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【日本の税制シリーズ 第3回】法人の税制について:クリプトリンク 八木橋税理士

執筆者:八木橋泰仁 税理士 (クリプトリンク株式会社

暗号資産の税制の3回目ということで、今回は「法人の税制について」ご紹介いたします。

1回目2回目では暗号資産の税制についてご紹介しましたが、今回は法人にフォーカスをあてて、税制や会計処理等のご紹介をしたいと思います。

法人での暗号資産の税務・会計の取り扱いについては

平成 30 年 3 月 14 日

企業会計基準委員会が実務対応報告第 38 号「資金決済法における暗号資産の会計処理等に関する当面の取扱い」(以下、「実務対応報告」という。)を公表

令和元年7月4日

企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」にて暗号資産は時価算定会計基準の範囲外 など一部内容反映

平成30年11月

国税庁のFAQで「法人」についてはじめて記載される

平成30年12月21日

平成31年度税制改正大綱を公表

という経緯で法人の税務・会計の処理方法について公表されてきました。

具体的な会計処理方法については、実務対応報告で公表されておりますが

以下の通り暫定での対応ということになっており、今後の対応方法については注意が必要です。

実務対応報告第22項より

本実務対応報告は、(中略)当面必要と考えられる最小限の項目に関する会計上の取扱いのみを定めている。 なお、本実務対応報告において定めのない事項については、今後の暗号資産のビジネスの発展や会計に関連する実務の状況により、市場関係者の要望に基づき、別途の対応を図ることの要否を判断することになると考えられる。

それでは、実務対応報告で示された内容を元に会計処理方法をご紹介していきたいと思います。

■期末時価評価が必須

法人では、以下の通り期末時価評価を行う必要があります。

活発な市場が存在する場合、市場価格に基づく価額をもって当該暗号資産の貸借対照表価額とし、帳簿価額との差額は当期の損益として処理する。

活発な市場が存在しない場合、取得原価をもって貸借対照表価額とする。期末における処分見込価額(ゼロ又は備忘価額を含む。)が取得原価を下回る場合には、当該処分見込価額をもって貸借対照表価額とし、取得原価と当該処分見込価額との差額は当期の損失として処理する。

このように実務対応報告では期末時価評価を求めており、平成31年度税制改正で法人税での取り扱いも同様に期末時価評価を行うことを求められております(令和2年4月1日以降に到来する決算期から強制適用となります)。

■計算方法は移動平均法が原則

法人の場合でも収支の計算方法は前回ご紹介したものと同様になりますが、法人税法では移動平均法での計算を原則としています。総平均法を採用したい場合は、申告期限までに届出が必要です。

■誤送金・詐欺の場合

法人においては、誤送金も詐欺の場合もその額を取り戻すことができないことが確定した際に、損失処理を行うことになると考えられますが、個別の判断が必要になるので税理士に相談しながら対応を決めることをお勧めします。

■暗号資産の必要経費の扱い

個人と同様

  • 売却した暗号資産の取得価額
  • 売却の際に支払った手数料

は当然経費として計上できます。

一方、個人の雑所得では、暗号資産の取引に直接かかわる経費のみを必要経費として計上することができますが、法人の場合には、役員報酬や一定の福利厚生費、交際費等、通常発生する経費は他の法人同様、幅広く認められます。暗号資産取引を目的とする法人だからといって特別に経費計上できないということはありません。そういう意味では、経費として計上できる範囲は、雑所得となっている個人よりかなり広いといってもいいでしょう。

■暗号資産取引で損失が生じた場合の取り扱い

法人の場合には、他の損益と合算も可能で、青色申告の場合は欠損金を10年間繰り越すことができます。一回大きな損失を出しても、その後の最長10年間で得る利益と相殺できることになります。

一方、雑所得となる個人の場合は損失を繰り越せないので、比べると大きな違いになるかと思います(個人事業主で青色申告を行っている場合は欠損金を3年間繰り越すことができますが、法人よりもかなり短くなります)。

■損益計算書上の表示

暗号資産の売却取引を行う場合、当該暗号資産の売却取引に係る売却収入から売却原価を控除して算定した純額を損益計算書に表示する必要があります

実務対応報告では具体的な勘定科目は示していないものの、損益・資産の区分からおおむね以下の通り整理できると考えます(筆者案・カッコ内は勘定科目案)。

保有目的損益区分資産区分
売買目的での保有の場合営業外損益 (暗号資産売買損益)投資その他資産 (投資暗号資産)
資金決済目的での保有の場合営業外損益 (暗号資産売買損益)当座(その他の)資産 (暗号資産)
交換業・トレーダーの場合売上高棚卸資産 (暗号資産)

■暗号資産信用取引の期末みなし決済

法人の場合は、個人での投資と異なり、証拠金取引を行っている場合、期末時点のポジションをみなし決済を行う必要があります。つまり期末の時価で決済したものとみなして、未実現の損益を計上することになります。

■損益計算は契約時に実施・棚卸資産からの除外

第61条1項に規定する「短期売買商品」と同様の取扱いとみなすとともに、譲渡損益の計算は譲渡契約時点で行うことが明確になりました。

また、短期売買商品と同様の扱いになることから棚卸資産から除外となります。

■一時的に取得した暗号資産は個別法で計算可能

一時的に購入した暗号資産や、他人の暗号資産を預かっている場合や、一時的に取得した暗号資産については個別法で計算することができます。つまり、既に保有している同種の暗号資産の取得価額の計算に影響させないことが可能になりました。

上記は平成31年4月1日以後に終了する事業年度の法人税に適用されるとしており、法人の対応については、すでに始まっておりますので、法人で暗号資産をお持ちの方は上記を参考に対応するようにしてください。

クリプトリンクでは、法人で暗号資産をお持ちの企業様や投資をされている方に向けて上記の会計データ作成上の法人対応を行うことができるサービス(https://corp.cryptolinc.com/kaikei/)もご用意しておりますので、ぜひご活用ください。

      

     

【免責事項】

本ウェブサイトに掲載される記事は、情報提供を目的としたものであり、暗号資産取引の勧誘を目的としたものではありません。また、本記事は執筆者の個人的見解であり、BTCボックス株式会社の公式見解を示すものではございません。

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