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暗号資産の規制が米国市場にもたらす弊害とは:シーナ・キアン氏 分析記事 ⑤

本記事は、シーナ・キアン 氏(Sina Kian)の「Should Cryoticurrencies Be Considered Secureties?」の内容を日本語へ翻訳し掲載したものです。原文の英語版はこちらをご覧ください。なお、本記事は法的な助言ではございません。

シーナ・キアン氏はテキサス大学オースティン校のストラウスセンター内にある「Tech, Security, & Global Affairs」に所属している研究員で、ニューヨーク大学ロースクールの助教授としても活躍されています。

イノベーションを阻害している現行の枠組み

現行の枠組みはイノベーションを阻害していて、アメリカの人々にとってよくないものです。そんな今の枠組みよりも、もっといい方法があるはずです。

現状を整理すると、SEC関係者の中には少なくとも1人「BitcoinとEthereumは現時点において有価証券と見なすことはできない」と公言している人がいます。実はこの関係者こそ、有価証券であるかどうかという議論を当初棚上げしてきたことで有名な人物です。

この「BitcoinとEthereumは有価証券ではない」という認識は重要ではありますが、BitcoinとEthereumを法令の適用除外とする一方で、他の種類の暗号資産などはより厳しい規制監督の対象としてしまうという不条理を招く危険性があります。

つまり、先に来たものに規制上の利点を与えるという、法律の意図していなかった形の先行者利益を提供してしまうことになりかねないのです。

しかもこれ以上に問題なのは、現状の規制は明確性が大きく欠けているということです。しかしそれにも関わらず、SECはHowey事件のケースに基づいて50以上の項目にわたるテストからなるフレームワークを用意しました。

なるべく包括的であろうとしているSECの姿勢自体は評価できます。しかしこの50+の項目のテストでは、法律を遵守して次世代のテクノロジーを生み出そうとしている若い起業家やエンジニアたちに、革新を起こすのに必要な指針を提供できていないというのが実情です。

しかもSECに関してというと、本来は重要な公共政策目標に取り組みつつイノベーションを可能にするべく企業と協力する機関、という立ち位置であるべきはずが、いつでも攻撃や処罰をしてくる可能性のある目の前に立ちはだかる権威、という姿になってしまいました。

現行の枠組みが米国市場にもたらした弊害

結果として、Ethereum関連をはじめとして驚異的な割合のプロジェクトが米国外(多くはシンガポールやヨーロッパ)で立ち上げられる事態となりました。米国経済への影響は計り知れません。

中にはリスク回避のために、米国の投資家やSECの目に触れることがないようにトークンを完全に米国市場の外でのみ取り扱い、決して米国市場に入れないようにしているチームさえあります。

これはつまり、アメリカの開発者やエンジニアは様々な特典から排除されてしまっているということを意味しています。初期コミュニティメンバーとして参加することもできなければ、台頭する数十億ドル規模の巨大ネットワークの成長にも貢献できません。

また、ネットワーク参加者がプロトコルの使用報酬として5万ドルもの価値を受け取れる「エアドロップ」といったような面白いネットワークの獲得・維持戦略からも除外されています。

また、ネットワーク効果を中央集権的にコントロールしている大手テクノロジー企業(ソーシャルメディアや配車サービス会社など)に対抗しうるような分散型の企業にいたっても、参入を阻害されてしまっている状況です。

結果として、皮肉なことにも証券法が、ネットワーク効果による利益を独占する中央集権的な企業の保護・定着に一役買ってしまっているというわけです。

実はもっと単純なたった2項目で判別が可能

現在の枠組みはまったくもって不必要なもので、アメリカにとってひどい弊害しかもたらしていません。

考えてみても、暗号通貨に適用する利点が果たしてあるのかどうかも疑わしい(しかも全く別の目的のために設計された)法律を、議会が今さらになって登録・開示要件の利益のために通過させるという可能性は到底考慮できません。

しかし、実はもし仮に証券法の枠組みを暗号通貨に適用したとしても、証券法上の「投資契約」となりうるかという命題は、単純な2項目のテストにあてはまるかどうかで判断することが可能です。

しかもこの2項目のテストはSECの懸念事項のほぼすべてに対応できる上に、50+の項目からなるテストや、案件ごとの本質を慎重に吟味しなければならないHoweyテストよりもはるかに運用しやすいものです。必要なのは以下の2項目です。

  1. まだローンチされていないプロトコルのトークンを販売しているか
    (以下に挙げられる場合とは異なる(a)マイナー に対してトークンを生成・発行している(b)既にローンチ済 or ローンチ間際であるプロトコルのトークンを販売している ※ただし単なる資金調達として行っている企業ではなく分散型の企業)
  2. 特別な管理上の権利や管理のメカニズムが存在するか
    (特別な管理上の権利や管理のメカニズム=意思決定において、特定のメンバーに対して、他のトークン保持者やコミュニティーメンバーよりも大きな力が与えられている)
    または、プロトコルの一部が非オープンソースで、トークンを販売する会社がプロトコルの方向性や付随するリスクに関する重要かつ非公開のインサイダー情報を持っている可能性があるか

もしも上記の1と2のどちらか1つだけにでも当てはまれば、売り手はプリンシパル=エージェント関係もしくは受託者関係に類似した関係を結んでいると言えます。つまり、売り手は買い手の投資対象の価値を高まるために何らかの努力を行うということを約束しているということです。

したがってこの場合は、当該販売はより「投資契約」のように見えるということが言えます。

このような場合は、いずれにしても中央集権的なチームがプロトコルの方向性を支配している状況でトークンを販売しているという可能性があり、したがってプロトコルの将来に関する重要かつ非公開のインサイダー情報を持っているということが考えられます。

そうすると証券法の条文や目的に関わってくる可能性があるため、Howeyテストに基づくより詳細な分析の対象とするのも妥当でしょう。

とは言ったものの、それでもSECは中央集権的な企業向けに設計された現行の枠組みをただ適用するのではなく、暗号通貨の状況に合わせた迅速で合理的な登録・開示プロセスを構築する必要があります。

たとえば利益相反に関する情報を開示したり、その他にもネットワークコミュニティーの整合性を促進するような有用な情報の開示を求めることができるような登録・開示プロセスがいいでしょう。

また、関連規制によって懸念事項となったり特殊義務の発生するような支配力(たとえばトークンの所有率)等について明確化することもできます。

このような枠組みというのは、プロトコルの分散化に勤しんでいる人々に対して限定的なセーフハーバー(安全港)を提供できるように設計することが可能なはずであり、そうするべきです。これはSECのピアース委員が提唱していることでもあります。

しかし、もしも先述の2項目のいずれにも当てはまらないようなプロジェクトであれば、現行の証券法の義務には該当しない可能性が高いです。いずれの項目にも当てはまらないということはつまり、公開のオープンソースのプロトコルが存在しているということで、以下の条件に該当しているということです。

(i)トークンがネットワーク参加者に付与されていること

(ii)プロトコルや関連するリスクについての重要な非公開のインサイダー情報(標準的な登録・開示要件に当てはまるタイプの情報)を知っている第三者、あるいはそのような情報を知れるような権限が存在していないこと

おわりに

最後になりますが、この分析は決して暗号通貨関連の詐欺や消費者保護に関する疑念をすべて払拭できると示唆するものではないということを、ここで強調しておきます。

前にも述べたように、詐欺行為をはじめとする多くの不正行為や欺瞞的行為は既存の連邦法や州法によって違法とされております。たとえ既存の法律に隙間があったとしても、法規制で簡単に対処することができます。

暗号通貨に対する法規制の重要な側面の1つは、非中央集権型・分散型ネットワークによる事実上の経済支配から生じる可能性のある権力を、より適正に規制することでしょう。

しかしそういった懸念というのは、その都度対処していけばいいのです。全く別の文脈上で設計された法律である証券法を持ってきたがゆえに生じてしまった不明確性によってイノベーションが阻まれているとう現状は由々しき事態であり、公共政策上の全く無駄な過ちでした。イノベーションを促進しつつも権力の乱用や不正な使用を制限し対処することはできるはずですし、そうするべきです。

翻訳: Nen Nishihara

     

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