本記事は、シーナ・キアン 氏(Sina Kian)の「Should Cryoticurrencies Be Considered Secureties?」の内容を日本語へ翻訳し掲載したものです。原文の英語版はこちらをご覧ください。なお、本記事は法的な助言ではございません。
シーナ・キアン氏はテキサス大学オースティン校のストラウスセンター内にある「Tech, Security, & Global Affairs」に所属している研究員で、ニューヨーク大学ロースクールの助教授としても活躍されています。
投資契約の必要条件とは
投資契約と単なる契約との間には、決定的な違いがあります。一般的に論じられているのは、投資契約には、資産の価値が上がることを期待してその資産の所有権を購入するためのものである、という暗黙の前提があるということです。
しかし、これまでにも触れてきたように「価値が上がることを期待して購入されるもの」には様々なものがあります(車、スポーツチームのジャージ、切手など)。ところがこれらのものを購入するのは投資行為ではあっても、投資「契約」ではありません。
投資契約の必須条件は、プリンシパル=エージェント関係か、一般的な受託者関係に類似した関係性があることです。たとえばApple社の株を買ったり、スタートアップ企業に投資したり、あるいはHoweyのオレンジ畑に関する取引を行う時というのは、契約の条件によって、企業を成功させるための重要な責任を負っている人を相手方として、契約を結んでいるのです。
しかし暗号通貨の場合は、ネットワークがいったん立ち上げられてしまえば、創業・開発チームは必ずしも「成功させるための重要な責任」を負う必要なありません。彼らは単に去ることができるのです。トークンを販売したからといって、販売以上の契約はありません。
もっと言ってしまえば、オープンソースのアルゴリズム上で有用性のあるトークンを売却した、というだけのことなのです。
暗号通貨の購入と投資契約の決定的な違いの再確認
Howey事件の際に最高裁が言及していたのは、利益が上がるという期待が「推進者や第三者の努力のみによる」ものであるかどうか、という点でした。
なお、SECによって出された分析の中では、Howey事件で最高裁によって繰り返し使用された言葉「のみによる(solely)」が省かれてるというのは、1つ特筆すべき点です。
たしかに暗号通貨の価格は様々な推進者や第三者の努力に基づいて変動するものです。しかし暗号通貨の価格は突き詰めると結局はネットワーク全体の価値の関数であり、特定の第三者や契約上の義務を負っている相手方の努力によって決定づけられるものではありません。
だからこそ、バンク・オブ・アメリカのような経営陣のいる会社に投資するのと、ネットワーク参加者によって構成されているBitcoinのネットワークに投資するのとでは、違いがあるのです。
たとえばバンク・オブ・アメリカという企業が操業を停止すれば、もう企業価値はありません。つまりバンク・オブ・アメリカによって中央集権的に構築されていたネットワークは、バンク・オブ・アメリカが運営していなければ意味がないのです。
ところがBitcoinやEthereumといったオープンソースプロトコルの価値は、特定の企業やチームや個人が運営をやめたからといって、決してなくなることはありません。そのような力を持つ企業や個人は存在していないのです。
分散化されたオープンソースのブロックチェーンをシャットダウンする明白な方法はありません。設立を担当した開発者チームはプロトコルの更新を主導する立場にありますが、プロトコルの更新を主導できるのは特定の開発者だけでなく、どの開発者でも可能です。
証券法で暗号通貨を規制することの矛盾点
これらの違いというのは証券法の目的上、非常に重要な点です。そもそも証券法は、会社の運営者が重要な非公開インサイダー情報を保持しているような、集中管理された会社の存在を前提としています。したがって証券法の規制対象となっているのもこのような会社です。
一方でブロックチェーンにおいては、会社のような情報の非対称性はありません。ブロックチェーンのプロトコルは一般的にはオープンソースであるため、監査も調査も可能なのでおそらくは社外の人々にもよく理解されているはずだからです。
もっと言えば、ブロックチェーンの開発者にはガバナンス機能といった権力がなく、ネットワークのトークンが配布されるたびに権力とインセンティブはより広範なネットワークに移っていきます。この時点で、プロトコルはネットワーク効果によって存続するものとなっています。たとえ開発者が去っても、他の人々がプロジェクトを継続するために必要な全ての情報とインセンティブを持っているのです。
ブロックチェーンのような性質を持つものに証券法を適用するのは、大きく誤っています。しかも皮肉なことに、証券法は現在、流通の拡大を制限する働きをしています。なぜなら流通が拡大すればするほど、ネットワークの方が開発・設立チームを超える力を持つようになる可能性が高くなってしまうからです。
また、証券法によって定義される「認定投資家」というのは、基本的には富裕層の人々です。しかしブロックチェーンのネットワークのような性質のネットワークにおいては、裕福なホワイトカラーの労働者よりも、裕福でなくとも賢い開発者やゲーマーの人たちのほうがネットワークに加わる可能性が高いです。
このように証券法の世界とブロックチェーンの世界では明らかな目的の不一致があります。この矛盾が、証券法が暗号通貨を規制するためという目的とは全く別の背景から開発されたということを示しています。
しかしだからと言って、暗号通貨は規制されないべきであるとか、SECが管轄権を持っていないから現状では規制されてない、とかいうことを言っているわけではありません。
実際、Reves v. Ernst & Youngの事件において最高裁判所は、「たとえば他のリスク軽減要因(他の規制スキームが存在しているなど)があることによって証券法の適用が不要となるかどうか」 を裁判所が問うべきであると説明しています。
懸念されているリスクというのは詐欺などですが、そのほとんどは虚偽情報や誤解を招く情報に関係しています。したがってわざわざ証券法を適用せずとも、実は様々な消費者保護法や詐欺・欺瞞防止法などによって対処することできるのです。
翻訳: Nen Nishihara
【免責事項】
本ウェブサイトに掲載される記事は、情報提供を目的としたものであり、暗号資産取引の勧誘を目的としたものではありません。また、本記事は執筆者の個人的見解であり、BTCボックス株式会社の公式見解を示すものではございません。