グレッグ・フォス氏(Greg Foss)はカナダとアメリカで32年間トレードクレジットを行ってきた経歴があり、クレジット市場に関する様々な分析を行なっています。今回はカナダ オンタリオ州の証券委員会を相手に裁判を行い、Bitcoin ETFを勝ち取った話について聞くことができました。ぜひご覧ください。
インタビュー日 : 2021年3月15日
カナダが世界有数のBitcoin ETFを勝ち取るまで
Bitocoinと出会った最初のきっかけは、カナダのある会社がETFにBitcoinを導入しようとしていて、そのファンドの初期投資家になってほしいと依頼されたことでした。
私はその会社のためにCIOの採用を手伝いました。また、私達はカナダのオンタリオ州の証券委員会を相手に裁判を行い、クローズエンド型のBitcoinファンドをトロント証券取引所に上場させる権利を勝ち取りました。
実はその会社への投資を始める前からBitcoinのことを知ってはいました。私はエンジニアでしたので、Bitcoinと初めて出会った時は割とすぐにその仕組みに納得しました。
ブロックチェーン上で、10分ごとに形成されるブロックを目の当たりにしました。そしてメンプール、それから世界中で行われている取引がスクリーン上で点滅しているのも見ました。エンジニアの私は、すっかり驚いてしまったというわけです。これほどまでに美しい技術は今まで見たことがありませんでした。
そして最も重要なのはBitcoinの数学とコードです。Bitcoinは2100万枚しかありません。したがってBitcoinには希少性があります。またそのプロトコルも、オープンソースで検証されたものとなっています。私にとっては、求める全ての条件を満たしているものでした。探し求めていた全てがここにあったのです。
私達がオンタリオ州の証券委員会との裁判に勝つまでには約4年かかりましたが、勝訴の後に新しく2つのETFが立ち上げられました。そして現在では、カナダ市場におけるBitcoinファンドへの投資金額は総額10億ドルを超えました。
おかげで今日、カナダは世界有数のBitcoin ETFとコミュニティを有してます。これらの結果は、私が「法定通貨のまやかし」と呼んでいる法定通貨のリスクに対するヘッジとなっていますので、大変素晴らしいことです。
エネルギー市場をBitcoinで計算する未来
マイケル・セーラー氏の言った「Bitcoinはデジタルエネルギーである」という言葉は完璧だと思います。
例えばですが、サウジアラビアやロシアといった国々は、自国の貴重な天然資源を米ドルと交換することを本当に望んでいるのでしょうか。天然資源を、時間の経過とともに価値が失われていく米国の法定通貨のために売りたいと思うでしょうか。
「だからこそゴールドを買い集めるのだろう」と考える人もいるかもしれませんが、これは答えにはなっていません。ゴールドの問題点というのは、供給量が固定されていないということです。ゴールド2.0であるBitcoinが既に登場しています。
ゴールドは確かに年率2%で上昇しています。しかし、海水に含まれているゴールドの量のことを考えてみてください。もしも海水からゴールドを取り出す技術が開発されれば、これはゴールドにとっての終焉を意味します。
これに対してBitcoinは、ゴールドにない多くの特質を有しています。例えば分割が可能であること、送金が可能であること、それからポータビリティ(可搬性)があることなどです。もしもエネルギー市場がBitcoinで値付けされるようになれば、今後は高確率でBitcoinが米ドルにかわる世界の準備資産となるでしょう。
国家のデフォルトに対する保険
最良の解決策というのは政府による規制がないところで生み出される傾向があります。これはまさにBitcoin、そしてBitcoinコミュニティーがやろうとしていることです。Bitcoinコミュニティーは、法定通貨が独りよがりな自己満足に依存しているという知識を広めています。
それに法定通貨は「今まで上手くいっていたのだからこれからも上手くいく」という現状維持バイアスにも依存しています。そして何よりも、通貨とは何かということを深く考えずに、信じてしまうという知的怠惰に依存しているのです。
しがたって私が誰かにBitcoinを売る時は、まず不換紙幣の問題点、そして法定通貨のポンジスキーム的な問題点について明らかにするというところから始めます。法定通貨は担保の継続的な上昇に依存しているのですが、お金の価値そのものは時間の経過とともに失われているのです。
これは今までしてきた仕事、努力、そして費やしてきたエネルギーの時間的価値が将来切り下げられていくということを意味します。このような問題のある法定通貨に代わるものが必要です。それがBitcoinです。人々はBitcoinという名のデフォルト(債務不履行)に対する保険を買うことができるのです。
反政府、反税金という立場
これは非常に難しい問題です。私は社会福祉的にはリベラル派ですが、財政的には保守派です。つまり、私は純粋な資本主義者です。共産主義というのは他人のお金を使い切ってしまえば機能しなくなる仕組みであると考えています。
もちろん私にも、多くの家族の辛さを理解する心はあります。しかしそれでも、数学は数学であり、物事には常に利益と対価が存在するのです。マーガレット・サッチャーも「資本主義は、他のすべての形態を除けば、最悪の政府形態である」と言っていて、本当にこの通りなのです。
人民のための政府、そして税金という仕組みはいいと思っていますが、これらの仕組みが制御を失ってしまった際には代替手段が必要になります。私にとって、その代替手段はBitcoinです。Bitcoinは私にとって、中央銀行による不正行為や数字を理解していない政治家に対する保険なのです。
法定通貨と銀行システム
2008年から2009年にかけての金融危機(リーマンショック)において、金融システム内の全てのレバレッジが銀行のバランスシートから連邦政府のバランスシートへと移されました。リーマンブラザーズが破綻したためリスクを移転する他に選択肢がなかったのです。
仮にAIGといったニューヨークの他の大手金融機関が破綻するようなことがあれば、他の全ての投資銀行も破綻し、世界はめちゃくちゃになってしまっていたことでしょう。
法定通貨は、ローン担保価値の継続的な増加を要求するという基準の上に成り立っています。だからこそ不動産などの価値は増加していかなければならないのです。
これはとても危険なことです。しかし銀行は最もハイレバレッジな機関の1つなので、仕方のないことです。
実は銀行の資本の簿価というのは、ローンに対して25倍ものレバレッジがかかっているのです。つまりローンの価値が4〜5%下がった場合、資本は消滅してしまうということです。これが銀行システムの仕組みなのです。
サトシ・ナカモトが、最も美しい数学とコードからなるソリューション、つまりBitcoinを設計してくれたことに大変感謝しています。Bitcoinは美しい技術に基づいた素晴らしい分散型台帳であり、そして法定通貨へのアンチテーゼなのです。
ジェフ・ブース氏の「政府は罠にかかっている」という発言
ジェフ・ブース氏とは考え方が非常によく合います。債券市場や株式市場は単なる数学であり、数学さえ理解していれば、罠にかかっているということに気が付くはずなのです。
ジェフ・ブース氏とは個人的に1度か2度お会いしてお話したことがありますが、本当に素晴らしい方です。彼は世界の教育に貢献することに非常に意欲的です。そして彼も私も、市場の単純な数学の信者です。彼を同志と呼べることはとても光栄です。
以前にも少し触れたのですが、ジェフ・ブース氏の書いた『The Price of Tomorrow(明日の価格)』という本は、私が出会った本の中でも最高の一冊だと言っていいと思います。
デフォルトに陥る国々
世界には法定通貨を有する国家が188カ国あります。この中のほとんどの国はG20諸国が破綻する前に先に破綻してしまうでしょう。G20諸国の中で一番最後に破綻する国は、米ドルを発行しているアメリカでしょう。
一部のより経済規模の小さい国々だと、独裁的な指導者による専制や、様々な政党による犯罪的な事業なども破綻の要因となってくるかもしれません。こういった国々の多くは連続的なデフォルトの国家です。
連続的というのは、直近20年以内にデフォルトに陥った経歴があるということです。デフォルトから脱却して再び市場に戻ってきても、また市場から借金をして再度デフォルトに陥ってしまうのです。
後ろ盾が存在しないカナダの経済問題
カナダには欧州中央銀行のような後ろ盾がないので、今後の状況については非常に心配です。カナダよりも財政状態の悪い、例えばイタリアやポルトガルといったEUの国々もありますが、これらの国々は欧州中央銀行の強力な後援を受けているためカナダよりもよい状況にあります。
カナダの保険市場における国のデフォルトリスクに対するプロテクションは0.37%ですが、これはトリプルAの格付けを受けている国としてはかなり高いレートです。
カナダはトリプルAの格付けを受けているにもかかわらず、市場ではシングルAの金利が設定されています。そして真の信用力を評価するという点においては、市場評価は通常、格付け機関よりはるかに正確だということが分かっています。
最初にデフォルトに陥るのはどの国か、ということをこの場で言うつもりはありませんが、カナダに関しては、今すぐに賢明になって現実と向き合いはじめた方がいいということは言えるでしょう。
現実というのは、カナダはこの1年間で世界中のどこよりも多くのお金を印刷し、1人当たりの負債の増加がどこよりも高かったということです。印刷したお金の量という面で、カナダはこの1年間だけで他の全ての国を著しく引き離しました。
カナダに比べると、日本は経済規模が遥かに大きいため、信用力の評価の考え方についても色々と異なってくると思います。つまり、信用力の評価について考える上で経済規模は非常に重要な要素だということです。
カナダの経済規模というのはアメリカのカリフォルニア州とだいたい同じくらいです。カナダはアメリカとの国境に沿って伸びる美しい国で、天然資源に恵まれ、手厚い社会保証制度もあります。しかし改めて計算してみると、これほど手厚い社会保障制度を維持する余裕は我々にはないのかもしれません。
ところが、信用市場が警告サインを発しているにも関わらず、政治家たちは何も分かっていません。それどころか「お金を印刷するという繁栄の道へのフリーパスがある」と考えています。
「タダのお金」という中毒から抜け出す
数学的な面から言えば、非常に難しいことだと思います。何年も同じパターンでお金を印刷してきたという実績に加え、政府がずっとバックアップしてきたという背景があるので、人々はこれに慣れてしまうのです。
「タダのお金」というのは中毒性があります。タダのお金の存在が知られているにも関わらず、このお金を渡すという中毒から抜け出すことは非常に困難なのです。
そうすると今度は「増税という対策がある」と考えるかもしれませんが、おそらく我々は既に、限界利益率が逓減するところまで来ているのです。つまり増税すると経済の一部が記録に残らない地下のブラックマーケットに流れてしまうということです。そうすると、記録に残らないが故に課税されないものが出てきます。
別の対策としては、赤字の支出を削減して財政の均衡化を図るという方法も考えられます。しかしこの対策自体痛みを伴うものです。特に、国民に社会保障制度を約束しているような国はなおさらです。
最後の対策は、お金をもっと印刷することです。しかしこの方法をとると、もはや負債のスパイラルどころか、死のスパイラルへと陥ってしまいます。カナダドルの価値が下がり続けることはもうほぼ確実と言っていいでしょう。問題は、このことが我々の子供たちや将来の世代にとってどれほどの痛みになるのかということです。
インタビュー・編集: Lina Kamada
翻訳: Nen Nishihara
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