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「規制の導入は暗号通貨の衰退に繋がるか」N・S・ナッピナイ氏 ④

インドの最高裁判所で法廷弁護士として活動し、憲法、刑事、知的財産権、サイバー法などを専門としているN・S・ナッピナイに、インドでの暗号通貨の現状をお聞きしました。是非、ご覧ください。

N・S・ナッピナイ

インタビュー日 : 2020年3月12日

ミレニアル世代の考え方

インドは若者の国であり、おそらく世界でも最も若い国の1つです。ここで、インドと日本の文化を比較してみたいと思います。現代の日本では、新卒の多くの方達が様々な企業で就職活動を行なっており、安定した生活を求めていると思います。

これとは対照的に、インドの若者は起業家になることを望んでいます。彼らは自分自身で生計を立てること望み、たとえそれが小さな会社であったとしても、リスクを取り自分のビジネスを行う機会を得たいと考えています。

しかし、ある会社に就職して安定を求めるという日本人の考え方は、私が育った時代のインドでも同じ状況でした。その時代のインドでは、何か新しいことに挑戦するのではなく、就職したほうが安全だという考えの人が多くいました。しかし、私はいつも違うものを求め、安全な道だけでは決して満足できなかったので、ある意味では私もミレニアル世代と言えるのかもしれません。

ミレニアル世代よりも前の世代の者として、私は昔から現在までスタートアップに対して多くのアドバイスを行ってきました。ミレニアル世代はリスクを取りたがる人の割合がはるかに高いので、喜んで様々なことにチャレンジすると思います。彼らは、誰かのために働くよりも、むしろ自分自身が主となりたいと考えています。

インドの若者と規制

インドにおいて、権力を持つ政府当局者や警察と話を行うと、毎回彼らから返ってくる反応は抵抗と拒絶です。人間は、理解できないものに対して好感を抱く事はできないからです。 現在では、ブロックチェーンに対する理解が深まりましたが、未だに大きな恐怖があると思います。したがって、そこから生まれるのは、安全策を取ろうという典型的な反応です。

私が育った時代のインドが日本と同じ様に安定した仕事を好む人が多かったという話に戻りますが、現在インドにいる若者はその逆の考えを持っています。 若者達は非常に熱中しているので、なぜ規制が必要なのかということに関しては非常に長い論争になると思います。しかし、私達の話を聞いてもらえれば、それも理解してもらえると思っています。

興味深いことに、私と同世代の中年の人達の中には、自分を格好良く見せるために、この暗号通貨という分野に参加したいと思う人がいます。彼らは何とかしてミレニアル世代に属していることを示したいようですが、リスクを冒し行き当たりばったりの態度をとるミレニアル世代とは対照的に、この分野に対しては多くの恐れと警戒心があります。

ミレニアル世代はリスクをあまり理解せずに、新しいものを探し続けていきますが、それは自分を格好良く見せるためではなく、何か新しいことを実験したいという気持ちで前進しつづけています。

ただ、そこに少しの規制があるだけで、この両サイドで良いバランスがとれると思っています。そうすることで、上の世代の人達も、興味を持った新技術に安心して触れることができるようになり、ミレニアル世代も規制を望むかに関わらず、何らかの法的保護を受けることができるのです。

規制の導入は暗号通貨の衰退に繋がるか

トレイサビリティを回避し、匿名性を望むという多くの若者が持つ考えは問題も孕んでいます。ハッキングなど暗号通貨に存在するリスクがあったとしても、彼らは規制されることのない世界を望んでいます。

Bitcoin愛好家たちも、市場にボラティリティーがあったとしてもリスクを取ることを好み、政府がそれに対して関与するべきではないと考えています。政府の介入や規制が、暗号通貨システムにとっては死を意味すると考えられ、リスクがある状態が好まれています。

それに対して、実際には規制が暗号通貨システムの手助けすることもあるのです。しかし、これは現在の若い層と上の層の規制に対する認識の差から生まれる問題であり、彼らは如何なる形の制限に対しても、反抗的な態度を持ち続けています。法的な規制を許してしまえば、自分たちを制限することにも繋がってしまうため、若者はそうならないことを望んでいるのです。 

現在は一歩下がって、全体のシステムや利用者の成熟度が高まるのを待つ必要があると思います。政府の側に必要とされているのは、新しく登場した技術を理解しようとする成熟さであり、それを避けたり、消えて無くなるように祈ることはできません。それが気に入らないからといって見ないふりはできません。暗号通貨というものが存在していることをしっかりと認め、国としてどのように取り扱うかという方法を考え出す必要があります。

暗号通貨界も成熟していく必要があり、好き勝手な世界であり続けることはできず、政府からの協力も必要であることを理解しなければなりません。 政府が効果的に機能することは、暗号通貨界とってもプラスに働きます。恐らくは、安定した仕組みがなければ暗号通貨界が続いていくことはありません。 無政府主義的な自由を諦め、少しの規制を加えることで、この世界にも安定と利益もたらされると考えています。

インセンティブ構造を持ったブロックチェーン

インド政府は、ブロックチェーンの技術に対しては常に協力的でした。通達で何が述べられようが、ブロックチェーンのエコシステム自体には悪影響が及ばないように、この技術に反対はしていないということを明確にしてきました。インドの多くの州政府、および中央政府もある程度はブロックチェーン技術をガバナンスの仕組みとして採用しているので、ブロックチェーン技術自体が影響を受けることはないと考えています。

問題は、ブロックチェーンの更なる活用の拡張、特にインセンティブ構造を持ったブロックチェーンにあると思います。インセンティブとは、政府が関与することなく、システムに参加する者が行う選択の相対的なコストと便益を変化させることで、それぞれの行動に影響を与えるシステムの設計要素のことです。

マイナー報酬から、トランザクション手数料のメカニズム、TCR( Token Curated Registry)、予測市場まで、ブロックチェーンのプラットフォームには、至る所にインセンティブの構造が存在しています。問題は、パーミッションレスのブロックチェーンのエコシステムに、どこまでインセンティブを与えていくかということであり、この部分は発展途上だと思います。

根底にあるブロックチェーン技術には、皆が注目するべきだと思います。私達が本当にブロックチェーンの活用を推進したいのであれば、暗号通貨とブロックチェーンは別々に取り扱う必要があると考えます。今日では、ブロックチェーンの技術革新に何百万ドルもの資金が投入され、政府もそれらを導入していますが、市場は低迷しています。

なぜ低迷しているかというと、ブロックチェーンシステムの権限や構造に関しては、まだ不確実性が残っているからです。管理された環境の中でだけでのみ機能するパーミッションド・ブロックチェーンがある一方で、インセンティブ構造を持ったパーミッションレスのブロックチェーン活用は法的問題で非常に難航しているという状況があると思います。

N・S・ナッピナイ (N.S. Nappinai)

  

インドの最高裁判所で法廷弁護士として活動。憲法、刑事、知的財産権、及びサイバー法が専門。弁護士として1991年に実務を開始し、29年以上の経験を持つ。サイバー法の知識を普及させるため「サイバーサーチ:Cyber Saathi」を創設。また、性的児童虐待や女性への暴力的な動画をネット上から削除するためのアドバイザーなども務める。

インタビュー・編集: Lina Kamada

     

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