フィンランド出身でクリプト・アーティストとして活動するヴェサ・キヴィネン氏(Vesa Kivinen)にインタビューさせていただきました。ブロックチェーンを活用し、全く新しいタイプのアート作品を生み出すキヴィネン氏に「Art for Crypto」というアイデアについて説明していただきました。是非、ご覧ください。
インタビュー日 : 2020年5月11日
金融出身のクリプトアーティスト達
3年程前、私が初めてこの世界に足を踏み入れた時、クリプトアーティストはほとんどいませんでした。Crypto GraffitiやCryptokittiesがまだ始まったばかりの頃でした。トレバー・ジョーンズ氏(Trevor Jones)も、私と同じくらいの時にこの世界に入ってきました。
トム・バドリー(Tom Badley)氏というなかなか面白いアーティストがいます。彼は中央銀行で働いた経験があるので、我々が使っていたお金を実際に「デザイン」していた人です。彼は本物のお金をデザインする方法を知っています。
したがって、ジョン・マカフィー氏やジャック・ドーシー氏といった人物の肖像画を作り、自らのマネーアートに取り入れています。バドリー氏は自分のマネーアートをNFTとして発行し、通貨としても印刷しています。彼はとてもユニークなスキルを持っています。
ジョジー・ベリーニ氏(Josie Bellini)も、大変興味深い視点の持ち主です。彼女もまた銀行業界出身で、金融システムについてよく理解しています。彼女は自分の持っている銀行システムについての知識やコンセプトの全てを、アートに変える方法を独学で学ぼうとしています。
彼女の作品は、従来の芸術界にある様々なアートよりもはるかに面白いものです。なぜなら彼女の作品の後ろには、金融システムについての真の理解があるからです。
私がご紹介してきましたように、この世界には面白い事をしている人がたくさんいます。このような世界の成長を見守るのはとても楽しいことです。
クリプトアート業界の壮絶な争い
クリプトアーティストのプラットフォームでは、全員に公平な分配が行われるわけではありません。だからこそ人々がお金や欲にかまけてしまい、多少悪質な環境になってしまったりもします。
しかし人々は、これを資本主義のせいだと勘違いしがちです。ところが実際は資本主義が原因ではなく、問題は資本主義よりもずっと古く根深いのです。
クリプトアート業界には、Crypto VoxelsやBlockchain Art exchange、SuperRare、そしてKnownOriginといった多種多様なプラットフォームが存在します。これらのプラットフォームは、実は生き残りをかけた壮絶な争いをしてます。優位性だけを争っているわけではないのです。
中には、先駆者となるべく何百万ものお金を投資し、アート業界における次のグーグルの座を狙っているようなところすらあります。こういったことが起きているということはつまり、アーティストにとっても、汚れ役を務めたり水面下で動いたりと、不正を行うインセンティブが既に存在しているのです。
例えば適当に誰かに、昔の有名な画家の名前を挙げてもらうとします。そうすると「ピカソ」とか、そういった有名どころ数人くらいは出てくるかもしれません。しかしそれが関の山でしょう。
私はアーティストのこのような宿命についてよく理解しています。しかしだからと言って、この名を残すゲームにおいて不正をする気も一切ありません。
私は「優れたアーティストに先を越されるかもしれない、それはすごくいらつくことかもしれない」ということを認めて受け入れるようにしています。いらつく気持ちは全て飲み込み、再びリングに上がるのです。
これがアートの世界における私なりの戦い方です。中には戦いに参加するだけの独創性を持ち合わせていないような人もいるかもしれません。そういう人は何としてでも別の道を探ろうとするのです。これは自然の摂理です。
NFTの価値を見極める困難さ
我々が今まで構築してきたこの世界の表面的な部分を、皆は見ています。もっと奥まで見ていくと、ピラミッドの中に隠された秘密が見えてくるように、様々なものが見えてきます。
本物のピラミッドの奥深くに秘密が隠されているように、暗号通貨の世界にも、秘密が隠されていると思います。この世界は決してファストフードのように扱うわけにはいかない世界なのです。
つまり、ただ便乗しようなどとは考えていけない世界です。例えば私は以前自分の友人にも「自分でリサーチをしないといけない」と言いました。その友人が「暗号通貨にお金をつぎ込もうとは思わないけど、ただこの流れには乗りたい」と言ったからです。
このお話は、暗号通貨アーティストにも当てはまることです。私は数多くのアーティストを見てきました。彼らは自分の撮影作品ではない写真に、技術も何も要しないフォトショップアプリを使って、ほんの30分くらいの時間をかけて加工を施します。
要するに誰か他の人の作品を盗んで、それをプラットフォームに載せているのです。これは写真家だけでなく、オリジナルのアーティストの作品をも盗む行為です。
そして盗んだ作品を、オリジナル作品として人々に認識されるような形で公開するのです。例えばアンディ・ウォーホルがマリリン・モンローのポートレートをたくさん作って出した時のような感じです。
私がコレクターたちに伝えたいのは、このようなことがあるから、旧来のアート界のシステムが今までにないほど腐敗しきってしまったのだということです。そして、クリプトアートこそ、全てが新しく始まろうとしている場なのだということを声を大にして言いたいです。
この世界には画廊や美術館はありません。旧来の遺産的なアート界の構成部品であった不要なものは、ここには何一つありません。しかしこれらのものは徐々に出現し始めています。そしてこの業界が果たして儲かるのかどうか、調べようとしています。
しかしクリプトアートのコミュニティは、空間を互いに共有しているアーティストたちの場所であり、基準がほとんど存在しません。
とはいえ、例えば70歳前後で何百万ドルも稼いだキャリアを持つような人々や、それとは真逆の立場にいるアーティストのことも考えなければなりません。
クオリティやキャリアという点で考慮しなければならないのは、そのアーティストが何をしてきたのか、どれだけ突出しているのか、あるいはキャリアがどれだけ革新的で進歩を遂げているのか、といった部分です。以上の点を考慮してNFTやアートピースに価値があるのかどうかを見極めることが重要です。
ありえない価格で売られているのか、あるいは100ドル前後とお買い得な価格なのか、こういったことについて考えます。この世界にはまだ洗練されたものがあまり入ってきていません。
私のような人間にとっては、時にフラストレーションがたまることもあります。ただ、同時に素晴らしい機会でもあると思っています。多くの人がこの世界において名声を得ました。非常に芸術的であたかもミステリーのように、もしかするとある日突然、私が馬鹿馬鹿しいと思っていたようなものが、非常に高い価値を持つようになるかもしれません。
私は決して芸術を否定したいわけではないのです。ただ、少し複雑であるということを伝えたいのです。コインへの投資やBitcoinの管理について考えるのには非常に時間がかかります。クリプトアートの世界も同じで、近道はありません。しかしそれでも、賢明な判断をするために努力することはできます。
幸いなことに、今このアートの世界はチャンスであふれています。コミュニティはまだ小さく、アーティストがどんどん登場している時期なのです。多くのクリプトアート作品の価値は現在の10倍にも跳ね上がるでしょう。そして愛好家やコレクターの数も爆発的に増加するでしょう。
少し前の話ですが、アメリカのある会社のCEOが「自分の壁にクリプトアート作品を飾る準備をしているから、アーティストの方は作品をおすすめしてほしい」という内容の投稿をしていました。
そこで私は彼にDMを送り「作品はもう決められましたか」と聞きました。すると彼からは「非常に驚いていて、まだ決めていません」という返信が返ってきました。彼のもとには、様々なアーティストから200通以上もの、アート作品やウェブサイト等が紹介が届きました。それで彼は完全に圧倒され、口を閉ざしてしまったのです。
彼に起こったことは捉えようによっては「受信ボックスにアーティストがこぞってスパムを送ったらどうなるか」という壮大な実験でした。
この世界に今まで投資してきたことがなく慣れていない人は、学んで理解する必要があります。そして今まで慣れ親しんできたものとの間で調整作業をする必要があるのです。
表現の自由と著作権の問題
ブロックチェーン技術による著作権については、私もよく考えます。非常に難しい問題だと思っています。
暗号通貨はある意味本当に、自由の最後の砦だと思います。ところがアイデアという側面から考えると、最も排他的なシステムであるとも言えます。たった一つのアイデアしか存在してはいけないというのが根底にあるからです。
ところがアートは、一つの意見だけとは限りません。例えば、フィンランドにはロゴマークを使ったアートを多く手がけているアーティストがいます。彼の手法というのは、国際的な企業のロゴをマッシュアップして元の企業に対して反抗を示すためのロゴをつくりだすことです。
彼のアートは反資本主義的な目的で使用されているので、何度も訴えられています。しかし彼は表現の自由のもとに法律で守られているため、いつも勝訴しています。
また、エドワード・スノーデンを気に入っていて、スノーデンのイメージを3Dで表現しているアーティストもいます。彼のアートの主題がスノーデンへの貢献であることは明らかなので、このような作品に対して著作権の追求がなされるのは、通常考えにくいと思います。
著作権問題というのは、交渉に時間を要します。しかも、ケースバイケースによる対応が求められます。ところが、いちいちそんな時間がとれる人などいません。したがってそんなことは無理難題ということになります。
特に今日においては、毎日のようにプラットフォームに参加してくる人が増え続けているのでなおさらです。現在、言論の自由に関する論争が進行しているようなプラットフォームは、将来必ず著作権問題の論争が生じてくると思います。
問題が、様々な喧嘩によって進展していくような場合もあるでしょう。そうすると不正がたくさん起こるのでとても厄介です。しかし一方では、本当に粗悪は盗作作品は生き残れなくなっていくという良い点もあります。
私は、世の中は最終的にバランスがとれるようになっていると強く信じています。宇宙は非常に巨大なバランスをとる仕組みです。そして我々は、その中で群れている小さな蟻のような存在です。
つまり世界というのは最終的には全体の帳尻が合うように出来ていて、我々はその中で生きながらえるように出来ているということです。ちょうど「陰と陽」のように、良いものと悪いものはバランスよく成長し続けていくものだと思っています。
暗号通貨が世界の光であり、希望であるという考えを持っています。しかし、例えば詐欺にあったり本当にひどい事件にあったりと、暗号通貨の影の側面も経験したことがない限りは、この世界に完全に入り込んでいるとは言えないと思います。
おすすめのインフルエンサー
様々な理由でフォローしている人が何人かいるのですが、その中でもひときわ輝いているのはアンドレアス・M. アントノプロス氏だと思っています。
彼の言葉の誠実さは時をかけて証明されています。私が考え事をする際も、彼の言葉が何度も繰り返し頭の中に浮かんできます。彼以外の人の名前をここで挙げるのは難しいくらいです。
これから暗号通貨の界隈に入ろうとしている人にも、アンドレアス・M. アントノプロス氏は本当におすすめです。この界隈をよく理解するのにこれ以上おすすめの人物はいません。
彼を通して反中央集権的な視点やその真の意義についての知識を得ることができます。初心者としての初めの数ヶ月は、アンドレアス・M. アントノプロス氏の言葉を聞くことがおすすめです。
おすすめのポッドキャストといえば、Bad Cryptoでしょう。それからアンソニー・ポンプリアーノ氏の出演しているThe Pomp Podcast、そして初期の頃に私を番組に出演させてくれたBasic Crypto Podcastにも賞賛を送りたいです。
Kenn Bosakも素晴らしいです。それからもちろんアンドレアス・M. アントノプロス氏のポッドキャストも要チェックです。最後に、Crypto Stashはプラットフォームの図解を動画で紹介するのがとても上手です。この番組ではプラットフォームの比較も行っています。
The light side of the Moon Art 月の明るい側
10代の頃に、自分の中にアーティストが目覚めました。この作品はそのことを表現した1枚です。当時はピンク・フロイドや、ラッシュ、それからキングストン・ウォールといったバンドの影響を受けていました。特に、フィンランド出身の最高のバンドの一つであるキングストン・ウォールに敬意を持っています。
この作品の中にはピラミッドの形が描かれています。私はその明るい側面と暗い側面を、じっと見つめたいと思ったのです。
明かるい側面と言えば、LightBoxerというバンドがあるのですが、そのバンドのメンバーにAkiというフィンランドの伝説的なギタリストがいました。我々は故郷の他のミュージシャンを通じて友人になりました。
そしてこれがなんと、彼らのデビューアルバムのカバーにつながりました。非常に素晴らしいことです。彼らの音楽には歌詞はありません。しかしそれでも紛れもなく、世界の明るい側面の感覚を与えてくれるのです。
将来はクリプト・ムービーも
暗号通貨に関する内容の良い映画を見てみたいという気持ちは確かにあります。しかしこれまでのところ、このテーマについて扱った映画やテレビシリーズは見たことがありません。将来もしこういった映画制作の話があれば、ぜひとも携わりたいです。
私はアーティストになる前の10年間映画制作業界にいました。映画学校に通い、自分の作品も制作しました。したがって映画製作のプロセスはよく知っています。
暗号通貨に関連する映画はまだ見たことがありません。今のところ「作るならドキュメンタリー」という考えにとらわれているような気もします。ドキュメンタリーこそが最も正確な表現だからです。とはいえ、将来一体何が起こるのか、非常に楽しみです。
インタビュー・編集: Lina Kamada
翻訳: Nen Nishihara
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