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「オンライン空間と物質的な自分」N・S・ナッピナイ氏 ③

インドの最高裁判所で法廷弁護士として活動し、憲法、刑事、知的財産権、サイバー法などを専門としているN・S・ナッピナイに、インドでの暗号通貨の現状をお聞きしました。是非、ご覧ください。

N・S・ナッピナイ

インタビュー日 : 2020年3月12日

オンライン空間と物質的な自分

暗号通貨のエバンジェリスト達が、どのように現実世界で足跡を残さずに人生を過ごせるかについて話していたのを聞いたことがあります。 様々な主張があるかもしれませんが、テクノロジーを手にしたとしても、結局のところ私達一人一人は人間として現実世界に繋ぎ止められています。自分達がこの世界に住んでおらず規制が必要ないと言ったとしても、コンピューターを閉じて外出するときに、政府による物理的な保護は必要なくなるでしょうか。 オンライン世界のような無秩序な状態が現実世界で起これば、人間としての自分はどこに存在することができるでしょうか。物理的な自分が保護を受けるという点において頼りになる中央の機関や規制に反対する人がなぜいるのでしょうか。

法定通貨が見捨てられる?

インド政府と準備銀行(RBI)は、暗号通貨が決済システムとして使用された場合に、それが法定通貨への脅威となることを懸念しており、恐らく分散性という側面はそれほど気にしていませんでした。分散的な性質ではなく、暗号通貨の使われ方という側面において、国家の主権である通貨発行権、規制、管理が脅かされるという見方でした。暗号通貨が決済の仕組みとして使用されるようになった場合、法定通貨はわずか1、2年で見捨てられ、価値がなくなってしまうかもしれないという懸念も、インド政府にはありました。暗号通貨が主権を脅かす可能性がある場合は、暗号通貨を許可するかどうか、またどのような状況下で許可するかを決定する必要があります。今日、世界的な傾向を見てみると、暗号通貨を許可する全ての規制当局が、国家主権を脅かすこのリスク要因を効果的に取り除いています。暗号通貨を決済システムとする代わりに、それを証券の領域へと追いやり、彼らの主権に対する脅威とならないようにしています。しかし、若者達が好む新テクノロジーの発展のチャンスを、当局が見逃すことはありません。

インドでは、暗号通貨を今すぐ導入せよと政府に主張する人はあまり見られず、皆が様子見の状況であると思います。インドの暗号通貨取引所は銀行や決済システムという重要なアクセス手段がなければ機能しないため、禁止期間中には多くの取引所が国外に移動するということが起こっていました。インドの暗号通貨の世界には3タイプの異なるグループがいます。1つめは既に暗号通貨に投資していた人、2つめはインド国内の取引所、またそこから利益を得ていた人々、3つめは既にインド国外に移動したかもしれない取引所です。準備銀行から警告の通達が出される2018年4月6日より前の状況へと戻るためには、銀行とのコネクション回復が必要となるので、少し時間がかかると思います。銀行と決済システムに関しても、彼らがすぐに全てを認可することはなく、準備銀行が本当に再審理を進めるつもりかどうか様子見となるでしょう。また、新たな通達が出てくる場合もあります。

利用者保護にはルールの明確化が必要

私が暗号通貨のルール整備を推し進める時に議論になったのが、ハッキングリスクの高さと損失の大きさでした。特にインドでは、一般人が暗号通貨に投資して良いのかという問題がある一方で、暗号通貨に関連する犯罪もありました。暗号通貨のウォレット、または取引所がハッキングされて全てが盗まれてしまった事件は数多くあります。また、「ブロックチェーン」や「暗号通貨」という言葉を使って行われる詐欺もありました。そのため、暗号通貨に投資している利用者を保護できる救済策がなければなりません。

インドの一般法では、利用者保護のための救済策が広く提供されていますが、準備銀行の通達による警告があったため、暗号通貨愛好家の心には依然として不安感があります。そのような場合、詐欺行為は罰せられず、投資家は救済策なしで取り残されてしまいます。法に基づく救済策があることが被害者にとっては必要不可欠となります。新興技術に関しては、既存の特別法および一般法に基づく救済策があります。 例えば、インドでは、2000年に情報技術法が制定されました。これは最初に成文化されたサイバー法でしたが、インドで唯一のサイバー法ではありません。 インドのサイバー法は散らばったジグソーパズルのようなもので、一部が特定法の中にあり、その他は一般法の中にある状態です。 法律の全体像を把握するには、このパズルを組み立てる必要があります。 サイバー法と技術法に関する「Technology Laws Decoded」というタイトルの本の中で書きましたが、既に存在する法律でもそのような状況から人々を保護できるということを伝えました。

暗号通貨に手を出すこと自体がダメなことではないと知られれば、詐欺やハッキング攻撃の被害に遭った場合に、自信を持って訴訟を起こすことができるようになります。今日、暗号通貨をやってきた全ての人が、グレーゾーンにいると思っているようです。法的に良いことなのかを彼らは知らず、苦情を申し立てることで法律の保護が得られるのか、それが犯罪になってしまうのかを知ることができません。これが、暗号通貨に対して明瞭で確実性のある法律が必要な理由です。政府が全てを禁止すると言うのであれば、そうすれば良いですが、少なくともその位置付けがどこにあるかを国民に知らせるべきです。暗号通貨を禁止しないのであれば、ルール整備をしっかりと行い、マーケット、特にブロックチェーン愛好家にある程度の信頼感を与えるべきです。ブロックチェーンの導入でインドが繁栄するのは、政府がその位置付けを明確化し、成長を推し進める場合にのみ可能なのです。

トレーサビリティと匿名性

ほとんどの人の暗号通貨に対する認識は、それが持つトレーサビリティではなく、匿名性の部分にあります。暗号通貨が匿名性をもたらすと考えられていますが、実際にはトレーサビリティを得ることができるのです。 トランザクションの背後にある個人情報に関しては匿名性がありますが、トランザクション自体には存在しません。それぞれの送金を検証することで分散システムを機能させることが可能となる、これがトランザクションのトレーサビリティです。私達がトレーサビリティについて話す時は、トランザクションそれ自体だけでなく、その背後にいる人達のことも意味しています。国として、暗号通貨取引所の運営を許可すると、取引所側は効果的に匿名性の要素を取り除くことができます。そして、透明性が暗号通貨の1つの特徴であり、取引所が顧客のKYCを行うことによって匿名性の方が失われます。そうすると、暗号通貨取引の透明性は、銀行システムを通じて行われる取引の透明性とほぼ同じであると言えると思います。

実際、ここインドでのフィッシングなどの詐欺件数を考えると、銀行システムはトレーサビリティにおいて期待したほどの効果的がなかったと思います。ほとんどの銀行、またはクレジットカード、デビットカード、デジタルウォレットの詐欺は、別の銀行口座を使用してお金を吸い上げています。このシステムにおいて、お金の痕跡が犯罪者へと繋がらないのはなぜでしょうか。このような状況下では、銀行システムのKYCが望んでいる程にはうまく機能していないということなのです。完璧なシステムは存在せず、脅威となるシナリオが出てくるたびに仕組みを進化させていく必要があります。ユーザーの意識とデジタルリテラシー、透明性、そしてこのような詐欺に対しては容易にアクセスできる救済策が必要となります。暗号通貨とトレーサビリティに関して、暗号通貨愛好家は今ある以上のトレーサビリティは望んでいないと私は感じています。 これはジレンマであり、彼らは匿名性が好きなのです。私の主張は、 規制が必要であり、それはコミュニティにとって良いことだというものですが、これは暗号通貨の愛好家にとって必ずしも魅力的ではないかもしれません。

N・S・ナッピナイ (N.S. Nappinai)

  

インドの最高裁判所で法廷弁護士として活動。憲法、刑事、知的財産権、及びサイバー法が専門。弁護士として1991年に実務を開始し、29年以上の経験を持つ。サイバー法の知識を普及させるため「サイバーサーチ:Cyber Saathi」を創設。また、性的児童虐待や女性への暴力的な動画をネット上から削除するためのアドバイザーなども務める。

インタビュー・編集: Lina Kamada

     

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