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「Bitcoinの保有量は本当に一部に集中しているのか:成長を続けるクジラたち」Glassnode分析記事

本記事は、ブロックチェーン上のデータから暗号資産分析を行う企業、Glassnodeの「Glassnode Insights」の内容を、皆様に向けて有益な情報発信を行うために日本語へ翻訳し掲載したものです。原文の英語版はこちらをご覧ください。

記事作成者 : ラファエル・シュルツクラフト氏 Glassnode 共同創設者兼CTO



我々は、ネットワーク参加者全体のBitcoin分布量を分析しました。すると、BTCの保有量は時間の経過とともに分散する傾向があることがわかりました。したがって、BTCの所有は一般的によく報告されているように著しく偏っているのではなく、実はかなり分散化されているのです。一方で「クジラ(Whale)」と呼ばれる大量保有者の保有量については、最近は増加傾向にあります。これは機関投資家たちが参入してきているということを意味しています。


ブルームバーグの最近のレポートによれば「BTCの全供給量のうち95%は上位2%のアカウントによって保有されている」と言われています。Bitinfochartsを見てみても、似たような感じの分布になっています。その他様々な統計情報を幅広く見てみても、BTCネットワークは富の分布に大きな偏りがある、という情報が得られます。

しかしこれらのレポートには共通の問題点があります。それはこれらのレポートが、「ネットワークアドレス間のBTCの分布を分析している」という点です。これが原因で、誤解を招くような統計結果が出されているのです。その結果、利害関係者の間で、BTCの所有について誤った全体像が描かれてしまうのです。

このアプローチの方法には2つ問題があります。

  1. 全てのBTCアドレスを同じように扱うべきではない。例えば、数百万人ものユーザーから資金を預かっているような取引所が使用しているアドレスもある。このようなアドレスは、個人のアドレスと区別する必要がある。
  2. 必ずしも「1つのBTCアドレス=1つのBTCアカウント」とはならない。1人のユーザーが複数のアドレスを管理している場合もあり、逆に複数のユーザーの資金を1つのアドレスだけで管理している場合もある。

我々の研究では、BTCアドレスが取引所によって所有されているのか、それともマイナーによって所有されているのか、という要素を考慮にいれています。そうすると、異なる規模の保有者間で、BTCの所有状況がどのように分布しているのを分析することができます。

我々の目的は、ネットワーク参加者全体のBTCの基礎にある本当の分布に焦点をあてることです。これにより、BTC所有は実際には報告されているよりも集中化しておらず、それどころか長年にわたって分散している、という事実を示されるのです。

また、ここ1年の間にクジラの保有するBTC量が大幅に増加しています。このことをふまえると、機関投資家たちが流入してきているということも分かります。

BTCアドレスの所有者 

BTCアドレスというのは、ブロックチェーン上に記録されている基本的なパブリックアドレスで、BTCを送金するのに使われます。

我々は、様々な発見的方法と高度なクラスタリングアルゴリズムを適用することで、どのアドレスの集合が、同一の参加者によって管理されているのかということを、非常に高い精度で識別することができます。

こうすることで、ネットワーク参加者の実際の数に上限を設けることができます。したがって分析を実施した時に、現実により近い数値が得られるのです。詳細についてはこれまでの研究をご参照ください。

Bitcoin保有量の分布

我々は、Bitcoinの保有量に応じてネットワーク上にいる存在を、海の生物を用いて次のようにわけました。

名称BTCの保有量
エビ(Srimps)1 BTC未満
カニ(Crab)1~10 BTC
タコ(Octopus)10~50 BTC
魚(Fish)50~100 BTC
イルカ(Dolphin)100~500 BTC
サメ(Shark)500~1,000 BTC
クジラ(Whale)1,000~5,000 BTC
ザトウクジラ(Humpback)5,000 BTC以上

さらに、既知の取引所やマイナーはカテゴリから除外し、別個に扱いました。2021年1月現在で、Bitcoin保有量の分布は以下の図1のようになっています。

図1 ネットワーク上のBitcoin保有量推定分布状況(2021年1月時点)

上から順に、マイナー、取引所、ザトウクジラ、クジラ、サメ、イルカ、魚、タコ、カニ、エビ

クジラとザトウクジラは、取引所ではないグループの中では最大になります。全BTCの約31%が、この2つのカテゴリに所属する所有者によって保有されています。これらの所有者は、機関投資家、ファンド、カストディアン、OTCデスク、そしてその他の富裕層である可能性が高いです。

その一方で、エビ、カニ、タコのカテゴリ、つまり50BTC以下の額しか持たない小規模なグループによる保有が23%あります。これは、かなりの量のBitcoinが個人投資家の手に渡っているということを表しています。

図2と図3によって表されるのは、所有者カテゴリごとの保有量の、時間の経過に伴う変化です。これをみると、小規模な所有者による保有が、時間の経過を追うごとに増加しているのがわかります。

図2 Bitcoin推定流通量の変化:縦軸:BTC保有量(%)


図3 Bitcoin推定流通量の変化:縦軸 BTC保有量
  • エビ+カニ(<10BTC)
  • タコ+魚(10~100BTC)
  • イルカ+サメ(100~1000BTC)
  • クジラ+ザトウクジラ(>1000BTC)

過去数年間でBTCの保有量は分散化しています。このことは、保有者規模ごとの保有量の変化を相対的にみてみると、より明らかになります。

図4をみてみると、最小規模の保有者(エビ+カニ)は2017年から130%も保有量が増加したのがわかります。また、2番目に規模の小さい保有者(タコ+魚)も同じ期間中に14%、保有量が増加しています。

一方、大物(イルカ、サメ、クジラ、ザトウクジラ)は、BTCの保有量をそれぞれ-3%、-7%と減少しています。

図4 2017年以降の保有者規模ごとにみた保有量の変化(累積):縦軸 累積保有量の変化(%)
  • エビ+カニ(<10BTC)
  • タコ+魚(10~100BTC)
  • イルカ+サメ(100~1000BTC)
  • クジラ+ザトウクジラ(>1000BTC)

各保有者カテゴリの人数、グループ数について

図5は、各カテゴリに分類された保有者数およびグループ数の推定値を示しています。

図5 規模別の保有者(個人・グループ合計)の推定数(2021年1月現在、対数スケール)

定保有者数には大きな偏りがみられ、小規模な保有者ほど数が多くなっています。この数字を保有量と関連付けると、Bitcoinの分布について、以下の図にたどり着きます。

図6 保有者ごとのBitcoin保有量の推定割合(対数スケール)

縦軸:BTC保有量(%)

横軸:保有者の割合(マイナー、取引所を除く)


そうすると「全保有者の約2%が全BTC供給量の内の71.5%を保有している」ということがわかります。これはよく言われている「上位2%の保有者が総供給量の95%を保有している」というデータとは全く異なります。

上記で得られた数字は、BTC所有の真の分布の上限となる値です。実際の分布はこの数字よりもより均等である、つまりより分散化されていると予想されます。

ここで考慮しなければならない注意点を以下にあげます。

1. カストディアンについて

この分析ではGrayscaleや、その他の機関投資家によるカストディアンサービスを含めていません。機関投資家によって保有されているBTCは、クジラとザトウクジラの保有に含まれている可能性が非常に高くなります。Greyscaleが保有しているBTC(執筆時点で65万BTC)は、単体の参加者ではなく複数の参加者によって所有されているというのが正しいデータになります。これを考慮にいれると、クジラの保有量に含まれているBTC保有の一部は、実際にはもっと小規模な保有者による保有であると考えられます。

2. 失われたコインについて

失われたBTCの多くは、より安全なBTCの保有方法が確立される以前の、つまりBTCの初期段階のものです。初期段階においては、BTCの価格は低かったため、大量のBTCが単一のアドレス/ウォレットに保管されていました。これらのBTCの中には失われてしまって、もう取り出せないものがあることを考慮に入れる必要があります。そうすると、実際の保有はより広範囲に行き渡っているという可能性が浮かび上がってきます。

3. WBTCについて

現在はおよそ115,000BTCが、WBTC ERC20トークンとしてラッピング(イーサリアム上で発行)されています。これらのBTCはカストディアンによって、少なくとも1000BTC以上の残高のあるアドレスに保管されています。前述のように、これらのBTCの多くは機関投資家のものであることを考慮に入れる必要がありますので、実際のBTC所有は、より分散しています。

4. 小規模保有の個人・グループの推定数について

我々の研究というのは、誤った結果を避けBTC保有の真の分布に少しでも近づけるために、非常に保守的な方法をとっています。したがって、ネットワーク上の保有者とグループの総数は、実際には我々の推定値よりも少ないという可能性があります。

現状の推定は、単一の所有者・グループによって所有されている複数アドレスを、まだまだ集約できていないという可能性があります。これは、我々の使用する発見的方法とクラスタリングアルゴリズムが常にすぐ機能できるわけではないからです。例えばオンチェーンでコインの動きがみられない時などは機能しないのです。

現在の蓄積保有量(accumulation supply)つまり一度も資金の使用が確認されていないアドレスでの保有は260万BTCです。この情報の変動は、特にエビなどのカテゴリに所属している小規模な保有者の推定数に影響を与えます。このことをふまえると、実際のネットワーク参加者の数は我々の推定数と比べると大幅に低いという可能性があります。

5. 取引所による保有について

取引所のユーザーによる保有量も、我々の研究によって算出された分布に大きな影響を与えます。取引所のユーザーの推定数は1億3,000万人と言われています。これらのユーザーの大多数は、小規模保有者にカテゴライズされている個人投資家と仮定するのが妥当です。

ネットワーク参加者の中に取引所も含むことで、考慮しなければならない可能性は2種類あります。1つ目は、小規模保有者の数が大幅に増加してしまうため分布が歪んでしまう可能性です。もう1つは、取引所の保有量(230万BTC)が小規模保有者による保有に含めれることで分布がより個人投資家に寄るため、保有量が均等にならされるという可能性です。

この2つの可能性の正確な相互作用については、さらに研究を重ねて見極めていく必要があります。

クジラの台頭

前述のように、ここ数ヶ月の間にクジラの数とその保有量が大幅に増加しています。

図7 2020年からのクジラ/ザトウクジラの総数の推移およびクジラ/ザトウクジラによるBTC保有量の推移(累積)

紫:クジラ/ザトウクジラの総数の推移
緑:クジラ/ザトウクジラによるBTC保有量の推移
縦軸:累積変化率(%)

2020年に入って以来、大規模保有者(クジラ+ザトウクジラ)による保有量は13.4%増加しました。また、保有者・グループ数自体も増えており、その数は27%以上増加し現在2,160以上となっております。

特に2021年には大幅な上昇が見られます。これは、個人の富裕層や、機関投資家が参入してきているという現状を裏付けるデータです。したがって私は、今後数ヶ月の間のBTCは強気相場になると信じています。

本レポートの分析とレビューを行ってくれたKilian Heeg氏、貴重な議論とフィードバックを行ってくれたパートナーのWilly Woo氏に感謝の意を表します。

免責事項:本レポートは投資アドバイスを提供するものではありません。すべてのデータは情報提供のみを目的として提供されています。ここで提供された情報に基づいて投資判断を行うことはできず、投資判断はお客様ご自身の責任において行われるものとします。

 翻訳: Nen Nishihara