ばれる問題を発見しました。

当初この問題の存在は多くの人に否定されました。私たちの考えが間違っていることを証明するための研究が多数のクラウドファンディングで支援を受けました。しかし結局私たちの考えは正しかったと示すことができ、最終的に反対派とも良き研究仲間になれました。

私はいろいろな会議に招待され始め、サトシ・ナカモトの作品の最大の欠陥を見つけた人物としての評価されました。そしてBitcoin NG(Bitcoin Next Generation)と呼ばれるプロトコルや、非常にマニアックな領域であるBitcoinc covenantsのプロトコルに取り組むことで、コインのセキュリティとコインのスケーラビリティ(拡張性)をよりあげていくことに取り組み始めました。

何十年も進歩しないコンセンサスプロトコル

コンセンサスプロトコルはシステムの基盤であり最も重要となるものですが、サトシ・ナカモトのコンセンサスプロトコル(ナカモト・コンセンサス)以来、進展はありませんでした。

CoinMarketCapには少なくとも数千のプロジェクトがありますが、その大多数はなんの技術革新にもつながっていません。それどころか、アメリカのコンピュータ科学者レスリー・ランポートとバーバラ・リスコフ教授の研究をベースに構築された既存の古典的なプロトコルに、わずかに変更や修正を加えただけのものを、画期的なプロジェクトだとして発表しているのです。

ナカモト・コンセンサスは、私達が今日知っている中で最高のものです。この10年間の後続の研究は全て、サトシ・ナカモトの素晴らしいアイデアの再現か、過去の数々のプロトコルの復古でした。過去の数々のプロトコルは現在のオープンインターネットには適さないことをサトシ・ナカモトは知っていて、彼は正しかったのです。

ちょっと外観の違うプロジェクトを新しいマネジメントチームが担当すると、一見、それまでのものとは違った焦点をもった新しいユニークなプロジェクトのように見えます。しかし実際にはこれまでにでてきたプルーフ・オブ・ステーク(PoS)システムのほとんどは、本質的には1980年代から1990年代までの研究成果の再利用です。

しかし、約2年前に私たちはAvalancheプロトコルでサトシ・ナカモト以来の大躍進を遂げました。これは完全に新しいコンセンサスプロトコルへのアプローチでした。45年間の分散システムの研究の中で、古典的なコンセンサスとナカモト・コンセンサスに次いで、やっと3番目のアプローチがでてきたのです。

Avalancheとブロックチェーンの可能性

私はAvalancheというプラットフォームを運営するAva Labsの代表を務めています。

Ava Labsは40〜50人の企業です。我々は高スケーラビリティの効率的なネットワークや、カスタマイズ可能なパブリックとプライベートブロックチェーン、そしてデジタル資産を作成できる機能を備えたブロックチェーンテクノロジーを使用し、金融アプリケーションを簡単に立ち上げることができます。

ブロックチェーンネットワークのあらゆるレイヤーでイノベーションを起こすことが我々の目標です。コンセンサスプロトコルでの革新をはじめとし、ネットワークの分野や仮想マシンモデルのように、注目を浴びていない分野の研究を継続的に前進させることが、暗号通貨の次のステップです。しかしなぜか誰もそういった分野のプロジェクトに取り組んでいません。

Avalancheは、1秒以下でのトランザクションのファイナリティ(決済の確定)を実現し、Visaレベルのトランザクションのスループット(実効伝送速度)をサポートでき、51%攻撃に対して耐性があり、そして複数の仮想マシンをサポートできる唯一のコインです。

これを通じて、ブロックチェーンが出来ることを世界中に示したいと思っています。

Avalancheプロトコルの誕生

すべての始まりは、斬新なコンセンサスプロトコルに取り組んでいたTeam Rocketというチームから受け取った一つの論文からでした。

私と学生はすでに、ナカモト・コンセンサスや古典的なコンセンサスよりも軽量なプロトコルの研究に取り組んでいて、今までにないユニークなものでありつつもBitcoinのように保証性を備えたアプローチを探していました。

Team Rocketの論文草稿を見て、私たちの研究が大躍進を遂げようとしていることに気づきました。

Avalancheはプルーフ・オブ・ワークやマイニングではなく、サブサンプリングに基づく確率論的コンセンサスを利用しています。Bitcoinのように安全で予測可能という特徴を残しつつ、中央集権になってしまうことやパフォーマンスの低下など、今までの古典的なコンセンサス特有の問題を解決することができました。

この結果をみて、絶対にAvalancheを完成させて世界に出さなければならないと思いました。こうして最終的に生み出されたAvalancheは、1秒以下のファイナリティ達成速度とVISAレベルのスループットをもち、51%の攻撃に対する耐性と数百万のバリデータノードによるスケーラビリティがあります。

Avalancheと他のシステムの最大の違いはコンセンサスプロトコルです。ブロックチェーンは速度が遅く、スケーラブルでないという既成概念があります。実際のところ現存のブロックチェーン技術は、非常に低速でスケーリングしないものばかりでした。

Avalancheプロトコルでは、高速のファイナリティと高いスループット、分散化を実現しつつ、安全性の保証も損なわないという全く新しいコンセンサスへのアプローチをしています。

いくつか例を挙げると、

  • Bitcoinは、1時間でトランザクションのファイナリティを達成しますが、Avalancheは約1秒でファイナリティを達成します。
  • Bitcoinのシステムは一度に20程度のマイナーしか参加できませんが、Avalancheではシステムの価値を損なうことなく、数百万人の数までのマイナーが一度に入ることができます。
  • Bitcoinは、1秒あたり最大4.6トランザクションを行うことができますが、Avalancheは、VISAの3倍以上の速度である、6500トランザクション/秒を達成できます。

特筆すべきは、Avalancheが分散型という特徴を失わずにこれらの数値を達成できいているという点です。

パフォーマンスを上げる際の最も一般的なアプローチは、分散型を諦めてしまうことですが、Avalancheは既存のブロックチェーンよりも分散化されています。システムで1,000以上の完全なブロック生成バリデーターに達していますが、それでもVISAを超える処理速度があります。

正直なところ今まで研究してきた中で、分散型システムがこのようなパフォーマンスの数値を達成できるとは思ってもいませんでした。Avalancheによるコンセンサスの進化が不可能を可能にしたのです。

仮想マシンの選択とカスタマイズを可能にしたAvalancheシステム

通常のシステムでは、システム全体が強制的にネットワークへ参加することが必須です。しかしAvalancheでは、個人や企業に、どのような規則や経済的インセンティブを適用するか、管理決定できる権限があります。

たとえば、デジタル資産を発行したいが規制対象となっている金融機関があるとします。 Ethereumのようなシステムでは、どのノードがネットワークアクティビティを検証するかを制御できないため金融機関は不自由で、仮想マシンの選択肢が一つしかありません。仮想マシンを選択したりネットワークパラメーターを選択したりできないのです。 

Avalancheでは、そのような機関が、システムを活用するための仮想マシン(Ethereumの仮想マシーンとAvalancheは互換性があります)と、カスタムサブネットワーク上でノードを実行する条件(権限、管轄区域、動作要件など)を完全にコントロールすることができます。

金融テクノロジーの分野において競合に勝つために、どの機関も数十億ドルもの投資をしてきました。しかし、効率性を追求すればパフォーマンスは低くなり、コントロールを行う権限についても妥協しなければならない、というのが今までのブロックチェーンプロジェクトの出してきた答えでした。 

金融機関がブロックチェーン技術に幻滅するようになった原因はここにあると思います。新興のシステムに移行するリスクに見合うだけの理由がなかったのです。

Avalancheはパフォーマンス、セキュリティ、コントロール、そして柔軟性において今までのシステムと違い、最大数十万人もの参加者を、システムに効率的に参加させることができます。そして最終的には新しい製品とサービスのもたらす速度、効率、革新により新しい市場構造が生まれるのです。 

暗号通貨の展望について

私は暗号通貨について非常に強気な展望をもっています。

世界経済は、新型コロナウイルス大流行と市場への安直な通貨供給によって
足場を失いました。ほぼ全ての資産が、景気後退の悪影響を防ぐために人工的に操作されインフレした状態です。 

今日、米国の株式市場と不動産セクターは、信じられないほど完全に肥大化しています。商用不動産は下落しているものの、どうみても価値がないのに無理矢理価値を維持する金融措置をうけているような資産が、周りを見渡すとたくさんあります。

暗号通貨はバブルの例外であり、多くの人が安全をもとめて暗号通貨にたどり着きました。そしてこの状況はしばらく続くと見ています。

株は、株券を所有することで、将来の収益に見合ったリターンを得ることができるので、健全な投資です。しかし我々はあくまで最終的な株価収益率に着目しており、株式市場に資金を投入できるのは、投資が馬鹿げたものになって全体的なリスクに転じるまでの間だけです。 

今、投資家が自問しているのは、この狂ったように膨張した市場にさらに投資するべきなのか、ということです。大多数の投資家は、この市場はすでに限界であり、さらに投資したところで有意義な投資先もなく、自分たちが望むリターンを得る事はできないと気づいています。

しかし暗号通貨とDeFiの世界には、数々の有意義なプロジェクトがあります。特に、新しい経済、プロジェクトを飛躍させるため、そして大衆が利用できるサービスに革新を起こすために暗号通貨を使用する人たちがいます。

そしてこれこそが、魅力的で合理的な投資先だと思うのです。

インタビュー・編集: Lina Kamada

翻訳: Nen Nishihara

     

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