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暗号通貨は証券かどうかの議論はなぜ複雑になるのか :シーナ・キアン氏 分析記事 ③

本記事は、シーナ・キアン 氏(Sina Kian)の「Should Cryoticurrencies Be Considered Secureties?」の内容を日本語へ翻訳し掲載したものです。原文の英語版はこちらをご覧ください。なお、本記事は法的な助言ではございません。

シーナ・キアン氏はテキサス大学オースティン校のストラウスセンター内にある「Tech, Security, & Global Affairs」に所属している研究員で、ニューヨーク大学ロースクールの助教授としても活躍されています。

議論に潜む3つの複雑性

暗号通貨が有価証券に該当するかという話をより複雑にしている問題は大きく分けて3つあります。この3つの問題についてさらなる議論が必要になってきます。

複雑性① 暗号通貨を投資目的で入手する人の存在

まず第1の問題ですが、前に暗号通貨の2つの主な目的については説明しました。しかし実際には前述の2つの目的以外に、暗号通貨の価格に投機するために購入している人がいるというのは紛れもないことです。

将来の価値に対する期待というのはいかなる資産にもありますし、その期待によって市場にが構成されています。ですので暗号通貨を所有している人と株式を所有している人というのは、ベン図上に表すと少なくとも一部は重なる部分があります。

しかしこれは必ずしも暗号通貨が「投資契約」であることを意味するものではありません。(美術品やスポーツチームのジャージやゲーム用のトレーディングカードといったような、他人の振る舞い次第で価値が変動する資産購入契約が投資契約に当てはまらないのと同様です)

ところが暗号通貨の購入が投資として扱われるようになったとたん、規制当局は目を光らせなければなりません。この時、暗号通貨は「単なる作業の対価」や「ブロックチェーン上のサービスを購入するためのトークン」以上の何かになってしまい、話が複雑になってきてしまうのです。

複雑性② 特定の関係者が一定の権限を持つような仕様のブロックチェーンの存在

次に第2の問題ですが、私の今までの連載記事も含めこれまでの議論では、ブロックチェーンはオープンソースであり中央集権的な仲介者は存在せず、コニュニティー参加者にインセンティブを付与することで運営されている分散型の仕組みであると説明をしてきました。

ところがブロックチェーンの中には、中央集権的な仲介者によって管理されていて、特定の関係者に管理上の変更を行う権限を付与している設計のものもあります。(たとえば、ブロックチェーンのコアプロトコルを一方的に変更する権限が付与されているなど)

ただこの特徴は、ゲームセンターのトークンがゲームセンターによって中央集権的に管理されていても有価証券ではないのと同じで、必ずしも有価証券性を示すものではありません。

しかしHowey事件の時の最高裁の言葉を借りれば、このような特徴を持つブロックチェーンへの投資はそれこそ「他者の努力に依存している」というところにより妥当性を加えていると言えます。したがってこういった特殊なブロックチェーンにはさらなる考察の余地があるのかもしれません。

複雑性③ 暗号通貨の発行方法の独自性

そして最後に3つ目の問題です。暗号通貨は少なくとも3種類の方法によって流通開始しておりますが、証券法の観点からすると、このいずれも暗号通貨特有のユニークな方法です。

  • 製品化前販売(Pre-product sale)

プロトコル構築前に行われるトークン販売の目的は資金調達です。この場合、トークン販売時点で製品は存在していません。開発チームが持っているのは、保有している資産、構築したいもののビジョン及びその開発に伴うリスクについての重要・非公開のインサイダー情報です。

2018年には、何千ものICO(イニシャル・コイン・オファリング)があり、製品化前販売のトークンが個人投資家たちに提供されました。規制当局がこの動きについて懸念したのも当然です。

こういった取引というのは、言ってしまえばわかりやすいベンチャーキャピタルの取引と同じようなことです。したがって現在では製品化前販売は認定を受けた投資家に限定されており、SECの規則にのっとっています。

  • ローンチ時&ローンチ後の流通(At-launch and post-launch distribution)

ローンチ間際になると、開発創業チームは既にプロトコルを構築しています。プロトコルは通常オープンソースで、世界中の人が見ることができます。

そしてこの構築されたプロトコルによってトークンの「生成時の供給(genesis supply)」が行われ、これは開発創業チームの従業員や、ローンチ前に投資した投資家らに配布されます。

さて、これらのプロトコルというのはネットワークの影響を受けます。つまり構築されたプロトコルが実際にその後成功するかどうかは、より幅広い層に採用されるかどうかにかかっているということです。

ネットワーク効果を促進するために、開発チームはトークンをより多くの人々に販売したりオークションを行ったりして大勢に行き渡るようにします。できるだけ多くの人に投資してもらうことが重要なので、トークンを非常に安く販売することもよくありますし、プレゼントするといったこともありえます。

つまりネットワークの可能性を最大限に達成するためにもトークンへの投資が欠かせないということです。そして大勢にトークンが行き渡れば、より多くの人がネットワークの成功を共有することができます。

  • マイニング、エアドロップなど(Mining, airdrops, etc)

プロトコルの発売時と発売後は、処理能力の提供(マイニング)、リソースの提供(ステーキング)、暗号通貨の保有(エアドロップ)など、あらゆる種類の参加報酬を設計することができます。

上記の中でも特に「ローンチ時&ローンチ後の流通」においては、証券法が適用できるか極めて疑わしいです。というのも、分散型・オープンソースである暗号通貨の購入や受領は、平たく言って「投資契約」ではないからです。

翻訳: Nen Nishihara

     

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