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「デフレ=豊かな未来への鍵?」The Price of Tomorrow 著者 ジェフ・ブース氏 インタビュー ①

ジェフ・ブース氏(Jeff Booth)は起業家、作家、戦略アドバイザーとして、数多くのテック企業を立ち上げてきました。また、新著『The Price of Tomorrow – Why Deflation is Key to an Abundant Future』では、現代社会におけるインフレとデフレの影響について解説しています。今回は技術発展とデフレの関係についてのお話を伺いました。

インタビュー日 : 2021年2月26日

新著について 

本を執筆するきっかけを与えてくれたのは主に自分の子供たちでした。この本のテーマは、私が10年以上前から話していたことについてです。技術発展とデフレ、人はこの2つのコンセプトをなかなか結びつけて考えることができませんでした。そこで私はこのことついて本を書かなければならないと思ったのです。

デフレ=豊かな未来への鍵?

デフレが豊かな未来に結びつくというのは、実はデフレの原因となっているのは技術発展だからです。技術発展とはすなわち効率化です。これがデフレを引き起こす原因となるのです。

携帯電話であれ何であれ、技術発展にともなって我々が手にしたあらゆるものは、我々がより多くのものをより安く入手することを可能にしました。これは非常に急速なペースで起こってきたことで、そして世界のあらゆる部分に浸透してきたことです。

技術発展は時間の節約を可能にします。そして価格の下落というのは、実は時間節約の自然な副産物なのです。

我々はより少ない費用でより多くを手に入れることができるようになります。それと同時に、我々の使える時間も増えているべきです。しかし現実はそうはなっていないように感じています。

   


政府はお金を印刷して物価を上げようとしています。ところが現在の世界では技術発展の力、私はこれを「モノの力」と呼んでいますが、この「モノの力」が、政府のインフレに傾倒した金融政策の力とぶつかり合っている状態です。今世界では2つの力が拮抗しているのです。

政治家、経済学者、Bitcoinersでそれぞれ異なるインフレの捉え方

人々は自分が使っている通貨の基本単位で世界を測ろうとします。だからインフレについての説明が皆異なるのです。

私の著書のテーマの1つは「私の持論が正しければ物価は下がるはず」という主張です。しかしこの20年間、何かがずっと物価の下落を妨げているのです。

私はこの原因を探して発見しました。物価下落の妨げとなっていたのは、過去20年の間につくられた185兆ドルもの追加刺激策、つまり負債でした。

要するに政府は住宅価格や食品価格のインフレを引き起こすために、自然の力に逆らって通貨単位を広げてきたのです。

政府はなぜ価格を引き上げたがるのか 

政府も本当は価格を上げたくはないのですが、追い詰められてしまっているので引き上げざるを得ないのです。

今の世界の経済システムは、実際には何の裏付けもありません。全てが負債によって支えられているのです。もしもデフレの進行を許してしまうと、巻かれていたものがどんどん解けていってしまい、最終的には経済を支えているものが何もないということに人々が気づいてしまうのです。

したがって政府はインフレを引き起こすことでこの問題を回避しようとしているのです。しかし政府のしていることは、実際には問題をさらに悪化させてしまっています。

我々は2008年にもこの悪化の片鱗を垣間みています。銀行が互いを信用していなかったため、信用状があったにもかかわらずヨーロッパや中国の銀行がこれを認めず受け取りを拒否したという事態がありました。

アメリカのFRB(連邦準備制度)は2億5000万ドルの紙幣を発行することでシステムの信頼性の回復を試みました。しかしそこには何の裏付けもありませんでした。

紙幣の発行は単なる負債の増加に過ぎないのです。この負債は刻一刻と増え続けています。そしておそらくは、技術発展が逆行してしまっているという事態を招いてしまっているのでしょう。

印刷をやめて自然の力に任せたらどうなるか 

残念ながら今の状態で自然の力に任せてしまうと、銀行や政府などを含めて、すべてのものがリセットされてしまいます。そうなると極めて深刻な世界恐慌が起こるでしょう。政府はこれを何とかして阻止しようとしているのです。

阻止する唯一の方法は、お金を増刷することで、基本的に意思決定の全権限を政府に集中させて自由市場をなくすことなのです。

技術発展はあらゆるものの原動力

一番大切な第一原理の見失ってしまっている人々もいますが、第一原理とは、技術がルールを変えるということです。

技術は指数関数的な速さで進歩しています。これによりデフレはますます進行するわけですが、政府はこれに対抗するためにさらにたくさんのお金を印刷しています。

ところが技術の発展があまりにはやいため、人々は自分たちの従っているルールは古いルールだということに気づきませんでした。そして政府もこのことを認識できていなかったのです。実際には、ルールはとっくに書き換えられているのです。

ブロックバスター社がNetflixに勝つことができなかったのも、デジタルカメラを発明したコダック社が、デジタルカメラの潜在的可能性や別のビジネスモデルにおける活用の可能性を見抜くことができなかったもの、同じような理屈です。

このように、我々の身の回りで起こっているほとんどの変化は、技術発展の進歩によって引き起こされているものなのです。つまり結局は、すべての原動力は技術発展だということです。

権力者にできることはない

誰が権力を握っているかということはもはや重要ではありません。政治権力を握る人も結局はシステムの中の一人の役者に過ぎず、役者がシステムを変えることはできません。したがって、たとえ権力を掌握していたとしても、出来ることは特にないのです。

権力者は短期的な影響を心配してしまい、一連の決まった行動にとらわれてしまい、正しい選択をすることができなくなってしまっています。

暗号通貨の界隈やその他の業界の多くの人々は、悪い人や情報に脆弱な人が権力を掌握しているのが問題だと考えています。しかし決してそういうわけではなく、悪いのはシステムであり、壊れているのはこのシステム、チェーン全体なのです。

最新技術とデフレとインフレ 

現在、技術の力は我々の世界のいたるところに偏在しています。そしてデフレの大部分はまさに我々の目の前にあると言っても過言ではありません。

たとえば人工知能なんかは、横方向への広がりの強い水平な技術で、現在急速に発展しているあらゆる産業や技術に応用できるものです。人工知能は将来的に人類よりも賢くなるでしょう。

それは10年後のことかもしれませんし、あるいは50年後のことかもしれません。しかし時間は特に問題ではありません。重要なのは、コンピュータが人間よりも優れた能力を発揮してくれて、我々の進むべき道を示してくれるということです。

他の例として太陽光発電が挙げられます。太陽光発電は、つい最近までは他の発電法と比べてまだまだ高額でした。しかし今では太陽光発電は低コストな発電法の仲間入りを果たし、現在では安価なエネルギーをもたらす方法として活躍しています。

太陽光発電はエネルギー業界全体の中でみたらまだまだ小さいですが、急速に発展している技術です。

このようにエネルギー業界ではすでに、デフレの風が吹き始めています。技術が発展すればするほど安価なエネルギーが増えて全体の価格は押し下げられます。そしてこの傾向はどんどん進んでいくいのです。

太陽光発電による電力供給の価格が下がれば、他のエネルギー産業も価格を下げざるを得ません。そしてこの理屈はエネルギー業界だけでなく、すべての産業に当てはまります。

デフレは既に我々の目前までせまってきています。政府は、目前まできているデフレに対応するために、もっと大量のお金を印刷しなければいけなくなります。

この政府によるお金の増刷が、社会を分断してしまっています。政府によるインフレというのは結局人々の賃金のデフレなのです。

金本位制から脱却と政府によるインフレの正体

第二次世界大戦後、金本位制は米ドルの裏付けとして設定されました。印刷したお金はゴールドで裏付けられていなければならないので、金本位制というのは、アメリカがお金を大量に印刷することを制限するのに役立っていました。

しかし1960年代のベトナム戦争で、アメリカの税率はこれ以上あげられないくらい高騰し、国民にさらなる課税をすることが不可能になりました。

アメリカは、戦争による損害に対する支払いや国民への支払いをどうするかということについて、考えなければならなくなりました。

アメリカのとった手段は、金本位制から脱却して、インフレを起こすことで支払いを行うということです。しかし政府の起こすインフレの正体というのは実は、最も支払い能力の低い人々に課された隠れた税金なのです。

いわゆる金持ちのための資産、つまり家や株などを所有している人々は、インフレによって資産を増やしました。一方で通貨の切り下げと実質的な賃金のデフレにより、支払い能力のない人々の懐はどんどん乾いていったのです。

アメリカは、ゴールドの準備からペトロダラーシステムに移行し、エネルギーや資源や石油の価格を米ドル建てにしました。これにより、連邦政府は別の方法でシステムをコントロールする能力を手に入れたわけですが、このシステムは現在はもう崩壊しています。

米ドル体制から脱却したい国々


グローバルな通貨システムでは結局、各国がそれぞれ自国の通貨を切り下げることになります。たとえばドルが切り下げられれば、ドルに固定されている、あるいはつながっている他国の通貨も切り下げられることになるのです。

しかしドルが切り下げられたからといって、「では世界貿易には人民元を使用しよう」と言い出す国はありません。人民元だろうと他の通貨だろうと、こんなことはありえないのです。なぜなら、歴史的にみてもわかる通り、通貨のルールは結局その国の政府によって操作されうるからです。

だからこそ、中国やロシアのような国は、自国の通貨をゴールドで裏付けするために、ゴールドを購入しているのです。

「Bitcoinという外部圧力が変化を促す」The Price of Tomorrow 著者 ジェフ・ブース氏 インタビュー ②
システムが自ら変化が必要な部分を変化させるということは、めったにありません。これはチャンスであると同時に問題点でもあります。システムに変化をもたらすのは、いつもシステムの外部にあるものです。大抵の場合は外部的な要因により、変化せざるを得なくなるのです。私は自分の本を執筆した際に「技術の発展が進むにつれて価格が永遠に下落を続けていくのなら、価格の上昇を続けさせようとする仕事はもはや必要なくなる」と考えていました。そしてシステム全体がそのように変化することを期待していました。しかし私の期待は裏切られ「システム自体が自らを変化させることはない」ということを痛感しました。外部から圧力をかけてシステムの変化を促しているのがBitcoinです。私は、このまま行けば、世界の全ての富を2100万BTCの中に落とし込めるのではないかと思っています。我々の住んでいる世界を2100万BTCで測ってみれば、私の言っている全てのことが理解できるかと思います。我々の住んでいる世界は、既にデフレ的な社会となっています。あらゆるものが、年々安くなり続けているのです。

Social: @JeffBooth | LinkedIn

Book: thepriceoftomorrow.com

Personal: jeffreybooth.com

インタビュー・編集: Lina Kamada

翻訳: Nen Nishihara

     

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