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アメリカにおいて暗号通貨は「有価証券」なのか:シーナ・キアン氏 分析記事 ①

ブロックチェーンは暗号通貨仕組みの根本をなすものですが、投資的な側面が大きいというのは周知の事実です。この投資的な側面の存在感ゆえに、アメリカでは暗号通貨は「証券法」上の「有価証券」に該当するかどうか、という議論が絶えません。この議論は暗号通貨の規制を考える上でも非常に重要な問題です。今回の記事は有価証券かどうかの判断基準や、証券法を暗号通貨に適用することの問題点などを扱っています。ぜひご覧ください。

本記事は、シーナ・キアン 氏(Sina Kian)の「Should Cryoticurrencies Be Considered Secureties?」の内容を日本語へ翻訳し掲載したものです。原文の英語版はこちらをご覧ください。なお、本記事は法的な助言ではございません。

シーナ・キアン氏はテキサス大学オースティン校のストラウスセンター内にある「Tech, Security, & Global Affairs」に所属している研究員で、ニューヨーク大学ロースクールの助教授としても活躍されています。

暗号通貨がアメリカの論客に「有価証券」として捉えられてしまう理由

暗号通貨の規制に関する最大の問題は、暗号通貨が連邦証券法上の「有価証券」に該当するかどうかという点でしょう。

もしも暗号通貨が「有価証券」に該当するのであれば、株式や債券、あるいはその他の「投資契約」に当てはまる商品と同じように証券法の厳格な登録・開示義務を遵守する必要があるということになります。

私の執筆した連載記事の初回では、暗号通貨がブロックチェーンの仕組みの基本的な部分であるということを説明しました。暗号通貨は人々が台帳の検証や更新に参加するためのインセンティブとなり、中央集権的な仲介者がこの作業を行う必要がなくなるという話です。

もしも分散型ネットワークの運用にインセンティブを与えるということが暗号通貨の唯一の機能であるとすれば、「投資契約」や「証券法」に関係したりするということはまずないでしょう。

ところが多くの論客たちは、購入している人たちが暗号通貨を「投資」として扱うことがよくあるという理由だけで、暗号通貨が「投資契約」である、または「投資契約」である可能性があるというように仮定してます。

「有価証券」であるために必要な「投資契約」とは

しかしこの仮定というのは、証券法の管轄下に入るためにはあくまでもきちんと「投資契約」が結ばれている必要がある、ということを見落としています。

Howey事件(アメリカ証券取引委員会対W. J. Howey社事件)の例からもわかる通り、最高裁はこの前提条件を見逃しませんでした。

「投資契約」が交わされるということは、契約の一部として価値を創造する責任を負う相手方が存在しなければならないということを意味しています。つまりプリンシパル=エージェント関係、またはそれに類似した他の受託者関係が生まれる必要があるということです。

ところが分散型、あるいは非中央集権型ネットワーク上にある暗号通貨には、前述のような責任の所在や関係性はありません。したがって、Howey事件によって定義されたような最も単純な「投資契約」にさえも当てはまらないのです。

本記事の論点

本記事では、以下の点について議論していきます。

  • 有価証券性を判断する連邦最高裁の「Howeyテスト」
  • 暗号通貨が有価証券ではない理由:基本的な例の考察
  • 基本的な例の中に潜む3つの複雑性
  • 暗号通貨に証券性があるかどうか、また、より深く着目して証券性を考慮すべきかどうかを判断するための簡単なテスト

なお、本記事は法的なアドバイスは一切含んでおりません。

Howeyテストとは何か

「Howeyテスト」とは投資契約が交わされているかどうかを判断するためのテストであり、1946年の「アメリカ証券取引委員会対W. J. Howey社事件」(以下Howey事件)という最高裁の判例で示されたものです。

Howey事件では、とある会社が以下のような契約を販売しました。

  1. 「不動産契約」を通じての柑橘類の果樹園の販売(販売行為)
  2. 販売された土地の「独占使用権を与えるサービス契約」によるリースバック(リースバック契約+独占サービス契約)
  3. 不動産の購入者との「利益共有契約」の締結(利益分配行為)

最高裁は以上の契約が「投資契約」に該当すると判断しました。最高裁の説明によれば、「投資契約」とは「人が自分の資金を共同事業に投資し、推進者(発起人)、またはそれ以外の第三者の努力のみによって利益を期待させるような契約、ないしは取引や計画」と定義されるとのことです。

これが現在、Howeyテストとして知られているルールです。発端となったHowey事件というのは、実は非常に単純な出来事でした。

事業主は通常は自分の会社の株式を販売しますが、このとある柑橘畑の事業主は、代わりに手の込んだ契約を考え出して実行したというだけです。事務処理が多いということをのぞけば、行われたことの本質は株式の販売と同じことだったのです。要するに、このような条件で交わされた契約が「投資契約」に該当しないとは到底言い難いのです。

もしもこのようなケースが証券法の例外となってしまえば、こういった契約形態を利用して証券法に該当しないように事実上の株式販売行為を行うような企業が増えてしまうでしょう。そうなってしまえば、あらゆる種類のルールすれすれの駆け引きが横行してしまうだろうということは容易に推理できます。

Howeyテストを根拠とした分析の脆弱性

Howeyテストによる投資契約の定義をみてみると、どうしても定義範囲が広くなってしまいます。だからこそ多くの論客は暗号通貨も有価証券とみなせるという可能性を想定しているというわけです。SEC(米国証券取引委員会)にもこのような見解をもっている人もいるくらいです。

結局のところ、暗号通貨に投資している人々が「他の人々の努力に基づいて利益を得られること」を期待してブロックチェーンに資金を投資しているということは、かなり明確だからです。

しかし上記のような分析は厳密さを欠いています。しかも根拠も「Howeyテスト」という突き詰めると弁護の余地のないルールの適用に依存しています。そもそも、Howeyテストを過度に言葉通りに適用すれば、不合理な結果がもたらされてしまいます。

たとえばHoweyテストは投資契約であることの条件として「人が自分の『資金』を共同事業に投資し…」としていますが、たとえAppleが自社の株を誰かに「無料」で配ったとしても、その株が「非有価証券」となるわけではありません。

Howeyテストに当てはめることができないケース

もっと根本的なことを言うと、Howeyテストの過度な言葉通りの適用は法律的にも誤りを含んでおり、これをしてしまうと約90年間の慣習が、立法者たちの意図していなかった方法によって覆されてしまうことになってしまうのです。

たとえば、次の2種類のケースについて考察していきましょう。

ケース①:
バスケットボールチームのニューヨーク・ニックスは、「もうじき最強のチャンピオンチームとなるチームのアパレル」と「チームが勝てば勝つほど価値が上がるアパレル」を販売しており、ファンはチームのジャージの価値が上がることを期待してジャージを購入している

ケース②:
とある企業は、400社からなる70の投資家グループにシンジケートされた17億ドルのローンを発行している。このローンは会社が事業を継続できるかどうかに依存した利払い率という形で利息を提供している。(つまり貸し手は、ローン元金と利息を支払うのに十分な期間、会社の事業が継続されるということを期待している)

さて、ジャージの購入やローンの提供は、「人が自分のお金を共同事業に投資し、推進者(発起人)や第三者の努力のみによって利益を期待させる取引」に該当するでしょうか。いずれの場合も、定義を言葉通り当てはめるなら議論の余地なく「該当する」です。

しかしどちらの場合も、法律的な解釈の答えは「該当しない」になります。スポーツアパレルはたとえ上記のケースにように投資的な要素を持って販売されていたとしても、有価証券として登録する必要はありません。

また、レバレッジド・ローンは、たとえ広くシンジケートされていたとしても、有価証券ではないということはよく知られています。

Reves v. Ernst & Youngという裁判で、最高裁は多くの種類のローン契約が証券法の条文、構造、目的の範囲外であることを認めました。

この時の分析はHoweyテストの単純な適用よりもはるかに微妙なものでした。たとえば買い手と売り手の動機、債券の普及の範囲、一般大衆の期待度合い、それから代替的な規制保護が存在するか等、様々な要素が判断基準となりました。前述の2つのケースの法的解釈の分析から結論づけられるのは、Howeyテストは思ったよりも言葉通りの適用が効くものではないということです。つまり、たとえ投資家が何かを「発起人や第三者が価格を上げるように働くことを期待して買った」からといって、その「何か」を有価証券であるとするのはあまりにも単純な定義のしかたなのです。

Howeyテストを適用する際には常に契約の本質に敏感でなければいけません。また、証券法の条文、構造、目的に沿って考えなければいけません。

    

翻訳: Nen Nishihara

     

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