Ethereumに特化したソフトウェア開発・投資を行うコンセンシス(ConsenSys)のフィリップ・マトブ氏に、ブルガリアのブロックチェーン企業やConsenSysのビジョンついてお話をいただきました。
フィリップ・マトブ(コンセンシス:ベンチャーアーキテクト)
インタビュー日 : 2020年3月26日
信用状の交換
コンセンシスが開発支援を行ったものの中に、Komgoというプラットフォームがあります。これは、クレディ・アグリコル、シティグループ、ロイヤル・ダッチ・シェルなど世界最大級の貿易金融企業15社が集まるプラットフォームで、ここでは企業が信用状の交換を行うサポートをしています。
特にコモディティ取引のビジネスでは、信用状というものが必要不可欠となっており、この信用状により取引を確実に行うことができます。例えば、アジアからヨーロッパへガソリンを輸送する場合、通常は買い手と売り手だけでなく、取引を効率的に追跡できるように貨物の保管を行う金融機関も必要となります。
これらは作業は、歴史的に多くの異なるプレイヤーが必要となってきました。コモディティの取引には、様々な地域に多くの権限とルールがあり、これらの取引を管理するには多くの事務処理が必要となります。そのため、この効率を上げるためにブロックチェーン技術を活用し、事務処理を大幅に削減して様々なプレイヤーが共同で作業を行える透明性のある仕組みを構築しました。これらは、コンセンシスの多くの実績の中のほんの一例に過ぎませんが、私達が誇るべきプロジェクトだと思っています。
国際市場へのアクセス
コンセンシスには、多くのプロジェクトとのコネクションがありますが、企業からの依頼は当社の製品とビジョンに関する情報を見た方達の方からいただくことがほとんどです。これまで、様々な開発段階にあるプロジェクトの方から依頼をいただいてきました。スタートアップと協力することもありますが、大企業に協力して資金調達を行うことが多く、彼らには既にノウハウがあり、自分たちの市場も持っています。
そのような企業がブロックチェーンの導入を求める理由は、プロセスの効率、透明性の確保、そして相互の繫りを広げることで国際資本を増加させ、アクセスを多様化させるためです。これにより、今ある資産を世界中の様々な取引所で取引できるようになります。現在は、まだ準備が整っていないかもしれませんが、多くの様々な人達が、将来的に更に効率的な取引方法を実現するためのインフラ構築に貢献しています。
クライアントとしては、プライベートエクイティファンドなどの投資ファンドとも話し合いを行っています。従来、この領域は非常に閉鎖的でしたが、このような状況は投資家との関係を維持するためにあまり良いことではありません。彼らは国際市場にアクセスすることができず、お金を稼ぐことのできる範囲は非常に限られていました。そのため、私達はそのプロセスを簡素化し、投資家が国際的な市場により簡単にアクセスするサポートを行いました。
もう1つのタイプのクライアントは、銀行です。これには、デジタル通貨導入を検討している中央銀行も含まれます。コンセンシスは、決済メカニズム円滑化のために、安定した価値をデジタルでアクセス可能にすることを目指しているので、このようなプロジェクトは私達にとっては非常に重要な事例です。
資産の交換を円滑化
ブロックチェーンには、Atomic DvP(引渡し:Deliveryと支払い:Payment)と呼ばれる概念があります。例えば、デジタルの形で不動産という資産を所有しており、同じブロックチェーン上のインフラでお金が管理されている人とそれらの交換を行いたい場合、トランザクションは自動的に行われ、決済と交換は同じタイミングで行われます。
これがAtomic DvPですが、片方が純粋なデジタルデータのトークンであり、もう片方がデジタルではない場合は、ここで摩擦が生じてしまいます。トークン自体は非常に簡単に交換できますが、その後に銀行口座への電信振込が必要となる場合もあります。今日の多くのデジタル資産のプラットフォームは、電信振込を通じた資産の交換サービスを提供しています。しかし、私達は全てのトランザクションとシステムがより効率化されるように、取引を行う双方が共にデジタル化される世界を目指しています。
コンセンシスのビジョン
世界に大きな価値をもたらす事業に関わることができ、とても幸運に思っています。機関投資家や伝統的な金融機関だけでなく、小売業や貿易業界もサポートすることができました。分散型のデータベースの価値を説明するには、多くの教育、説得力、時間を要することは間違いありませんが、努力する価値は大いにあると思っています。
現在、私達が直面している課題は、プロダクトに適した市場を見つけること、そして企業がブロックチェーン技術を使用して本当に拡張可能で再現可能なソリューションを見つけ出すことです。コンセンシスは、デジタルトランスフォーメーションと分散型台帳技術を導入することでメリットが最も大きくなる活用事例と市場に注力しています。
また、企業向けブロックチェーンと分散型インフラの開発の両方をサポートしています。Codefi NetworkとPaymentsでは、ステーキング、レンディングプロトコル、ユーティリティトークン、決済など暗号通貨が活用できるユースケースを探し続けています。最近は、ユーティリティトークンを購入、使用、管理するためのプラットフォームであるActivateもリリースしました。
販売と金融に関しては、世界中にある大手投資銀行、大手サプライチェーン、小売業などと非常に密接に協力してきました。ブロックチェーンの取り組みでフォーカスしている部分は、資産の発行、配布、および管理という方法を改めて考え直すことです。このような動きは非常に幅広い企業に影響を与えています。
ブルガリアのブロックチェーン業界
私が日本からブルガリアへと帰国したときは、ブルガリアの活気に満ちた文化に非常に驚かされました。また、多くの重要なブロックチェーンプロジェクトがブルガリアの起業家によって始められ、ブルガリア国内で開発が行われていることを知り、非常に嬉しく感じました。
Aeternityというプロジェクトは、一時トップ30位のブロックチェーンのプロジェクトに入っていたこともあります。もちろん、Ethereumほど支持されているわけではありませんが、素晴らしいプロジェクトだと思います。資本提供、暗号通貨ミートアップの推進、プロトコル・インフラの構築など、このプロジェクトはブルガリアのブロックチェーンエコシステムの発展にかなり貢献してきました。
また、NEXOと呼ばれる別のプロジェクトもあります。これは、暗号通貨ローンのプロジェクトです。このソリューションにより、暗号通貨を担保とすることでローンが受けられるようになります。将来性が認められ、このプロジェクトは他の企業からSTO(セキュリティトークンオファリング)で5000万ドル以上の資金提供を受けました。
他にも、ブルガリアにはマーケティングや広告を専門とするAdExや、不動産を取り扱うPropyと呼ばれるブロックチェーン企業もあります。かなりの数のブロックチェーンプロジェクトがブルガリアから始まり、非常に大きなコミュニティに成長しています。エンジニアも多く、常に優秀な方が集まっています。
一方で、ビジネス環境自体は非常に伝統的で保守的です。従来型の金融や保険などの大規模なグローバル企業では、同じ企業の本部と比べて各支部でのイノベーションに対する予算が非常に制限されており、何に投資でき、どれだけの変化をもたらせるかということに対して持てる力の量が遥かに少ないのが現状です。その点で、ブロックチェーンのスタートアップエコシステムは非常に素晴らしく、優秀な方達から多くのことを学ばせてもらいました。
インタビュー・編集: Lina Kamada
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