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「暗号学の授業にもBitcoin」マサチューセッツ工科大学 DCI タデウス・ドライジャ氏 ①

マサチューセッツ工科大学のDCI(デジタルカレンシー・イニシアティブ)で、暗号通貨の開発と研究を行うタデウス・ドライジャ氏(Tadge Dryja)にインタビューさせていただきました。ドライジャ氏は、2015年にLightning Networkのホワイトペーパーを共同で執筆しました。Bitcoinの開発を行う企業Lightning Labsの共同創設者としても知られ、様々な場所で開発のサポートを行っています。

タデウス・ドライジャ氏

インタビュー日 : 2020年6月9日

日本でBitcoinと出会う

私が初めてBitcoinについて触れたのは、2011年に日本の三重県の大学で働いていた時です。本当に素晴らしいものだと感じ、Bitcoinの技術に夢中になりました。Bitcoin Coreをインストールするためのコンピューターを用意し、それを2011年からBitcoinストレージとして使用しています。私は、これが最も安全なBitcoinの管理方法だと考えています。

当時は、Bitcoinが違法だろうと思っていたので、怖くて誰にも言えませんでした。2011年から12年の間にBitcoinに関する多くの文献を読み、この分野でのキャリアを始めたいと感じました。

Tadge Dryja

2013年にアメリカに帰国してから、暗号学の博士号を取りました。博士課程では1年間だけ過ごし、その後にサンフランシスコに引っ越してLightning Networkとデジタル通貨の開発を始めました。

2017年には、恵比寿にあるデジタルガレージという企業で開発のサポートをしていたこともあります。デジタルガレージにはBitcoinの研究グループがあり、Bitcoinのソフトウェアだけでなく、スマートコントラクトなどの開発も行われています。東京では、Bitcoin関連の仕事やイベントを支援している唯一の会社だと思います。デジタルガレージには素晴らしい人がたくさんいるので、できるだけ一緒に協力していきたいと思っています。

MITで働き始めたきっかけ

DCI(デジタルカレンシー・イニシアティブ)という組織ができる前には、Bitcoinコア開発に資金提供を行うビットコイン財団という機関がありました。今は無くなってしまいましたが、その財団にいた伊藤穰一氏やJeremy Rubin氏など、多くの人達がBitcoinの技術開発に資金提供を行う場所を作ることを決定し、そこでDCIは誕生しました。

その少し後に、MITの博士号を取得したばかりのNeha NarulaもDCIに参加しました。DCIの当初のミッションは、Bitcoin開発者に資金を提供することでしたが、しばらくするとそのミッションは更に大きくなり、マサチューセッツ工科大学に統合されることとなりました。MITには、UROP (Undergraduate Research Opportunity Program)と呼ばれる仕組みがあり、様々な学部生が私達と一緒に研究を行ったり、ソフトウェアのリサーチをサポートしたりしています。

私は、リサーチを行う中で、デジタルカレンシー・イニシアティブについて知りました。少し驚かれるかもしれませんが、私の様にBitcoinの開発に取り組んでいる人はそれほど多くありません。Blockstreamで働いている人達の中には多くの知り合いがいて、正式にDCIに参加する前からマサチューセッツ工科大学で働いていた人達とも話したことがありました。

私がMITにたどり着いたのは本当に偶然だったと思います。2016年の終わり頃に、当時ボストン近郊に住んでいた両親を訪ねて、暇な時間があったので、MITに行ってみることにしました。そこで、DCIのディレクターであるNeha NarulaとDCIのグループの人達に出会いました。

MITでどのような事をしているのか興味があったので、2日間ぐらい見学しても良いか彼女に聞いてみました。Nehaから許可をもらったので、私は自分のPCを持ち込み、数日間そこで過ごしました。

その間に、学生達とディスカッションを行い、私が取り組んでいた研究について説明しました。Bitcoinについて話し合い、彼らが取り組んでいる研究について知ることができたのは本当に素晴らしかったです。そこで2日目を過ごした後、Nehaから一緒に働かないかと尋ねられました。これには少し驚きましたが、非常に嬉しかったです。その後、サンフランシスコからボストンに引っ越し、MITで働き始めました。

暗号学の授業にもBitcoin

マサチューセッツ工科大学はアメリカで最も優れた研究大学の1つであり、教育システムが多くの研究と新技術の開発から成り立っています。私はそこで正式に働き始める前から、毎日のようにDCIに通い、クラスに参加するために教室の後ろに座っていました。一部のクラスは非常に開放的で、そこに座って勉強していたとしても何の問題もありません。

私が授業で教えている時も、学生ではない参加者が多くいることがわかりました。彼らはただ興味を持っていて講義に参加しているだけなので、特に悪いことはないと思っています。MITは非常に開放的な環境であり、学生の中にも暗号技術のトップレベルのエキスパートが多くいます。MITで行われる全講義の動画と音声がMITのホームページにあるので、誰でもそれを視聴して学習することができます。

暗号学の教授は何名か在籍していて、全ての学生がBitcoinに興味を持っているので、彼らのクラスでもBitcoinについての講義が行われています。Bitcoinについて説明することで、より多くの学生を暗号学の授業に集めようとしています。学生達には既に大きな興味と関心があるので、なぜブロックチェーン技術や分散型システムを学ぶべきかという理由を説明する必要さえありません。興味深いことに、教員よりも学生の熱意の方が強く、イベントでも元気な高校生が多く集まってきています。

Bitcoin開発とコミュニティ

Bitcoinのコミュニティにいる人達は、既にお互いのこと知っています。Bitcoinの後ろにあるのは、トラストレスで非中央集権であるべきだという考え方ですが、実際にはコミュニティのメンバーがお互いを知り合い、交流を行っています。

Bitcoinがトラストレスであり続けるように、匿名の人達が受け入れらやすいように努めてはいますが、暗号通貨界隈の様々なコミュニティで集まったり、交流したりすることも人間的なことだと思います。それは、友達や職場の同僚と交流し、お互いのことを知り合って信用を築くことと同じだからです。なので、コミュニティの様々な人々と付き合うことには、良い部分と悪い部分の両面があるのだと思います。

2年前、私はNehaと一緒に暗号通貨とブロックチェーンについての授業を行い、全ての動画をオンラインで無料で視聴できるようにしました。私達はBitcoinのコア開発や、その他の技術開発、論文の執筆に取り組んでいますが、授業などで学生をサポートとするということもMITで行っています。

一部の学生はEthereumの開発に取り組んでいて、DCIの他の研究者達はZcashのチームと一緒に暗号化に関連するプロジェクトに取り組んでいます。銀行が発行するデジタル通貨を検討している規制当局と協力を行っている人達もいます。現在、このようなコミュニティは間違いなく成長しており、様々な研究分野に広がっていると言えると思います。

Bitcoinを軽量化

現在、私が取り組んでいるのが、Utreexoという技術です。完成した論文はe-printで公開されていて、ソースコードはGithubにあります。最初はUtreexoに取り組んでいるのは私だけでしたが、現在は多くの人が参加していて、私が主導して一緒に作業を行っています。 

Utreexoは、Bitcoinを更に効率的にする技術で、ハードフォークやソフトフォークなどではなく、現在のBitcoinと完全な互換性があります。Utreexoは、Bitcoinを動かすのに必要な容量サイズを大幅に削減するためのアイデアです。現在、Bitcoinを動かそうとすると、何GBもの大きな容量が必要となりますが、Utreexoによって、それが数KBだけで実現できるようになります。これにより、軽量化と高速化、そして同じ水準のセキュリティを実現することができるようになります。

    

インタビュー・編集: Lina Kamada

     

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