SH

「暗号通貨とインド最高裁判決」ナッピナイ氏 インタビュー ①

インドの最高裁判所で法廷弁護士として活動し、憲法、刑事、知的財産権、サイバー法などを専門としているN・S・ナッピナイに、インドでの暗号通貨の現状をお聞きしました。また、インド最高裁が、3月6日にインド準備銀行(RBI)の暗号通貨規制に対して違憲判決を下したことについてもお話をいただきました。是非、ご覧ください。

N・S・ナッピナイ

インタビュー日 : 2020年3月12日

インドでサイバー法を専門とする女性弁護士

私は、インドで法廷弁護士として活動しているN・S・ナッピナイと申します。 主に最高裁判所とボンベイ高等裁判所での訴訟に注力して活動しています。

サイバー法と憲法を専門としており、司法組織や警察に対する研修、ブロックチェーンと暗号通貨に関する執筆なども行なってきました。 最近は、サイバー法に関する知識を通じてを力をあたえるための「サイバーサーチ:Cyber Saathi」というイニシアチブも始めました。(Saathiは仲間という意味)

インドでサイバー法を専門とする女性は、今日でも滅多に見ることはありません。しかし、サイバー法を専門として選んだ経緯は、性別とは無関係だったと思います。私は、ずっと型破りだったと思っています。刑事弁護士として1991年に実務を開始し、当時は刑事弁護士としての女性もほとんど前例がありませんでした。当時、私はホワイトカラー犯罪と知的財産権(IPR)の訴訟を専門としていました。 1994年から95年にかけて、ソフトウェアライセンス等に関わる知的財産権の案件を多く取り扱っていました。その時、知的財産権以上に好奇心が湧いてきたのが情報技術でした。そして、データ保護についても読み始めました。また、それは世界が強固なデータ保護体制に向かって動き始めた時でもありました。電子商取引や電子署名などのモデルとなる法律の成立が始まったので、サイバー法が進化していた時期でした。インドで2000年に初めて成文化されたサイバー法ができる前から、私は一足先にサイバー法について調べ、専門家となっていました。周りより遥か前に始めていましたので、私が女性だというのは単なる偶然に過ぎません。

暗号通貨は禁止されていなかった

これまでも、インドで暗号通貨が禁止されていたわけではありません。2013年にインドの中央銀行であるインド準備銀行(RBI)によって発行された通達があり、その中では暗号通貨を使用することに関する警告が行われていました。2017年の通達では、暗号通貨だけでなく、全ての仮想通貨に対する警告へと変わりました。RBIが2018年4月6日に出した通達で暗号通貨の取引が制限されたのは、銀行と支払いシステムに対してのみでした。暗号通貨の分野に関わった場合に、銀行システムや決済システムを使用することができなくなってしまうというのが、RBIの行なった措置です。

暗号通貨取引を目的とした銀行システムの使用を制限してしまえば、暗号通貨での取引を効果的に制限できます。その後、取引所に残された選択肢は、現金での取引と暗号通貨同士の取引のみでした。取引所には、それに対処できる方法がなく、現金取引もあまり奨励していなかったため、暗号通貨取引を止めてしまいました。これにより、インドで暗号通貨が禁止されたという誤解が人々に広がったのです。このような状況は、3月4日の最高裁判所の判決で、RBIの通達が不当であるという判断がなされた根拠となっています。RBIの暗号通貨規制は違憲であり、暗号通貨で発生する危険性、害悪からユーザーを保護するための措置だったという主張は棄却されました。

最高裁判所がRBIの主張を取り下げたからと言って、暗号通貨、ブロックチェーンについて、全てがバラ色でうまく進むとは予想できません。 最高裁判所の判決が暗号通貨に与える影響ついては、先日に記事を書いたばかりです。 ここで私が注意点として挙げたのは、まだ注意深く待つ必要があるということです。今回の判決では、インドの暗号通貨の将来をどうしていくかという決定権も、RBIには与えられています。また、政府は暗号通貨を推し進める方法についても決定する必要があります。インドは流動的で複雑な状態にあるので、RBIが次に何を考え、政府が何を行うかを見極める必要があります。 ですので、今は暗号通貨を祝う時だとは思いません。

もう1つの側面として、今回の判決の再審理に関してはRBIが非常に強い立場にあることも、判決の弱点です。 RBIは、再審理を進めると既に述べていますが、それが行われた場合は、恐らく再審理までの間には、いかなる措置も行うことができない猶予期間も、裁判所に要求するでしょう。2018年4月以来、銀行は暗号通貨の取引を行なっておらず、仮に彼らがそのビジネスを再開し、再審理がRBIに有利な結果となった場合、銀行と決済システムに影響が出るというのが、RBI側の主張です。ですので、彼らのこの要求が成功する可能性は高いです。 私は、少なくとも再審理期間が終わるまで見守り、次に何をするかを決めるのが最善だと思います。 もちろん、RBIが新しい通達を出すことも、政府がいつでも決定的な法的立場をとることも可能な状況です。

N・S・ナッピナイ (N.S. Nappinai)

インドの最高裁判所で法廷弁護士として活動。憲法、刑事、知的財産権、及びサイバー法が専門。弁護士として1991年に実務を開始し、29年以上の経験を持つ。サイバー法の知識を普及させるため「サイバーサーチ:Cyber Saathi」を創設。また、性的児童虐待や女性への暴力的な動画をネット上から削除するためのアドバイザーなども務める。

インタビュー・編集: Lina Kamada

     

【免責事項】

本ウェブサイトに掲載される記事は、情報提供を目的としたものであり、仮想通貨取引の勧誘を目的としたものではありません。また、本記事は執筆者の個人的見解であり、BTCボックス株式会社の公式見解を示すものではございません。