「史上最大の経済危機」の著者であるドイツのエコノミスト、マーク・フリードリヒ氏(Marc Friedrich)に再びインタビューさせていただきました。今回、フリードリヒ氏は新たに「史上最大のチャンス(The Biggest Chance of All Times)」という新著を刊行しました。パンデミックが経済にどのようなダメージを与えたか、またこの経済危機がどうしてチャンスなのかといったことについてお伺いすることができました。
インタビュー日 : 2021年3月22日
新著について
新著の一つ前に『The Biggest Crash of All Times(史上最大の経済危機)』というタイトルの著作を出しています。そして今回出した新著は『The Biggest Chance of All Times(史上最大のチャンス)』というタイトルです。
すべての危機はチャンスでもあります。私が人々に伝えたかったのは、将来に向けての展望をはじめとする、様々なポジティブなことです。将来に向けて、楽しみだと思えるようなことを提供したいと思いました。
この新型コロナウィルス感染症によって引き起こされたパンデミックの危機の中で、私は前向きなことを考えはじめました。たとえばこの危機の中で人々が達成できることや、隠された可能性やチャンスはどこにあるのか、といったことなどです。
現在の我々の通貨システムは完全に崩壊していますし、同じように政治システムも完全に崩壊しています。今こそ、この危機を生涯最大のチャンスだと捉え、投資するべきです。政治家は人々をロックダウンによって閉じ込めて監視する以外に手段はないようです。すべてが腐敗している我々のシステムは、もはや人道主義的なシステムだとは言えません。
システムが崩壊していく中で何に投資すべきか
新著では様々な投資の選択肢を紹介しています。それから通貨システムの話だけではなく、政治システム、新しい社会システムの可能性についても紹介しています。
今はBitcoinに投資をするチャンスでもあります。なぜなら我々の通貨システムにはいずれ全体的な崩壊が訪れるからです。あらゆる機関に対する信頼も政治家に対する信頼も粉々に崩れて消え去ります。
その時には、誰にも止めることのできないパラダイムシフトが起こるでしょう。中央銀行のお金を印刷する機能やロックダウンなんかでは到底とめられないでしょう。
人々は自分のお金や投資方法について新たな決断をしていかなければなりません。正しい決断をすればすべてが変わってくるでしょう。Bitcoinは、我々の法定通貨システムよりもはるかに優れていて強力です。したがってBitcoinはいずれすべてを吸い込んでしまうと思います。
政府とシステムの崩壊
日本も含めた色々な国において、政治家は国民への共感を得られなくなってきています。人々は抑制されて、車輪を回しつづけるハムスターとなることを強いられています。現在のシステムは、死ぬまで働かされても仕事の対価も老後の年金すらも見えないような仕組みになっています。
現在のシステムには様々な疑問があります。例えばシステムのゴールはどこにあって、政治家はこのシステムで一体どこへ向かおうとしているのか、そして今日における人生の意味は何なのか、といったことなどです。
人々は死ぬまでひたすら働き続けますが、人生の意味はただ働き続け、そして働くためにエネルギーを消費し続けることではないはずです。人生がこのような奴隷サイクルであってはいけないと思います。
自分の人生を振り返った時に「何かを達成した」と思えたり「偉大なことを成し遂げられた有意義な一生だった」と言えるような人生を送りたいものです。現在の危機的状況こそ、この崩壊しかけているシステムから抜け出す最大のチャンスです。このチャンスを活かすことで、我々は再び自由を獲得できると考えています。
政治はどう変わるべきか
政治のシステムに関して言えば、国民があらゆることに対する決定権・投票権をもつような直接民主主義が必要だと思います。国民による決定が必要な問題には様々なものがあります。例えば幼稚園を建設するべきか、あるいは橋を建設するべきか、といったような問題もあれば、新しい政治プログラムが実行されるべきか、というような問題もあります。
政治家に関して言えば、権力が制限されるべきだと思います。それから政治家が実際に仕事に就く前に取得しなければならない資格が定められるべきだと思います。政治家の選び方については、国民が直接投票して選ぶような仕組みが望ましいです。
そして最後に、もしも政治家が重大な間違いを犯した場合は、自分自身で責任を負い過ちに対する償いを支払うべきだと思います。現在の政治家は、例えばミスをして何百万ドルものお金を無駄にするようなことがあっても、まるでそれが大したことではないかのように振る舞っています。
ドイツのブランデンブルク州のベルリン空港についての失敗も、政治家による重大なミスのいい例です。2011年に開港する予定だったベルリン空港は、当初は国際的なハブ空港となることを想定して作られました。
ところがこの空港のインフラ整備には、国民のお金が大量にかかり、しかも計画の内容はあまりにもひどいものでした。したがって国民からも鉄道会社や他の空港といった機関からも、苦情が寄せられました。
現在この空港にはほとんど旅行者がいません。このような大失敗が起こったにも関わらず、誰も何の罪にも問われず、誰も罰せらませんでした。このようなことは、変えていかなければなりません。個人や民間企業が自らの過ちに対する代償を支払わなければならないのと同じように、政治家もそうあるべきです。
人類に欠けているものとは
我々の現在生きているシステム、そして我々の政治に欠けているものは、知能だと思います。政治家をサポートするAIが必要だと思っています。人工知能は数学的思考やプログラミングを通じて、社会にとって有用な結果を算出して導きだすことができます。
AIは政治や教育の長期的な安定を達成することができますし、環境により悪影響の少ない対策をサポートすることができます。国民はこれらのことをふまえて、AIを選択するべきです。現在ほとんどの政治家は、国民へのアピールを成功させて当選したいという欲望にかられて短期的な計画に基づいて行動しています。AIにはこういった欲望はありません。
AIに決定をゆだねることで、我々にとって論理的に優れたシステムを手にいれることが目標です。我々の政治システムの弱点となっているのは我々の人間性です。人類は腐敗しているのです。
現在の社会に関しては、身の周りで何が起こっているのかということを考えれば、いかに歪んでいて問題があるかということが分かります。我々は互いに争い続けることで環境を破壊してきました。互いに争い戦争やテロを行うような種族を、私は人間以外に知りません。
パンデミックを乗り切る最高のチャンスはBitcoin?
Bitcoinは政府や中央銀行とは全くの別物です。Bitcoinはデフレ的で、希少価値があるからです。Bitcoinは購買力を蓄える絶好の媒体であり、そして現在の法定通貨システムや政治家に対する最高の反抗勢力です。
Bitcoinや貴金属やマイニング事業などに投資する人は、購買力を維持するチャンスを掴んだ人です。今賢い投資を行こなった人は、将来富のピラミッドの頂点に立つことができるでしょう。現在の富のピラミッドは、今時点で下層にいる人々や中間層にいる人々にとって有利となるようにひっくり返る可能性があるということです。
危機は重要な存在
サイクルにおける危機というのは、一連のサイクルを完了させるものです。だからこそ危機というのは重要な存在なのです。一旦危機が訪れてから次の危機が訪れるまでに、我々は自身の認識のレベルを高めることができます。
認識に関して言うと、我々は自分の文化圏に存在する馬鹿げた迷信を乗り越えていかなければなりません。つまり人を判断する時は、何処からきたのかということではなく、その人の美徳や行動に基づいて判断をするべきだということです。
ユダヤ人だからどうとか、白人だからどうとかは、関係のないことです。傲慢で自己中心的な人なのか、あるいは良い人なのか、重要なのはこれだけです。アジア人だろうとヨーロッパ人だろうと、女性だろうと男性だろうと、どんな宗教だろうと、こういったことは個人の人となりとは一切関係ありません。
人類の愚かさと可能性
人類は愚かな存在です。紛争地域を見てみると、いわゆる宗教指導者たちが人々の間にプロパガンダを広め、憎しみや分離を生み出しています。
若い世代は教育が鍵だと認識していて注目もしていますが、これはごく限定的です。つまり教育が実施されている規模も、そして行われている教育自体も不十分なのです。
権力者やいわゆるリーダーと呼ばれるたちは、人々に教育を受けさせたくないのだと思います。なぜなら、自分たちの時代遅れで保守主義的なやり方を貫き通したいからです。また、現代の日常にはびこっている腐敗や貪欲さも大きな問題となっています。
純粋な宗教はどれも人生の重要性について考えるもので、高潔な人生を生きる上で何が許され、何が許されないのかを説いています。例えば、どの宗教にも大罪という概念があります。私にとっては大変興味深いことです。
有名な7つの大罪と言えば、傲慢、強欲、嫉妬、憤怒、淫蕩、貪食、そして怠惰です。しかし解釈する人々は、自分にとって好都合なように言葉を付け加えたりして、解釈をねじ曲げてしまっています。
しかしそれでも世界各地には大罪の概念のように、人類が平和に暮らすための共通の規範や法律が確かに存在してきました。共通の法律は人類が平和に共存するための基礎となるものです。我々は今こそこういったものを振り返らなければばならないと思います。
さらに一歩踏み込んだことを言うと、国境は必要ないと思っています。なぜなら我々は分かれている状態よりも、一緒にいたほうがより多くのことを達成できるからです。
例えば中国は、約14億人もの人口を抱える広大で多様性に富んだ国です。その経済成長には、目を見張るものがあります。我々人類が国境という垣根を持たず、一丸となってこのような成長を成し遂げられたら素晴らしいことだと思います。
システムの腐敗でダメージを受けるのは誰か
システムの腐敗というのは常に、最も弱い者を直撃します。我々の通貨システムはもう壊れていて、システムを長く維持するためだけに毎年の負債を増やさなければならないという状況です。民主的で公平で人道的な、新しい通貨システムが必要です。現在の西洋は戦争や紛争状態でこそないものの、その通貨システムはまさに現代的奴隷制です。
私は著書の中で歴史上のシステムの色々なサイクルについて紹介しています。システムのサイクルを理解すれば、未来を予測することができます。例えば古代ローマ帝国ではハイパーインフレによって通貨システムが崩壊し、これがローマのシステムのサイクルの終わりとなりました。
ローマ帝国には、健全な通貨システムがありました。アウレウスやソリダスと呼ばれる金貨を使ったシステムです。しかし帝国が拡大すればするほどシステムは腐敗して崩壊していきました。
ローマ帝国の約2割は、当時のいわゆる社会福祉である「パンとサーカス」つまり権力者から無償で与えられる食料と娯楽に依存していました。たとえ高くついても、食料と娯楽を人々に与えなければ革命が起こるということを帝国の支配者は知っていたのです。
だからこそローマ帝国は、パンとサーカスを人々に与えつづけるしかありませんでした。そして最終的にそれが出来なくなった時に、帝国は崩壊してしまったのです。
これと同じようなことが、まさに現在の通貨システムにも起ころうとしています。政治家たちはユニバーサル・ベーシックインカムについて、そしてこの静かで暗い時代に人々を楽しませる安価な手段である「ネットフリックス・アンド・チル(Netflix & chill)」について話しています。
現在の政治家たちはパンデミックを口実に、ロックダウンにより我々を閉じ込め、お金を増刷し、そしてさらに課税しようとしています。彼らはシステムを維持するために、ロックダウン期間をさらに延長しようとしています。
これらはすべて愚行ですが、彼らは他にいい手段を知らないのです。しかし一つ忘れてはいけないのは、お金の印刷というのはパンデミックの危機よりもずっと以前からなされていたことだという事実です。
現在の貨幣システム、つまり何もないところからお金が生み出されるという仕組みは、一つの投機的局面からまた次の局面へとどんどんつながっていくようになっています。現在我々はこのバブルという投機的局面にいます。このバブルがはじた時、万事休すとなるでしょう。
ドイツを待ち受ける暗い未来
ドイツはデフォルトに陥ると考えています。なぜなら現在のドイツは、今までで類を見ないほど大量にお金を印刷しているからです。
現在のドイツは強く見えるかもしれませんが、これもまたサイクルの一環に過ぎません。ドイツには非常に暗い未来が待ち受けています。我々があらゆる可能性をふいにしてしまったからです。
我々の本来持っていた富は結局無能な政治家たちが行ってきた数々の愚行によってすべて浪費されてしまったのです。彼らは社会的なインフラや、経済的なインフラに一切投資してきませんでした。
我々は未だに、充実したインターネットのインフラを持っていません。インターネットでさえ充実していないのに、物理的な設備の充実など到底望めません。今の我々にあるのは、二流で時代遅れのものばかりです。
たとえば、鉄道用の橋、それから電車といったインフラは、平均しておよそ100年前のものです。道路、橋、学校、幼稚園、それにより良いインターネットといったものが必要です。
ドイツ以外の国々にも迫る危機
ドイツだけではなく、北欧全体、そしてG20諸国にも、この先非常に暗い時代が待ち受けていると思います。これは人口統計を見れば分かることです。
人口動態の変化は、ドイツでも日本でも、そしてほとんどのヨーロッパ諸国でも起こっています。少子化が進行する一方で、人々の寿命はのびました。しかし我々は国に尽くしてくれた高齢者に恩返しする余裕もありません。
今回の危機で我々は既に、直近の危機3回分をまとめたよりも多くのお金を刷りました。新型コロナウイルスによって引き起こされたパンデミックの危機は、政治家がいかに脆弱で無能な存在であるかということを教えてくれました。また、我々が信用負債の死のスパイラルに陥っているということも教えてくれました。
ドルは現在まだ使用されており、信用されている通貨です。しかしこのドルもいつか崩壊するだろうと私は予想しています。
インタビュー・編集: Lina Kamada
翻訳: Nen Nishihara
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